78話:ロリババア疑惑
全員がぎゅうぎゅうに席に座り、セクシー教師が手に持った鐘をくぁーんと鳴らした。講義室内のざわめきが静まっていく。
「これから学校生活に当たっての注意点を知らせておく」
花壇に入ってはダメだの、校長の銅像に魔法を撃ってはダメだの、子供か! と言いたくなるような注意が始まる。まあ私は子供なんだけど。しかしここまで幼いのは見られない。十五歳くらいが多いだろうか。
そして講義の話となった。座学は午後と翌日午前が同じ授業を行うようだ。この後の午後に最初の講義を行う。そして明日の午前も同じ内容を行う。
つまり、毎日午前、毎日午後、あるいは一日置きに講義を受ければ良いようだ。なんとやさしい!
と、言うのも働きながら通う人が多いためだ。
……待てよ。私なんかちょっと魔法学校を勘違いしてたかも?
午前は九時から十一時半。午後は三時半から六時。
科目は古語であるクルネス語。そして基礎魔法学。授業は一般クリトリ語で行われる。(ベイリアで使われるルイン語や、オルバスタ方言のクリン語とで大きな違いはない)
クルネス語が学科に入っているのは外国との共通言語しての役割が大きく、二年次以降の専門学で必要になるようだ。
座学は置いといて、それよりもみんな楽しみな実技。実技は午後一時から三時となる。
講義室から出て、ぞろぞろと歩き、入学試験を行った広場へ出た。
そこではおじいちゃん教官が待っており、半円状に広がって囲んだ。
「ほろひは人がおおひほう」
ギリギリ何言ってるかわからん。
おじいちゃんはゴソゴソとバッグから入れ歯を取り出し、装着した。
「これから君たちに課題の手本を見せる。見逃さんように」
聞き取れるようになった。最初から入れ歯はめとけや!
おじいちゃん教官は「魔力弾 射出」と唱えながら的に手を向けて、そして小銅貨サイズほどの小石のような魔術弾を発射。的にすこんと当てた。
なんでもない課題に見えるが……。しかしなるほど、淀みのない魔力操作と速度、それに制御力。一見簡単そうに見えるが基礎が詰まっているってやつだな。うんうん。
「そう難しいことではない。夏までに今見せたようにできるようになればよい。それだけじゃ」
というと約四ヶ月か。ふむ? 四ヶ月これだけ? 思ったより地味だぞ?
「そこの少年。前に出てやってみなされ」
「え? 俺?」
ヴァイフ少年が指されて呼び出された。戸惑うヴァイフ少年に「がんばれ」と声をかけて背中を押した。
ふぅ。私じゃなくてよかった。
ヴァイフ少年はおろおろしながらレーンに入り、的に向かって手を伸ばした。そして手に魔力を集める。発射した魔力弾は課題の通りの大きさと威力だった。
「よし!」
「魔法を放つまでが遅すぎる。次はその隣の、髪が長いの」
髪が長いの? きょろきょろ?
「呼ばれてますよ」
「ぬ?」
やっぱり私か! 回避できなかった。
落ち着け。この人数の前で漏らすのはいけない。初日から生きていけなくなってしまう。
いやもう入学試験で多くの人に見られてはいるのだが……。
「ふぅ」
速度と威力。手を持ち上げながら唱える。
「まーじにゅあり にゅてあ」
爪先くらいの小石がぽんと飛んで、10メートル先で消滅した。
「威力が足りなすぎじゃな」
しょんぼり。
むぅ。しっかりと魔力を練れば威力は出せそうだが、早さを求めるとその時間が足りない。
今まではしっかりと魔力を集めて放つことしかしてこなかったから中々に難しいぞ。
「では次。やってみなさい」
おっ。ロアーネの番だ。
ロアーネと入れ替わり、そして、ロアーネはあっさりと魔力弾を放った。課題通りの早さと威力で。練習なしで合格じゃん。
おじいちゃんは目を見開いてぷるぷると震えだした。
「貴女様はまさかロア……」
おじいちゃん教官は慌てて口に手を当てて、つぐんだ。
んー……もしかしなくても知り合い? ロリおばさんじゃなくてロリババアの可能性が高くなってきたぞ?
「ドロレスです。ご教授よろしくお願いします」
「ん。うむ。今の魔力弾は合格だ。安定した魔力弾を撃てるようになったら基礎前期課程修了の半月のピンを与える」
おじいちゃん教官はぷるぷるしながら半月の形のピンを取り出し、ロアーネに渡そうとした。
ロアーネは「まだ何も教わっていませんよ」と微笑んで受け取りを拒否した。
なんかおじいちゃんがかわいそうだよ!
