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第一章 十二話 少女神の贖罪、闇との約束

童園(どうえん)の癒し役、今此処に(なご)みの場を(もたら)す!

 エンター、『童園の()(らく)(しゃ) マオ・ウィッタ』!!」


「それは、元からある別のマオちゃん!!」

健気なスミレは喜びを上げる。


「その私がエンターする為には、ファイターカード1枚の上にじゃないとダメだよ?」


「じゃあカイルの上だ。

 エンター時、並列カードの分だけ、相手の手札を表でテリトリーに送ることができる!

 ただしそうしたら、テリトリーに送った分だけライフを失う。」

並列カードは8枚あるので、ヴィクルルの手札7枚全てはテリトリーへ送られた。

「これで僕のライフは3になった。

 僕の手札2枚を使い切れば、完成だ。

 最後の手札をマオに託して、エンター!

 この先、さらにもっと先、新たな仲間との出会いを求める!

 『戦いのその先 スミレ・アイ』!!」


「〈赤〉のスミレが2種類!?どうして、さっきは1枚だけ―」

当然ヴィクルルは驚く。


「ああ、さっき貰ったのはこっちだ。健気なスミレは既に1枚だけ貰ってたんだ。

 それに、トラッシュから発動できるアビリティは、ヴィクルル、お前だけじゃない!」


「何を言って―!?」


「僕は段々と生きる意味を見つけた。明確な答えなんていらない。稀有な今を大切にしたい!

 アビリティ、『稀有な少女達』!!

 〈発動条件〉として、『少女』カードが10枚以上存在して、

 ディヴォートカードが1枚だけ準備していなければならない。

 さらに、お互いの手札が0枚ならトラッシュからでも発動できる。」


ふと、クォーデが少女達を見つめ、見つめられた者が次々と頷く。


「昨日のくだらない茶番でも些細な理由になる。

 スミレやルナ、マオ、そしてヴィクルルさえも、一緒に居ると楽しいんだ!

 『闇の少女 スミレ・アイ』、お前と居てもだ。」


闇はむっとする。


「今は楽しさの為なら、協力し合える。

 お互いに、悩みとかそういうのがあったら、皆に話す。

 とりあえずそれだけでいい。」

一度闇を見る。

「僕はお前がヴィクルルをどうにかしたくても、一度待ってくれ。

 まず僕達に事情を説明してくれないか?」


「ルナの誘拐を指示したことが気に食わないんだよ!!

