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IOSO  作者: とりてる
第一章
5/5

情報 3

 口元を薄ら開き口角を上げ三人を爪先から頭の上端にかけて舐める様に目を動かした行動に、相手を見下すことは愚か今まさに値踏みをされていることへ矢島は腹の底から憤激し、手下達に向けていた砲門を鉄の方へと素早く狙う。だが波木はそんな彼を「やめろ」しんと静まり返った空気の中静かに睨みを利かせた。当の本人も幾分憎悪を宿していたが、それに激情し引き金を引いてしまっては元も子もない。


 波木は奥歯をギリと音を発して一瞬鉄から目を反らし、これからどうすべきかと頭を悩ませて数秒後、首を横に振って答える。


「すまないな、それだけは本当に出来ない。こっちは新宿抗争のため体力、武力を温存している。それを奪われてしまっては、いくら有力な情報を手に入れたとて本末転倒だ」


 波木は鉄に震える拳を抑えながら、頭を下げた。その行為に彼女と矢島は驚きの余り口を開けたまま、彼の背中を仰望し、唖然としていた。彼は普段もマイペースを断固として守り通し、自ら誰かの下に望んでまわることは決して無かったはずだ。そこまでIOSOは敵の手を借りる以外に道が無く、追い込まれているのかと後衛の二人は絶望以外に考えられない空虚な感情を残す。


「あぁ、もしくはそこのお嬢さん…早海さんでもよろしいですよ。それならば一人だけで成立とみなしましょう」


 そんな波木の奇特も眼中に置かずに目線を向けもせず早海の目を妖しい眼で正視すると、含み笑いが部屋に反響した。髪で遊んでいた指を彼女の先に向けては、矢島が即座に反作用し鉄にねめつくも対する鉄は彼の反応がつぼに入ったのか、笑いを止めようと必死に腹を押さえて堪えている。矢島は果てに身体に伝う紐がぷつりと切れたようにふらりとよろめいて、目にもとまらぬ加速で鉄の背後を取り瞬く間に片手で首根っこを絞め上げ、こめかみ辺りを銃口で擬していた。


「…お前、やっぱいらない。お前なんかに頼らなくてもIOSOはお前らクソ野郎共を簡単にぶちのめせる」

「やめろ矢島、そんなことしたって何も変わらない。変わらないどころかこっちが不利になるだけだ」

「…お前が何で、お前がなんで頭を下げる必要があるんだよ!お前はいっつも、自分のマイペースさが売りだとか自分で誇っちゃったりしてさ!…それがボスに認められて交渉担当に任命された癖に!」


 先程の波木の行動がなによりも苦痛だったのだろうか、うっすらと目頭に涙を含ませては感情の昂ぶりに身を任せ銃口で鉄のこめかみを抉ろうと力を込める。痛みに若干顔を痛みに一瞬歪ませる鉄だが、わざと部下へ手出しはさせずに自然に離れるだろうと余裕綽々の表情で手を上げている。


 早海はというとただ目の前の有様を眺めることしかできずにいた。このまま矢島に乗じてみらい団の幹部である鉄を葬れば、少なからず敵陣の戦力を削ることができると思案する他、先程の波木の言葉そして頭を下げる光景に胸のざわめきが焼きついて離れなくなり、身体が強張りグリップを握る手に汗を滲ませた。


 未だ武力自体IOSOの方が遥かに上回っているはずの味方陣営が、未だみらい団と互角にやりあっていることがなによりの差だということを心頭に射し当たらせられた二人。


 彼女は波木を見、そして矢島を見た。決心した表情は一瞬瞳を閉じて大きく息を吐けば銃を下しホルスターへしまい、鉄らの傍に一歩、また一歩と緩やかに近づいていく。その行動の真意に気がついた矢島は敵意を削がれ手の力は空しさを背負って緩めていき、波木も全てを察したのか自身の横を通り過ぎる彼女の肩を優しく掴む。それ以上先へ進ませないと顔を後ろへ向けさせ肩をやんわり引っ張りながら。


「ダメだ、あっちの思うつぼだろ」

「でもこうすればこの場はなんとかやり過ごせるはず。仮にやりあったらあいつだって無事じゃ済まないだろうし、交渉が決裂したとしてもみすみす自ら危険を被ることは避けたいはず。だから多少のことでもむやみに攻撃をせず、未だに交渉を持ちかけ続けている…違う?」

「………」


 ごもっとも、その通りだと自覚する波木だが、彼もまた聞き分けの良い相手ではない。少し考えた後やはり駄目だというように彼女を自分の後ろに隠して苦渋の決断を下した。


「…二人だ、それ以上はどうしたって認められない」

「波木…」

「…………」


 二人からの目線から反れる顔、微弱だが肩が若干項垂れ彼らしくない溜息が空気の混濁した場所に充満する。鉄はそんな波木の姿に恍惚とほくそ笑んで、首を絞める矢島の腕を解くように拳へゆっくりと撫ぜ合図した。事の情態を理解もできず納得こそ不可能な思いで呑み込むことができず、ゆっくりと腕を離す様子は茫然自失に虚ろな目を伏せる。


 今自分が何処に居てどのように存在しているのかすら感覚がが掴めなくなってしまっていた、そんな状況下、早海は独り波木の持つ懐中電灯が密かに戦慄する光景を、食い入るように瞼を開き見つめ続けていた。


 後に残ったのは舞い散り煙たく人間を取り巻く埃のみ、一切のノイズが討ち払われている。心臓の音すら遠く弱く主張を続け意図的に存在を弾き飛ばした足音は三人をその場に残して、鉄と部下達は細く狭い暗がりの中に溶け込む。その行き先を知る者は誰一人としていなかった。

 

次は回想が入ります

三人が結成し間もない頃のお話です

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