第一章 十八話 少女から受け取る次世代カード
「吾輩でアタック!!」
「くう、他の『世界』ファイターの効果で【ライフロスト】が無効化されてて純粋に突破し辛い!
やるなお前!!」
「光栄だな。」
「だけど、こっちだって【希望の光】が無くても十分強いんだって、教えてあげる。
エンター、『友導の少年剣豪』!!
こいつはエンターした時のみならず、アタック、ブロックした時も、
そして破壊された時も、効果を使える。
手札からカード1枚を公開して、そのコスト以下の相手のフィールドにあるカードを破壊!
そして、破壊したら、公開したカードをデッキの下に送って、上から1枚ドローする。」
「手札入れ替えと破壊を両方共、何回か出来るの!?」
マオが目を輝かせる。
「さあ、これで【ライフブレイカー】を獲得できる。
このターンでトドメだ!!」
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「吾輩の、負けだ。」
「やったー!」
「私も嬉しいけど、そろそろ行こっか。
あっちで待ってる子が居るからね。」
スミレが〈赤〉の村の方を向く。
「また何時か、楽しもうな?」
「ああ、研鑽しておくぞ。」
「こっちだって。
じゃあ、ヴィクルル、お願い。」
「うん、任せて。
それと、君にはご褒美。」
「3枚も?
とりあえず、あっちに行ってから見るね、ありがと。」
ヴィクルルは手を振って、改心した主犯を連れて行く。
「また今度、声掛けるからね!」
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マオとパイアを連れているリフスは、〈紫〉と〈橙〉へ暫く寄り道をするようで、
クォーデ、スミレ、ルナとは一度解散した。
「さてと、こっちはこっちで、どうしよっか。
歩きながらだと流石に日が暮れるのは当然として、少し寄り道はしたいね。」
「じゃあ、フラ君とチャニちゃんに会いに行こうよ!」
「それじゃあ――」
途端に、天使がふわり現れる。
「クォーデは私が抱えて行けるから、そっちの負担は少なくていいよ。」
「アイラか、吃驚した。」
そう言いつつ、クォーデは改めてアイラを見る。
かわいい、そう思った。
「うわっ!」
いつの間にか後ろからアイラに抱えられ、ルナに抱えられたスミレと顔を合わせる。
「あっはははは、顔真っ赤にして、帰る気無いの。」
「いや、行くんだけど!!」
「じゃあ、出発だよ、アイラちゃん!」
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「シーちゃん、パイアたち勝ったよ!!」
吸血鬼がゾンビに駆け寄りながら大声で報告する。
「パイアちゃんは、クォーデを守っただけだけどね?」
マオが訂正、素晴らしいまでのツッコミの早さだ。
「それでもいいじゃないか、黒猫さんよ。
些細でもそういう経験が、こいつを成長させるんだ。」
「でもパイア、血を貰う約束したことしか覚えてないやー。」
「――こいつ、何してた、マオ?」
あっは、と苦笑。
「ええっと、怖かったみたいで、怯えた次の瞬間には目が光ってた。
異常な速度でクォーデのところまで飛んでって、クォーデを守ってた。」
「えー、そんなことしてたのー?」
「でも怖かったよね?」
「ごわがったあぁー!!」
マオに跳び付く。
「パイアちゃん、普段は飛ばないんだけど、飛べるんだね?」
泣き虫を撫でながら続ける。
「私も話で聞いたことがあるだけで、見たことは無いな。
普段は翼が見当たらないが、その時は翼があるんだと。」
「パイア、怖くなって叫んで、失神したと思うの。
クォーデに抱き着いて血を貰う夢なら見てた。」
「後で死なない程度に貰っておこうね?」
吸血鬼も疲れるのだろう、マオに撫でられたまますーっと寝てしまった。
眠り鬼はリフスに抱えて貰って、黒猫は立ち去る準備を始める。
「ありがとう、また遊びに来るよ。
それじゃあ、また今度ね?」
「ああ。
その時は、その機械のままでいいから、甘噛みさせてくれよ?」
「いやいや、それ人体だと逆に危ないよね!?」
「がぶっていかなきゃいーんだよ、そのくらい!」
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「おーいフラ、勝ったぞー!」
「おう、夜みたいだった空が昼に戻った光景はチャニと一緒に見たからな。
会っていくか?」
「いや、今はやめとく。
これからモミジの家でお祝いみたいなことするから。」
「あっそ。
おめでとう。」
少年同士でそっと笑った。
「そういえば、バトイフィクレのこと、あれから進展あった?」
横からルナが問う。
「一切無い。
だからチャニは静観してくれるのかもな。」
うーん、と一同。
「まあ、先を急ぐのもどうかと思うから、ゆっくりだな。
そっちを長く待たせる訳にもいかないし、じゃな?」
丁度飛び立つ時、童園の近くで下降する小さい粒が見えた。
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「ああっお前は!?」
ナワバリ警備をしている白兎が一粒を発見した。
ぴょこ、ぴょこ、さっさっさ。
「獅子様、ヒューマノイドです。
ヒューマノイドがこっちに向かってきてます!!」
「ルナでは無いか。」
「えっと、スミレちゃんに似てます!!」
「ああ、そいつは通せ、マオの仲間だ。」
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「此処が童園なんだね、マオちゃん!」
「吸血はしないでね、お願いだから。」
「そんなことはしない。
マオちゃんの仲間に喧嘩を売ったらどうなるかくらいは、分かってるつもりだから。」
「入口で話してないで、行こう、マオちゃん、パイアちゃん。」
リフスが急かす。
「いらっしゃい、ヒューマノイドさん?
