表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/51

第一章 十八話 少女から受け取る次世代カード

「吾輩でアタック!!」


「くう、他の『世界』ファイターの効果で【ライフロスト】が無効化されてて純粋に突破し辛い!

 やるなお前!!」


「光栄だな。」


「だけど、こっちだって【希望の光】が無くても十分強いんだって、教えてあげる。

 エンター、『友導(ゆうどう)の少年剣豪』!!

 こいつはエンターした時のみならず、アタック、ブロックした時も、

 そして破壊された時も、効果を使える。

 手札からカード1枚を公開して、そのコスト以下の相手のフィールドにあるカードを破壊!

 そして、破壊したら、公開したカードをデッキの下に送って、上から1枚ドローする。」


「手札入れ替えと破壊を両方共、何回か出来るの!?」

マオが目を輝かせる。


「さあ、これで【ライフブレイカー】を獲得できる。

 このターンでトドメだ!!」



********



「吾輩の、負けだ。」


「やったー!」


「私も嬉しいけど、そろそろ行こっか。

 あっちで待ってる子が居るからね。」

スミレが〈赤〉の村の方を向く。


「また何時か、楽しもうな?」


「ああ、研鑽(けんさん)しておくぞ。」


「こっちだって。

 じゃあ、ヴィクルル、お願い。」


「うん、任せて。

 それと、君にはご褒美。」


「3枚も?

