第一章 六話 〈赤〉から〈青〉へ、ハートチェンジ
スミレが先攻で4ターン経過。
スミレはフィールドががら空きになったかわりに、ライフ13、手札が14枚。
アンコはライフ10、手札4枚、
フィールドはファイターカードが3枚と、装備されているアイテムカードが1枚。
残り12枚は、ファイターカードの、下に重ねられていたり、横に並んでいたりする。
「〈橙〉の特徴、それは、ファイターカードの横に裏向きのカードが並列すること。
並列しているカードが多ければ多い程強くなる。
スミレの爆発展開をそこそこで返してのけるとは思ってなかった。
凄い、こんな試合初めて見たよ!」
お互いのフィールドに釘付け、かつ驚くという、稀かもしれない反応をしている。
「クォーデ、楽しそうだね!そういう反応をしてくれて嬉しいよ。
私はこの程度だけど、今の獅子様にはここの誰も勝てないくらい強いよ。
スミレちゃんが勝てるかどうかすら怪しいくらいと言っていい。」
スミレも少し笑いをこぼす。
「アンコちゃんは実力を静観できるから、正直この話は信頼できる。
いずれは獅子様にすら勝てるくらいになるということでもあると思うけど。」
「スミレちゃんももうすぐ、獅子様を超えるあたりらしいよ。
これはつい昨日のお告げね、此処だけの話ということで。」
(こくり。)
「『村の庶民兵』をディヴォート!
それじゃあ、この旅が終わったら、再試合を挑もうかな?」
「獅子様、ご愁傷様。」
苦笑気味でアンコが囁く。
「この先、さらにもっと先、新たな仲間との出会いを求める!
エンター、『戦いのその先 スミレ・アイ』!!」
「新しいスミレちゃん!?」
「僕も初めて見るよ。
もしかして昨日はデッキに入れてなかった?」
「ううん、ライフに埋まってた。」
表情だけで半泣き。
「ああ、事故か。」
「そう、エンター、『村の英雄 ディオ』!」
「うげ、こっちは昨日見た。」
「私もこっちは知ってる。
トラッシュカード5枚を下に戻すと準備する、連続アタッカー。
そして、5枚戻さなかったなら何故かフィールドを離れる地味な代償付き。」
「最早そこも覚えてるのか、まあ重要な部分だから覚えるか。」
5枚の同名ファイターと1枚のゾーンカードをエンター。
同名ファイターのエンター時に合計5枚ドローして、メインアクション終了。
「やることはやった。いくよ!!」
「うん!」
「私で『仔猫の少女 マオ・ウィッタ』へ指定アタック!
アタック時効果で、トラッシュの〈赤〉カード5枚までをデッキの下に戻す!」
「5枚までって、ディオで十分じゃないの!?」
「確かに、ディオで十分、0枚戻す。」
「はあ!?0枚って―」
そんな少年の反応にも構わず、間接的に静止させ、スミレは続ける。
「0枚戻したなら、相手のフィールドにあるカードを3枚まで破壊できる!
アタック先のマオちゃんを残して、残りのファイターとアイテムを破壊!」
「破壊されたファイターの下にあるカード、横に並列しているカードは、
破壊されたファイターと共にトラッシュへ。
そして、ブロックはできないので、そのままパワーを比べて破壊される。
マオちゃんの破壊時、マオちゃんの横のカード1枚を破棄すれば、準備したまま残る。」
「つまり、あと3回か。」
「なら、ディオで2回指定アタック。
トラッシュカード合計10枚を下に戻して、2回の指定アタックの後も準備する。」
「これができる、ディオの連続アタック。
そのままブロッカーにもできるのも破格だよね。」
「『貧弱な兵士』でダイレクトアタック!」
「いいの?」
「うん、ワイル、『情熱の火炎』を発動!
パワー10000以下のファイター1枚を破壊!
当然マオちゃんね。」
「うう、そうなるよねー
ライフで!」
「残りの「『貧弱な兵士』4枚でもアタック!」
「全部ライフで!
これで残りライフは5、次でトドメできないと負けって感じだね。」
(ターンエンド!)
「そろそろ、来るよね?」
「もちろんだよ、ドロー、『兎の少女 ラビ・イズモ』をディヴォート。
発動、『ラビとのんびり』!
トラッシュからもう一度、『童園の守護者 アンコ・ドール』をエンター!
ディヴォートカードにラビちゃんが3枚以上あるので、
このターン、〈橙〉ファイターはコスト40以下にブロックされない!
私のエンター時、手札8枚すべてを横に並べて、8枚ドロー。」
「アンコちゃんのいつもの、
デッキとトラッシュの枚数差が10枚以下なら
トラッシュからエンター可能になるやつだね。」
「でも、今回は違うよ?
