第二章 二話 モミジの謎、白兎対寄生虫
先程のクォーデとモミジの決闘の後は朝食を済ませ、身支度をしてから、外へ赴いた。
スミレも見送りの為に同行している。
そんな時、空から少女が飛んで来る。
見た目は完全に人間で、しかし明らかに機械な技術で浮いている。
ヒューマノイドが、ジェット噴射系ではなく未確認飛行的なそれで浮遊している。
ボブとツインテールが混ざったような金髪と金眼でスミレとモミジは誰かを理解した。
最初に声を掛けたのはクォーデだった。
「ルナ、数日振り。」
ヒューマノイドの少女、ルナ・ムーン。
「うん、元気だった?」
ルナは地面に降り立ってから答える。
「そんな機械で出来たからだで訊かれたら元気だったって答えづらいんだけどなぁ?」
と、遠回しにツッコミを入れるクォーデ。
少女達は、ツッコミは受け付けないよと言わんばかりにスルーして続ける。
「今回も、ヴィクルルから同行命令が出てると言って差し支えない感じだからね。」
ルナは少し前の件も関わっていて、モミジのサポートも可能。
お互いに安心出来るという訳だ。
ぱあっとしたモミジがルナの手を取る。
「ありがとうルナちゃん!
お姉ちゃんもこうやってあちこち回ったんだよね?」
姉とヒューマノイドがほぼ同時に頷く。
「それじゃあ其処の少年にいろいろ抗議される前に、出発しようね。」
ルナはそう言いながらヒューマノイドの怪力を活かし、少年の口元を誘拐犯のように押さえている。
「みんな、いってらっしゃい。」
スミレが振り返り、家へ戻っていく。
「ふむむ、むんむんむん!」
(早く、はーなーせー!)
何を言いたいかは伝えられないが、呼吸が可能なだけ幸いか、と思う少年。
ばたばたしていたが、怪力に抵抗出来る訳が無いと悟って大人しくした。
その途端、ルナが物凄い勢いで少年を開放する。
モミジが少しだけ俯いて口を動かしていたようで、
ルナはこの時に何を言われかけたかを本能的に悟ったかのように顔が固まっている。
「それじゃあ、私は後ろね。クォーデ君は抱えて。」
その声はもう普段のモミジの声で、顔も普段通りにゆったりで全く違和感が無い。
ルナはただただ頷くことしか出来ず、ほんの少しだけ青ざめている。
クォーデも僅かながら、モミジから異様な圧を感じた。
スミレは振り返らず、歩きながら腕を伸ばしていた。
しかし、その手は平手ではなく、
左手は3本指だけ伸ばしていて、右手は2本指を真上に出していた。
ルナはそれを見逃さなかった。
移動の方法は前回と変わらない。
ルナがヒューマノイドの様々な機能を活かして二者を運ぶように連れて行く。
その間、ルナは、モミジには聞こえないように語り掛けた。
「ねえ、さっきのモミジちゃん、怖かった?」
その声のトーンは最悪で、背中に乗っかっている未知の脅威を恐れている感じだ。
何故声が小さいのか分からず、少年がいつもの調子で返事しようとする。
「ほふ」
ルナは瞬時にそれを把握し、今度は上唇と下唇を合わせるようにつまむ。
「ルナにだけ聞こえるようにして。」
声はさっきの暗さが嘘だと言い張れるくらいのいつもの調子になっている。
クォーデはそっと、ルナも怖いところあるよね、と思うことにして、
質問に対して思ったままを答えた。
「怖いかどうかは分からないけど、スミレと似た感じがするよね。」
「ふーん、スミレちゃんと似た、かあ。」
そう返したルナの声は、またトーンが低くなっていた。
声で感情や心境を表すのがルナのやり方なのだろう。
そう思うことにしたクォーデが話の続きをしようとするが、
そこでまたルナに口を押さえられた。
今度は唇をつままれた訳でなく、誘拐犯のそれだ、もう黙れということだろう。
ルナが一方的に話を続ける。
「さっきスミレちゃんがくれた3というヒントとクォーデの感想が事実だとすれば、
モミジちゃんは3つの面か、3つの人格があるってことになる。」
「あれってただ欠伸したのかと思ってた。
違うんだね。」
少年は独り言のように返し、間接的に会話を成立させる。
「左手は3を表していて、右手は手挨拶、生きて帰ってきてのそれだった。
何も無いとは思えないよ。」
変わらずモミジには聞こえなそうな、かつ最悪なトーンで、感情が消えたように冷たく発する。
そのルナの発言以降、最初の目的地に到着するまでの間は、
モミジがいつもの調子で楽しそうに飛行を満喫しただけで、
会話は皆無だった。
********
此処は〈橙〉の童園。
少年が此処を訪れるのは二度目だ。
さわさわ、ぴゃっ。
草むらから、黒い猫耳と尻尾がある少女が入口で三者を出迎える。
「クォーデ、それにルナちゃん、数日振りだね!