 とりあえず、あっちに行ってから見るね、ありがと。」


ヴィクルルは手を振って、改心した主犯を連れて行く。

「また今度、声掛けるからね!」



********



マオとパイアを連れているリフスは、〈紫〉と〈橙〉へ暫く寄り道をするようで、

クォーデ、スミレ、ルナとは一度解散した。


「さてと、こっちはこっちで、どうしよっか。

 歩きながらだと流石に日が暮れるのは当然として、少し寄り道はしたいね。」


「じゃあ、フラ君とチャニちゃんに会いに行こうよ!」


「それじゃあ――」


途端に、天使がふわり現れる。

「クォーデは私が抱えて行けるから、そっちの負担は少なくていいよ。」


「アイラか、吃驚した。」


そう言いつつ、クォーデは改めてアイラを見る。

かわいい、そう思った。


「うわっ!」


いつの間にか後ろからアイラに抱えられ、ルナに抱えられたスミレと顔を合わせる。


「あっはははは、顔真っ赤にして、帰る気無いの。」


「いや、行くんだけど!!」


「じゃあ、出発だよ、アイラちゃん!」



********



「シーちゃん、パイアたち勝ったよ!!」

吸血鬼がゾンビに駆け寄りながら大声で報告する。


「パイアちゃんは、クォーデを守っただけだけどね?」

マオが訂正、素晴らしいまでのツッコミの早さだ。


「それでもいいじゃないか、黒猫さんよ。

 些細でもそういう経験が、こいつを成長させるんだ。」


「でもパイア、血を貰う約束したことしか覚えてないやー。」


「――こいつ、何してた、マオ?」


あっは、と苦笑。

「ええっと、怖かったみたいで、怯えた次の瞬間には目が光ってた。

 異常な速度でクォーデのところまで飛んでって、クォーデを守ってた。」


「えー、そんなことしてたのー?」


「でも怖かったよね?」


「ごわがったあぁー!!」

マオに跳び付く。


「パイアちゃん、普段は飛ばないんだけど、飛べるんだね?」

泣き虫を撫でながら続ける。


「私も話で聞いたことがあるだけで、見たことは無いな。

 普段は翼が見当たらないが、その時は翼があるんだと。」


「パイア、怖くなって叫んで、失神したと思うの。

 クォーデに抱き着いて血を貰う夢なら見てた。」


「後で死なない程度に貰っておこうね?」


吸血鬼も疲れるのだろう、マオに撫でられたまますーっと寝てしまった。


眠り鬼はリフスに抱えて貰って、黒猫は立ち去る準備を始める。

「ありがとう、また遊びに来るよ。

 それじゃあ、また今度ね?」


「ああ。

 その時は、その機械のままでいいから、甘噛みさせてくれよ?」


「いやいや、それ人体だと逆に危ないよね!?」


「がぶっていかなきゃいーんだよ、そのくらい!」



********



「おーいフラ、勝ったぞー!」


「おう、夜みたいだった空が昼に戻った光景はチャニと一緒に見たからな。

 会っていくか?」


「いや、今はやめとく。

 これからモミジの家でお祝いみたいなことするから。」


「あっそ。

 おめでとう。」


少年同士でそっと笑った。


「そういえば、バトイフィクレのこと、あれから進展あった?」

横からルナが問う。


「一切無い。

 だからチャニは静観してくれるのかもな。」


うーん、と一同。


「まあ、先を急ぐのもどうかと思うから、ゆっくりだな。

 そっちを長く待たせる訳にもいかないし、じゃな?」


丁度飛び立つ時、童園(どうえん)の近くで下降する小さい粒が見えた。



********



「ああっお前は!?」

ナワバリ警備をしている白兎(びゃくと)一粒(ひとつぶ)を発見した。


ぴょこ、ぴょこ、さっさっさ。

「獅子様、ヒューマノイドです。

 ヒューマノイドがこっちに向かってきてます!!」


「ルナでは無いか。」


「えっと、スミレちゃんに似てます!!」


「ああ、そいつは通せ、マオの仲間だ。」



********



「此処が童園なんだね、マオちゃん!」


「吸血はしないでね、お願いだから。」


「そんなことはしない。

 マオちゃんの仲間に喧嘩を売ったらどうなるかくらいは、分かってるつもりだから。」


「入口で話してないで、行こう、マオちゃん、パイアちゃん。」

リフスが急かす。


「いらっしゃい、ヒューマノイドさん?

 そんなに急かさなくても、道案内はボクがするから、だいじょーぶ。

 おかえり、マオちゃん!」


マオは、ラビを見た途端、しゅんと静かになった。


広間には獅子様も仔犬も、みんなが待っていた。

園内集会でもあるかのようにきっちり並んでいる。


「おかえり、マオ。

 しっかり【希望の光・橙】もあるようだな。」


「――はい、獅子様、只今、強くなって戻って参りました。」


声が震えていることに気付いて、獅子様が心配する。

「どうした、何かあったなら言え。」


「――その、申し上げにくいのですが――」


「うん?」


「ラビと、少々(じゃ)れ合っても宜しいでしょうか?」


「ふえぇ、ボク!?

 ボクは別にいいよ?」


「あまりにも此処が恋しくなって、それに、ここ数日は戯れていませんでしたし――」


獅子様が拍子抜けして笑い声を出す。


「もうまったくしょうがない黒猫だな。

 そういうの可愛らしくて好きだぞ。

 ただ、此処はダメだから、あっちまで行ってこい?」


「にゃあ!

