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IOSO  作者: とりてる
第一章
3/5

情報


 平城二五年。日本国は巨大テロ組織であるみらい団が引き起こした、史上最大なテロ事件によって国家存続を危ぶまれるどころか崩壊の危機に瀕していた。政府関係者が次々と拉致され無残な遺体として発見されたという情報が日本全土を騒がせている他、みらい団の要求や目的、動悸は未だに分かっておらず警察も手をこまねく状態。そんな中みらい団を主にターゲットとした国際外秘密組織部隊、IOSOが事件を解決する為陰で奮闘していた。


「最近、みらい団ってかなり過激になってきたよな」

「ホントホント、もうどこの店に行っても手荷物検査やら本人確認書類を提出しろとか」

「早く片付けてくれよって話だよなー」


 政府や国を動かす重鎮だけでなく一般市民も拉致されることがあり、その場合は遺体で見つかることは少なく行方不明になり一生見つからないまま公訴時効がきてしまうかみらい団に何故か入団して故意に姿を眩ましていることがある。その者達は皆インターネットを通じて時には公共の電波を使い声を大にして言うのだ。


『みらいを見据えよ』


 拉致被害にあった者の様子は誰もがどう見ても、まるで洗脳されたように変わり果てていたという。

 「異能力が使える世の中なんだ、そんなこともきっと容易いだろう」そう呟く一人の男がいた。異能関連の話は決して明るみにしてはいけないことを平気で公然の前で口にする背の高い男に、隣に座っていた小柄な男は相手に向かって脇腹を肘でつんつんと突く。


「そういういのは人がいるところで言うもんじゃないよ、波木(なみき)


 小声で伝えるも相手は動じず真顔のまま「そうだな」同意の様な言い方をしながらも今一度己の胸に手を当てて何かを考え耽っている。


「だがそうとは思わないか、矢島(やじま)。実際問題、拉致された一般人のほとんどはみらい団の一員としてテロ活動を行っている。それしか考えられんだろう」


 相手の図体と比例して椅子が小さく、座り心地が悪そうに身じろぐ波木と呼ばれた男は小柄な男の頭上に頬杖をついて言葉を繋げる。矢島と呼ばれた青年はそれが心底嫌だったのか瞬時に相手の手首を掴んで勢いよく払いそこからまたいつものルーティーンとしてガミガミお説教タイムが始まっては、それを予測していた波木は耳栓を取り出すとおもむろに自分の耳につける。


 矢島が波木に対してこれまで溜まりに溜まっていた不満や意見に皮肉を混ぜてぶつける中、その右隣に座っていた女性はそのシチュエーションをつまらなそうな顔をしてちら見をしてから、天窓から覗く青い空をじっと眺めた。その様子に気付いた波木は、説教をおかまいなしに耳栓を外してテーブルに乗っかっている彼女の手をちょんちょんとつっつき、それに気づいた素振りでゆっくり波木を見た彼女はどうしたのかと首を横に傾ける。


「なにを見ているんだ、早海」


 彼が口を開くと早海と呼ばれた女性は波木を横目に、窓から差し込む太陽の光に眩しそうに目を細めた。


「空を見てる」


 淡々と答えた傍で波木は自分もと上を見上げてしばらくの間黙りこくる。矢島は波木の様子を見て話しを聞いていないとやっと気づき怒りを露にしながら気を落ち着ける為にと追加のドーナツを買いにレジへ行ってしまった。


 そんな彼の背中を二人して見送った後、光によって煌めく窓ガラスから覗く太陽をひたすら眺めていたが波木は次第に飽きてしまい、欠伸をひとつするとテーブルに伏せて寝てしまう。彼女は右から左へ流れる白くてふわふわした雲が流れる様子を、青天と共にじっくりと観察する。


 しばらくして矢島がとても嬉しそうな表情を浮かべながら、両手いっぱいにドーナツ入りの箱を抱えて帰ってくる。椅子にどっさりと座り込みチョコがぎっしり詰まったドーナツ片手に彼女の目の前に差し出した。


「ちーちゃん、チョコリング食べる?」

「…食べる」


 彼女はゆっくりと頷いてドーナツを受け取り、口に運ぶ。


 この店のドーナツは特にチョコレートが人気だそうで、とても良い香りがして美味しいと今SNS上で最も話題が湧いていると矢島に紹介された二人は休憩の時間を使って訪れていた。甘い物好きの人は絶対にここを知っているとまで言われているくらい盛況しているそうで、朝昼晩テレビで何回もCMをやっている程売れているらしい。数年前の事件から一変リニューアルされ店舗も一新した店は以前と全く同じ場所で経営していた老夫婦の息子が跡を引き継ぎ、ここでまたドーナツを売って賑わせている。


