(11)スロノの過去②
目の前のゴブリンだった物体を完全に収納する事が出来たスロノ。
何となく収納した物を意識すると、
ゴブリン×1 解体可能
と頭に浮かんできた。
「おいおい!コレって、さっき頭に流れていた情報に大きな齟齬があるんじゃ?」
<収納>と言えば自分だけが管理できる不思議な空間に色々な物を収納できるのだが、レベルEであればその大きさは非常に小さいのが常識でスロノの頭にもその知識があるのだが、その知識では物言わぬゴブリン一体がそのまま収納できるわけがない。
思わず少し興奮してしまったスロノはそのまま短剣で周囲のゴブリンを収納する為にチクチク軽く刺すような形で収納を始めるのだが、今尚収納し続ける事が出来ており流石に異常だと認識する。
「嘘だろ?コレって・・・思った通り特殊な能力なんじゃ?だけど、どうする?誰かに聞くわけにもいかないし、鑑定されてレベルEなのにこれだけ大量のゴブリンを収納できていると知られたら・・・考えるだけでも恐ろしいな」
対抗する力がない為に結局誰かの手駒にされるか良い様に使われる未来しか思い浮かばないので、能力についてはもう少ししっかりと別途検討する事にしながら作業を進めているのだが、改めて収納されている物体を確認して更に驚く。
ゴブリン×21 解体可能
<剣術>E×2 <隠密>E×1
「・・・・・・。これって、やばくないか?」
収納されている物体がゴブリンと言う所までは数量的には有り得ない為に驚愕しながらもかろうじて納得する事は出来るのだが、その他の表記である能力の部分については何がどうなっているのか良く分からないスロノ。
「と、とりあえず、出す事が出来るのか?」
何も考えずに目の前に出そうと意識を向けるのだが実体のない能力なので出せる訳も無く、少々恐怖はあるが自分に向けて出してみる事にした。
<剣術>と<隠密>を比較すれば、どちらかと言えば<隠密>の方が失敗しても体にダメージがないだろうと言う勝手なイメージから<隠密>Eを自分に排出してみる。
「っと、これじゃあ能力があるのかなんてわからないな」
目に見えた変化がある訳ではないので、自分が持ち得ている能力を開示すると・・・そこにはしっかりと<収納>E.の他に<隠密>Eが記載されていた。
「これは・・・決まりだな。あの不思議な記憶の流れ、過去の俺。やっぱり異世界人としての特権があったわけだ」
少し前まではかなり安い賃金で小間使いしかできないのかと愕然としていたのだが、本当の<収納>E.の能力に気が付いて安堵するスロノ。
「だけど、レベルはEなんだよなぁ」
何の気なしにレベル標記の部分を日本の記憶にあったスマホの操作をするように、無意識で拡大してみる。
「おっ、拡大できるんだ。これで視力が弱っても安全か?って、やっぱりか!」
自分だけが認識できる自らの能力表示なのだが、普段は“.”に見えていた部分を拡大すると“x”になっており、ここで初めてスロノは自分が持っている能力の正確なレベルを把握するに至った。
<収納>Ex
「随分と・・・とんでもない能力を持つ事になったが、逆に慎重に行かなくてはいけなくなったのは間違いないな。ここで焦ったり調子に乗ったりすれば明るい未来があろうはずもないからな」
日本での記憶、当時何歳だったのかまでは全く思い出せないのだが、結構な経験をしていたのか何らかの方法で知識を得ていたのか、ここで安堵して調子に乗り能力を無駄に使うような事は無かった。
今持っている能力は有り得ないものまで収納できる<収納>Exとゴブリンが持っていた<隠密>E、未だ収納したままだが<剣術>Eなので外敵から守る力は何も持っていないのと同義であり、更なる補強が必要な事は理解している。
「先ずは明るい未来の為に力を隠して地道に仕事をしつつ、能力を回収し続ける事だろうな。良し!思わぬ収穫があったから、さっさと荷台に移して町に戻るか!」
荷台に全てのゴブリンを乗せる事は出来たのだがあまりの重さに荷台を引く事が出来ず、身体能力が劇的に上がる能力、<剣術>でも基礎能力は上がるのだがそれ以上に体を使って戦う力を与えてくれる<闘術>が欲しいと心から願いつつ町の近場まで収納して向かい、そこで二分割して二往復するかの様に運搬する事にしたスロノ。
「それにしてもスゲー能力だな。俺には排出できたけど他人にも排出できるのか、排出した能力を再回収できるのか、人から能力をとるつもりはないけど可能なのか、色々と疑問はあるな。まぁ、当面は獣や魔獣の亡骸から取るほかないけどな」
勝手なスロノの想定ではある程度高レベルの能力を持っている冒険者であれば相手にしている獣や魔獣も相応の強さを持っており、そう言った一行から同じような回収依頼が来ればレベルの高い能力を得られるのではないかと甘く考えていた。
現実的には高レベルの能力を持つ冒険者であれば非常に高価な魔道具を使用して回収する事が出来ており、残念ながら何時まで経ってもゴブリンやらスライムやら、本当に低レベルの魔獣をかなりの数量倒した駆け出し冒険者からの依頼しか受ける事が出来なかった。
「これはこれで良いかもしれないな?安全だし。冷静に考えれば、高レベルの魔獣を取りに行くとなれば周辺も相当危険だろうからな」
思惑が外れていたのだが低レベルながらも“数打ちゃ当たる”の理論なのか、レベルはEしかないが数体能力を持っている個体がいるので有難く能力を頂戴しているスロノ。
悲観せずに楽しげなのには当然理由があった。
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