第一章 七話 【デッキブレイク】、そして【希望の光・青】
〈青〉のスミレとルナ、お互いに「アクフィラ」。
リヴィールは無く、それぞれ5枚ディヴォートした後、先攻がルナに決まる。
「ルナのターン、ドロー。
『ミニロボ チコラ』3枚をエンターして、ターンエンド。」
その声は機械のように単調に聞こえる。何かをぐっとこらえているのが良く分かる。
「私のターン、2枚ドロー。
エンター、『青色の剣兵』。
エンター時効果、貴女は自身のデッキの上から1枚を破棄しなさい。」
「青?ということはデッキアウト狙いだね。」
「さらに、『エドワード・ジョン』と『守護と破壊の子 ディヴィ』もエンター。
ディヴィのエンター時、【デッキブレイク:6】を行う。」
「出たね、【デッキブレイク】。
その数値分だけ、ルナのデッキの上からカードを破棄する効果。
あと47枚。」
「『エドワード・リキッド』もエンター。さらに【デッキブレイク:5】。」
「ちゃんと見るのは初めてだけど、やっぱり強烈だね、【デッキブレイク】は。」
「同感だよマオ。デッキアウトで負けたらある種屈辱だろうな。」
「そういうクォーデ君は、デッキアウトの瞬間を見たことある?」
「…うん、これじゃないカードの方で、ね。」
少し曇る。
「んーっ、なんかごめんね?」
顔には出ていないが、声に申し訳無さが混じっている。
「別にいいよ、訊きたくなるのは当然だと思うから。」
「まさか、【デッキブレイク】だけだと思っていますか?
もしそうだとしたら、大間違いですよ!!」
「!?」
「ルナ、貴女に見せてあげましょう。
不必要な悲しみを捕らえ、氷のように融けてゆけ!
エンター、『冷酷な少女 スミレ・アイ』!!」
「〈青〉の『スミレ・アイ』!?
聞いたことすらないね。」
驚くのはほんのひと時、普段のルナよりも落ち着いて、冷静に分析しているのだろう。
「エンター時効果、【希望の光・青:7】を行う。
【デッキブレイク】の要領でカードをトラッシュ送りにします。
そして、これによってトラッシュに置かれたカードの効果は使えなくなります。」
「それじゃあ!?
トラッシュ送りにされた『デッキブレイクハンター ドキャイン』の効果は―」
マオは小声でそっと驚く。
「まさか、相手の効果でデッキからトラッシュに送られた時に、
その効果を持つカードを破壊する効果だけじゃなく、
トラッシュにある間、
コストが1桁のカードに【デッキブレイク】を与える効果も使えないの!?」
そしてラビが1番驚いたようで、大声で質問する。
「その通りだよ、ラビちゃん。
そして、デッキはあと35枚。」
現状は一応まずいのだが、ルナは至って冷静に、
ヒューマノイドお得意の情報整理を進めている、少年の憶測だが。
「ファイトアクションへ移ります。
私、『冷酷な少女 スミレ・アイ』で、チコラへ指定アタック。
アタック時、【希望の光・青:3】を行う。」
「1枚のカードで10枚もか、えげつない。
これが〈青〉のスミレの強さか、僕も使ってみたいな。」
ちらっ、こくり。
「ブロックはしない。」
使ってみたいのは、同意のようだ。
「続けて、『エドワード・ジョン』でチコラへアタック。
アタック時、【デッキブレイク:4】です。」
「これもブロックしないよ。」
「あと28枚、ターンエンドです。」
「ルナのターン、2枚ドロー。
『恐怖知らずの奇所送り』を発動。
ルナのライフの上から1枚を公開して、ライフをシャッフル。
公開したカードのコスト以下になるように、相手のフィールドのカードをテリトリー送りにする!」
「その程度では、どうにもならないですよ?」
「それはどうかな?
コストは300、『救世主 モル・ラグー』。
よって、5枚すべてをテリトリー送り。
スミレのフィールドのカードが無くなったので、
さらに、スミレのライフ2枚をテリトリー送りにして、ルナが3枚ドロー。」
「ライフをテリトリー送り、やりますね。
ディヴォートされている『蒼冷の氷像姫』の効果。
相手のデッキが30枚以下の状態でドローされた時、
私のテリトリーにあるカードの枚数分の【デッキブレイク】を行い、
これをフィールドに置きます。」
「つまり、7枚!?