『童物の遠鳴き』!
このカードはコストが150もあるけど、その分強力だよ。
ライフが5以下なので、ディヴォートカードを実行するかわりに、
私の横に手札をすべて並べて発動!!」
「並列カードが15枚!?
こんなに並ぶものなのか!!」
「そう、そして、並列カードの枚数に応じて、どんどん効果が増えるよ。
4枚以上なので、3枚につき1の【ライフブレイカー】を得る。今回は5。
さらに、9枚以上なので、このターンの間、
私はアタック時にライフコスト3を支払うと準備する。
最後に、15枚以上なので、同様に、
ディヴォートカード3枚とトラッシュカード9枚を下に戻すと、
相手のライフカード2枚をテリトリー送りにできる!」
「ライフカードをテリトリー送りだって!?
それじゃあ、1回のアタックでライフを7も削るのか!!
そして2回もアタックできる、強い―」
「決めに来たね、今手札には妨害する術が無いし、ブロックもできない。
さあ、遠慮なくかかってきて!」
そんな笑みの横には汗が見える。
「うん!私でダイレクトアタック!
ライフコスト3を支払って準備、計12枚を下に戻して、ライフカード2枚をテリトリー送り!」
「ライフ5枚で受ける!」
「ここで何かできるカードが来ないと、スミレの負けか。
80枚のうちの5枚に、返しのカードがあるのか?」
「当てて見せる!」
スミレはそっと、5枚を手に取る。
「―このカードがライフから手札になったので、そのまま発動できる。」
声は楽しそうに、顔は険しいままで、スミレがそっと1枚を見せる。
アンコがご自慢の眼でそっとカードを見つめる。
〈赤〉のアビリティカード、『スキップターン』。
「それも初めて見るけど、分かる。
どんな効果か、教えてくれる?」
「今のアクションをすぐに終了させる!」
「ファイトアクションが、強制終了!?
2回目のアタックができず、ライフ6が残ったままターンが終わる!!」
「そういうこと。フルアタックで終わりだね?」
********
「『スキップターン』、強すぎない?」
「これでも1枚しかないよ。
気付いた時から既に持ってたし。」
アンコは急に俯く。
「どうした、アンコ?」
「クォーデ、君は知らないと思うから、教えておくよ。
『神のクローン』、獅子様はそう言ってた。
スミレちゃんは、なんとなく分かってたと思う。」
「私が、ヴィクルルの、―クローン??」
フリーズしたみたいな表情で、スミレが固まる。
「アンコ、その話詳しい?」
「いや、神のクローンとしか聞かされていないから、詳しくない。」
「私が、つくりもの??
この想いも、プレイングも―??」
だんだんと俯いて、終いにはその場に倒れてしまった。
「スミレ!?」
「スミレちゃん!?」
********
獅子様、ライア・オーマとルナの方も、決着が近くなっていた。
「『童園の獅子長 ライア・オーマ』でダイレクトアタック。
アタック時効果、君の手札が10枚以上なので、このアタックの間、
【ライフブレイカー:3】を得て、〈橙〉1色以外にはブロックされない。」
「ルナのライフはもう6、そして、『大邪皇』はまだエンターできてない。
ここはワイル、『使い捨てライフディフェンサー』、
『ミニロボ チコラ』を破壊して、今のアタックでライフが減らなくなる。」
「いい判断だな。だが、ワイル、『獅子の抱擁』を発動して、
こちらの〈『童物』〉ファイターすべてを準備させる。
8枚以上準備したので、このターンはダイレクトアタックしかできず、
ブロックされない。」
「持ってたの!?流石ライア―とりあえずそれは減らないライフで受ける。」
「さあ、フルアタックで終いだ!」
「うーーーー、負ーーけたーー!!」
ルナの負けだ。その時―
「スミレ!?」
「スミレちゃん!?」
「「!?」」
双方はそれぞれの聴覚で異常に気付き、先程のほのぼのを無かったことにする。
「獅子様、聞こえた?」
「ああ、君達も聞こえたな?行くぞ!!」
********
「私は―私は―私は―私は―私は―私は―」
あまりにもショックだった。
私はもともとヒューマノイドだったのか、そういうことすら分からない。
とはいえ、獅子様も含め童物のみんなが嘘をつくところは見たことが無いし、
こんなところで下らない嘘をつく子じゃないことは分かっている。
だとしたら、私は一体何者なのか?
モミジは義理の妹的な立ち位置というのを最初から分かっていたし、
――ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!
ぼんやり、話し声が聞こえる。
「スミレ、大丈夫か!?」
クォーデか、大丈夫な訳が無い。
「やめてあげろ、こういう時はむやみに話掛けない方がいい。」
獅子―えっと、誰だっけ?
