(99)暴風エルロンとミルロン①
「兄貴、ギルドは随分と面白い事になっているじゃねーの?」
「はぁ?どこが・・・面倒くせー。どう考えても王国バルドの一件だろうよ。リューリュとリリエル、ひょっとしたらクソ野郎のソルベルドまで動いたのかもしれねーな」
大陸中に根を張っているギルドに対してSランカー招集の告知がなされているので、今は弟のミルロンの屋敷にいる暴風エルロンの耳にもその情報は入っている。
ミルロンは何でも屋・・・ある意味冒険者と同じような仕事をして生計を立てており、実は自らの能力である<操作>Sの力もあって多数の魔獣を使役しているので、相当稼ぐ事が出来ている。
依頼の内容も後ろ暗い事ばかりであり、必要に応じ依頼者を脅して人脈を広げる事も忘れていないし、場合によっては報酬だけ受け取り依頼者を消すと言う極悪非道な行いも平然と行っている。
兄である冒険者の頂点の一角、Sランカー暴風エルロンと同様に赤目赤髪であり、好戦的で独善的な性格も瓜二つだ。
唯一の相違点と言えば、敢えてミルロンは冒険者として登録していないのでその実力・能力は公になっておらず、冒険者であれば禁忌と呼ばれる行動も依頼によっては平然とこなしている所だろうか。
現実は兄エルロンも息を吸うかのように平然と禁忌を侵しているのだが、弟のミルロンの方が営んでいる生業の関係上、頻度が異常に高いし特段隠蔽もしていない。
「で、どうするんだ?仮に五人全員勢揃いなんてしてみろ?幾ら兄貴でも分が悪いんじゃねーの?」
「そこは正直そうだろうよ。まぁ、招集の内容が何だかは想像の域を出ちゃいねーんだがよ?最近の大事と言えば、俺が知っている情報では王国バルドの一件しかねーからな。どう考えても俺が糾弾される側だな」
「はははは、そりゃーそうだろうよ?兄貴も俺と同じで普段から褒められる事なんざ何もしちゃいねーだろう?」
流石は兄弟であり、普段から互いの行動・思想を知っているので、ギルド本部に招集されて糾弾される事態を引き起こしたと知って尚、全く反省の色は無く余裕の態度を崩さない。
招集側のギルド本部、シュライバ総代の態度とはえらい違いだ。
「で、どうするんだ?招集期限はあと数週間だろう?行かねーにしても行くにしても、何らかの対処は必要なんじゃねーの?」
「バックレて問題ね~よ。なんで俺が態々弄られに行かなくちゃいけねーんだよ。マゾじゃねーんだよ。仮に資格剥奪でも構わねーさ。その時はお前の仕事を手伝ってやるぜ?最初の依頼は・・・そうだな。忌々しいリリエルやらリューリュ、ソルベルドの始末ってところでどうだ?」
ギルド総代シュライバが想像していた以上の事態を平然と引き起こそうとしている暴風エルロンだが、本心からの思いであり、ギルドに対して恩を感じた事も無ければ武器の製作・メンテナンスに関してもそれほど必要だとは思っていない。
正にギルドが期待している保険が全く機能していない存在なのだが、コレはエルロンが<棒術>Sとして誤認定されているので棒が無くとも全く戦力が落ちる事はなく、唯一の欠点と言えば本来の能力を隠して奥の手としたかったのだが、それが通じなくなる事だ。
「多分、俺の偽りの登録についても糾弾されるんだろうよ。クソが、ソルベルドの野郎!」
奥の手としていた本来の能力である<闘術>Sではなく偽りの能力で登録していたのだが、ソルベルドに看破された以上は偽の申請についても糾弾の対象になると考えている。
今のエルロンの両腕には腕輪が一つずつ装着されており、一つ目は棒、もう一つは<闘術>を使用する際に戦闘力を底上げできるグローブになる品で、こちらは全く使用していないので暫くメンテナンスを必要としていない。
「こいつが無くなっても、どうにでもなるからよ?」
グローブの硬度が高いために場合によっては敵の武器を破壊できるのだが、鍛え上げた<闘術>に物を言わせてグローブが無くとも安全に対処できる自信があった。
それほどまでに実力を上げられたのは、ソルベルドとは異なって調査等は略せずに敢えて死地に自らを置き、常に自分中心に騒動が起こるようにしていたからであり、この部分も含めて暴風エルロンの二つ名が定着していた。
「兄貴の好きにしたら良いぜ?冒険者でもね~俺がとやかく言う問題じゃねーからな。まぁ、今後仕入れた情報は都度伝えておくぜ」
「助かるぜ。一応ギルド側の動きも注視しとかねーとな。油断しても良い事は一つもねーからよ」
「了解・・・。ところで、一連の騒動で【黄金】について調べたが、そこの金魚のフン?スロノとか言う野郎は俺と同じような存在の可能性がたけーぞ?」
本来二人の戦力から考慮すれば調べるに値しない【黄金】一行なのだが、今回の一連の騒動について調査した結果、スロノがミランダと共にブレスレットの効果を検証すべく魔術を高レベルで発動した情報を得ていた。
エルロンはスロノと直接戦闘を行ったわけではなく、その姿を目撃すらしていないので、あまり興味がなさそうに弟のミルロンの話を聞いている。
「何らかの道具を装着していたが、そこを踏まえてもスロノとか言うやつの<魔術>のレベルはAの範疇じゃなかったぜ?ミランダとか言う女は<魔術>Aとの情報が回っているからよ?そいつと比べると圧倒的に威力が上だったようだ」
流石に同格のレベルを持つ存在がいるとなれば、嫌でも興味が出てしまうエルロン。
「・・・そいつ、スロノと言ったか?お前と同じと言う事は、冒険者登録はしてねーのか?」
「いや、登録済みで未だに最底辺の依頼を受け続けているらしい。受付ももう少し上のレベル帯の依頼を受けられる実力があると提言しても、頑なに受けねーようだな。姑息にもギルド側には<魔術>については秘匿していたらしいぜ?」
高レベル帯の力があるとギルドに認められれば、依頼の難易度は上がるが報酬も跳ね上がるので、名声と報酬両者を手に入れるチャンスを棒に振る冒険者・・・通常では考えられない。
 