あと16枚しかないのか、とても3ターン目とは思えない。」
クォーデの発言に、マオがさっと横で突っ込む。
「しれっと、エンターコスト関係無しにフィールドに置いてることはスルーするんだね。」
「何故なのか腑に落ちないんだけど、別に驚きもしないんだよね。
自慢とかじゃなくて、本当によく分からないんだ。」
「エンター、『ヒューマノイド少女 ルナ・ムーン』。
エンター時、ルナのデッキの方が20枚以上少ないので、
ルナのトラッシュにある、色が〈黄〉だけのカードを20枚までデッキの下に戻す。
20枚戻して、上限まで戻したおまけでさらに、
ターン終了時まで【ライフブレイカー:4】を獲得。」
「デッキの枚数差を利用してこんなにできるのか。
って、それにしても、みんなよく黙っていられるね。」
「そういうのはクォーデだけだよ?
ボクだってさっきから一手一手を見て検討してるんだよ。
もちろん純粋に試合を眺めてるだけの子も居ると思うけど。」
「ラビ、凄い努力家だね。
これは本当に、今後に期待。」
「さあ、小話はお終い。見逃さないようにね。」
白兎はちょっとした怪力で少年を決闘に注目させる。
「『奇術師 ルナ・ムーン』もエンター。
流石に分身はできないから、システムに投影して貰うよ。」
既に『ヒューマノイド少女 ルナ・ムーン』として出ているルナと全く同じ動きの
『奇術師 ルナ・ムーン』が、そこにあるかのように映し出される。
「エンター時、相手のフィールドにあるカード1枚をテリトリー送りにする。
さらに、相手のフィールドが空っぽになったので、相手のテリトリーカードの分、
つまり8枚、ルナのトラッシュカードをデッキの下に戻す。」
ルナのデッキは44枚にまで回復した。
「さらに、[メインアクション]中に奇術師のルナを実行させて、
お互いのディヴォートカードをすべて準備させる。
そして、残りの手札5枚もエンター!」
ファイターカードは『奇跡へ導く戦士 ジン』2枚と『旧世の煉瓦兵』2枚、
ゾーンカードは『地の御加護』1枚。
ジンのエンター時、【ハンドブレイク:1】2回。
相手の手札にあるカード1枚を破棄する効果だ。
これでお互いに手札が0枚。
「さあ、ファイトだよ。
フルアタック、できるよね?」
「一先ず1枚ずつお願いします。」
「まだ準備している、【ライフブレイカー:4】のルナでアタック!」
スミレは、ライフカード4枚を手札にする。残り9。
「チコラ。
煉瓦兵。
煉瓦兵。
ジン。
ジン。」
1枚ずつ確認して、最後まで何も無かった。
スミレの手札は9枚、残りライフは4。
「ターンエンド。」
「私に対して決めきれないフルアタックとは、いい度胸ですね。
それなら、無防備な貴女に容赦無いセミファイナルターンを。
『光の差す滝』をディヴォート。
ディヴォート時効果でテリトリーから私を手札に戻して1枚ドロー。」
「テリトリーから手札に!?〈青〉でもできるなんて―」
「前例が無いと?
