第一章 四話 その友達、ヒューマノイド化してます
「うん、全部じゃないけど納得はできた。後でこっちの男装服が使えるか試着して。
でもさっきの発言はちょっと許せないから、そのアタックは『剣士集団 守護隊』でブロック。
ブロック時効果で3枚ドロー。さらに破壊されたので2枚ドローして、
手札の守護隊1枚を、ディヴォートしているカードを実行せずにエンターする。」
「モミジの服だと小さい気がするけど?まあでも男装用だろうからそこは問題ないか。」
(ブロッカーの数が変わらず、手札が4枚も増えたのか。やっぱり守護隊を使うのも悪くないな。)
「そうだね、ス…お姉ちゃんが着ても結構サイズが合わないから君でも着れるよ。
さっきのは『兎の少女 ラビ・イスモ』じゃなくて守護隊に指定アタックしても良かったね。」
「なんだかんだ練習試合みたいなことまでしてくれてありがとう、モミジ。」
(ラビのブロック時は、確かにどうにかなるね、ターンエンド。)
「クォーデが負けたら今夜この部屋で寝てね、勿論床で。」
(スタート、2枚ドロー。『剣士集団 特攻隊』をエンター。
エンター時『緑色の弓兵』にアタックして1枚ドロー。)
「それはそれで嫌な予感しかしないなぁ…」
(『白色の技兵』でブロック。ブロック時効果で守護隊を手札に戻すけど、どうせまたエンターするよね?)
「場合によっては君が女装せざるを得ないかもだし、疑似採寸も兼ねてる。」
(そうだね。ファイトは特攻隊が勝利、そして守護隊をエンター。)
「旅の途中にそんな状況なら仕方ないなぁ―
って、訊いちゃ悪いんだけど、モミジ今いくつ?」
「8。お姉ちゃんはもう少しで13。」
(そこまでして弓兵を守りたい、つまりはディヴォートカードを着実に増やしたいと。
だとしたら、そこを潰されるとどうにもならないデッキってことかもね。)
「え、じゃあスミレとほぼ同世代ってことじゃん!?」
モミジが一気に暗くなる。
「―厳密には、本当は、違う。お姉ちゃんの方が、実際に生きた年時間は少ない。」
「はぁ!?お前さっきスミレに笑顔見せてたよね!?」
「それは、表面上の話。
詳しい経緯は旅の終盤で聞いた方が納得できると思うから、今は訊かないで。
少なくとも私は、スミレ・アイという存在をまだ受け入れていない。約3年間、ずっと。
あとこれは、お姉ちゃんも何となく分かってるみたい。
お互いにその素振りを見せず、問わずで何とかやってきた。」
「じゃあ、今みたいにスミレと離れている時は…!」
「うん、最初はヴィクルルをすごく恨んだよ。」
気付けば、男装時の声くらい低い声で、先程の明るさは感じられなくなっていた。
「!?まあそれは、〈白〉の都市で訊くべきなんだろうけど。
ただこれだけ整理しておきたい、本来モミジに姉は居ないって事か?」
「―うん、まあ、そうだね。
この話をした事、スミレには黙ってて。」
「流石に黙るよ、訊いて悪かったし。
でも、こっちは別だ。負ける気は無い!」
「それくらい出来ないと、私だって困るよ!!」
声色は変わらないまま、やはり怒りを抑えられずに叫ぶモミジ。
だが、抑えられなかった怒りは、ヴィクルルに対するものだったようだ。
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「あーあ、結局勝てなかったかー。
まあでも、私が本気でぶつかったから、私のお墨付きってことで、一先ず君は信用できる。」
結局は、何とかクォーデが勝てた。
「そしたら、試着して夕方かな?」
「その間に暁は考えておいて?あ、良識の範囲内でね。」
「これにすら暁があるのかよ。」
数着ある男子服から、何着か試着した後。
「とりあえず、この服借りていい?」
「いいよ、私それ何回も着てるから暫く着たくなかったし。」
「それと暁だけど、今後もしモミジが旅か何かに出る時、僕も一緒に連れて行って。」
「なんだそんな事、旅行じゃないんだから。
でも分かった、どうせスミレが旅してる間は留守番してるから、その後からだね。
あと、これを貸すから、着替えとかの君のものは入れて運ぶといいよ。」
モミジは、如何にも男子が使いそうな鞄を渡した。
持っている理由は、お察しだろう。
「おお、有難い!」
「さて、もう少し調整と身支度をして。その後は御馳走だよ!」
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「うーん、とりあえず何から突っ込むべきなのかなー?」
「モミジが何か言ってた?」と訊かれたクォーデは、動揺して雑に誤魔化そうとしていた。
「とりあえずモミジに言っておくとね、知ってたから隠さなくていいよ。
実の姉妹じゃない件でしょ?」
少しすっきりしたのか、モミジの緊張は解けた。
「そっか、分かってたんだ。
スミレ、ヴィクルルにその件についても訊こうとしてるよね?」
「勿論。私が此処に居る理由とかね。
あとクォーデ、嘘つけないのバレバレだから、今度から誤魔化そうとしなくていいよ?」
「うぅ、人狼ゲームって呼ばれる遊びでも全然嘘付けないんだよね…」
クォーデはちょっとがっかりした。
「まあ今は御馳走だね、何食べる?
