(91)生まれ変わったソルベルド
ソルベルドはハルナ王女の護衛であるミューと恋仲になりたい一心で行動を始めていた所、何故か王宮で暴風エルロンと聖母リリエルが暴れていた・・・いや、一方的にエルロンがリリエルに攻撃しているのを目撃した。
現場には最も大切なミューがいた事から彼女を守るべく、そして格好良い所を見せたいとの思いで邪魔者を排除しようと積極的に戦闘に参加した結果、排除自体は成功する。
エルロンの攻撃が一時的なものなのか、継続的に攻撃を仕掛けようとするのか、その相手はリリエルなのか王国の誰なのか、その全てが分からないままソルベルドが色々と検討した結果、エルロンが王国の誰かをターゲットにしているのであれば脅威から守る名目でミューの近くにいられると考えた。
「実はワイ・・・クッ、このワイがここまで話し辛いと思ってまうなんて、あり得へんわ!しっかりせい、ワイ!!」
何かを言おうとしている素振りは見えるのだがなかなか口に出せずにいる様子は見て取れるが、何とも言えない不気味さを感じているのでフォローできずにいるリリエル。
変に藪をつつくと良くないと思い静観しているのだが、未だ目の前のソルベルドはモジモジしながら自分を鼓舞するような不思議な事を呟き続けている。
「あの・・・お手洗いは彼方にあるそうですよ?」
「・・・お手洗いちゃうわ!ふ~、良し。ワイも男や!よ、良く聞くんや聖母リリエル。いや、キューピッドリリエル!」
また不思議な話が始まったと思っていながらも表情には出さないリリエルだが、キューピッドと言われているので、少し前に恋に生きると宣ったソルベルドの想い人が自分ではないと理解し、心底安堵している。
「またお前か!リリエルさん、離れて!!」
ソルベルドが決死の思いでリリエルに恋心を打ち明けて、何とかミューとの仲を取り持ってもらう様お願いしようとした所、聞き覚えのある声が聞こえて口が止まってしまう。
「リリエルさん、早く!」
「スロノさん・・・大丈夫ですよ。この惨状はソルベルドさんによるものではありませんから。アレ?違いますね。半分はソルベルドさんのせいですが、不可抗力です。ソルベルドさんは私を含めてこの国の方々を守ろうとしてくれたのですよ」
ソルベルド襲来後再集結した後、最後にこの国を出たスロノは、テョレ町に戻りながらもソルベルドの気配がないか慎重に調べながら進んでいたので距離が離れていたわけでもなく、ソルベルドの気配を察知する為にレベルの高い各種能力を自らに付与していたおかげか、王宮の破壊音を捕らえる事が出来ていた。
何らかの破壊音が聞こえたので慌てて戻ると、破壊されている王宮と荒れた庭園、そして赤い顔をしているソルベルドと一歩引いているリリエルが見えたので、差し当たりリリエルを安全な距離に移動させようと急ぎ声をかけていた。
<魔術>Sを行使してソルベルドに攻撃しないのは、あまりにも二人の距離が近いのでスロノの力量では制御できない為だ。
ところが、最も危険な相手の近くにいるはずのリリエルから想定外の答えが返って来たので、冷静に状況を見ると確かにリリエルは怪我をしていないし、ソルベルドに攻撃の意志はなさそうに見える。
「えっと、何がどうなっているのか説明して頂いても良いですか?」
「スロノ様、リリエル様!」
破壊音が消えた為か、避難していたハルナや国王達もこの場にやってくる。
ハルナがいると言う事は覆面をつけているミューもいる訳で、ハルナの声が聞こえた瞬間にソルベルドは“グリン”と音がしそうな勢いでそちらに向く。
「まさか・・・幼女趣味ですか?」
自分でもこの行動をどうしても止められないソルベルドは、背後からリリエルの冷え切った声が聞こえたので慌てて振り向き直し、普段ならば考えられない程余裕なく対応している。
「ちゃ、ちゃうわ!んなわけあるかい!!ワイは普通や。ノーマルや!!純真や!!!」
と言いつつも再び背後をチラチラ見ているので、スロノは何が何だか分からないがソルベルドに敵意が全くない事は理解できたのだが、会話の中身は今の所理解できない。
一方のリリエルは、あからさますぎるこの態度からソルベルドの想い人を特定する為に、対象をもう少し絞る必要があると考えた。
「わかりました。幼女趣味ではないながらも男性が好みなのでしょうか?多様性の時代ですからね」
「・・・リリエル。ワイはホンマに心の底から生まれ変わったんや。ワイの目を覚まさせてくれた相手、分からんか?有象無象の騎士ではないんや。芯の通った素晴らしいお方なんや!」
「あぁ、ミューさんですか?確かに素晴らしい方ですね。弟、妹が犠牲になっていますが、その遺志を継いでハルナさんに尽くす姿勢は流石です。それにしてもソルベルドさん。ミューさんの家族の方に対して何もしでかしておらずに良かったですね?」
ハルナが王宮にいる際の嫌がらせや苛烈な攻撃には幸か不幸かソルベルドは一切関知しておらず、ハルナ逃亡後の直接的な二人の死因にも関知していないので、その一件で嫌悪される事はないはずだと思っているリリエル。
この話を最も近くで全て聞かされていたスロノも、この惨状になった相手が他にいるところも含めて全て理解し、あれ程凶悪だったソルベルドがここまで変わったのが未だに信じられずにいた。
ソルベルドは、想い人の名前をあっさりと言われてしまい真っ赤になってアワアワしているだけで、その後何故か下を向いたかと思うと体育座りに移行して顔を膝に埋めて黙り込み、リリエルに追撃を入れられてしまう。
「ふ、ふふふふ。随分と可愛らしい所もあるのですね、恋のソルベルドさん?ここが頑張りどころではないですか?」




