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第一章 十五話 二度の決着、そして〈黒〉へ

「それじゃあ、私のターン。

 このターンを耐えてみてよ!

 ドローして、『多勢(たぜい)への裁き』をディヴォート。

 ディヴォートカードを残さずにすべてアタックしちゃったら、ダメだよ?

 それを分からせてあげる!

 7枚『天使』ファイターをエンターさせ、[ファイトアクション]へ!」


電羽(でんば)の天使は笑わずにそっと煽り、

少年はそれに動じず構える。


「来い!」


「まさかこのまま負けるなんて、そんなふざけたことにならないでね!?」

ルナが心配する。


「いや、大丈夫だ。」


そう言いつつ、ライフカードを1枚ずつ手に取る。

残り7、―6、―5、―あと3枚まで来てしまった。


「アタック!」


「ライフだ!」

ライフはあと2枚。

「よし!」

少年がきりっとする。

「ライフが3以下の状態でこのカードが手札に加わったので、『魔倣石(まほうせき)の守護』をノーコストで発動!」


「来ましたね、奥の手が!」

フィールドに残っている『蒼冷(そうれい)の氷 イドゥイナヴァ』が、一切動かずに喋る。


「効果で『魔倣石』アイテムをトラッシュからノーコストエンターできるけど、今は無いからそのまま。

 もう1つの効果で『魔倣石』アイテムであるイドゥイナヴァを指定し、

 イドゥイナヴァはこのターンのワイルに、自身よりパワーが低いカードのアタック先を自身にできる。

 そして、『少女』でもある『魔倣石』なので、このターンファイトでは破壊されない!

 これでアイラ、お前自身でしかライフに向かえなくなった。どうする?」


「私で自然を愛でるスミレに指定アタック!」


「いいよ、そのまま破壊される。」


「残り7枚、アタックしてもそのまま破壊されるし、ターンエンド。」


「すごい、耐えた!」


「このまま僕のターン、2枚ドロー!

 手札9枚が全部ファイターカードなので、全てエンター!」


「そっちのアタッカーは20枚、こっちのブロッカーとライフカードの合計は12枚。」


「さあ、トドメだ!」


ライフカードには何も無かった。アイラの負けだ。



********



暁を告げられる前に、電羽の天使はクォーデを抱いた。

「クォーデ、君は凄いよ。

 あの思い切りの良さは、グヴァンワの殆どが憧れると思う、敗北が怖くてね。

 私は暁に関係無く君についていく、いいかな?」


自分と同じくらいの大きさの少女に抱かれて頬が赤くなっていた少年が頷く。

「うん!」

だが、すぐに横からの視線に気づいて先程より酷く赤面する。


「いいんだよー、異種族交流だもんね?」


「もういいよその話は。

 スミレがそれを言い出す前に暁を言いたかったのに台無し!」


リフスが慌てて割り込む。

でもそれはヒューマノイドや電羽の天使にしか聞こえない。

「―」


アイラも同様に返す。

「―」


何かを察したようで、リフスが天使を睨む。

「―」


「―」


ルナだけは聞き取れているが、よく分からないという感じだ。

「うーん、とりあえず暁を済ませようよ。」


「じゃあ、言うよ、アイラ。」


こくっ。


「僕達の味方になってよ。今はとりあえずそれだけでいい。」


「そっか、暁だし勿論だよ。」


握手した。

すると、アイラが消えた。


「何処に消えた!?」

少年が問うと、同じ口から答えが返ってくる。


「此処だよ、クォーデ。」


「―え?」

少年だけではない。

その場全員が数秒程の沈黙に加勢した。


「流石に困惑するのは分かってたけど、そこまで固まらなくていいよね?」

声は完全に少女のそれだ。少年の体で。

「この方が、いろいろ便利なの!