そんなに急かさなくても、道案内はボクがするから、だいじょーぶ。
おかえり、マオちゃん!」
マオは、ラビを見た途端、しゅんと静かになった。
広間には獅子様も仔犬も、みんなが待っていた。
園内集会でもあるかのようにきっちり並んでいる。
「おかえり、マオ。
しっかり【希望の光・橙】もあるようだな。」
「――はい、獅子様、只今、強くなって戻って参りました。」
声が震えていることに気付いて、獅子様が心配する。
「どうした、何かあったなら言え。」
「――その、申し上げにくいのですが――」
「うん?」
「ラビと、少々戯れ合っても宜しいでしょうか?」
「ふえぇ、ボク!?
ボクは別にいいよ?」
「あまりにも此処が恋しくなって、それに、ここ数日は戯れていませんでしたし――」
獅子様が拍子抜けして笑い声を出す。
「もうまったくしょうがない黒猫だな。
そういうの可愛らしくて好きだぞ。
ただ、此処はダメだから、あっちまで行ってこい?」
「にゃあ!
ありがとうございますー!」
にゃー、にゃーと喜びながら、獅子様が指示したところまで駆けていくマオ。
「では、ボクも行って参ります。」
こくっ。
「本当、マオってやつは。」
呆れながら笑っている獅子様も、なんだか馬鹿馬鹿しいくらいだ。
「それで、君達もただマオを送りに来た訳では無いようだな。
要件は何だ、訊いてやる。」
リフスがはしゃぎそうになっているパイアを押さえて返す。
「私はリフス・アイ、ディノーアレのヒューマノイドです。
以前無断でそちらの領域に侵入したことについて、代表としてお詫びに来た次第です。」
「成程な。
それについて、マオは何か言っていたか?」
「これから仲良くしてくれればそれでいい、と。」
「そうだな、こちらとしても同じことを言うだろう。
それに、もうお互いに睨み合う理由が無くなったからな。
あの創造神から何か伝言はあるか?」
「簡潔に述べるなら、以前の件はすまなかった、と。
後日直々にお詫びの品を持って謝りに来るそうです。」
「そうか。
そこの吸血鬼を見る限り、この後マオも連れて〈赤〉の村で祝うのだろう。
長居させるのもなんだ、また来なさい。
この獅子も含め、大いに歓迎しようじゃないか。」
「はい、ありがとうございます。」
「――聞いたな、アンコ?」
「はい、確かに。」
「本日を以て、ディノーアレ産のヒューマノイドを警戒対象から除外する!!」
広間の童物達が一斉に騒ぐ。
ある者はヒューマノイドに対する怒りを発していることだろう。
歓迎する者、またいつものくだらない集会かと呆れる者、様々だ。
それでも、なんだかんだ重大発表だということは分かっているようだ。
「以前の件で怒っている子も居るだろう、こちらもまだ怒っている。
だが、いつまでもそうしている訳には行かないのだよ。
憎しみ続けていたら、先程の黒雲のようになってしまう。
親睦を深め、そして許そう。」
童物の歓声の中、獅子様が広間を立ち去り、マオの所へ向かう。
ふぁさふぁさ、さっさっさ。
「あ、獅子様、すっきりしました。」
「きゅー」
ラビは目を渦巻かせている。
「激しく戯れたものだ。
さあ、行ってきな、出入り口で、ヒューマノイドと吸血鬼が待ってるぞ。」
「では、行ってきます!」
「あっマオ!!」
珍しく、獅子様が呼び止める。
「これまで、本当に済まなかった。
威張っていたことは、許さなくていい。」
「うん、分かってる。
今までありがとう、獅子様。
そして、これからも。」
黒猫として全速力で駆けて消えていく。
「本当に、ありがとう。」
獅子様は、涙を流した。
白兎が気付いた頃にも、まだその場で声を上げて泣いていたという。