 ありがとうございますー!」


にゃー、にゃーと喜びながら、獅子様が指示したところまで駆けていくマオ。


「では、ボクも行って参ります。」


こくっ。


「本当、マオってやつは。」

呆れながら笑っている獅子様も、なんだか馬鹿馬鹿しいくらいだ。

「それで、君達もただマオを送りに来た訳では無いようだな。

 要件は何だ、訊いてやる。」


リフスがはしゃぎそうになっているパイアを押さえて返す。

「私はリフス・アイ、ディノーアレのヒューマノイドです。

 以前無断でそちらの領域に侵入したことについて、代表としてお詫びに来た次第です。」


「成程な。

 それについて、マオは何か言っていたか?」


「これから仲良くしてくれればそれでいい、と。」


「そうだな、こちらとしても同じことを言うだろう。

 それに、もうお互いに睨み合う理由が無くなったからな。

 あの創造神から何か伝言はあるか?」


「簡潔に述べるなら、以前の件はすまなかった、と。

 後日直々にお詫びの品を持って謝りに来るそうです。」


「そうか。

 そこの吸血鬼を見る限り、この後マオも連れて〈赤〉の村で祝うのだろう。

 長居させるのもなんだ、また来なさい。

 この獅子も含め、大いに歓迎しようじゃないか。」


「はい、ありがとうございます。」


「――聞いたな、アンコ?」


「はい、確かに。」


「本日を以て、ディノーアレ産のヒューマノイドを警戒対象から除外する!!」


広間の童物達が一斉に騒ぐ。

ある者はヒューマノイドに対する怒りを発していることだろう。

歓迎する者、またいつものくだらない集会かと呆れる者、様々だ。

それでも、なんだかんだ重大発表だということは分かっているようだ。


「以前の件で怒っている子も居るだろう、こちらもまだ怒っている。

 だが、いつまでもそうしている訳には行かないのだよ。

 憎しみ続けていたら、先程の黒雲(こくうん)のようになってしまう。

 親睦を深め、そして許そう。」


童物の歓声の中、獅子様が広間を立ち去り、マオの所へ向かう。


ふぁさふぁさ、さっさっさ。

「あ、獅子様、すっきりしました。」


「きゅー」

ラビは目を渦巻かせている。


「激しく(じゃ)れたものだ。

 さあ、行ってきな、出入り口で、ヒューマノイドと吸血鬼が待ってるぞ。」


「では、行ってきます!」


「あっマオ!!」

珍しく、獅子様が呼び止める。

「これまで、本当に済まなかった。

 威張っていたことは、許さなくていい。」


「うん、分かってる。

 今までありがとう、獅子様。

 そして、これからも。」

黒猫として全速力で駆けて消えていく。


「本当に、ありがとう。」

獅子様は、涙を流した。


白兎が気付いた頃にも、まだその場で声を上げて泣いていたという。

「大丈夫ですか、獅子様。」


「あっ、ああ、ラビか。

 大丈夫、(ただ)の嬉し泣きだからな。」


「これから、マオにとっては獅子様じゃなくなりますね、ライア様?」


「そうだな、これから、お前にとってもそうなるように。」



********



「来たか、異種族3名。」


「クォーデ、もう始まってる?」


「ちゃんと皆の分も準備できてる。

 あっパイアには、ちゃんとアレの準備もね。」




「「「「「「「「チュンピャ・リビャエイ!!」」」」」」」」




「おお、これ美味しいな!」


「そういうクォーデの血もすごくおいしいよ!!」


「ああ、そういえば後ろから思い切り噛みつかれてるんだった、痛い。」


「ルナちゃんお待たせ、これに入れてってね。」

モミジがグヴァンワにおけるタッパーのようなものをルナに渡す。


「ありがとう。

 これ、いつ返せばいい?」


「この中に入れたものが全部無くなったらでいいから、慌てないで。」


「うん、何だ?

 ヒューマノイドのそれじゃ食事できないのか。」


「それ、分かってて態と訊いてるでしょ。

 一度人間の体に戻って、飛べない状態で此処迄(ここまで)行くの、大変なんだからね?」


「じゃあ、〈黄〉から此処は?」


「それは、まあ、子供だからね。

 それに元々、童物に鍛えられてたから、そういうの強い。

 ラビちゃんと元から面識があったのはこれね。」


「ふーん。

 リフスは見てるだけでいいの?」


「うん、私は楽しそうにしている所に居るのが好きだから。

 自分のことのように楽しくなれると幸せじゃん?」


「そんなものなのかなあ、僕にはまだわかんないや。」


「そうだ!

 クォーデ、後でこっち来て。」


「何?

 勿体ぶらずに今でもいいよ。」


「じゃあ、これ。」

モミジにカードを5枚渡される。


「そういえばヴィクルルから貰ったカードもまだ見てないな。」

そっと8枚を見る。

(――これは!!)


少年は、新たなカードから(みなぎ)る力を得た。

そのカードが活躍するのは、きっとモミジ達とテュドマウンジェに挑む頃だ。


「ありがとう、モミジ。

 話は聞いていると思うけど、

 今度は君と旅する番だ。」


「話は聞いてるよ。

 お姉ちゃんにばかり頼っていられないから、私も強くならないと。

 今度来た時から、また宜しくね。」


「うん。」


「えっ、モミジ?」

ルナが驚く。


「やっぱり、スミレは、偽物でも大事なお姉ちゃんだから。

 モミジの代わりとしてじゃなくて、お姉ちゃんとして、今度は私がお留守番をお願いする。」

その顔は、妹としての甘えも、無垢な笑みも含んでいる。




「ふあー、幸せー!!」

食後。


「そのまま寝てていいって。

 ヴィクルルが送ってくれるみたい。」

眠そうな少年を、ヒューマノイド達がじっと見る。


「うわっ唐突に。

 ありがとう、ルナ、みんな。

 また何日かしてから、会おう!」


「ありがとう、私を、皆を信じてくれて。」

そう言いながら、無垢に笑うスミレ。


スミレは何かを知っている。

何故か少年は、そう直感したのであった。



********



「ううん――」

相変わらず、気持ち悪い目覚めだった。

此処での嫌なことは何一つ変わらない、それはそうだ。

グヴァンワでのことが此方に反映されるなんて、そんなの無いじゃないか。


この瞬間に、少年は、ここ数日間であったことの中に違和感を覚えた。

何故デッキは、寝ている間に変わったのか。

気になってデッキケースの中を開くと、最後に使ったデッキそのままだった。


別に驚く訳でもなく、謎が増えたことに呆れて、今日もまた()もって眠りに就く。




皆様方もどうか、おやすみ頂きたい。

真実に気付くには、まだまだ早すぎるようだ。

モミジ達と共に向かう次の異変が、待っているのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