 それに、楽でしょお互いに!!」


「うん、まだちょっと理解が追い付かないんだけど、そうだと思う。」

マオは放心に近い状態になりつつ返す。


結局、普段の調子に戻るまで数分程経ったという。



********



天界から機械都市に戻る最中も特にこれといって会話は無かった。

勿論クォーデが少女の姿になったのは説明するまでもない。


「ちょっと疲れた、このまま体をすっきりしたいくらいに。」

少女の姿にも慣れ、もう男子のアレが無いことにも全く動じなくなっていた。


皆がベッドに座ったあたりで、ヴィクルルが入って来る。

「でも、休むのはまだだよ、クォーデ。

 それと、アイラちゃんは久し振り。」


「あ、ヴィクルル、元気にしてたんだね。」


「うん。

 そっちは、―まあ分かってるからいっか。

 今からまた向かうよ、リフスとスミレも準備して。

 残りの個はここで観れるから、渡すものだけ渡してね。」


ヴィクルルとリフスは先に部屋を出る。


紫髪(しはつ)を舞わせて体を動かしつつ、デッキ構築をするスミレ・アイ。

何故か少し不安そうな金髪眼(きんぱつがん)のヒューマノイド、ルナ・ムーン。

2日前のようにルナとじゃれている黒猫の童物(どうぐつ)、マオ・ウィッタ。

栗毛ツインテを解こうとしている紅眼(こうがん)吸血鬼、パイア・ジュー。


少年はデッキ構築をしている間に、皆を見つめていた。

思えばまだ4日目なのに長かった。

そう考えていると、構築に集中できなくなったので、

この際とこれまでに出会ってきた者達を思い出してみることにした。



********



スミレの妹ということになっている一人っ子、モミジ・アイ。

ルナの幼馴染、フラ・プード。

バトイフィクレの機械少女、チャニ。

童園の白兎、ラビ・イズモ。

獅子様、ライア・オーマ。

透明な印象を与える少女神、ゼウス・ヴィクルル。

植物を思わせる少女、ライム・エナ。

〈青〉のスミレの正体、イドゥイナヴァ。

スミレやヴィクルルを少し成長させたようなヒューマノイド、リフス・アイ。

紫と黒が混じった長髪をそのまま垂らしているゾンビ少女、シー・ミル。

今は僕自身の体に宿っている電羽の天使、エンジェル・アイラ。


皆根が優しく、楽しそう。

こんな世界で生きる意味を見つけたような気がした。


グヴァンワ、だっけ。

此処に侵略者が来るなんて信じがたい話だが、

これから〈黒〉に向かうことにもなってるし、そこで分かるよね。



********



「「おーい、生きてるよねー。」」

マオとパイアが片耳ずつ担当し、クォーデに呼びかける。


「ううぉあ、吃驚した!」

そして自分が発した声で再度驚く。


「あっはは、そんなのだと、負けちゃうよ?」

猫が苦笑する。


「それは冗談だけだって証明して見せるよ。

 でも、僕だけじゃダメだ。

 カードを自分なりに動かすのがグヴァンワで一番出来ることだ。」


「前みたいに、貸すよ?」


ひゅっひゅっ。

「それでもいいけど、それだと僕自身が強くなれない。」


「じゃあ、私と試合して?

 今度は容赦無く勝つ!」


スミレが、楽しそうに笑ってクォーデを見つめる。


「それじゃあ、僕も、僕のカードだけで勝つ。

 スミレのカードは一度返す、必要なら使ってくれていい。

 このベッドの上でいいかな?」


こくっ。

「勿論必要だからね。」


「「エンター・プレイヤーズ!!」」



********



「ハートチェンジ、『不死の少女 スミレ・アイ』!」


「来たね、〈コスト:不明〉で、効果で破壊されず、除外もされない。

 指定アタックも意味が無い。

 だけど、これなら!!」


ファイターカードをエンター。

効果で不死の少女が裏になる。


「それが、〈桃〉の〈『友導(ゆうどう)』〉なんだね。」


「〈白〉もあるぞ、エンター、『鏡境(きょうけい)賭向者(とこうしゃ) ガルサ』!!

 エンター時効果で、コストが1桁の〈『兵士』〉ファイターを実行した分だけ、

 相手のフィールドにあるファイターカードをデッキの下に送る!」


「〈『友導』〉で勝つ気なの?」


「勿論、それだけで勝つ気は無いよ。

 これは僕に対して渡されたカードだけど、入れてない。」

蒼冷(そうれい)の氷 イドゥイナヴァ』がデッキに入っていないことを証明し、話と試合を続ける。

「だから、孤独だった時からどれだけ強くなったか、確かめる!

