クラースside
元々エリオットには婚約者候補の公爵令嬢が居たのに、ディオーナ嬢と勝手に親密な仲になって人目も憚らずにイチャイチャするようになった。
エルヴェスタム公爵家には以前から脱税疑惑や反社会勢力との繋がりが噂されていたため周囲はディオーナ嬢との交際を反対したが、彼女に夢中になってしまったエリオットは聞く耳を持たなかった。
そうこうしている間に流行り病が世に蔓延し、死者も大勢出る騒ぎとなった。
王宮としてはこの騒ぎを収束させることに全力を注ぎ、噂になっていたコンティオラ子爵家のハーブティーについても調査した。
初めはコンティオラ家のメイドのスヴィーが聖女かと思われたが、彼女にはそれらしい力は無かった。
するとディオーナ嬢が突然、あのハーブティーを作ったのは自分で、コンティオラ家に分けて欲しいと頼まれたので譲ったのだと言い出した。
ディオーナ嬢は身の廻りの事は全て侍女にやらせていたし、貴族女性が恋人へ送る刺繍入りのスカーフも、手が疲れるからという理由でエリオットにせがまれても送らなかったそうだ。
そんな彼女がハーブティー作りをやるのかと疑問に思ったが、こちらで材料を揃えてやらせてみると実際に病に効果のある代物が出来上がった。
そこからは早かった。ディオーナ嬢は聖女だと認められ、あれよあれよと言う間にエリオットと婚約してしまったのだ。
実際にはエルヴェスタム家から、聖女の力が欲しければエリオットと婚約させろ、そうでなければ彼女の力を欲している他国の王族の元へ嫁がせると半ば脅しのようなことを言われ、王が渋々婚約に同意したのだ。
あれから流行り病は収束し、すっかり彼女は聖女様と崇められるようになった。
そして聖女ならば祈りの力で病人の治療にあたってもらいたいと王が言えば、例のハーブティーを大量に作ったことで、力を使い切ってしまったと言う。
王としては聖女だからエリオットと婚約させたのに、もう力を使えないとなっては話が違うと憤慨し婚約破棄させようとした。
しかし聖女様として彼女を称えるようになっていた貴族達からは、国の為に尽力した者に対してそんな仕打ちはあんまりだと言う声が聞こえてきた。
国は貴族達からの税収によって財政を支えられている為彼等の声を無視することは出来ず、婚約は継続となった。
その辺りからだろうか。ディオーナ嬢がヨハンナ嬢から嫌がらせを受けていると言い出したのは。
僕が初めて聞いたのは彼女とエリオットが庭で散歩している所を偶然通りかかった時だ。
彼女は大きな瞳からポロポロと涙を流してエリオットに抱きつきながら、ヨハンナ嬢に飲み物をかけられたとか、足をひっかけられたとか、いかにヨハンナ嬢が自分に対して酷いことをしているかを話していた。
ヨハンナ嬢とディオーナ嬢、エリオットは学園の同学年だが、僕は一つ下の学年のためヨハンナ嬢との関わりはなく、どの様な女性なのかは分からない。
しかし、今日のパーティでずっとヨハンナ嬢を見ていたが、嫌がらせをするような人には思えなかった。
むしろ他の令嬢がヨハンナ嬢に対してわざと飲み物をかけようとしたり、パイをぶつけようとしている風に見えた。
そして、ディオーナ嬢もその様子をチラチラと目で追っていたのだ。
だから当然パイをぶつけたのもヨハンナ嬢ではないことは彼女も分かっている。
にも関わらず、ヨハンナ嬢にやられたと言ったのはヨハンナ嬢のことを陥れようとしているようにしか思えなかった。
僕は咄嗟にヨハンナ嬢を庇いことの経緯を説明したが、僕がいなければどうなっていたのだろう。
まさか本当に投獄するつもりだったのだろうか。
仮に嫌がらせが本当だとしても、それだけで投獄するなんて考えられない。
きっと何か他に理由がある筈だ。
僕は急いで隣国へ派遣しているカイに調査をさせた。
調査結果はこうだった。
まず、あのハーブティーはディオーナ嬢の作った物ではないということ。
王宮で実際に作らせた時には監視の者を買収し、ディオーナ嬢が作ったということにして予め持ち込んだ物を自分が作ったと偽り提出していたらしい。
そして市民への聞き込みによると、流行り病を治したあのハーブティーは、コンティオラ家から貰ったのだという。
貴族達は皆口を揃えてエルヴェスタム家から譲り受けたと言っていたが、実は陰でエルヴェスタム家からの脅しや買収があったそうだ。
そしてヨハンナ嬢が、パーティで数人の令嬢から嫌がらせを受け続けたことでパーティに参加しなくなったり、学園で孤立しているとの情報も得た。
それら全ては、裏でディオーナ嬢が自分の取り巻きを操ってやらせていたというのだ。
きっとディオーナ嬢が聖女になればエリオットと婚約出来ると踏んで、コンティオラ家の手柄を自分の物にしようとしたのだろう。
そして、その事実が明るみにならぬようにヨハンナ嬢を孤立させ、タイミングを見計らって適当な罪を着せて処分してしまおうという魂胆なのだ。
こんなことを考えたのは、ディオーナ嬢か、はたまたエルヴェスタム公爵か。
とにかくこのまま放っておく訳にはいかない。
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