第一章 五話 いざ、〈橙〉の童園へ
「へえ、じゃあ、それは何としても止めないとね。ブロック…」
「まだワイルだよ、ルナちゃん?アビリティカード、『村の団結』!!
効果で優等兵1枚を実行して、今アタックしている護衛兵に、そのパワーを加える。
さらに、このアタックはファイターカードにブロックされなくなる!
よって61000と63000を合計して、護衛兵はこのアタックの間、パワー124000!!」
「+25000しないとダメってことか!?」
「はは、流石にここまでされたら、どうすることも出来ないね…
ブロックできないし、『巨神大邪皇』はファイトに敗北して破壊され、フィールドを離れる。
既にライフが0だから、ルナの負け。」
決着後暫くして、ルナは突然硬直して、無感情で発声する。
「ルナは決闘に敗北しました。本部との連携を解除して、再起動を行います。」
「ヒューマノイドは、大体こんな感じだから、再起動が終わるまで待って。」
「決闘中に経緯は大体聞いたけど、気になるところがあるんだ。
まるでヴィクルルがスミレを試しているみたいじゃないか?」
ルナの状態は微塵も心配せず、ヴィクルルの件について考えるクォーデ。
「多分そうだと思う。でも、私も引っかかってる。
どうしてルナちゃんがクォーデの事を知ってるのか、
それとヴィクルルが何故こんなことをルナちゃんにさせたのか。」
「ルナがどうなったかは何となく察した。
誘拐された後にヒューマノイドにされた。話し方から察するに元の体は残ってる。
ただ確かに、僕の事を知っているのは不自然だ。」
とそこに、ルナの声が参加する。
「ルナはそこまでは聞かされてない。お待たせスミレちゃん、暁どうぞ。」
(暁どうぞって、あっさりしてるなぁ)
「私達の味方に戻る、勿論出来るよね?」
「うん、ただいま、スミレちゃん!」
スミレとルナは、暫く抱き合った。
「聞かされてないなら、訊きに行くしか無いな。
ただ、先に他の所に行ってからだけど。」
少し遠い目。
「じゃあ、歩いていくのも大変そうだし、さっき話したみたいに連れて行ってあげる。」
「それじゃあ、クォーデをおんぶして、私は抱えていいから。」
「話が早くて助かるんだけど、おんぶとか恥ずかしいよー!」
「見られる心配は基本無いからそれは気にしなくていいよ、ルナが保証する。」
「そんな保証いらないよ!!」
赤面しながらも抗議はする。
「それで、童園の用事が済んだら次は何処に?」
ヒューマノイドあるあるな怪力で拳の回転を止めておんぶしつつ、ルナが問う。
「〈黄〉の砂地、ルナちゃんが生まれた所に行くつもり。」
「じゃあ今日はその2つだね、分かった。
ルナの家はまだ残ってるし他の人に使われてないから、
夜は泊まっていいよ。どうせ暫くあちこちを飛び回らせる気だろうから。」
言い終わった頃、3個体は浮き始める。
「充電はいつするの?」
落ち着いた後、ちょっと興味あり気にクォーデが問う。
「夜はディノーアレ、〈白〉の都市に戻ることになってるから、そのついでだね。
負けて味方になったとしても、スミレちゃん達の無事は報告して欲しいって頼まれてるんだ。
それにこの言い方だし、ヴィクルルはもう一度ルナを取り戻す気は一切無いっぽい。」
「都合が良すぎるな、まるでヴィクルルが最初から味方みたいで気持ち悪い感じがする。」
「実際、ルナはその一環で誘拐されたと思ってる。
敵なら人体を残す必要が全く無い、それどころか全力で維持してくれてる。
おまけにルナに対して殆ど干渉していない。
不満だったのは、スミレちゃん達に会う事が許されなかったくらいかな。」
「じゃあヴィクルルは、私とルナを会わせないことで、私に何かをさせようとしてたって事?」
「スミレちゃんがそう感じるなら、多分そうなんだと思う。」
沈黙、空気は重かった。
暫くして、少年が沈黙を壊す。
「ルナ、今夜ディノーアレとやらに戻る前に、1試合お願いしたい。
『大邪皇』に挑みたいし、僕も強くならないといけない気がする。」
「まだ昼にすらなってないのに―でもいいよ。」
そんなことばかり話していたら、いつの間にか童園がはっきり見えていた。
********
「やっと着いた、此処が〈橙〉の童園かぁ。
丁度お昼だし、ここで御飯食べよう!」
そんなクォーデのことを案じたのか、ルナが少し意地悪を言う。
「それはいいんだけど、先に会いに行こうよ、スミレちゃん!」
「そうだね、クォーデも一緒について来て欲しいんだけど、お腹が空いてるなら仕方ないかぁ。」
「分かった、分かったから食べながらついて行く。」
泣く泣く歩き出したクォーデを見て、ルナはくすっとする。
「結局先に食べるんだ…
それに、やっぱり昨日の御馳走を入れてたんだね、呆れた。」
「いいじゃんか、昨日初めてのこっちの食事だったんだし。」
「美味しかったんだねー」
「まあ、それはそれで良かったけどね。」
童園の入り口に着いて間も無く、白い兎耳の少女がひょこっと出迎える。
「いらっしゃい、スミレ、ルナ!」
髪もやはり白い。
何かもじもじしているようで、絵で見るように赤い瞳を半分にしてまた丸にする。
「ボクがラビ・イズモ。この前はごめんね、スミレ。」
「ちょっと私も言い過ぎだった、ごめんね。
直後にモミジに挑まれて、〈橙〉単色デッキでボコボコにされた話は共有しておくね。」
「くすっ、それはそれで何だかすごい。
モミジちゃん、ボクを使ってくれてるよね?」
「見たし、ちゃんと入ってた。」
「僕も昨日見た。というか、何でルナが知ってるの、別にいいけど。」
「ん?
