(104)エルロンの動き
「チッ、想定していた中じゃぁ最悪の事態だったな。まっ、そろそろ足枷が邪魔だと思っていたから潮時だったんだろうが、最後に暴れることができなかったのは悔やまれるぜ。そのうちギルドにでっかい花火でも打ち上げてやるかよ?」
明確にギルドと敵対する立場をとったエルロンなので、冒険者としての立場、Sランカーとしての立場は確実に剥奪され定期的な報酬も得ることはないと理解しているのだが、全く悲壮感はない。
ギルドに所属する冒険者の禁忌が日に日にうっとうしくなっていたのが事実であり、最近では一応証拠を消しつつも明らかに違反している状態が続いていたので、報酬と制限を天秤にかけた結果、そろそろ脱退しても良いと思っていた。
正に一部の他の高ランカーの冒険者達が危惧していた通りに、手持ちの武器に対するメンテナンスだけでは全く首輪になっておらず、幸か不幸か弟のミルロンと手を組めば今まで以上に好き勝手に暴れられる上に報酬も手にできる環境が整っているので、寧ろ望んだ結果だと言わんばかり。
「一先ずはクソ野郎、その次は優柔不断かよ?それとも、新人に現実の厳しさを教えるのも悪くねーか?いや、あの時始末しそこなったリリエルの首を持ってリューリュに晒すのもアリ・・・悩みどころだな」
差し当たりの攻撃目標についてとんでもない事を呟きつつ、弟が待っている拠点に戻るエルロン。
「戻ったぜ?」
「その様子じゃぁ、余り良い話じゃなかってみてーだな、兄貴?予想の範疇だと、冒険者資格は剥奪された・・・違うか?」
「違いね~な。腹いせにあの場でリリエルを始末してやろうと思ったがよ?リューリュや新人のスロノとか言うガキに邪魔されちまった」
どのような立場の人物であっても、Sランカーを相手にギルド本部で騒動を起こしたとなれば血の気が引くような事態なのだが、暴風の二つ名を持つエルロンには一切当てはまらない。
「んで、俺は最後まであの場所に居たわけじゃねーから詳細は分からねーが、どうやら今後はSランカーの人数制限があるようだぜ?」
「へ~、ギルド本部はSランカーに支払う報奨金が惜しいのか?しけた組織だぜ。そんな先が見えた組織にいるよりは、俺と仕事をする方がよっぽど稼げるし余計な制約はね~から楽だぜ?」
ギルドと言う組織に対して恩や感謝など一切ないので、冒険者資格剥奪、つまりSランカーとしての立場や報奨を含む権利の一切を失っても全くダメージが無いエルロンは、同じ感性を持っている弟のミルロンと酒を飲みつつ語り合う。
「しっかし、リリエルの野郎!新人のスロノのガキも<魔術>だとは、厄介な連中だ!」
対峙した際に相性が悪い能力持ちの話に移行しており、ギルド本部で一撃も加えられなかった事を根に持っているエルロン。
「しょうがねーよ。こればかりは覆せねー事実だからな。どうせこのまま大人しくしている訳じゃねーんだろ?」
「当然だな。まぁ、焦っても碌な事にはならねーから、ボチボチやるぜ?」
焦って行動する必要も無い上、ギルドからの依頼も今後は来るわけが無く時間的に余裕があるので、ノンビリと事を起こせば良いと考えているエルロン。
「そうだ、兄貴!どうせなら、俺が弱みを握っている貴族連中を使って遊んでみるのはどうよ?俺の仕事に慣れる意味でも良い経験になるんじゃねーの?」
裏の仕事を行っているミルロンであれば、国内のみならず他国の王侯貴族の一部に対して強く出られる程の弱みを握っており、彼等を使用して騒動を起こしてみるのも一興だと軽く考えている。
事の規模が普通の人々では想像できない領域なのもお構いなしなのだが、エルロンはこの提案を断る。
「それも面白れーがよ?俺としちゃーボチボチとは言いつつも、相性の悪りースロノやリリエルを何とかしておきてーわけよ。ビョーラみてーな弱みは何か知らねーか?」
ギルド本部の会議に赴く前、情報は生命線の一つと知っているのでミルロンの力を使って流星ビョーラが孤児院に多大な寄付を継続して実施しており、その子供達も大切にしていることを突き止めていた。
同じように弱みがあれば事は簡単に進むので、直接敵対する場合に厄介な能力を持っているスロノとリューリュに関する情報を求めている。
「リューリュの弱みは今の所リリエルだけだぜ?そのリリエルもSランカーだから、簡単に対処できる相手じゃねーのは分かるだろ?スロノに関しては新人だけに何も情報はね~から、これから調べておくぜ」
聖母リリエルの名の通りに一般の民に癒しを与え続けているので、民が弱みになる部分もあるのだが、立場のある者と違って失うものが無いと言っても良い存在を餌にして失敗した場合、彼等個々人の力は弱いながらも無制限に敵が広がる可能性がある事からこの案は口にしない。
<操作>Sを持っているミルロンであれば支配下に置いている獣や魔獣を駆使して情報を得る事など容易いので、仕事柄色々な経験を積んで得た知識によって正しく判断していた。
このミルロンの力を使えばそう時間がかからずに、スロノに関するある程度の情報を集める事が出来るだろう。
エルロンも弟であるミルロンの事は信頼しているので、これでスロノの弱点が手に入ると思いこれ以上この件に関しては口にせず、そこからミルロンがこれまでに行って来た仕事の話し、エルロンが冒険者の禁忌に触れて行動した話で盛り上がる。
両者ともに非常識な行動について喜々として話しているのだが、同じ感性を持つが故にまるで自慢話のように会話が盛り上がり、やがて夜も更けると解散になる。
「んじゃぁ、今日は一旦帰るぜ?」
「おう。また明日な、兄貴!」