「大丈夫ですか、獅子様。」
「あっ、ああ、ラビか。
大丈夫、唯の嬉し泣きだからな。」
「これから、マオにとっては獅子様じゃなくなりますね、ライア様?」
「そうだな、これから、お前にとってもそうなるように。」
********
「来たか、異種族3名。」
「クォーデ、もう始まってる?」
「ちゃんと皆の分も準備できてる。
あっパイアには、ちゃんとアレの準備もね。」
「「「「「「「「チュンピャ・リビャエイ!!」」」」」」」」
「おお、これ美味しいな!」
「そういうクォーデの血もすごくおいしいよ!!」
「ああ、そういえば後ろから思い切り噛みつかれてるんだった、痛い。」
「ルナちゃんお待たせ、これに入れてってね。」
モミジがグヴァンワにおけるタッパーのようなものをルナに渡す。
「ありがとう。
これ、いつ返せばいい?」
「この中に入れたものが全部無くなったらでいいから、慌てないで。」
「うん、何だ?
ヒューマノイドのそれじゃ食事できないのか。」
「それ、分かってて態と訊いてるでしょ。
一度人間の体に戻って、飛べない状態で此処迄行くの、大変なんだからね?」
「じゃあ、〈黄〉から此処は?」
「それは、まあ、子供だからね。
それに元々、童物に鍛えられてたから、そういうの強い。
ラビちゃんと元から面識があったのはこれね。」
「ふーん。
リフスは見てるだけでいいの?」
「うん、私は楽しそうにしている所に居るのが好きだから。
自分のことのように楽しくなれると幸せじゃん?」
「そんなものなのかなあ、僕にはまだわかんないや。」
「そうだ!
クォーデ、後でこっち来て。」
「何?
勿体ぶらずに今でもいいよ。」
「じゃあ、これ。」
モミジにカードを5枚渡される。
「そういえばヴィクルルから貰ったカードもまだ見てないな。」
そっと8枚を見る。
(――これは!!)
少年は、新たなカードから漲る力を得た。
そのカードが活躍するのは、きっとモミジ達とテュドマウンジェに挑む頃だ。
「ありがとう、モミジ。
話は聞いていると思うけど、
今度は君と旅する番だ。」
「話は聞いてるよ。
お姉ちゃんにばかり頼っていられないから、私も強くならないと。
今度来た時から、また宜しくね。」
「うん。」
「えっ、モミジ?」
ルナが驚く。
「やっぱり、スミレは、偽物でも大事なお姉ちゃんだから。
モミジの代わりとしてじゃなくて、お姉ちゃんとして、今度は私がお留守番をお願いする。」
その顔は、妹としての甘えも、無垢な笑みも含んでいる。
「ふあー、幸せー!!」
食後。
「そのまま寝てていいって。
ヴィクルルが送ってくれるみたい。」
眠そうな少年を、ヒューマノイド達がじっと見る。
「うわっ唐突に。
ありがとう、ルナ、みんな。
また何日かしてから、会おう!」
「ありがとう、私を、皆を信じてくれて。」
そう言いながら、無垢に笑うスミレ。
スミレは何かを知っている。
何故か少年は、そう直感したのであった。
********
「ううん――」
相変わらず、気持ち悪い目覚めだった。
此処での嫌なことは何一つ変わらない、それはそうだ。
グヴァンワでのことが此方に反映されるなんて、そんなの無いじゃないか。
この瞬間に、少年は、ここ数日間であったことの中に違和感を覚えた。
何故デッキは、寝ている間に変わったのか。
気になってデッキケースの中を開くと、最後に使ったデッキそのままだった。
別に驚く訳でもなく、謎が増えたことに呆れて、今日もまた籠もって眠りに就く。
皆様方もどうか、おやすみ頂きたい。
真実に気付くには、まだまだ早すぎるようだ。
モミジ達と共に向かう次の異変が、待っているのだから。