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パイ事件

パイをくらった令嬢は、ディオーナ・エルヴェスタム公爵令嬢。

 

「あっああああああ••••••」

 

パイを投げた令嬢は、空になった皿を片手にブルブル震え出す。

 

「もっ申し訳ございませんっっ!! ヨハンナ様が、とんだ御無礼を!!」

 

咄嗟にヨハンナに罪をなすりつけようとしているが、ディオーナ様に対して背を向けた状態で座り込んでいるヨハンナでは、誰がどう考えてもパイをぶつけることは出来ない。

 

それに、これだけ人が居れば目撃者も居るだろう。

 

ディオーナ様の顔面にはパイが直撃し、肩まで伸びた銀色の髪を伝ってクリームがぽたりと地面へ落ちた。

 

見るからに高価そうな淡いピンクのドレスは、クリームで汚れている。

 

そして肩を震わせながらこちらを睨んでくるその様は、怒りに満ちていた。


周囲がこの状況に気付きざわつき始めたその時、1人の男性が人混みをかき分けてやって来た。

 

「どうした? 一体なんの騒ぎだ?」

 

「エリオット様!」

 

「ディオーナ? どうしたんだその格好は!?」


ディオーナ様はエリオットという男性を見るや、怒りに震えていた表情から一変、涙をポロポロ流して彼の腕の中へ飛び込んだ。


「あのお方はこの国の第一王太子である、エリオット•バーリフェルト様です。 私とディオーナ様と先程の令嬢達は皆同じ学園の同級生です」

 

こっそりヨハンナが耳打ちした。

 

「エリオット様ぁ••••••、いきなりパイをぶつけられたんですぅ。 私、何にもしていないのにぃ」

 

ディオーナ様はポロポロ涙を流しながら、甘えるように言う。

 

「何だって!? 俺のディオーナにこんな酷いことをするなんて許せん!! ディオーナは聖女なんだぞ! 聖女に対してこんな仕打ち、あってはならないことだ! 誰にやられたんだ!? 不敬罪で処罰してやる!」


ディオーナ様は潤んだ瞳でエリオット様を見つめながら、あろうことか「ヨハンナ様に••••••」と言い放った。

 

「ヨハンナだと!? ••••••また君か。 君の悪い噂は以前からよく聞いているよ。 パーティでは転んだふりをしてわざと飲み物をかけたり、食べ物をぶつけたり、ディオーナに散々幼稚な嫌がらせをして虐めているらしいじゃないか。 これまでは優しいディオーナが大ごとにしたくないと言うので目を瞑ってきたが、もう黙って見過ごす訳にはいかない」

 

「お待ちください! 私は誓って何もしておりません! そのパイも、ドリス様がつまづいた際に誤って飛ばしてしまったものです。 それに、私はディオーナ様に嫌がらせ等したことはありませんし、する理由もありません!」

 

「嘘をつくな! 君はディオーナの美しさと聖女の力に嫉妬しているんだろう! いいか、ディオーナはつい先日私と婚約したのだ。 つまり未来の王太子妃なのだ。 その彼女に対する嫌がらせは、私に対する嫌がらせも同然だ! 地下に投獄しろ!!」

 

慌ててヨハンナが弁明するが、まるで聞く耳を持たないエリオット様は、騎士にヨハンナを拘束させようとしている。


大変なことになってしまった。


令嬢の嫌がらせから守るくらいなら容易いことだったが、相手が王族となってはどうしようもない。

  

私がよく後ろを確認していれば、こんな事態にはならなかったのに。

 

周囲で見ていたであろう人々は、誰一人として本当のことを言ってくれない。

 

皆、自分の身を案じて見て見ぬふりをしているのだろう••••••いかにも貴族らしい。

 

「兄さん、ちょっと待って下さい。 僕は一連の騒ぎを見ていましたが、ヨハンナ様は何もしていませんよ?」

 

騎士に拘束されそうになっているヨハンナの前に、一人の男性が立ちはだかった。

 

「クラース! お前は関係ないだろう、引っ込んでいろ!」

 

「いいえ、無実の女性を投獄しようなんて黙っていられないよ。 僕は確かに見たんだ。 パイはそちらの皿を持っているご令嬢が、誤ってつまづいた際に飛んでしまったのさ。 それにヨハンナ様はディオーナ様に背中を向けて座り込んでいただろう? そんな姿勢でパイを投げられると思う?」

 

「なんだと? 第二王太子の分際で、第一王太子の俺に意見するのか?」


「違うよ。 僕はただ、自分の目で見たことを言っただけさ。 それに、つまづいた拍子にパイをぶつけられたくらいで投獄するなんて、心優しい聖女のディオーナ様も望んでいないのでは? ねえ、ディオーナ様?」

 

「え、ええ••••••そうですね」

 

ディオーナ様は曖昧に返事をしたが、一瞬悔しそうな顔を見せたことに私は気が付いた。

 

その後はクラース様のお力添えで事なきを得て、なんとか家路につくことができた。

 

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