今は、分かる気がしない。
―何も分からない。
(―それなら、今は私が支えましょう。
『〈青〉の蒼冷の氷』として、貴女のかわりとして。)
意識が遠のいてきている。声すらも振り絞れない。
(誰?)
(〈青〉の貴女です。貴女は〈赤〉だけではないのです。
「私たち」の心はつくりものではありません。そこだけは事実です。
落ち付くまでは、どうか私に。)
(そう、おやすみ、青い私―)
どうせこのまま暫く分からなくなるんだ、暫く〈青〉に委ねよう。
********
「――大丈夫か!?」
スミレの体が動き始めたのを見て、少年が慌てて飛びつく。
「スミレちゃんのこの感じ、何処かで見たことがあるような―」
ルナの重い雰囲気は、少年でもはっきりと分かった。
「「ルナちゃん!?」」
マオとラビが仲良く驚く。
「ルナが誘拐された時に、似たようなものを感じたことがある。
まるで、別の誰かが急に現れたかのような、不思議な感じ。」
「本当か、ルナ!?」
獅子が慌てて問う。
「そうだよ、ライア。
でも、その時とはまた違う雰囲気。」
と、その後。
「ーーっ、騒がしいですよ、皆さん。」
倒れていた少女が起き上がる。
「スミレ!?」
「だから、騒がしいですよ、クォーデ。」
「!?」
少年は異様な何かを察した。
他がいつ察したかは、説明するまでもないだろう。
「他の方は一度離れてください。
私は今、この少年とだけ話すべきことがあるので、邪魔です。」
「なっ!ルナも部外者扱い!?」
「離れてください!」
先程まで無表情で淡々としていた少女は、幼馴染の筈のヒューマノイドを軽く睨む。
ルナは優しく睨み返す。
「―後で、貴女に決闘を挑む、ヒューマノイドとしてじゃなく、幼馴染として。
だから、今は大人しく離れてあげる。」
「気に入らない、ですか。」
それを聞いたか聞いていないか、ルナは童物達を連れて、駆け寄る前よりも遠くに向かった。
十二分に距離を取るまで静観していたクォーデが、遂に唇を動かす。
「それで、話すべきことというのは、何かな。」
少し険しく尋ねられ、スミレの筈の誰かが返す。
「先程は失礼しました。
私は先程までのスミレとは違うスミレです。」
「ここまで不思議なことを周りに見せつけたんだ。
それを証明するカードは、あるんだろうね?」
「はい、ここにありますよ。『冷酷な少女 スミレ・アイ』、これが私です。」
「〈青〉、【デッキブレイク】が得意な―これは、
―【希望の光・青】!?」
後の決闘もあるのであまり悟られないように小さく驚くが、
きっと童物にもヒューマノイドにもバレていることだろう。
「貴方は明らかに、意図的にこの世界に招かれた。
そして、私はそんな貴方を成長させなければいけないと直感しています。」
「ふーん、それはまた今度でいいかな、まだそんなに覚悟できてない。」
それを聞いた〈青〉のスミレは、まあいいでしょうという風に頭を上下させる。
「それで、〈赤〉のスミレは今どんな感じなんだ?」
「まだ落ち着いていないみたいなので、それまでは私が―」
「ごめん、訊かない方が良かったね。」
なんとなく察して、左手を出して止める。
「ともかく、今後は各地を巡って、私のような存在を目覚めさせてください。
これは、私からのお願いです。」
「分かった、一先ずは信頼するよ。」
「それだけでも十分です。」
「差し支え無ければ、貴方の〈青〉のカードを貸して下さい。
彼女との決闘で使います。」
「〈青〉だけ?他は?」
「特徴を知っておきながら、愚問ですね。」
「分かった、後でちゃんと返してよ。」
「ありがとうございます。では、行きましょうか。」
二人でゆっくりと、それぞれの気持ちを抱えてルナの方へ向かう。
********
誰が介入するでもなく、最初に口を開いたのはルナだった。
「ルナはスミレの幼馴染として、そこの少年が聞いた話を一緒に聞きたかった。
残念だよ、スミレ。」
「内容は知らないが、私もそう思うぞ。
それこそ、仲が良いなら、大事なことは話しておくべきだ。」
獅子の発言は軽く流し、あくまでルナと1対1という雰囲気を作る。
「そうですか。しかし、私は彼女とは仲良くない。
彼とも貴女達とも初対面ですが、直感的に信頼できたのは少年だけでした。」
「それはつまり、ルナにとっても初対面ってことだよね?
それがどういうことかくらいはちゃんと説明してくれてもいいんじゃないかな?」
「訊きたいなら、私に勝ちなさい!」
「あっそー、じゃあ仕方無いね。」
「「エンター・プレイヤーズ!!」」