第三章 十二話 果たせなかった約束
決戦の日、少年は遅れずに約束の地へ赴いた。
「ちゃんと来たね、クォーデ!!」
『虚無』と共に現れた少女ユナは、肩までかかる髪を払って少年の未来を示唆する。
「ああ、来たよ。」
少年は覚悟を決めた、笑いの無い顔で立っている。
その横にモモが居る。
死んだとはいえ幼馴染として立ち会った二者は、今この時は敵同士だ。
「例えモモちゃんが止めに来たとしても、『虚無』に全てを壊して貰うのはやめない!!」
「モモ、そんなことはさせない!!
生きてた間は別にいいこと無かったし、
死んでからは憎しみに全てを委ねてたけど、今はそれだけじゃない!」
モモはデッキケースを手にしている。
自身のものだろう。
「これを通して、クォーデとはちょっと打ち解けた気がする。
もちろんクォーデだけじゃない、他の子とも仲良くなれた。」
モモはデッキケースからカードデッキを取り出し、カードを少し広げた。
「たったひとりの親友が死んだって、どうにかなるんだよ!
世界を壊さなくても、もし自分で死のうとしていても、いいことはある!!
――そのことを教えられたのは、死んでからだったけど。」
モモは僅かに残念そうな笑みを浮かべながら、1枚のカードをクォーデに渡す。
「モモちゃんがそこまで言うなら、この決闘、少年が勝つに一票ってことでいいよね。
そんなことさせない、私は負けられない。
モモちゃんのかわりにいじめられてきた今日まで、人間の汚さに潰されて窮屈だった。」
ユナがデッキを構え、モモから受け取ったカードをデッキに入れたクォーデも続く。
「「エンター・プレイヤーズ!!」」
「それで、どういうことだ、いじめって。」
二者は決闘の前段階として、それぞれの手札を整えている。
お互いが自身のカードとにらめっこをしながらの会話だ。
「どういうことも何も、そのままだよ。
モモちゃんがいじめられているのを助けたら、それからは私もいじめられた。
モモちゃんがあの日殺されてからも、ずっと。」
ユナは憎しみの籠もった様子で闇を吐き、『虚無』をフィールド上へ置く。
「デッキの上から30枚を『虚無』の上に!
この全てが『虚無』の上から離れたら、『虚無』はアタック可能になる。」
ユナは生を諦めた様子でいる。
「そうしたら、私達は楽になれる。」
何もかも終わった、何も無い瞬間に想いを馳せているのか、
ユナは歪んだ顔で酔いしれている。
「本当にそれでいいのか?」
フィールドに舞う『虚無』が、黒とも言えない無をちらちらさせている。
「我としても好都合なのでな、利害の一致というやつだ。」
「そうか。」
声に出そうとする前に漏れていた。
「それじゃあ、君が万が一にでも勝てたら、友達になるでもなんでも言うことを聞く。
それがこの決闘ってやつだから、仕方ない。
私が勝って、滅亡を決定させる!!」
「そんなことは、僕とモモがさせない!!!」
「「スタート・プレイヤーズターン!!」」
カードを右往左往させながら、少年と少女、妖怪と虚無は会話を重ねる。
「その為に五賢神すらも各色から集めたのか。」
「五賢神はこの世界、ウォカロチプをまとめる神々、50揃って初めて総意になる。
その神々の上に君臨するのが『虚無』。」
「五賢神の反対すらも押し切れる程の強みがあるってことか。」
「そこまでしないと成し得ない事、だから『虚無』と協力関係を結べた。」
「そこまでしてやることがこれだなんて、全くもう、しょうがないなあ。
それじゃあまあ、僕達がそんな君を幸せにしようじゃないか!」
「――いらないよ、そんなの。
いじめたやつは『虚無』が消してくれる、それでいいんだよ。
そうしたら、もう誰もいじめなくなったから!!」
「――そこまでして求めた無はどうだった?
苦しくない代わりに、楽しさも無かったんじゃないか?」
「っ!!!
うるさい、うるさい、うるさい!!!」
「『虚無』って、ユナちゃんとどれくらい仲良くなれた?」
「死者が我に質疑とはいい度胸だな。
風呂も就寝も、全て見守った。
我だってそんな時があったものだ。」
「『虚無』って、もともと人間だったの!?」
「形はな。
女の子独特の世話なんて慣れたものだな。」
「えっ、『虚無』って女の子だったの!?」
「まあ、そんなことも、負ければどうだっていい。」
「いいや、クォーデは負けないし、モモのカードもそんなことじゃ屈さない!
モモは約束したんだよ、ユナちゃんと!!」
モモがそう叫んだ直後、少年も合わせてメモリーカードを発動する。
「「モモが死んでも、その想いはユナへ託される。
これからまたやり直せる。
そう、ふたりでなら、みんなとなら!!」」
少年が続ける。
「発動、『果たせなかった約束』!!!
お互いのデッキの上か下からカードを1枚ずつ表にして、コストを比べる。
僕の方がコストが大きければ、効果を使える!!」
「さあ、どっち!!」
「デッキの上に戻したカードはまだ覚えてる。
そして、僕のデッキの下には君が送ったカード、残念ながら心許ないコスト。
当然、上だ!!」
クォーデとユナ、双方がカードをめくる。
ユナのカードはコスト120、中々お目にかかることが無いはずのコストだが、
ユナのデッキは50枚の五賢神が全て入っているのだろう、これでも低い方だ。
「モモは苦しい思いをしてきたのだろう、僕には完全に理解することなんてできない。
でも、苦しみを一緒に抱えてあげて、負担を軽くするくらいはできる!
メモリーカード、『モモが死んだ理由』、コスト140!!」
「やった!!
クォーデ、やっちゃって!!!」
モモが勝ちを確信した瞬間だ。
「ああ、効果で、『虚無』の効果よりも優先して、決闘開始時効果を使えなくする!
そして、僕のライフが6以下なので、この決闘をやり直す!!」
「決闘をやり直す!?
それに、『虚無』の効果を使えないってことは――!?」
「我は、フィールドに出ることすらできぬということだな。」
「そんな――。」
動揺の余り、ユナは手札を落とす。
その直後、全てのカードが勝手に動き、デッキとなり、ライフカードと手札が用意される。
ユナの真横で見守っているだけで、フィールド上に『虚無』が現れることは、無かった。
クォーデは10枚ドローして、構え直す。
「さあ、『虚無』もモモも抜きで、1対1だ!
ライフ15を削り合うだけの、正面衝突でな!!」