 エンター、『孤独な少年兵士』!」


「色は?」

マオの問い。


「無い、0色だ。」


「それが、君自身を表すようなカードなのかな?」

今度はスミレ。


「ああ、エンター時とアタック時の効果で、手札、フィールド、トラッシュから、

 〈『友導』〉カード2枚をオリジンにできる。

 今回は手札から『明日への憧れ トスク』と『荒野の砂原(さげん) バティレ』をオリジンインする。」


「それで、どうなるの?」

パイアが問う。


「オリジンカードの色の分だけ、孤独の【ライフブレイカー:1】の数値が増え、

 オリジンカードが4枚以上なら、自身をブロックしたカードとはファイトせずそのままアタックを終了する。

 というわけでアタック、アタック時に『旧友(きゅうゆう)への彼岸花 グドウ』と『過ぎゆく微風(びふう) ドウィヌ』をオリジンへ!」


「【ライフブレイカー:5】!?

 パイア初めて見たー!」


「これならいけるとか思ってる?

 それじゃあ甘いよ!」

スミレが珍しく声を大きくする。


「勿論これだけじゃないよ。

 ワイル、アイテムカード、『友導の証』の効果!

 『孤独な少年兵士』にこのカードを直接装備させる。

 そして、これを装備したカードは、オリジンカードの色をすべて獲得する。」


「他にある?」

パイアだ。


「スミレ達には前にも説明したけど、フィールドの〈『友導』〉カードが破壊された時、

 ライフカードを1枚トラッシュに送らなければならなくなる。

 その代わりに、既に実行している状態でも、僕がディヴォートしている、

 アタックするカードと同じ色のカード1枚を実行させれば追加アタックができる。

 つまり、今の孤独は〈青〉、〈黄〉、〈緑〉、〈紫〉のいずれかがあればそれでいい。」


「でも、追加アタックを始めると、〈『友導』〉ファイターの効果が無効になっちゃうんだよね。」


「『孤独な少年兵士』の効果、『友導の証』が装備されている間、

〈プロパティ:『友導』〉を得て、効果が無効にならない。」


「えっ!?」


「今は4色のいずれかがあるカードは8枚残ってる。

 だから9回アタック出来る!」


「これなら、いけるね。」

スミレが、目を閉じ納得する。



********



廊下から特設ステージのような場所へ歩き出すふたり。


「ようやく、来たね。

 私は2つ同時にできるから、スミレもクォーデもできるよ。」


「スミレの方はヴィクルルが代理になるよ。

 ヴィクルルは今回、ただリフスの指示に従うだけ。」


「分かった、じゃあ、ヴィクルルにはただただ私とお話ししてよ。

 私が納得するまで、いろいろ訊きたいからね。」


「じゃあ僕は、全力で勝たせて貰うだけだね。」


「勝てないと次に進めない理由があるんだね、訊かないけど。

 さあ、始めるよ!」


それぞれ1対1で構えて合わせる。


「「「「エンター・プレイヤーズ!!」」」」



********



「エンター、『ヒューマノイド少女 リフス』!

 カード効果ではデッキに送られず、除外もされない。

 コストが300あるにも関わらずパワーが200000しか無いよ。

 ヴィクルルはアドバイスしちゃダメだから、頑張ってとしか言ってあげられない。」


「それは『不死の少女 スミレ・アイ』で解決、指定アタック。

 『ファイトサポーター』の効果でブロックされない!

 それで、ヴィクルルはアイラと繋がりあるの?」


「ある、というか、そもそも電羽の天使としてのそれはヴィクルルがいろいろやったからね。」




「この状況、覆せる?」


「ああ勿論。

 エンター、『幻翼(げんよく)抱踊(ほうよう) ジェンレ』、効果で『ヒューマノイド少女 リフス・アイ』を裏にする。

 『鏡境の賭向者 ガルサ』、エンター時効果で残りのファイターをデッキの下に!