そういえば、クォーデ、でいいんだよね?
何でこの子がスミレ達と一緒なの?」
「後で童園の皆を集めて話がしたいし、そのついでにでいい?」
「分かったー!」
(ルナの発言には反応しないの、最早特殊技能だよね!?)
「ラビ、もしかしてモミジのカードを持ってる?」
訊いたのは少年だ。
「んえ、何で分かるのー!?」
「いいや、唯の勘、深い理由は無い。」
「野生の勘とかかなー?」
「いや、多分それは無い。」
クォーデが初対面にも容赦なく否定を入れた時、丁度広場に出ていた。
「それじゃあ広場に着いたし、呼ぶよ。」
「うん、お願い。」
スミレが声色を変え、場から緩みを消す。
ラビは深く息を吸い、獣に戻ったような姿勢になる。
「ー------------------------!!!!」
人間の耳では感じられない声。
しかし、何故かクォーデはどんな声か分かる気がした。
直後、周囲から様々な少女が現れる。
勿論、ラビと同様、犬や猫の耳を持つなど、動物少女と言える者ばかり。
「獅子様、お久しぶりですね。」
橙と黄が混ざった髪から翡翠の瞳を覗かせ、ルナをじっと睨む「獅子様」。
「ルナ、君か。
ヒューマノイドに誘拐されたと聞いていたが?」
「確かにそうだけど、今はもう大丈夫。
スミレちゃんと並び立っているのがその証拠。」
「ただ、ここには君の精を感じないな。」
「結局、今のルナはヒューマノイドだからねー。
でも、人間としての体は無事だよ、ちゃんと維持されてる。」
「そうか、あの創造主がそこまでするとはな。」
「おーい、そろそろこれまでの経緯を話してもいいのかな、獅子さん?」
早く話を済ませたいクォーデが催促する。
「生意気な少年だな、まあ私も君と少ししか違わないが。」
「この子が、獅子様が予言していた少年ですか?」
「そうだ、何だラビでも知っていたのか。
だが、今回はラビの出る幕ではない、そんな感じがする。
今回はマオ・ウィッタ、君だ。」
と、獅子は黒猫を指す。
「え、私!?
ラビちゃんじゃダメなの?」
いきなりで怖がっているマオ。
「今はダメだ。マオでなければならない。
存分に外で揉まれて帰ってこい。
そうしたら、お前は初めて私に勝つことになるだろうな。
金色のような瞳がその運命を示している。」
獅子様が悔しさを少し誤魔化している。
「獅子様、どうして急にそんな悔しそうに―」
黒猫の質問。
それを受けるまで、獅子は強がっていたが、終に泣いた。
「―マオ、今まですまなかったな。
嫌いな訳じゃ無い、運命を知った時、単に悔しかったんだ。」
「今まで嫌な奴って印象だったけど、
意外と唯の我儘獅子って分かって良かった。」
黒猫は微笑む。
「マオもラビも、将来は獅子の私よりも先に進化する。
だから、今の内にいきれるだけいきらせて貰っているんだ。
悔しいが、今回はマオが、そしてその次にラビが私を超える。」
「ということは、ボクも何れは獅子様に!!」
「それまでは、私が直々に揉んでやろう。
それがこの獅子、ライアの贖罪ということだ。」
「やっぱりルナ、獅子様のこういうところ、嫌い。」
「染み付いた癖のようなものだから仕方無いだろう!?」
「そうであっても嫌いなんだよ。」
直後にため息。
「では、余興と、今回の鼓舞を兼ねて、相手してくれるのだろうな?
か弱きヒューマノイドよ。」
「うん、獅子様、いや、ライア・オーマ!!」
「あーあ、こうなったらもう止められないねー」
ラビは呆れて、いつものことだと諦める。
「普段からこんな感じなの?」
この場唯一の少年は少し見入っていた。
「うん、正直ボクは見てて楽しいけどね。」
「そういえば、スミレちゃんは?」
マオはスミレの気配が無くなったことに気付いていたようだ。
「それならあっちだよ、長話が終わったら後で聞かせてって。」
「クォーデ、よく見てたね。」
「だって、話に入れなくて退屈だったんだもん。」
ラビが苦笑し、少しだけ話を挟む。
「それ、獅子様の前では言わないであげてね?
意外に折れ易くて扱いに困るから。」
(うん。)
「スミレとあとは、犬かな?」
「うん、アンコちゃんね。」
頷きつつ訂正する黒猫。
「今のところ、獅子様抜きだとあの子が一番強いからね。」
「じゃあ、あっちを見てくる。
こっちはどうせ後で幾らでも聞けるだろうし。」
「慣れてるなぁ、クォーデ君は。」
「マオもその内慣れると思うよ?
それじゃあ、行ってくる。」
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「あれ、こっちに来ちゃったね、噂の少年が。」
「別に、正しい判断だと思うけど?」
犬耳の少女、アンコがスミレを見て返す。
「ルナのことだから後で見せてくれる。」
「なんで私よりも信頼してるの、今日会ったばかりだよね!?」
「何故か分からないけど、スミレの時と全く同じ感覚で話せる。
それよりも、始めてよ。見に来たんだから。」
「ごめんごめん、じゃあ、始めよう、アンコちゃん!」
「そうね、始めましょうか。」
「「エンター・プレイヤーズ!!」」