85話:一年前期修了
ふんふふ~んふふ~ん♪
私はノートの空きスペースにもこもこぽぽたろうや、ルアメイドデフォルメ顔を書きくわえて、吹き出しに「注目ポイントですっ」など書き加えた。講義は一週間後の前期試験対策の復習に入っている。
気分良くかわいいノートにしていたら、ヴァイフ少年に覗き込まれた。
乙女の秘密のノートを覗くとは!? 秘密でもなんでもない、授業ノートである。
「にゅにゅって絵が上手いよな」
「ふふーん」
おっさんがノートにゆるキャラを書き込んでいたらドン引きされるが、今は九歳ぷにぷに幼女なので良いのだ。
「おれも絵を描くのが好きなんだ。故郷の教会の入り口の雰囲気が好きでさ、毎日通ってたんだ」
「いい心がけですね」
教会と聞いてロアーネが話に混ざってきた。宗教が関わると面倒な子になるので、ぽぽたろうを顔に押し付けて黙らせた。
「それじゃあ画家になるの?」
「うーん……どうかな。でも親父は秋から中学校へ行けって言うんだ」
「じゃあ魔法学校は前期だけなんだね」
ルアもそうだが、前期の半月の証だけ受ける人は多い。感覚的には原付き免許みたいな。違うか。
「おれは後期もいたいのだけど」
「その前に前期試験大丈夫?」
「うっ……」
午後の講義が終わってカードゲームしようぜ! と思って側に来たのだろうけど、ヴァイフはお勉強しないと追試になるぞ。
「あ、あのっ! にゅにゅちゃん、ちょっといいかな……」
「ぬ?」
ヴァイフ少年と同じくらいの線の細い少年が、机越しに私の前に立った。よく実技練習の貴族レーンで見かけた事がある。
「なに?」
「ちょっと席を外してくれる?」
ふふっ。なんだいなんだい。またか。
こう見えて、いや、この通り私はかなりモテる。才能あふれる将来有望の美少女だからね。私がわざわざ学校へ通っているため、周りは私が魔法職になると思っているようだ。魔法職になるために通うのがほとんどで、二年生以降の研究職に着こうする女子はほとんどいないせいだ。……薬草園にいたおっぱい白衣研究員や、魔道工学志望の同級生のエンマちゃんみたいな子もいるけど。
そういうわけで、私は卒業後のスカウトを年上の人からよくされている。商品開発の企業や、流通業、商会、メイド、お嫁さん。
今日の誘いは歳が近いから、婚約の誘いかな? いやぁモテる女は辛いねえ。ふふん。
貴族の男はほとんどが学者志望だ。私はオタクに優しいおっさんなので、無下に振ることはできないのだ。
私はてっこてっこと貴族少年の後についていき、人気のない廊下の影で止まった。
貴族少年はもじもじしている。
「それで、何の話?」
話はわかってるんだけどね。わかっていて当然断るつもりだけど、黙ってても話が進まないので急かさないといけないのだよ。
「ご、ごめん。ええとさ。話っていうのはその……」
モテ女子になってわかったことだが、知らない男からの告白って面倒だな。せめてカードゲームに誘ってからにしてほしいよね。それじゃあヴァイフ少年になるか。ヴァイフ少年から直接告られたことはないけど。やはりルアの勘違いでは……?
「ソルティアさんと仲良くなりたいんだ!」
私じゃないんかい! 得意気に付いてきてはずかち!
私は平静を装い、「もちろん知ってたけど?」という無表情ロリをキープする。
「仲立ちして欲しいんだけど」
うーん。別にいいんだけど。しかし男に渡せない訳もある。ソルティアちゃんはかわいい私のハレム要員……ごほん、メイドさん候補なのだ。以前「就職先に困ったら私のところへくる?」と尋ねてみたら好感触だったのだ。
オルバスタは令嬢芋とカード事業でちょっとした好景気なのである。しかも鉄道が開通したばかりで、ちょっとした開発ラッシュが起こっている。
ティンクス帝国に工業都市ロータブルトを半年近く取られていたため、ティンクス帝国やロータブルトから近いオルバスタが第二の工業都市になりつつあるのだ。ちなみにロータブルトはベイリア帝国が取り返し、ティンクス帝国軍を押し返している情勢らしい。そろそろ戦争終結しそうだ。
で、なんだっけ?