 『孤独な少年兵士』をエンターして、エンター時に効果を使って[ファイトアクション]へ、アタック!

 アタック時も効果を使って、その後ワイル、『友導の証』の効果!」


「それだけじゃまだトドメは刺せないよ!」


「分かってる!

 だから中途半端だけどこのままターンエンドだよ。」




「これで決めれる!

 残りの『村の』ファイターでフルダイレクトアタック!!」


「ワイル、『機制通路(きせいつうろ)』!

 現在のターンの間、カードのアタックでリフスのライフが減るのは指定カード3枚からだけになって、

 3ライフ削っても残るようになる!

 指定するのは不死のスミレ、冷酷なスミレ、戦いのその先のスミレ。」


「成程、いい凌ぎ方だね。」


「ヴィクルルがグヴァンワで〈白〉を使っている理由もそれだからね。」


「だから昨日は〈白〉だけのデッキを?」


「そ。」




「そっちも数で攻められるタイプだとは思ってなかったよ。」


「クォーデ君がちょっと大型傾向だから、予想外かな?」


「いや、予想外じゃなくてただ、〈白〉に対する偏見が崩れ去っただけだよ。

 あっ出た、ライフから手札に加わった『友たちの癒し歌』をノーコスト発動!

 オリジンカードも含めてフィールドに『友導』カードが9枚あるから、

 デッキの上からライフを9回復。」


「え、トドメ刺せなくなった!」


「危なかったよ、中々強いね。」


「いや、思い切りの強さは、ヒューマノイドよりもいいよ。

 私は結局、ヒューマノイドなだけだから。」


「そんなことは無いと思うけど?」




「「これでトドメ!」」


「『闇の少女 スミレ・アイ』で」

「『孤独な少年兵士』で」


「「ダイレクトアタック!!」」


「こっち、ライフ0だよ。」


「私の方もライフ0。

 私のダブル負けだね。」



********



「やったー!」


「おめでとう、私も勝てたよ。」


勝利を喜ぶふたりへヴィクルルが駆け寄る。

「これで、安心して〈黒〉に行けるね。

 実力的に全く問題無いから、ちょっと休憩したら、行こっか。」


「勿論僕達だけじゃなく、ルナ達も連れて、ね。」


「分かってるよ。

 はい、これが『天使の新翼(しんよく) スミレ・アイ』、〈桃〉のスミレ、回収しておいた。」

ヴィクルルがスミレに手渡しする。


「だから天界では何も無かったんだね。」

スミレが納得する。


「でもそれは今のスミレ自身のカード、自然を愛でるスミレみたいな感じ。

 自覚無しだと思うけど、スミレってヴィクルルがこんなことしなくても元から素質あるんだよね。」


「つい最近まで〈赤〉のカードしか持っていないのは、そういう操作をしてるから、でいいんだよね?」


こくっ。

「グヴァンワの風潮的に、2色以上使えると噂になるんだよー。」


「じゃあ、私も必要な手駒であることには変わり無いんだね。」

 

「それは勿論、さてそろそろ迎えに行こうよ、きりが無い。」



********



まだ昼はこれからだという感じなので、このままの勢いで〈黒〉の無法地帯へ向かった一行。

あまりに気味が悪く、殆ど会話など起きることは無かった。

そして、スミレは無法地帯のある場所へ向かい、そして向かった先に居る少女へ声を掛ける。


「久し振り、ニョン・ヴィユ。」


此処は、ニョンの両親が埋められた場所、らしい。

当然同行した皆がそれぞれ怖がったり誰か訊いたりしている。


「その声は、スミレ・アイ、勿論覚えているわ。

 さあ、決闘しましょう。」

悲しそうな顔でスミレに向かい、すぐに弱弱しく構える少女、ニョン。


「あの時の答えを、返しに来た。」


「そう、なら私に勝って頂戴。

 出来なきゃ、あやめる。」


「私が負けると思ってる?

 私はもう数年前みたいに未熟じゃない。

 それを今此処で証明するよ!!」


「「エンター・プレイヤーズ!!」」

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