ヒューマノイドも万全では無かったようですね。」
「それは悪かったよ。
ルナが純粋なヒューマノイドじゃないことを言い訳にはしないけど、
それでもルナの落ち度だからね。」
「再び私をエンター、【希望の光・青:7】。
『地の御加護』があっても、破棄でなければトラッシュへ送られます。
そして、このターン中に6枚以上のカードが相手のトラッシュに送られたため、
ディヴォートカード無しで『大波流氷』を発動。
ゾーンカードの『地の御加護』を相手のライフの下へ送り、
貴女のライフの半分の数値の【デッキブレイク】を行います。」
「ルナのライフは16になったから、8枚だね。」
「デッキの枚数差が20枚以上なので、
さらに、ディヴォートカード1枚を準備させます。」
スミレは51枚、ルナは29枚。22枚差だ。
「『氷島の投兵』をエンター、エンター時に、私のフィールドにあるカードの
【デッキブレイク】か【希望の光・青】のいずれかを1つ選んで1回行います。
勿論、私の【希望の光・青:7】を行います。」
「うう、またドキャインが不発になったよー!」
流石にルナでも、2度も不発になるのは嘆きたいようだ。
「残念ですね。
『守護と破壊の子 ディヴィ』をエンター、【デッキブレイク:6】です。
さらに『エドワード・ジャクソン』をエンター、【デッキブレイク:3】。
もう1枚ジャクソンをエンター、さらに3枚。」
あと10枚。
「さあ、ファイトです。ジャクソンでチコラへ指定アタック。
アタック時効果で【デッキブレイク:4】を行います。」
「つまり、このターンで―」
(チコラの方がパワーが低いから破壊される。)
「ええ、そうなりますね。」
デッキが0枚になる、ということだ。
もしそうなれば、次のルナのターンの[スタートアクション]に、
デッキアウトで敗北となる。
「私でジンへ指定アタック。【希望の光:3】」
「ブロックしない。ジンが破壊された時、破壊されたジンをディヴォート。」
「もう1枚のジャクソンで煉瓦兵へ指定アタック。
【デッキブレイク:4】、あと3枚しかないですが、可能な限り破棄します。」
「これで、0枚。でも、大誤算だったね?
この時破棄された『邪皇の眷属 ルナ・ムーン』の効果。
デッキから破棄された時、トラッシュの〈黒〉カード10枚をデッキに戻す。
でも、デッキが0枚なら、〈黒〉カードでなくても戻せるようになる。
よって、好きな10枚をデッキに戻す!」
「な!?
ジャクソンの方がパワーが低い為、ジャクソンが破壊されますが、
破壊時効果、5枚ドローです。」
「煉瓦兵も、効果で破壊される。」
「ターンエンドと、言わざるを得ませんね。」
少しだけ悔しそうな声色で、静かに生存宣告する。
「ルナのターン、2枚ドロー。
〈緑〉ファイター、『リエンターの達人 カイル』をエンター。
カイルのエンター時効果で、ヒューマノイドの方のルナを、
ディヴォートカードを使わずに再度エンター!
ルナのエンター時効果でデッキを20枚回復、【ライフブレイカー:4】を得る。」
「デッキがなかなか切れませんね。」
「このデッキは『大邪皇』が手札に来なくても戦えるんだよ、スミレちゃん。
〈赤〉アビリティ、『強制闘争』を発動。
このターンの間、ルナのカードのダイレクトアタックは、
可能な限りブロックしなけらばならない。
さあ、ファイトだよ!」
「さあ、来なさい!!」
「煉瓦兵でダイレクトアタック!」
「ディヴィでブロック!ブロック時も【デッキブレイク:6】を行います。」
「じゃあ、ディヴィを破壊、そして煉瓦兵も効果で破壊。
ジンでダイレクトアタック!」
「『氷島の投兵』でブロック!
ブロック時効果で手札からディヴィをエンターして、
そのエンター時で【デッキブレイク:6】します、しかし―」
「その通り、奇術師の方のルナが残ってるから、
そのダイレクトアタックをディヴィにブロックして貰ってー、」
「ブロック時、【デッキブレイク:6】します。」
「『ヒューマノイド少女 ルナ・ムーン』でダイレクトアタック!」
「今アタックしている貴女は【ライフブレイカー:4】、
そして、私のライフは4。
すべて手札に加わり、ライフ0で私の負けです。」
********
「落ち着きましたか、〈赤〉の私?」
まだ少しぼーっとするけど、すっきりしてきた。
何故だか、さっきまで〈青〉がやってたことがはっきり分かる。
「ーーっ、ありがとう、〈青〉の私、大丈夫になった。
とりあえず、暁だけ済ませて。」
「そうします。」
********
「〈黄〉、〈白〉、〈黒〉のルナが出揃って、〈赤〉や〈緑〉も生かしている。