とその前に、ちょっと待っててね。」
二者はスミレの用意を待たずに集会場の食事会へ向かった。
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「うおお、これがこの世界の御馳走かぁ!」
どんな御馳走かは、ご想像に丸投げする。
「お待たせ、クォーデ、モミジ。」
用事が済んだスミレがクォーデを見て、ちょっとだけ苦笑した。
「これ、明日のお昼にも取っておきたいくらい美味しい!」
「あっはは…とんでもない子がやって来たよね、ほんと。
スミレがまた暫く退屈しないみたいで良かった。」
「そうだね。」
御馳走タイムは四半時では足りず、倍以上は夢中だったという。
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翌朝。
村の皆に暫くの別れを告げたので、道へと向かう二人。
「それじゃ、準備もばっちりだし、行ってくる!」
「一先ずこれで暫くお別れだね。ちゃんと留守番するから任せてよ。
クォーデ、お姉ちゃん、いや、スミレを宜しくね!」
「うん、とりあえず歩いてる途中に倒れないように頑張るよ。」
「その発言のせいで、クォーデの方が心配になってきた…」
「決闘では負けないだろうし、ちゃんと休憩させるから…」
「そんなところで心配される気は無い。」
結構冷たく否定するクォーデであった。
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「さあ、村の周辺を抜けたし、とりあえずあそこに見える童園に向かうよ!」
「いや、全然何処か分からないくらい小さそうなんだけど…」
スミレは童園を指さすが、当然クォーデは見たことが無いので把握できない。
しかし、その困惑は数秒で掻き消えることとなった。
物陰から少女が現れ、クォーデだけを見つめてゆっくり近づく。
「…君がクォーデだね?
それと、童園は此処から人間が歩き続けたら1日で辿り着けるくらいの距離だよ?」
「その声、もしかして!?」
「ん、誰?」
「久しぶり、スミレちゃん。」
直前の少年の発言は無かったことになった。
「ルナ、どうして此処に!?」
「事情は決闘中にでもゆっくり話そうよ。」
「…やっぱり誘拐と関係があるんだね?」
「うん。それで、スミレが相手してくれるの?」
少女同士の久々の会話が、こんなシリアスなものでいいのだろうか。
そんな余計な事を考えている少年は、ただ静観するしかなかった。
「当たり前。1年とちょっと振りだけど状況が状況だから、何かあるでしょ?
第一、ルナちゃんはここまでひとりで来て無事な訳が無い。」
「…ルナは今、ヒューマノイド、ヴィクルルの言う事には逆らえない。
そして、ルナが決闘で負けることは想定済み。」
(想定済み!?)
