75話:急降下爆炎
意気揚々とパパに戦果報告したら、パパにお尻をぺちんとされてしまった。えっち!
私はしょんぼりとソファでちっちゃくなって、経緯を話した。
――ほんの一時間ほど前。
なんだかんだでにゃんこに乗って飛べたら移動がめちゃくちゃ楽だよね。
そう考えた私は、騎乗を安定させるために、翼ライオン専用の鞍を職人に作らせた。
これでどこまでも飛べる!
「ドルゴンの飛べる距離って短いですよっ?」
なんやと!? ルアに出鼻をくじかれた。
ドルゴンの飛翔は鳥を捕るため。または山羊や熊など魔物の質量攻撃の脅威から逃げるため。特に険しいシビアン山脈では短時間でも空を飛べるのは圧倒的なアドバンテージだ。
ということで実はそんなに飛べないらしい。旅行の時に常に飛んでいたような気がしたが、ずっとにゃんこのこと見てたわけじゃなかったしな。飛び続けていたわけじゃなくてちょくちょく着地して休んでたのか。
さらに鞍の重さと私が乗ることで重量がドン。果たして飛べるのだろうか?
そもそも鞍を付けることを嫌がった。
「ぶるるるっ」
「うわ! 燃えてる!」
鞍に使った革の一部が溶けてぐんにゃりしてしまった。むぅ。
「にゃんこちゃんはお嬢様に直接座ってもらいたいのですねっ」
「ロリコン変態えろにゃんこめ!」
美少女のお尻を堪能しているというのか!
おそらくそういうことなのだろう。私のお尻から魔力吸収しているのだ。ああ、だから私を乗せて歩いても平気なのか。
ということで、せめて身体のバランスのために鞍と一緒に作られた縄で身体をくくりつけることにした。あとにゃんこのたてがみの一部を三編みにして輪を作った。これで掴みやすいたてがみ手綱ができたぞ。
「それじゃ行くぞにゃんこ!」
「んなぁ~」
私は頭のゴーグルを目に装着した。ヘルメットの紐オッケー。マスク装着オッケー。おーるれでぃー。
飛行実験開始!
裏庭をドドドドドと滑走し池のほとりで跳躍! 離陸成功!
「ひゅおー!」
例えるなら空飛ぶバイクである。風防がないと風がすごいぞこれ。わかっていたから装備がなんとかの谷の青き衣をまとった少女みたいになっている。ガスマスクじゃないけど。
『にゃんこまだまだ飛べる?』
『なうなう』
飛べるようだ。
私が魔力タンクになっている状態だが、自分の残量がわからん。にゃんこに『疲れたら伝えてね』と手に魔力を込めて思念を伝えた。
しかし一向ににゃんこの反応はなく、お散歩が楽しいようで飛び続けた。私の魔力大丈夫か。
太陽が眩しいのでなんとなく北に向かって飛んでいたら、たこ焼きのように盛り上がった焼いた土のトーチカが眼下に見えた。
なんじゃろなと近づいてすぐにわかった。これはこの世界の戦場なんだ。
いつしかのにゃんこに喧嘩を売った憎き魔術師も、ドルゴンの炎を土のトーチカで防いでいた。おそらくポピュラーな防御魔法なのだろう。
地面の土を盛り上げているので塹壕のようにもなっている。たこつぼだ。するとやはりたこ焼きだなこれは。
たこ焼きトーチカに向かって銃弾が発射されるが、距離がありすぎてたこ焼きにダメージはなさそうだ。しかし敵のティンクス軍のたこ焼きは連なってすでにくっついた塹壕になっているので、塹壕が遅れているオルバスタ軍の方が不利そうだ。
しかし最前線より後ろの通路状になっている塹壕はたこ焼きの屋根がないな? これなら頭上から攻撃できるのでは?
『にゃんこ! あいつらに炎をお見舞いできる?』
すると『しっかり掴まっとけ』とにゃむにゃむ思念が返ってきた。
なるほど。地上に炎を吹くには下を向かないといけないのか。竜と違って首が長くないから、降下しないと下を向けない。
にゃんこはティンクス軍の頭上でぐるりとターンした。
『ぬおおー! 焼き払えー!』
塹壕に向かってにゃんこは炎を吹いた。ふははははっ! 突然のドルゴンの襲撃に慌てておるわ!