 殺してやりたいんだ、すぐに!」


「それは、やめておけ。恐らくヒューマノイドの集団から猛反撃を食らうぞ。

 その代わり、誘拐のことは償って貰え。」


「そもそもこの体はヒューマノイドで本体は別にあるから、これを壊してもどうしようも無いよ。」


「わざわざ説明してくれてありがとう、ヴィクルル。

 1つ目の効果、僕のライフが5以下なので、『少女』の誰かへ、

 『少女』ファイターの色の合計の半分だけの【ライフブレイカー】を与える。

 スミレ達は〈赤〉と〈青〉と〈黄〉と〈黒〉。ルナは〈白〉もある。マオは〈橙〉。

 よって3だな。ライフが3以下だから1枚ではなく2枚にこれを与える。

 『闇の少女 スミレ・アイ』と、『戦いのその先 スミレ・アイ』だ!」


「え、私?」

戦いのその先は素っ頓狂なことを言われたような反応をする。


「ある意味誘拐の件の被害者だ。ルナでもいいんだけど、それは後で。

 さて、ヴィクルルは何故、闇の少女だけを殺したい?」


「この子はヴィクルルを拒んでる。それだといろいろと支障が出ちゃうの。

 君達全体が成長できなくなる。そう」


「いや、そんなことは無い。思い上がりだけど僕が保証する。

 僕に自身のカードを貸してくれたから、もう仲間なんだ。

 ヴィクルルにとっては『こんな奴』であっても、

 少なくとも僕にといってはもう『大切なやつ』なんだ!」


「お前、何をふざけたことを―」


「いいや、ふざけてない。

 魔魂(まこん)だって、怖がってるみたいだけど、

 お前が居ること自体を否定している訳じゃないんだ。

 僕だってお前に、闇の少女に頼りたいことがあるんだ。

 僕だって、誘拐を指示したのはどんな理由があろうと許せない。

 だから、どれだけ些細なやり方でも、これは優しい報復だ!!」


「ふん、私に何を頼みたいというんだ。何も無いんじゃないか?」


「―この決闘、一番最後のトドメをお前に任せたい。他の誰でもダメだ。

 トラッシュからライフに戻したカードの中に、

 お前をフィールドからどかせるカードは無かった。」


「都合がいい、それだけか。」


「2つ目の効果、少女1名だけを選ぶ、勿論君だ。

 このターンの間、『少女』がフィールドを離れたら、その度に、

 選ばれた『少女』の【ライフブレイカー】の数値は1増える。

 僕はお前を大切にする、都合がいいだけなんて、そんなものじゃない。

 僕が自殺から救われたように、君にも楽しいことを教えたい。」


「それじゃあ、この憎しみはどうすればいいんだ!!」


「それは、ルナ達に愚痴を言っていいよ。

 ルナもヴィクルルに対して、愚痴が無い訳じゃないから。

 唐突に誘拐されたことに関しては、今でもまだ怒ってる。」


「3つ目の効果、奇術師のルナ、君がこのアクションの間にアタックしなかったら、

 『少女』達はこのターンの[シークレットアクション]でもアタックできる。」


「待ってたよ。」


「マオには8枚ものカードを託した。ルナには、みんなのサポートを任せた。

 そしてスミレ達にはそれぞれの個性を見せて貰った。

 ヴィクルル、フルアタックを、僕達それぞれの気持ちを受け取れ!」


「「「「ファイトアクション!!」」」」


「『戦いのその先 スミレ・アイ』、0枚戻しのダイレクトアタックをお願い!」


「アタック時効果、トラッシュカードを戻さず、2枚のヴィクルルを破壊!」

2枚のクリエーターカードは破壊されトラッシュへ送られる。

「誘拐の件はスミレも許さない。

 グヴァンワが危ないならそうと説明してくれればよかったと思う。

 でも、クォーデに出会わせてくれて、ありがとう。【ライフブレイカー:3】!」


「何も妨害する手段は無いし、ライフ3枚で受ける。

 それは、本当にその通りだよ、スミレ。感謝するべきはこっちの方だよ。」


「先に、僕の代理として『村の村長』でダイレクトアタック!アタック時4枚ドロー。」


「じゃあ、ルナ3回分。1回目は誘拐指示への怒り。2回目はヒューマノイド関係で感謝。

 3回目は新たな出会いに感謝。ばーか、ヴィクルル。」


「ルナちゃん、ごめんなさい、そしてどういたしまして。」


あと8。


「神様、クォーデに出会わせてくれてありがとう。

 そして、これを機に仲良くしてください!」


「ふふ、そうだね。

 でも、童園を監視してたのはごめん、これはライアも怒ってるだろうから。

 帰ったら伝えておいてくれるかな、お願い。」


「分かった、それはマオも怒ってたから、これから仲良くするので解決だね。」


「え、それは知らない。」

当然知らない少年が真顔で反応する。


「気になるなら後で話すよ。」

あと6。


「アタック時、【希望の光・青:3】です。

 貴女には何も無いですが、私の力を試すなら試すといいですよ。」

冷酷な少女。


「10枚トラッシュ送り、異変が解決したら君ともこのデッキで楽しみたいよ。

 〈青〉デッキに対する立ち回りは、全然違うから。」


「それは光栄ですね。」


「ヴィクルルちゃんはチャニのことを知ってるから話しちゃうけど、

 あの子、侵略してくるって本気で思ってるみたい。

 誤解なら解いてあげてよ?」

魔魂の少女。


「そんなことはしないよ。

 誘拐の件以降は罪悪感から一度も偵察させてないくらいだもん。」


「じゃあ、私だね。

 アタック時の【スミレ・パワー:2】は1枚だけでいいから頂戴。」

健気な少女。


クォーデが無言で1枚渡す。


「あの時、悲しい思いをさせてごめん。許されないと思う。」


自分の創造主が涙ぐみそうになっているところを、

体だけクローンという謎な存在が軽く肩を叩く。


「これからは許す。

 その代わり、これから、異変解決後もずっと、みんなと仲良くしてくれるならね。」


「うん、約束するよ、スミレちゃん!」


「なら、その契りを、【ライフブレイカー:3】で交わすんだな!