 彼女は一口、また一口とチョコレートでコーティングされたドーナツの上にチョコスプレーが施され、更に中にはチョコソースが入っているというなんとも甘ったるいドーナツを頬張り。全て食べ終わるとお腹をぽんぽんと軽く叩いて使い古されたハンカチで口を拭いてから、新品の腕時計を一瞥し時間を確かめる。

  

 時刻が午後一時をまわったところで一息つき終わったタイミングに、波木のうなじ辺り、頚椎付近を狙って彼女は思いきり鈍い音が鳴るチョップをかました。すると彼は図体の大きい体をのっそりと起き上がらせて、前髪を荒々しく掻きながら大きな欠伸をひとつ。その一部始終を遠巻きに観察していた矢島は二人を見据え、呆れながら口にする。


「相変わらず起こし方エグいね」


 波木達はお互いに目を合わせるとまた矢島の方を見てきょとんとした顔を浮かべた。受け応えも毎度のことなので、矢島は面倒そうに「なんでもない」とヒラヒラ手を振る。


 矢島が最後に大好物のホイップドーナツを平らげる所を確認し終わると、波木はポケットに入れていた携帯を取り出し時刻を確認する動作を行うが、まだ眠気が残っているのかぼやけてよく見えずに目を凝らした後、やはり見えなかったのか唇を薄く尖らせて大人しく携帯をズボンのポケットに仕舞う。


「俺を起こしたということは、そろそろか」


 ジャケットを丁寧に直しぐしゃぐしゃにした髪を綺麗にオールバックに整え、テーブル下からジュラルミンケースをひょいと軽く持ち上げてから波木は彼女にそう言うと、また彼女もそれに頷いて答える。矢島は半分やる気がなさそうに背伸びをしてから黒い手袋、深めの帽子を装着し身支度を済まし彼女も倣って自分のネクタイをしっかりと締め席を立つ。


 店を出てからすぐ脇の路地裏を進むにつれ、昼間というのに街灯の無い裏道は薄暗い闇に包まれていた。波木を先頭にして三人は目的地である廃ビルへと足早に入っていくが、そこも光が一切指すことが無い真っ暗闇の空間、長い事放置されていたのであろう生臭い血だまりのような臭いに混ざり、微かに硝煙と肉の焼け焦げた悪臭。


 とても自分から入ろうとは考えられない場所に、IOSOが抹殺するべくみらい団のアジトの一つが存在する。こんな所に身を隠す者は頭でもおかしくなった奴か、よっぽど存在を知られたくないかの二点だと矢島は毒づくほどに荒れ果て、勿論人っ子一人として気配は無い。


「う…いつ来ても最悪。こんな所を寝床にしてるとか精神疑うよ」


 鼻を突き刺す臭いにたまらず鼻を左手で塞ぐ矢島、立ち込める臭気に少し咽た彼女は苦しそうに辺りを見渡す。波木は悠然とハンカチーフを取り出すと彼女の鼻に当てた。


「有難う」


 ハンカチを受け取り小声で礼を述べると相手はごく僅かに笑みを浮かべ、再び界隈の探索に目を向ける。手持ちのライトを点灯させると眩しい位に視界が開け、周囲の窓や扉は太陽の光が入って来ない様になのか、または本来の入り口以外侵入させない為か、わざわざブラックシートや木の板を打ちつけてあり一層不気味さが四方に漂っていた。


 腐った木材に散らばったコンクリートにボルト、廃ビルといってもこの有様から考察するに、使われなくなってからかなり月日が経っているように思われる程廃退しており、至る所に木くずが舞って、矢島は再びむせかえってしまう。


 みらい団の差金による自治体への圧力か、はたまた個人で所持しているものなのか明確には解ってはいないが、取り壊されることなく都会の一角にそびえ立つこのプレースは、一見目立っているようでどういう理由か忘れられている。現にこのビルが売りに出されている情報をキャッチしたことはなく、彼らはずっと前からこの付近にアジトを建設する予定だったのだと改めて憶測する波木。

 

 矢島は二人を残し周囲を警戒しながら少し奥へ進むと、かなり開けた空間に辿り着いた瞬間何かの気配を察知する。その方向へ目線を転向すると、とっくに電気などは通っていないはずにも関わらず遠くにうっすらと光源を見つけた彼は、すぐさま二人に知らせようと後ろを振り返った。瞬間、入ってきた方位に彼の後を追って早海と波木がついて来ていた筈が、その間には光の角度により陰って顔が見えない人影がそこに存在していた。


「やぁやぁ皆様、私をお探しで?」

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