魔法や銃弾が空飛ぶにゃんこへ向かって飛んでくる。
当たらん! 当たらんわー!
「わぷっ!」
油断していた私のおでこに魔力弾が命中した。だが、パァンと魔力弾は弾けて消えた。あぶねえ。私の自動迎撃魔力バリアがなかったら、おでこに痣ができるところだったぜ。美少女に傷つけたら死罪である。もっかい炎を喰らえー!
しかしすでに水魔法や土魔法で防御されて、いまいち効果が薄いな? それなら後方の大砲も燃えちゃえー! ひゃっはー!
私がティンクス軍の頭上で暴れまわっていたら壊走を始めたので、私は満足しておうちへ帰ったのであった。
わーいわーいパパほめてー!
――そして今に至る。
「いいかいティアラ。危ないことはしてはいけないよ」
「むすー」
危なくないし……。いやしかし噂の弓スナイパーがいたら危険だったかもしれん。むぐぅ。
「しばらく謹慎とする」
「ふにっ!?」
「敷地から出ないように」
むぅ。やっぱりパパは甘かった。敷地ってめちゃくちゃ広いし。そもそも姫が外に出歩くのがおかしいし。空を飛んで散歩に行くのがおかしいし。
ほとんど不自由のない制限であった。
後日。
届いたベイリア新聞の見出しに『オルバスタ方面軍ティンクスに快勝!』と書かれていた。
きっかけは「ドルゴンに手を出したまぬけなティンクス魔法兵」とあったのできっとバレていない……。言論統制かもしれないけど……。
まあ「オルバスタの姫がドルゴンに乗って急降下爆炎した」とか書いても記者の頭がおかしくなったとしか思われんよね。
そして街遊びが禁止された私は暇になったので勉強に励んだ。魔法学校への入学を諦めていないのだ。そもそも小卒資格すら取れないのは、さすがに不味いことであろうなのだ。クール系アホ美少女はギャグ漫画に出てくるタイプなのだ。
そんなわけでお勉強を頑張っていたら、パパに魔法学校入学希望の話が伝わったらしい。パパに呼び出された。
「魔法学校へ通いたいのかい?」
「はい!」
「どうだ。少し早いが来年からハイメン連邦の魔法学校へ入学させるのは。貴族枠ならできるだろう?」
コネ入学!?
パパの問いに宮殿通いの教師が答えた。
「ええ。ティアラ姫は来年九歳でしたか。学業は特別秀でているわけではないですが、数学は中等課程の内容もすぐに理解できるので入学は問題ないと存じます」
因数分解とかすっかり忘れてるおっさんなのであった。なお、理解はできても計算は遅いのであった。ぷにぷに幼女のCPUスペック低くない? OSが悪い?
そして私は春からオルバスタ南西の国、ハイメン連邦に住み、ロアーネとルアと共に魔法学校へ入学することが決まった。わーい!
「なんでロアーネも?」
「ティアラ様のお供をするのが仕事ですから」
なに? ストーカー? 怖い。
「お忘れですか? ティアラ様の監視ですよロアーネは」
むむ。罪も汚れもないぷにぷに幼女なのになぁ。監視されるいわれはないのだが。
「ちょっと目を離すとすぐめちゃくちゃするじゃあないですか」
身に覚えがないのだけど。
「ということで、ロアーネは十七歳の女官ということにします」
「十七歳は無理でしょ」
漬物臭のするロリおばさんが自称十七歳は無理でしょ。
「そうですか? でしたら十五歳にしておきましょうか」
なぜ下げた。
見た目だけは若いけど、知識とか価値観とかところどころ御年配なんだよなぁ。
「それと名前も、そうですね。ティアラ様がよく『ロリ』と呼ぶので『ロリータ』に変えましょうか」
合法ロリおばさんの名前がロリータになってしまった。頭が混乱してくる!
「ドロレスにしない?」
「ティアラ様がそう言うならドロレスにしますが」
ふう。ロリータはドロレスの愛称なのである。合法ロリにロリータを名乗られたらわけがわからなくなるところであった。
「ところで十五歳女官のドロレスちゃんになるのは良いとして、偽の戸籍つくれるの」
「何をいまさら。ロアーネはそれができる立場じゃないですか」
「うっわー」
悪い大人だー!
パパ:「(危ないから中立国の学校へ入れとこ……)」