モミジちゃんも、昨日振り。」
『マオ・ウィッタ』、スミレと共に旅をした時に【希望の光・橙】を得た黒猫の童物だ。
「うん、数日振り――え?」
クォーデは律儀に挨拶を返した後、違和感に気付く。
「昨日?」
ルナが作ったような悩み顔でその場を凌ぐ。
クォーデもルナも、それぞれ別の方法で、
昨日モミジが家の近くにしか居なかったことを確認している。
それなのに、モミジが昨日マオと会っている。どういうことだろうか。
すぐさまマオに、昨日童園から出たかと訊くが、出ていないという。
つまり、昨日モミジが此処へ来たということだ。おかしい、矛盾だ。
『ライア・オーマ』、此処では獅子様と呼ばれる童園の現リーダーから事情を少しだけ訊いたのか、
眉だけ困らせつつも明るい顔で3名を中へ誘う。
「ライアさんが待ってるから、入って入って。」
クォーデとルナは、マオの昨日振りという発言で固まり、
笑顔を返してマオについていくことしか出来なかった。
「ふたり共、どうしたの?」
移動中、クォーデの左肩につかまりながらモミジが如何にもな様子で問う。
二者の表情はとても逼迫していたことだろう。
目にはハイライトが無く、顔が黒がかっていると言えば伝わるだろうか。
いつもの声で、口角は上がっていて、よくありそうな悪い顔だ。
隠しても無駄、そして自分に隠し事は向いていないからと、
クォーデはすぐに何かあるという合図として、そっと頷く。
少年はモミジから何をされるかとヒヤヒヤしていた。
少しだけ覚悟を決めて、少年が黒猫に問う。
「ねえマオ。今朝スミレに昨日のことを訊いた時は、
モミジはずっと家に居たって聞いたんだけど、どゆこと?」
「夢の中で会っただけだよ、ね?」
マオに質問したのに、モミジが即答する。
そして、クォーデとマオへ向けられる無言の圧。
「じゃあ、ネタバラシは獅子様にして貰おっか。」
ルナはちょっと面白そうにクォーデに耳打ちする。
「何か分かったの?」
耳打ち返し。
更に耳打ち返し。
「もう到着しちゃったから、すぐに分かるよ。」
少年が前を見直すと、獅子様と白兎が立っている。
獅子様はザ・ライオンカラーなので、獅子様も白兎も容姿のを説明するまでも無い、
マオと同様に耳と尻尾が生えている少女だ。
ルナがライオンの顔を指さして、堂々と吐く。
「来たよ獅子様、今のモミジちゃんがどういう状態か、分かってるんでしょ?」
こくっ。
ライアはモミジの方を一切見ずに、クォーデとルナだけに話すような感じだ。
「今のこいつは心だけが入れ替わっている、モミジに成りすましている別の何かだ。」
その発言を受けて、モミジの体は振る舞いを変える。
「あーあ、モミジじゃないって見抜かれちゃってたー!」
清々しい様子でさらっと自らモミジではないと認めた直後、先程のように目が暗くなる。
先程話に出ていた、昨日マオと会ったモミジはモミジでは無い何かだったのだ。
そして、謎の圧の正体も、恐らくこいつだ。
「わたしはきみたちを一瞬で殺すこともできるけど、
此処はそんなことしちゃいけないからね、その前に決闘だよ。やさしいでしょ?」
終始楽しそうな雰囲気で狂っている何かは、カードデッキを持っていると証明する。
ちゃんと分厚く、50枚ではない、およそ80枚。
つまり、モミジのデッキとは別のデッキが用意されていたということだ。
ライアが白兎の背中を押す。
「ラビ、お前が相手をしろ。」
獅子様は声も表情も固い状態だ。
何も無さそうで何かある発言、白兎ラビにはその意図が分かった。
頷き返して、行ってきますと呟いた。
一瞬で殺すと堂々と言われても、決闘の話になれば、決着迄はとても些細だ。
「決闘札にて決着せぬ儘では独裁も始まらぬ、この言葉を知らないただの兎じゃないからね!」
ラビは途端に武者震いが如く口角を上げる。
「それ、どういう意味や経緯なのかは知らないんだよね、教えてくれる?」
モミジに成りすました何かは本当に知らないのだろう、ラビに問う。
「此処が元々過激な殺し合いが繰り広げられていた野蛮な世界だったという話すら長いのに、
君の為にわざわざ説明する必要ある?」
ちょっとだるそうに返す。
「まあ決闘中に、ゆっくり話してあげるよ。」
ラビもカードデッキを取り出して、何者かから距離を取る。
「わたしが誰か分かる迄は、偽モミジとでも呼べばいいよ。」
偽モミジが小馬鹿にするような喋り方をする。
