(93)助けてみる
未だに多少の距離を開けてミューと対峙し、必死で訳の分からない自己紹介をしている陰のソルベルド改め恋のソルベルド。
「ワ、ワイはお買い得やと思うんや。資産・・・は興味なさそうやけど、騎士としての力を上げるための助言やサポートは万全やで?こう見えて体術も鍛えているよって、間違いなくお役に立てる便利な男、ソルベルドや!」
―――スパンッ―――
本来背後を取られる事など無い存在なのだが、目の前のミューに全意識が集中している状態の為、同格の力を持つ者であれば容易く背後に忍び寄れるので、軽く頭をはたかれて初めて背後に人がいる事に気が付いたソルベルド。
「何や?」
大して痛くも無い力ではたかれたので何が起きたのか今一つ理解できないまま、折角興が乗ってきたところを邪魔されて多少機嫌悪く振り返ると、苦笑いのリリエルと呆れ顔のスロノが見える。
「恋のソルベルドさん?貴方の紹介や自己アピールは・・・必死なのは認めますが、全くダメですね。そんな事では本来成せる事もしくじってしまいますよ?」
今の態度では、恋が成就するわけもないと断言されて慌てるソルベルド。
「な、なんやて!!どうすれば良いんや!何でもする。頼む!!キューピッドのリリエル!それと・・・なんと呼べばええのか分からんが、この際や!キューピッド二号のスロノ!!ワイを助けてくれ!!この通りや!!」
練度の高い流れる体捌きで華麗に土下座の姿勢に移行したソルベルドを見て、根がお人良しの二人、スロノとリリエルはあまりの必死さに多少憐みの感情に襲われてしまったので、訳の分からない二つ名についてはスルーする事にした。
「えっと、皆さん?もう理解しているとは思いますが、この方には敵意はありませんので、申し訳ありませんが崩れている王宮の復興作業を始められては如何でしょうか?あっ、ハルナさんとミューさんは残ってもらえると助かります」
一先ず余計な観客を減らすべきと判断したスロノによって、この場にはスロノ、ソルベルド、リリエル、ハルナ、ミューだけが残る。
「ご存じの通り、こちらは私と同じSランカーであり陰のソルベルドと呼ばれている冒険者です。以前リューリュさんとも説明しましたが、この国の混乱の原因はミュラーラ公爵と共にこの方も関与しております」
「そ、それはその通りや。ホンマ申し訳ないと思っとる!」
土下座の姿勢のまま、更に頭を地面にこすりつけて大声で謝罪しているソルベルド。
冒険者の禁忌を侵している事を明確に認めているので、普段のソルベルドであればあり得ない行動だ。
「ですが、今回暴風エルロンの攻撃から私を含めてこの国家を守ってくださったのも、疑いようのない事実です」
暴露の後に賞賛が来たので、ここはどのように反応して良いのか分からず土下座姿勢を維持しているソルベルド。
「そこは理解できます。この目で助けて頂いたところを目撃しているので。ですが、何故攻撃していた国を助ける事にしたのでしょうか?」
純真なハルナは良く事情が分からないので、一気に核心に迫る。
「それはですね、私の口から申し上げて良いのか難しい所ですが・・・」
未だ地面にひれ伏しているソルベルドを見て悩んでいるリリエルなのだが、何も反応が無いのを確認すると一気に暴露する。
「実は、ソルベルドさんは二つ名を自ら改名する程の恋をしている最中です。お聞きになっていますよね?自ら恋のソルベルドと自己紹介していた事を」
リリエルの視界の片隅には、土下座のまま恥ずかしさなのかプルプル若干震えているソルベルドが入っているのだが、面白くなってきたのでお構いなしだ。
「そうですね。私の聞き間違いだと思っていたのですが、やはりあの時そのように宣言されていたのですね!ロマンチックです!!」
幼い子供と言っても良い年齢の獣人であるハルナにこのように言われて、震えの回数が増えた事を確認したリリエルははち切れんばかりの笑顔になっている。
「ぷっ、ふふふ。失礼しました。それで、ミューさん?ソルベルドさんは貴方に一目惚れしたようで、ミューさんに属する者を守ろうとエルロンと対峙したのです。正直に申し上げますと、あのままの状態でソルベルドさんが来なければ私は確実に敗北しておりましたし、スロノさんが来たとしても全滅していた可能性が高いでしょう」
ミューは自分の力量ではリリエルとエルロンの攻守について理解できなかったのだが、敗北の危機であったと知らされて背筋が凍っている。
と同時に、どうしても確認しておかなければならない事があり、実際に対峙して比べるのもおこがましい程の各上だと認識しつつ、冷静にソルベルドに問いかける。
「貴方は、私の弟と妹の一件に関与していますか?ミュラーラから情報を得ていますが、改めて確認させて頂きたい」
ミュラーラ公爵から全ての情報を抜き取って共有しているので、ミューだけではなくリリエルもソルベルドが手を出していないとは知っているが、どうしても当人から改めて話を聞きたかったようだ。
「ワイは、Sランカーの名に誓って関与しとらん。正直当時は己の事しか考えておらんで多大な迷惑を多方面にかけとったが、ここは事実や!」
土下座姿勢のまま顔だけ上にあげて、真剣な表情でこの件に関しては無実であると訴えているソルベルド。
言葉の中で他の件は認めているし心底反省していると伝わったので、いきなり恋仲は厳しいのだが、ハルナの安全をより強固なものにすると言う利益も考えて友人関係から構築すると決断したミュー。