「でもソルティアちゃんは故郷を大事にしているから」
「そ、それが何?」
「君は学者志望でしょ?」
ソルティアちゃんの故郷は魔物の巣の最前線である。ふわふわピンク髪だけどああ見えて山育ちの狩人みたいな少女だ。学者さんとは長所と短所を補うというより、短所と短所がぶつかり合うだろう。
「ということで、家を守ってくれる普通のお嫁さんを探した方が良いと思うよ」
「いや僕はそんな……仲良くなりたいだけで……」
「でも今ごろ仲良くなりたいってそういうことでしょ?」
下心なくただ友達になりたいだけだったらこんな私を使わず、そもそも実技の時間では側にいたのだから話しかければよかったのだ。こんな私を呼び出す必要もない。私が思春期の恋愛を忘れてしまっただけかもしれないが、こんな時期にまどろっこしいこと巻き込まないでほしいというのが本心である。乙女心から最も遠い位置にいる魂なのである。
「どんまい、えっと……タニシくん」
「タリッジです……」
「まあ気が向いたら取り持つよ」
私がタニシ少年の肩をぽんぽんと叩いて慰めていたら、ソルティアちゃんがひょこっと顔を出して「にゅにゅ姫お話終わりましたー?」と声をかけた。
ちょうど良い。せっかくなので役目を果たしてみる。
「タニシくんはソルティアちゃんと仲良くなりたいそうだよ」
「えー? ほんとですか? タニシくんも四本角大山羊狩りに興味がありますか!?」
「ほら、こういう子だよ?」
戦闘民族だよ?
彼女はこっそり私の放ったアスフォート殺し《マジックアロー》を練習しているのだよ?
「四本角大山羊はちょっと……」
「じゃあ雪巨人ですか? 雪巨人は伝説上の魔物とされていますけど、雪が積もった熊ではないかと言われてまして――」
うんうん。私はソルティアちゃんの手を引っ張って教室に戻った。
この子と一番相性がいいのは多分英雄魔物マニアを父に持つルアだと思う。後期は絶対仲良くなる。そしたらその二人に私は挟まれる……? ぷるり。
――そして数日後。お日様眩しい七月半ば。前期試験が行われた。
もちろん私達は全員合格である。わぁい!
……実はというか、やはりヴァイフ少年が赤点ギリギリだった。問題文が授業で習った古語による魔法学なので付け焼き刃はかなりきつい。とはいえ、小学生の年齢で半年で習った内容で合格できるテストなので、大人からしたらめちゃくちゃ簡単だろうけどね。まさに基礎だ。
実技は試験日があるわけではなく、おじいちゃん教官が日頃観察して、安定した子に合格を出していた。私は最終的に、二秒でコインサイズの魔力弾が撃てるようになった。えへん。
そして実技はアフロビリーが危なかった。的への命中率が低く、今日の最終日までもつれこんだ。ビリーへの課題は、五発中四発の命中であった。かなり難しい。
ビリーは緊張の面持ちでレーンに入った。私たち応援組と、ビリーと同じく最終試験組の視線が集まる。
一発二発三発とビリーは規定サイズの魔力弾を一秒で発射し的に命中。しかし四発目は急ぎすぎたのか的を大きく外して後ろの壁に当たった。
「ビリーがんばれー! 深呼吸!」
魔法使いは魔法器官が心臓にあるため、脈拍によって魔力にブレが生じる。ビリーは普段、射出方向を気にしない氷魔法を使った仕事をしていたためか、射出の経験値自体が低い。
五発目の発射。しかし発射は乱れ、的の中心から大きく外れた。が、ギリギリ的の縁にかすったようにも見えた。
おじいちゃん教官の判定は……!?
「黒いの。君は氷魔法使いだったかね」
「はい。魚の冷凍してますた」
「それならまあ良かろう。氷弾射出はよう練習するまでは使わんようにな」
「はいせんせい。ありがとございますた」
「うむ」
やったーおめでとうビリー! 私が手を伸ばしてハイタッチしようと手を伸ばしたら身体を持ち上げられた。ぷらーん。やめぬか!
「おーごめんなサイ。うかれすぎたです」
私を下ろしたビリーへ、ロアーネは嫌がらせのようにべしべしと魔法弾を撃った。「あぅおぅ!」とビリーがアシカのようになってるけど大丈夫かあれ。
そんなことよりこの後は我が家……モランシア家で打ち上げじゃあ! お肉ー!
「ゴンゾーも来るかい?」
「いいのか?」
いいぜー! ヤフンの話とか盛り上がるに違いない。難しい単語は私が翻訳してもいいし。
「なになに~? 楽しそうね~」
おっぱい白衣研究員! お姉さんも来る?
「ごめんね~。研究発表の準備で忙しいのよ~」
そう! 講義が終わり夏休みの前にイベントがある! 一週間後には文化祭なのだ! いえーい!
文化祭は研究会が企業やお偉いさん方へ向けて成果発表するイベントなのでちょっとノリが違うけど。
しかし一年生は普通研究会には入っていないので、みんなエンジョイ側だ。
「にゅにゅちゃんのカードゲーム愛好会は何か出さないの~?」
「む?」
何か出した方がいいのだろうか。愛好会だけど……。というか魔法と関係ない……。
だがそうだなぁ。せっかくなら宣伝広告したいよなぁ。よし!
「みんなうちに来る前にちょっと学販に寄っていっていい?」
「おうよ! みんな待ってると思うぜ!」
ヴァイフ少年よ。遊びのために寄るわけじゃないぜ。カードケース取り出すの早いぜ。