 そして、私に1度だけ殴らせろ!!」

闇の少女。


「妨害できるカードは12枚中1枚も無い。

 こんな機会でなくても無抵抗で受けるしかないよ。

 貴女にも納得できるように、これからみんなに償っていくよ。

 私を恨んだ分だけ強い力で、お願い!!」


闇とは思えない程屈託の無い笑顔を浮かべる。

「きっとこれから、私は救われ、お前も救われる。

 何時か2度目の危機も去った時、私はお前を許そう。」

直後、ぐっと憎いものを見る形相に変わる。

「それまでは、まだお前は許さない、分かったな!!」


こくり。


直後にライフカードを3枚飛ばしながら胸まで当てる。


ヴィクルルは大きく放物線を描いて殴り飛ばされた。

ライフ0、ヴィクルルの負けだ。



********



フィールドが消えると共に、スミレは〈赤〉だけになり、

残りは恐らくクローンの中へ引っ込んだ。


今回、ヴィクルルが全く手を抜いていないことは紛れもなく事実であり、

何も舐めてなどいないということを、直後ルナのシミュレート結果から証明された。


「今夜に話せるだけの詳細を教えろ。」


「分かった、どうせ皆を〈白〉に泊めるつもりだったから、そこで。

 それじゃあ、ルナちゃんはクォーデをお願い。」


「私もルナちゃんにお願いするよ。

 スミレちゃんだけの方が、神様的にもいいでしょう?」


「気を遣わなくていいよ、マオちゃんも被害者な訳だし。

 それでいい、スミレ?」


「うん、ヴィクルルにおんぶして貰うの。」


「なんだろう、動機が幼すぎる。」

これからまたルナに抱えられる少年が呆れる。


「実際、純粋に人間換算で4歳だからね、仕方ない。」


「あはは、ヴィクルルは今度モミジにも謝るべきだねそう言えば。

 それはさておき、急ごう。」


「うん、次に会う時ちゃんと詫びる。」


ふっと2機が飛ぶ。



********



〈緑〉の森林。


「私はライム・エナ。

 直接は行かないけど、呼ばれたらちゃんとカードから出られるからね。」


クォーデは『元気な少女 ライム・エナ』を受け取る。

「いつか決闘じゃなく、楽しくね。」



********



〈青〉の水壁。


「此処が、私が生まれた所です。」

『〈青〉の蒼冷(そうれい)の氷』が、洞窟の中に眠る巨大な氷の塊を指して言う。

「この氷の中の少女が、本当の私です。」


「もしかして貴女は、少しずつ思い出してるの!?」

ヴィクルルが問う。


そっと前に出て、右手を(かざ)す。

氷の中から出てくるカード1枚をしっかり手に取る。

「先程の決闘の中で、段々と思い出して来まして。

 クォーデ、どうぞ。」


蒼冷(そうれい)(こおり) イドゥイナヴァ』。

何と、ファイターカードでもクリエーターカードでもない。

「アイテムカードだと!?」


「少女の形の魔石と思って頂ければ分かり易いですね。」


「厳密には、違うよね。」

少女神にはお見通しということか。


「あくまで分かり易く表現しただけですから。」


クォーデは、氷の中のそれがほんの少しだけ動いた気がした。



********



さて、まだ夜までは長いが、〈白〉の都市、ディノーアレに到着した。


「さて、本当はヒューマノイド以外は進入禁止なんだけど、

 特別にフェイクするから問題無く。」


「まあ、仕方無いか。」

視界が一瞬で様変わりする。



「えっちょっと、クォーデは!?」


「ここだよここ。

 って、えっ―えええぇぇぇ!!」


異常事態、少年が少女になっているのだ。


「どうしても仕方無いことなの。

 ヴィクルルが普段居る所は男子禁制だから、ディノーアレに居る間は我慢してお願いだから!!」

焦っているので、申し訳無くはあるようだ。


「別にいいよ、悪い気はしないよぉ。」

喋り方からノリノリだ。


「まさか、女装癖―」


「無い、それは絶対に無い!

