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嫌がらせを回避せよ

聖女様のお披露目パーティーは、王宮の中庭で行われた。


周囲を薔薇の花で覆われた美しい広場には、貴族達が所狭しと集まり、テーブルを囲んで談笑していた。


「今日の私のドレス、変じゃありませんか? なんだか、視線を感じるのですが······」


今日のヨハンナは、淡いブルーのドレスに控えめな宝石のネックレスを着けている。


派手な装いではないが、彼女の透明感をより一層際立たせるスタイリングで、スヴィーのセンスの良さが光る。


「とてもお似合いですよ! 皆さんはヨハンナ様の美しさに見惚れているだけですから、ご安心ください」


「もう、そんな事言って······。 それにヨハンナって呼んで下さいって言ってるじゃないですかぁ! 様は要りませんよ!」


「今日は私は侍従としての参加ですから、呼び捨てにする訳にはいきません。 久しぶりのパーティー、楽しんでいってください」


膨れ面になっているヨハンナの数歩後ろを着いて歩きながら、周囲の様子を覗う。


会場には年頃の令嬢や令息が多く、同じ学園の者がほとんどだとヨハンナは言っていた。


ヨハンナと薔薇の花を観賞しているふりをしながら、花や棘に軽く触れる。


途中でテーブルクロスや皿に触れながら、料理をサーブしてヨハンナへ手渡す。


庭の端には大きな池があり、ヨハンナはその横あるベンチへ腰を降ろした。


すかさず池の水へ触れてみるが、指先がひんやりするほど水温は低かった。


こんな所に落とされたりしたら大変だ。


すると前方から、やけに派手なドレスを着た3人組の令嬢がやってきて、声を掛けられた。


「あらぁ、ヨハンナ様じゃないの? あなたがパーティーへいらっしゃるなんて、珍しいわねぇ」


真ん中で偉そうに腕組みしている吊り目の令嬢がニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら言った。


「ごきげんよう、アデラ様。 本日は聖女様のお披露目パーティーなので、参加させていただきました」


「そういえば、あなたのメイドが『自分が本物の聖女だ』とかなんとか騒いでいたらしいけど、今日は一緒じゃないのね。 あのハーブティーも、聖女様の作った物を自分が作ったことにして配っていたらしいじゃない。 恥知らずなメイドを持ってお気の毒にねぇ」


扇子を口元にあて、見下すような目つきで言い放つ。


それに合わせて両サイドに居る取り巻きの令嬢達もクスクスと嘲笑う。


私は女同士のいざこざには疎い方だが、この三人組がスヴィーの話していた嫌がらせをしてくる令嬢なんだと瞬時に解った。


「うちのメイドに話を聞きたいと王宮から遣いが来たのであって、うちのメイドがそのような事を言った事実はありません。 それに、あのハーブティーは確かにうちの屋敷で作った物です。 聖女様がどのような物をお作りになっていたのかは知りませんが······」


噂では聖女様もハーブティーを作っていて、それには聖女様の祈りの力が込められており、その力で流行り病を治したと聞いている。


「まあ、呆れた! それじゃあ聖女様が嘘をついているとでも言うの? 聖女様を嘘つき呼ばわりするなんて、とんだ不敬だわ!! これだから庶民は嫌なのよ! 貴族の何たるかをまるで分かっていないわ!」


「いっいいえ、違います! 決してそんな意味ではありません! それに私は、聖女様が一体どなたなのかも知りませんし······」


「んまぁ〜! 聖女様には全く興味がないってこと? あなたの領民達も聖女様のおかげで病が治ったというのに、ずいぶん恩知らずね! それに今日のそのドレス! 私のドレスと似ているじゃない! 庶民と同じなんて気分が悪いわ! 今すぐ着替えて来なさい!」


ほとんど言い掛かりとしか思えないことを捲し立てられ、ヨハンナは今にも泣きそうだった。


確かにドレスは似ているが、この令嬢よりヨハンナの方がよっぽど可憐で似合っている。


そんなやり取りをしている間に、取り巻きの令嬢が近くのテーブルから真っ赤な葡萄酒の入ったグラスを持ってこちらに近づいてくるのが視界の隅に入った。


そして何かに躓いたふりをして大袈裟によろめき、ヨハンナに向けてグラスの中身をぶちまける。


「きゃあーっ」


その瞬間、ヨハンナの前にテーブルクロスが現れ、飛び散った真っ赤な葡萄酒から彼女を守る。


「ごめんなさ〜い、ちょっと躓いてしまって······」


したり顔の令嬢がヨハンナの方を確認するが、彼女は頭からすっぽりとテーブルクロスを被っており無傷。


こんなこともあろうかと、さり気なく会場の至る物に魔力を込めておいて正解だった。


「······は?」


「今日は風が強いようですね。 ちょっと失礼致します」 


私が間に入り、ヨハンナからテーブルクロスを剥ぎ取る。


なるほど、こんなやり方でヨハンナに嫌がらせをしていたのか。


誰かが言いがかりをつけている隙に、誰かが偶然を装って飲み物や食べ物を投げつける。


しかし相手の手口が分かっていれば、こんな嫌がらせ簡単に躱すことができる。


何しろ相手は令嬢なので俊敏さに欠けるし、次の動作がバレバレなのだ。


ヨハンナに葡萄酒がかかっていないことが分かると、今度はもう一人の令嬢がパイを持った皿を持ってきて、バカの一つ覚えのように再びわざとよろめき出す。


そしてヨハンナに狙いを定めてパイを投げる。


今度は外さないと言わんばかりに投げつけて来るので、わざとやっている事がバレバレである。


「きゃあああー! 手が滑っちゃった〜!」


テーブルクロスはもう使えないので、今度はヨハンナ自身を僅かに右へ転移させる。


ヨハンナのドレスには予め、私の魔力が込めてあるのだ。


べしゃっ


「きゃーっ!!」


ヨハンナは私が転移させたので無事だった。


しかし、ヨハンナの代わりにパイをくらった令嬢が居た。


ヨハンナの後ろまで見ていなかった·····。


後に、そのパイをくらった令嬢が聖女様だと知る。









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