なんだか雰囲気的に、おじいちゃんと同期というか、おじいちゃんが弟子だったかのように見えるんだけど。そうだとすると、おじいちゃんが六十歳だとしても……。
「何かまた変な事を考えてます?」
「ろあ……ドロレスの年齢の事を」
「十五歳ですが?」
そうだったドロレスちゃん十五歳だった。ロリババアなんていなかった。ふぅ危ない危ない。
昼まで少し時間あるから、このあと実習体験となった。
ぞろぞろと十個ある的当てレーンに人が分かれていく。私はなんとなく入学試験で使った右端のレーンに向かった。そこには他よりもなんか身なりが良い人が多い気がする。なるほど。入学試験では貴族枠で使われてたので自然とお貴族様がここへ集まってきたようだ。全レーンが均等に二十人くらいになった。
私はもうさっき試したので、とてとてとのんびり向かって最後尾に付いた。
最後尾にいたピンクブロンドな髪の女の子が振り向いた。
「あっ」
てこっと会釈したので、私もてこっと会釈を返した。
あらかわいい。
「にゅにゅ姫ですよね? わぁ! お会いできて嬉しいです!」
にゅにゅ姫広まりすぎ!
私より少し背が高いこのかわいこちゃんは、ソルティアちゃん十歳。ちっこい村の子爵家の娘でメイドさん修行に来たようだ。
メイドさんになるために魔法学校に来るというのが不思議な感じだけど、ルアもカンバも通っていた
そうだから必要なんだろう。安定した魔法が使えないとメイドさんにはなれないのかな。
待てよ。そうすると私もメイドさん候補に見られるのか?
ご主人さま候補が私のことを狙ってたりするのか!? きょろきょろ。
「どうなされましたか?」
「虫を探してる」
「虫ですか?」
ロアーネが「変な言動には付き合わない方がいいです」とソルティアちゃんに告げた。変じゃないもん。
「にゅにゅ姫は変わったお方なのですね」
「にゅにゅ姫じゃなくてティアラ」
「ティアラ様とおっしゃるのですか? 少し名前が似ておりますね!」
言われてみれば!
私達は両手を掴んでくるくると回った。友好の女児ダンスは必須項目である。
キャッキャウフフしていたら、隣のレーンからどごーんと爆発音がした。なんやなんや。またかやったんか? 人集りで背伸びしても前が見えない。んにっんにっ!
そしたら急に背が伸びた。隣にいた黒アフロのビリーに身体を持ち上げられたようだ。
「持ち上げマスしようか?」
持ち上げてから言うなよ。美少女の身体に勝手に触るとか死罪じゃぞ?
まあ許すけど。どれどれ?
ふぅむ。的がもうもうと黒煙を上げている。魔力弾を飛ばす実技なのに、また爆発させた奴がいるようだ。まさかそんな現実で「的を攻撃する課題だから爆発で範囲攻撃しただけですが?」みたいな奴がいるとは。
そしてそいつはちっこい角の生えた黒髪の黄色人種の男だった。まさか。まさかな? 私と同じテンプレを知っている者ではあるまいな?
関わらんようにしとこ……。
すぐさま的が整えられていくのだが、おじいちゃん教官は叱ったりしないんだな。
新入生だから多目に見られているとか? 意外と魔法を暴発させる子は多いとか?
最初にやる課題が魔法制御なのだし、それをクリアした子はメイドさんなど魔法を使う職に付けるということは、こういう暴発させる子を教育するための学校といえるのかもしれない。そうだとしたら最初からいちいち叱ってたらキリがないわな。
あそこまでの爆発はないにしろ、ちまちま他レーンからどかんどこん聞こえてくる。みんな爆発くんに影響されてない?
その点、貴族レーンは物静かだった。すでに訓練されてる感ある。私もそういう環境だったしな。
それと、なんていうか貴族レーンの少年たちは優等生感ある。横暴な「俺様は貴族だ!」みたいなのはいない。勉強ができる子って感じ。もしかしたらみんな魔法学者候補なのかも。
「また考え事ですか?」
「もしかして私も頭が良く見られてるかも」
照れる。
「見た目だけなら、はい」
見た目だけ!?
レーンに入り、今度は威力を意識して集中してみたものの、今度は発動までに五秒くらいかかってしまった。しかし大量放出してないので素晴らしい成長であるのである。
ソルティアちゃんは逆に一秒くらいで撃ってたのに拳くらいの魔力弾をぽこんと飛ばしていた。むぅ。幼女ながらライバル心高まる……。
シュレディンガーのロリババア
年齢を知るまではロリの状態とババアの状態の両方で仮定される