 ルナちゃんこういう時に限ってまた煽ってぇ。

 ―まあ、不本意にもそれに似た機会はあったけどぉ。」


「ぶりっ子はやめておくといいよ、本当に。」

スミレがガチトーンで素を吐く。


「とりあえず戻せることだけ確認して貰うから、一度戻すね。」


一瞬で視界が戻る。


「ほんとだ、ちゃんと戻る。

 これで安心してディノーアレに泊まれる。」


また少女に変わる。


「さあ、直接そこ迄行こう。

 ルナも入る権限あるんだよ。」


「うん、ヴィクルルが権限を与えたからね。」



********



「ふー、体に違和感があるだけで、入浴以外は何も支障無かった。」


「やっぱり、無いのは違和感なんだ?」

ルナが唐突にしれっと質問する。


「グヴァンワ女子の謎会話始まったよ。」

神は呆れる。


「いえ、グヴァンワは関係無く、数十年しか生きてないからかと。」

机に置かれたデッキから1枚だけ飛び出し、それが神の前で囁く。


「あ、そういえば自称魔石だね、イドゥイナヴァ?」


「これからはこれで会話できるので、大助かりです。」


「確かに無いのが違和感だけど、それが何なの?」

ぶりっ子はとっくにやめた。


誰が話しているか分かるように、

対応するカードである『魔魂の少女 スミレ・アイ』を見せながら、スミレが話す。

「地味に興奮してない?」


「そんなこと無いよ、多分。」


「自信が無いのは何でなの。」

マオがちょっと残念そうに呆れる。


「もういいじゃん、さっさと(あかつき)を済ませようよ!!」

顔を赤らめた少女が促す。

「今夜に話せるだけの詳細を教えろ」という暁の話だ。


「それじゃあ、早速。

 何に関することから訊きたい?」


「まずは異変、2回迫る脅威について。」


「まず1回目、つまり今回。

 近い内に、〈黒〉に侵略者が現れる。

 それを君達に倒して貰うためにいろいろ動いてた。

 ヴィクルルが倒せばいいんだけど、警戒されてるから避けられるのがよく分かる。

 だから、噂にならないように隠れて実力者を育て上げて、

 対抗策とするのがヴィクルルのやること。」

クォーデ、今は名無き少女の方を向く。

これに関して、他に訊くことは無いかと問うようだ。


「侵略者のことを訊きたいけど、分かってたら先に言うよね。」


こくり。


「誘拐の件は一応解決ということになってるし、無いね、次。」


「2回目、これはヴィクルルの勘―の筈だったんだけど、

 以前グヴァンワとは別の世界に行った時に、そういう兆候を見たから確定しちゃった。

 ヴィクルルとは違う少女神、テュドマウンジェが此処を滅ぼすらしい。」


「そして、ヴィクルルが切り出した者は抗ってよいと?」


「そうなるね、残念なことに。

 このまま行くと、この中から誰かってことになる。

 こっちはヴィクルルでもいいと思う。

 ただ、ヴィクルルが知ってるデッキを使うとは思えない。」


「次、明日は此処を出たら〈紫〉と〈桃〉へ行って、余裕があれば夜までに〈黒〉。

 それも終わったら侵略者が来る迄はいろいろ巡る。

 そういう感じで予定してるけど、大丈夫そう?」


「ヴィクルルもそんな感じだと思ってたし、大丈夫だよ。

 此処は明日に会わせる子が居るからお楽しみに。

 〈紫〉とか〈桃〉に行く前にカードを数枚程度ならあげるから、

 勝てるようにね。」


「ありがとう、次。

 ヴィクルルは、僕をグヴァンワと本来の世界、送迎することができる?」


「できるよ?」


「それじゃあ、他に今訊きたいことが無いし、暁は終わり。

 自分で戻れないから、あっちに戻るの、お願いしたいんだけど。」


「確かにね。

 そっちでちゃんと食事してね、しないと死ぬよ。

 ちゃんと死なないようにしておいてね。」


「うん。皆は大丈夫?」


「ちゃんと戻って来てね?

 心配だから。」


「朝までには送るよ。」


「助かる。

 その頃にはあっちで寝てるだろうから丁度いいし。」


「それじゃあ、おやすみ。」



********



その日、憂鬱だった混沌が、少しだけ楽しくなった。

連休の時期なので、別に困ることは無かったこともあり、

とりあえず死なないように夜食と入浴だけしておやすみした。

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