「はあ?負ける為にお前が来たみたいな言い方じゃないか!」
今度は反応した。
「正直ルナとしては、寧ろ負けてそっちの味方に戻りたいから都合がいいんだよね。
でも手加減はできない。ヴィクルルはスミレちゃんの実力確認の為に命令したみたい。」
「じゃあ、スミレが負けたらどうなるんだよ?」
困りながら続ける。
「その場合は今のスミレを殺す、らしいね。
実際そうするかどうか知らないけど、ルナが勝ったら捕獲しろって言われてる。」
1対1の会話が保留され、別の1対1の会話が始まることにはどうということも無さそうだ。
「大体分かった。
クォーデ、ちょっと貸してくれない?」
「そうなると思って、さっきから用意してた。どれが必要?」
訊きながら、手と手でやり取りを続ける。
「へぇ、カードを共有してるんだ。」
「先に訊きたいんだけどさ、ヒューマノイドって、あの機械の方のヒューマノイド?」
「そう。一応説明しておくと、ルナのボディは空を飛べる。
夜明けに出発してさっき着いたってところ、他もいろいろできる。」
「何処にそんな余裕があるんだろう、気になるけど難しそうだからやめておくけど。
もしかして、僕とスミレが一緒でもちゃんと飛べる?」
「まあ丈夫だし、それだとギリギリ安全圏内だね。」
「さあ、用意出来たよ。」
スミレはもう構えていた。
「始めよう、久々の決闘を。」
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(お互いにアクフィラ、スミレは『村の』ファイターの数で早期決着を狙っていて、
ルナは〈黄〉と〈白〉と〈黒〉の混色デッキらしき耐久型。
決闘が始まった時にルナのトラッシュに現れた『巨神大邪皇』、あれが厄介そうだな。
『大邪皇』カード以外のカード効果を一切受け付けないし、コストは無限、
色々とおかしいが、それは逆に、フィールドにエンターするのがかなり難しいということだろう。)
「ターンエンドだよ。次はスミレのターン。」
(10ターン目、つまりスミレの第5ターン、スミレのライフは8、ルナは2。
スミレのフィールドにはゾーンカードが3枚だけ。全部パワー上昇系。
ルナのフィールドには、如何にも怪しい『大邪皇』1枚と、4枚の『旧世』ファイターカード。
僕のカードが役に立ってここまで優勢かと思っていたが、何だかあっさりしている。)
「私のターン、スタート、2枚ドロー。」
(私の手札は8枚、ディヴォートカードは10枚、トータルコストは80程度。
ルナちゃんの手札は17、ディヴォートカードは7枚、トータルコストは40程度。
ヒューマノイドにされたとはいえ、ルナちゃんの意思は感じられるし、
人間だった頃とほぼ同じ癖が見える。)
「とりあえず、やることはやっておくよ。」
「悪いけど、ライフを削り切ろうとしてるなら無意味だよ。」
(スミレちゃんが手札を増やしては何かを探してる。
ディヴォートカードを増やしつつドローするいつもの流れで手数を増やそうとしてるね。)
「そんな事は言われなくても分かってる。
だからさっきからドローを中心にやってる事も筒抜けだろうし。
『村の村長』でダイレクトアタック!アタック時4枚ドロー!」
「大量展開、そして護衛兵と優等兵のパワー上昇効果。
村長のパワーはゾーンカードの効果も含めて60000上昇かぁ。
いいよ、『大邪皇』でブロック!」
「ここでやっとブロックか!
『大邪皇』のパワーは30000だから当然破壊されて…」
「破壊されたので、効果でトラッシュから『巨神大邪皇』をエンター!
このエンターの際は、コスト0として扱われるし、ディヴォートカードも必要無いよ。
パワー99999、エンター時にルナのライフをすべて手札にする。
でも『巨神大邪皇』がフィールドにある間、ルナのライフカードが無い状態でも、
ルナは敗北しないし、スミレは勝利できない。さて、どうする?」
「エンターしなければ、このターンを耐えられたかもね。
護衛兵で『巨神大邪皇』に指定アタック!」
本来は少しでも吃驚するところを、平然と続けるスミレ。
「何だって!?スミレはルナが『巨神大邪皇』を使うって分かってたの!?」
「ルナちゃんを誘拐したヒューマノイドが持ってたの。そして、目の前でさらう直前に、私に見せてきた。
まるでこれを絶対に使うと教えているみたいだった。」
「へえ、じゃあ、それは何としても止めないとね。ブロック…」
「まだワイルだよ、ルナちゃん?アビリティカード、『村の団結』!!
効果で優等兵1枚を実行して、今アタックしている護衛兵に、そのパワーを加える。
さらに、このアタックはファイターカードにブロックされなくなる!
よって61000と63000を合計して、護衛兵はこのアタックの間、パワー124000!!」
「+25000しないとダメってことか!?」
「はは、流石にここまでされたら、どうすることも出来ないね…
ブロックできないし、『巨神大邪皇』はファイトに敗北して破壊され、フィールドを離れる。
既にライフが0だから、ルナの負け。」