(98)Sランカー招集
ギルドに所属している全冒険者は、逆に言えばギルドに所属する事で冒険者としての立場を保証されている。
冒険者の中には色々な存在・・・能力、レベル、種族、性別、多種多様な存在が登録して活動しているのだが、ギルド内部の戦闘や裏切り行為と言う数少ない禁忌があるだけで、それ以外の行動に制限はない。
大陸中に根を張る組織として認知されており、そんな冒険者を統括しているギルド側から見てもSランカーは別格の存在であり、余程の事が無い限り彼等に何らかの指摘や指導をする事はない。
各国のギルドのトップ、ギルドマスターと呼ばれている存在でも良くてレベルAの能力である為、反撃されると簡単に抑えられない事情もある。
保険として、登録されているSランカー全員が身に着けている武具に関してはギルドが請け負って製作し、一定期間でメンテナンスを実施している為、ギルドとの共存が不可となった時点で武具のメンテナンスが出来ない事になる。
更に・・・ギルドには非常に貴重と言われている<鑑定>を持つ者が存在しているので、経験豊富なSランカーにしてみれば確認程度の意味しかないが、ありとあらゆる物について鑑定依頼を出せる。
Sランカー認定時も、実際にその実力を目の前で実施するか敢えて<鑑定>を持つ者に自らの能力を曝け出すかで認定されるとの選択肢を直接伝えているので、<鑑定>の能力を持つ者がギルドにいる事は明らかになっている。
今のところはその保険の効果が出ているのか、ギルドがある意味腫れ物に触るように接していたからかは不明だが、Sランカーがギルドに牙をむいていない状態が維持できている。
しかし、今回は暴風エルロンの行動が大問題になっており、その証言として国王、王女、そして同格のSランカー複数が名乗りを上げている以上は審議せざるを得ない。
「はぁ~、なんで俺が総代の時にこんな事態が起こるかな!」
ぶつくさ文句を言っているのは、各地に散らばるギルドを統括している各国の首都にあるギルドを更に統括している、ギルドと言う組織のトップである総代と呼ばれている男。
神経質そうで、冒険者上がりなのだが痩せており、直接的な戦闘は不向きに見える。
過去にもSランカーが問題を起こした事はギルド本部の書庫に多数記録として残っているのだが、当時の問題行動の記録だけでそれ以上の対処が必要な事態には陥っていなかった。
「そんな事を言っても仕方がないでしょう?シュライバ総代。今回問題提起した側にもSランカーがいるのですから。それも複数!大丈夫ですよ・・・多分」
「えっとさ?最後に不安になるような言葉を付け加えるの、やめてくれるかな・・・ミミちゃん!」
何処の国家にも属していない、所謂不干渉地帯に建設されている一際大きな建屋がギルド本部となっており、その一室で強大な組織のトップであるシュライバ総代と秘書官のミミがいる。
「だって仕方がないじゃないですか。あの化け物連中の認定には私も立ち会ったのですよ?そんな連中が敵対する可能性があるって知ったら、誰だって腰が引けると思いませんか?」
「そうだけどさ?正直俺も逃げたいんだよ!」
記録にある限り史上初と言っても良いSランカーに対する事情聴取、ある意味糾弾の場になるので、本来は相当立場が上であるはずのギルド総代も及び腰だ。
「私も出来るならばそうしたいですよ!でも、問題提起側にもSランカーがいる以上、逃げられないじゃないですか。腹をくくりましょう!どうせ何かあったら矢面に立つのはシュライバ総代ですから!」
「・・・ミミちゃん」
これで良いのか、ギルド総代・・・と言いたくなるような本音のやり取りが行われているが、幾ら愚痴を言ったからと言って何かが改善されるわけではない。
「は~、嫌な事はさっさと終わらせた方が胃に優しいか。ミミちゃん、各ギルドにSランカー招集の告知を出しておいて。どこにいるのか分からない連中だけど定期報酬を得る際にはギルドに顔を出しているから、その際に言伝してくれても良いよ」
「はい、わかりました。本当に開催は一月後で良かったでしょうか?」
「そう。それで頼むよ。あの連中の実力があれば、何処にいようが一月あればここに来られるからね」
普通の冒険者であればギルド本部に一月で到着できる場所と言うのは相当限定されるのだが、Sランカーには該当しないのを良く分かっているシュライバ総代。
「っと、そうだ。安全の為にAランカーも同席してもらった方が良いかな?強さがあって常識がある。【黄金】なんてどうだろうか?」
「気持ちは分かりますけど、事が起きた時には手も足も出ないんじゃないですか?今回の騒動でも一枚かんで事を収めたとの情報を得ていますが、直接的な戦果があったとは聞いていませんよ?」
何処までも弱気なシュライバ総代だが、気持ちは理解できるので冷静に分析した結果を告げるミミ。
「は~、だよねぇ。AとSじゃぁ、相当大きな壁があるから仕方がないね。こうなったら、こちら側のSランカーに頑張ってもらうしかないか。魔道リューリュと聖母リリエル。それに陰のソルベルドだっけ?彼に関しては今迄の素行からちょっと信じられない部分があるけど、最悪裏切られても二対二であればどうにでもなるでしょ!」
「その意気です。大丈夫ですよ・・・多分」
その後、全ギルド・・・各国に散らばっている支部のようなギルドに対しても大々的に告知がなされ、史上初の可能性が高い全Sランカー招集の話が瞬く間に大陸中に広がる。
当事者もギルドに赴かずにその情報は耳に入っており、進言した側は漸くか!と、ギルド本部の動きが遅いと思い、糾弾される側のエルロンは今更何を!と言う気持ちでいた。




