88話:文化祭、前編。本日はよろしくお願いしまにゅ
前回までの作者心境のあらすじ:さっくりと終わらせるはずだった文化祭編。しかし前期修了と打ち上げで長くなりすぎて二話分割になったり、「イベントは準備が苦しくて楽しいところだよね」と準備で一話を使ってしまう。さらに文化祭自体でも調子に乗って三話になってしまい、不安になってしまうのであった。
文化祭当日。お天気良好。今日も朝から人がいっぱい。
季節的に夏のイベントを思い出すぜ。半袖で駐車場待機して両腕火傷した思い出……。炎天下でシャッター並んで気を失いそうになりながら頭に水を被った思い出……。調子に乗って部数作りすぎて泣きながら家に発送した思い出……。酷い夏風邪引いて風邪薬飲んでマスクで無言対応でスペースで死にかけた思い出……。打ち上げで酔っ払った勢いで酒飲み作家のビールを奪って「うぇ~い」と飲んではしゃいだ思い出……。匿名掲示板でつまんねと叩かれまくり、それをみんなにからかわれた思い出……。
ろくでもない記憶しかねえ! 私は死にたくなった。鬱だ氏のう……。
「何をしてるんですかお嬢様っ!」
「離してくれルア! 私はここから飛び降りて今から死ぬ! そして男の娘になるんだ!」
どぽん。私は学園の噴水の中へ飛び込んだ。
ああ男の娘に生まれたかった。男の娘ときゃっきゃうふふしたかった。それが私の最後の記憶、いや最初の記憶かもしれない。おっさんだったはずの私は、噴水から引き上げられた時には幼女になっていた。
「何してるんですかもーっ! はしゃぎすぎですよ!」
「ちょっと自分の中の闇が押さえきれなくなっただけだ。過去を殺したくなることくらいルアだってあるだろう?」
「ないですよっ!」
たわわに発育途中の十三歳のお姫様メイドには黒歴史がなかったようだ。
ロアーネ。ロアーネならいっぱいありそうな気がするな?
「黒歴史……闇に葬られた記録ですか? オルビリア宮殿にて昔、地下に閉じ込められた双子の王子が……」
「あー! あー!」
それ昔にも聞いたホラー話じゃん! やめろって!
私は身体に服の上からバスローブを着せられて、ルアに髪の毛を水魔法で吸い取られて乾燥され、ブラシをしながらドライヤーの魔道具でぶおおと乾かされていく。
「君、はしゃぎすぎて噴水に落ちたんだって? 気をつけるように。 おや? 面白い魔道具を使っているねぇ」
見知らぬ細身の先生が現れ、ルアの身体をじろじろと見た。ふむ? 変態教師か?
「なるほど。熱風を出すだけの魔道具か。このようなもの、道具に頼らぬとも魔法で使えば良いと思うが」
細身先生が手を指揮者のように振ると、私の髪の毛はふわふわと浮き上がった。ほおお。髪が! 頭が軽い!
「私は普通の魔法が使えないから工房に頼んで作ったんです」
「そのような生徒がなぜ魔法学校に……いや、虹の髪。なるほど。君が四本角大山羊殺しの姫なのだね。噂は聞いているよ」
おお!? アスフォート殺しの姫! この二つ名ちょっとかっこよくない!? にゅにゅ姫とは違う!
「そうです。私がアスフォート殺しの姫です」
ふふん。私はぺたんこな胸を張った。しこりのない二次性徴がまだこないぺたんこである。
「ホゴロフ氏に聞いたよ。面白い魔道具案の公表をしているそうだね。楽しみにしているよ札遊び愛好会」
おお! おじいちゃん教官は宣伝してくれたのか! 細身先生ばいばーい! 髪の毛ふわふわにしてくれてありがとねー!
さて、気を取り直して。
文化祭といったらコスプレだよな! と思ったら、なんかそういうノリではなかったようだ。そもそも普通にメイドさんとかコスプレちっくなのがいるしな。
「おーっすヴァイフ少年。本日はよろしくお願いしまにゅ」
「お、おう。なんだ今日は。またチリソースでも食べたのか?」
「ええからええから。それじゃあ午前中はソルティアちゃんと一緒によろしくね。私の予想だと多分暇だろうけど」
「暇なのか?」
こくり。
こういうイベントはね、みんな大手を見て回るものなのだよ。私たちみたいな木っ端は酔狂な人が外れた時間にぽつぽつと現れるものなんだ。だからピークは十二時前後。他の時間は隣のサークルの女の子と楽しくのんびりお話しするのさ!