「ボクの実力を甘く見られたら困るよ!」
ラビはそう言って真剣な表情で偽モミジを睨む。
「「エンター・プレイヤーズ!!」」
数ターン経過して、ラビがやっと続きを話し出す。
カードを動かして、時には必要な宣言もして、それでも話を続ける。
「それで、さっきの言葉のこと、意味としては、
お互いの了承を得られない場合、決闘で勝負しない限りは他者を巻き込む物事ができないという、
此処の在り方を示すものなんだけど」
ラビはさらに語る。
「由来として、遠い昔に、まだ此処が殺し合いの場所だった頃から、絶えず死者が出ていたの。ほぼ全ての種族が絶滅の危機にあったところを、神様が一度止めた。そういう言い伝えがある。神様が齎した決闘札。つまりラビ達が今使っているこれで決着をつけてからなら、独裁でも何でもやればいいと。勿論、絶滅寸前の頃から大分数が戻ってきた最近数十年前迄は、殺す系は禁止だった。今でも〈黒〉の地域で奴隷制度が残ってるのは、殺しちゃダメならこき使えばいいという考えからなんだ。」
「へぇ、そうなんだね!」
偽モミジが楽しい話を聞くかのように相槌を打っている。
「神様が決闘札を此処に齎してからはそういった殺し合いをするのはダメという風潮になったし、そのお陰で各地で様々な文化を築いていった。そんな今でも、唐突に殺し合いを始めるのはいけないということになってる。由来に因んだ余談が幾つもあるけど、ボクが一番好きなのは、神様が此処の絶滅寸前の種族を煽って、殺し合いなんてサイテーって言い放った話だね。当時のボクたちのご先祖様は食糧確保の為の狩りが出来なくてブチギレしたらしい。」
「ちょっと長い話をしてくれてありがとう、でもそのアタックはブロックだよ。」
偽モミジがカード1枚を横にする。
横になったカードと対応した立体映像に猫の爪が刺さり、フェードアウトのように消滅する。
「さあ、今度はわたしのターン!」
偽モミジは決闘中にも関わらず常に楽しそうだ。
「スタート、ドロー、ディヴォート。」
ふわっと動いてゆっくりと進める。まるでお化けみたいに。
「トラッシュにある『野原を蠢く寄生虫群』の効果でこれ自身を決闘から除外して、
わたしである『病心の捕食者 ギハ・タラツ』をデッキからトラッシュへ送る。」
宣言後、ギハはにやっとしてトラッシュに送った自身のカードを持ち直す。
「わたしは相手のトラッシュからカードを4枚ハイド送りにすれば
トラッシュからエンターできる不滅の存在。
俯きな感情を表に出している子が居れば其処に食い付くのが本能なの。」
そう言いながら、自身をエンター、フィールドに登場させる。
ギハの話し方は先程通りだが、悪い顔だ。
モミジの体を使いこなしている為、相当長く寄生していたのだろう。
「ということは、これから何かを乗っ取るってことだよね?」
ラビは当然のように訊く。
「わたしがエンターした時の効果、手札からファイターカード1枚をハイドに送って、
お前のフィールドにあるファイターカード1枚を指定することで、
そのカードにお前にダイレクトアタックさせる。」
ギハはカード1枚をハイド、異次元へと送り、ラビの場にあるマオを指定した。
「わわ、ラビちゃんごめん!!」
お互いの間の出現しているボードの上に立っていたマオが慌てて謝る。
立体映像の代わりに自らエンターしていたのだ。
ラビは首を横に振る。
「いいよ、仕方無いから、謝る必要無いよ。」
その直後、急にマオの様子が変になり、狂ったように笑い出した。
「あへへ、あへへへへへへ」
これがギハの効果なのだろう、マオが操られたようにラビへ襲い掛かる。
「ごめんマオちゃん、『栗鼠の少女 ルグルグ・ススマ』でブロック!!」
ラビはカードを栗鼠のカードを横にして自らへの直接攻撃を凌ぐ。
マオがルグルグにぽかっと殴られて倒れてからはっと我に返り、フィールドから退場する。
「よくもマオちゃんを乗っ取ったね、お返しだよ!」
返しのターン、ラビがラビ自身のカードも含めて沢山の童物をフィールドに並べる。
「軽々しく14体も並べてくれるな、これが童物達の仲間意識なのか!」
横からクォーデが感動している。
「さあ、一斉にダイレクトアタックだよ!!」
ひゅっ!
童物達がラビの指示で一斉にモミジの体へ向かう。
「あはは、負けちゃった、ごめんねモミジちゃん。」
ギハがちょっとだけ泣きそうになってそう呟く。