こんなの見せられたら負けていられないなー!」
そんな興奮を横に、スミレが話を続ける。
「さあ、暁をどうぞ。」
「貴女が何者で、今スミレちゃんはどういう状況で、貴女の目的は何なのか、
それと、さっきそこの少年、クォーデに話したことを、ルナ達に話して。
別に敵になる理由は無いと思うし、さっきのことは謝らなくていい。」
「それで良いのなら、お安いです。
薄々気付いていると思いますが、私は〈青〉の『スミレ・アイ』。
ルナ、貴女がスミレちゃんと呼んでいるのは〈赤〉の『スミレ・アイ』であり、
本来の『スミレ・アイ』です。
そして、私はそんな彼女の『別意識』。
あえて語弊がある表現をするなら、『多重人格』、でしょうか。」
「うん、最後の表現は参考程度にしておくね。一つ目はそれでいい。」
「今、本来の私は、体はクローン、心はそうじゃないことを受け止め、
大分すっきりしたようです。」
「心はクローンじゃない?」
「そうです。私も何故なのか分かりませんが、それだけははっきり言えます。」
「そうだな、それはこちらも把握している。
知っているとは思うが、獅子の『ライア・オーマ』だ。」
こくり。
「二つ目はこれで宜しいでしょうか?」
「うん、問題無いよ。」
「私の目的、長期的な目的は、スミレとして過ごすことだけです。
ただ、今は〈赤〉の私の旅を完遂するという一時的な目的もあります。
『私が生じた時に与えられた使命』のようなものは一切無い、と思います。
正直なところ、確信は持てません。」
「それなら、最初からルナ達にも話してよー。」
「先程は〈赤〉の私も今の私も混乱していて、それどころでは無かったのです。
私は、周囲の状況が把握しきれず、ですが。」
「それなら、仕方ないね。
ボク、『ラビ・イズモ』だって、いきなり誰かに囲まれてたら吃驚しちゃうもん。」
「じゃあ最後、できればクォーデも話して。」
数分の回想は、とても静かに進められた。
「じゃあ、ルナ達も協力して、クォーデを鍛えなきゃいけないってことだね。
それと、他の色のスミレちゃんも、今回みたいに―」
「私は軽く取り乱しただけでしたが、他の色は何をするか分からないので、
私みたいには行かないかも知れませんよ。」
「私、『マオ・ウィッタ』、ちょっと気になることがあるんだけど、
【希望の光・青】があるってことは、もしかして他の色の【希望の光】もあるの?」
「それは私ではなく、そこの獅子さんの方が詳しいでしょう。私には分かりません。」
「そうだろうな。
そして、マオ、君が知らないとは意外だな。無理も無いのだが。」
「え?」
獅子が目線で確認を取る。
「とりあえず暁は終わりだから、余談どうぞ、獅子様。」
「では、続けよう。
お前が【希望の光・橙】を持つことになるんだ、マオ。
そして、ラビはその先の橙だ。
流石に、それがどんな効果かは私でも知ることができないな。」
「その先?ボクが?」
「これはこちらの予想に過ぎないが、恐らくヴィクルルは、
近い日来る脅威からこの世界を守る為に、
クォーデを呼び寄せスミレと交流させようとしているのだろう。
そして、その脅威は少なくとも2回訪れる。
1回目はマオやルナ、スミレに少年。つまり今。
2回目にはモミジとラビ、そして恐らく少年だ。
私が踏み込めているのはここまでだ。」
「2回目の方はともかく、今は1回目に集中させてよ!
とりあえず1つ1つ潰せばいいじゃんか。」
その発言とほぼ同時に、後ろでルナが動く。
「それも一理あるな。
少々不本意だが、暫く君達、
クォーデ、スミレ、ルナ、マオは、緊急時以外は追放とする。
意味と意図は、分かるな?」
「きつい言葉だとは思うけど、納得。
ちゃんと強くなって帰ってきます、獅子様。」
「今のマオは追放の身分だ、礼などいらない。
その代わり、ちゃんと強くなって帰ってきたら、たっぷり誉めてあげるさ。
その時、これまで威張っていたことも謝ろうじゃないか。」
マオへのウィンクは、屈託のない笑顔で行われた。
マオも口を開いて微笑み返した。
「じゃあ、追放されたし、さっさと〈黄〉に向かおう、クォーデ、ルナ、マオ。」
「「「はーい!」」」
「って、スミレ、いつの間に!」
「そういうところは見てないんだね、まったくー、
さっきもう1回倒れたでしょ?その時に戻ってるっぽい。」
「痛かったよー?」
「急に倒れられたら反応できないってー。」
ルナが頬を膨らませる。
この後、不本意な、かつ意図的な追放の身でありながらも、
他の童物達に送られて童園を出て行ったのは、想像に難くないだろう。