「隣は筋肉魔法研究部だぞ」
ごくり……。ちらりと隣を覗いたら、ムキムキがムキムキしていた。でもほら、女の子が鍛えるのも流行ってるみたいだからね。ね。
「そうなのか? だからにゅにゅ姫はそんな見た目なのに身体を鍛えてるのか」
そんな見た目? ま、まあマッチョ女子は髪の毛を尻まで伸ばしてキラキラさせていないだろうけど。
この長過ぎる髪の毛、邪魔過ぎるのだけど、ほら、魔力は髪に宿るってファンタジーでは言うじゃない。まあ実際私の髪は魔力が豊富で、豊富すぎてま漏らししているようだけど。昔に侍女リアに反対されたのもあって、髪の毛もさもさのままである。
「お隣のカードゲーム愛好会でーす。本日はよろしくおねがいしまーす」
コピ本ならぬ会誌を交換し合いたいところだが、残念ながらレーザープリンタはこの世界はまだ未実装なので、印刷となったら印刷所への持ち込みとなってしまう。なので存在しない。コピー魔法があれば便利なのにさすがにそれは魔法に求めすぎか。
「よろしくぅ! オレたちの研究成果を見てってくれよな!」
むきっ。上腕二頭筋すっげー! そこを掴んだらなんと私はぷらーんと持ち上がった。筋肉魔法すげー! いや、ただの筋肉だろこれ。騙されないぞ。
どれどれ。魔力に置ける筋繊維への影響。ほほう……。気づいたら私は興味深い筋肉レポートを読み込んでいた。
要するにこうだ。魔力を体内に循環させる魔法器官は筋肉素(おそらくタンパク質のことだと思われる)を消費する。そのため魔法を使いすぎると身体が成長しなくなる。なので魔法使いはヒョロガリとなる。肉を食って筋肉を育てよ!
「肉以外にも大豆もいいよー」
「ダイジュ? なんだいそれは?」
「えとねー。東方の国の丸くて白い豆でねー。調味料にもなる。筋肉素が豊富なんだよ」
「本当かい!? 今度市場でダイジュを探してみるよ! ありがとう!」
むきっ。きんにきゅ……。きゅん。私は筋肉にときめいた。だってしょうがない。男は筋肉に憧れるものだから。
さてさて。反対隣はというと。人形劇団?
「ほんじゅちゅはよろしくおにゃがいしにゅにゅ」
油断するとすぐ噛みまくるお口なのであった。私はほっぺをむにゅむにゅする。
「いらっしゃーい。お隣さんねぇ?」
アイシャドウなスレンダーお姉さんが出迎えてくれた。
お姉さんは両手をわしゃわしゃと動かすと、テーブルの木製のデッサン人形みたいなのが起き上がって両手をピンと伸ばしたあと胸に手を当ててお辞儀をした。
す、すご! ゴーレム!? 木製ゴレームじゃん!? あやつりごれーむじゃん!?
私がパチパチと手を叩くと、お人形も私の真似をしてパチパチと叩き出した。
「どうやってるの!?」
「ふふー。お人形に命を与えてるのよぉ」
やっぱりゴレムー! ゴラムーじゃん!
しかしよく見ると手からキラキラした糸が人形に伸びていた。糸繰り人形かい!
「あ、見つかっちゃった? 糸で魔力を伝えてるの。魔道人形よ」
魔法で動いてるんだ! かっこいい!
でも遠隔操作できないのかな?
「糸ないと動かないの?」
「それはお姉さんでもできないわねぇ」
糸無かったら色々できそうなのにな。しかし有線の方が信頼できるか。有線誘導ミサイルみたいに。
人形操作体験できるみたいなので、私も指に糸を括り付けて試してみた。
「指に魔力を通すと動くのよぉ」
どれどれ。動け! ……すーん。
おーい人形さん?
人形さんに呼びかけてぴょんこらと跳ねたら、人形も一緒にぴょんこら跳ねた。
「おお! ジャンプした!」
「え、すごい」
ちょっとわかってきたぞ。頭の中でイメージするのだ。
私は苦手な宮廷ダンスをイメージした。のったのったしながら人形が踊りだす。ふむ。リズム感のない私みたいなステップだ。
「え、すごい」
手にしていた糸がこんがらがってきたので指から外すも、人形はそのまま華麗に踊り続けた。ふむ。一度イメージを伝えるとそのままになるのか。
「え、なんで」
だとすると農作業。農業ゴーレムとかできそうだね。鍬を持ってえっこら掘り続けるイメージを伝えれば広範囲を自動的に畑にしてくれそう。
私が畑で鍬を振るおっさんを想像してたら、人形はダンスを止めて鍬を振る動きをし始めた。
いやいや待て待て。その動きはしなくていいから。
私が人形に落ち着けーと両手を伸ばしたら、人形も私に向かって落ち着けーと両手を伸ばした。
「こいつ真似っ子する!」
「なんで糸なしでそんな精細な動きが……?」
あれ? もしかして間違ってる? 精霊魔法(仮)で動いてる?
「人形さんおしまいだよー。座ってー」
人形さんは足を伸ばして机の上で座った。
ふむ。やはり精霊魔法で動いていたようだ。最初から動かし方を間違っていたかもしれない。
「何か間違えて思念で動かしちゃったみたい」
「え、すごくない? どうやったのかしらぁ? お姉さんに教えて?」
「この人形は精霊が宿ってるみたい。人形の精霊?」
人形がうんうんと頷いた。
んー。ホラーに見えてきてちょっと怖いぞ。
お姉さんに精霊魔法のことを教えると、「人形劇で世界を狙わない!?」と熱く勧誘されてしまった。
それも面白いかもと思ったけども、人気者になってあちこちで公演することになったら移動の乗り物酔いで死にそうになるので無理だね!
「お姉さんもがんばるわねー」
私がお姉さんに手を振ると、人形も手をふりふりと返した。




