66話:リルフィの誕生日会
リルフィの誕生日が近い。みんなはスカーフや髪飾りなどの小物を贈るようだ。この世界の、というよりエイジス教の誕生日祝いはささやかな催しとなっている。誕生日を迎えた者が月に感謝を捧げることかメインだからだ。
それはさておき、私もささやかなプレゼントを贈ろうと思っていたのだが、いささかささやかに過ぎるかもしれん。
ううむ。私はにゃんこが吐き出した塊を手にむむむとうなる。すると横からどこぞのメインヒロインかよといった白い清楚なワンピースを着た合法ロリが、いつものように私の頬をつついた。ぽぽたろうをぬいぐるみのように抱えているとまるで子供のようだ。その姿は歳を考えた方が良いと思う。
「なんですかその巨大な魔法結晶は……。まさかこっそりヤったのですか……?」
あらぬ疑いをかけてくる合法ロリ。二言目には背が伸びなくなりますよと言ってくる。もしかしたら実体験なのかもしれない。自分のことを名前で呼ぶから余計に少女感増してると思うのだが。
真似してみよう。
「てあらが作ったのではないのですが?」
「ティアラ様もロアーネの気持ちが分かっていただけましたか」
なんの事やねん。ロアーネにはわりと言葉が通じないことが多いのであった。
とりあえず私はうんうんと頷いておく。そうすると大体この世の中は上手く回る。何か問題が起こったら「私は何も言ってませんが?」ととぼける。
「それでこのヤバそうなブツはまさか、贈り物ではありませんよね?」
ギクリ。いや、ヤバそうなブツって何だよ失礼な。にゃんこがおえって毛玉を吐き出しただけだよ。
キラキラと黄金色に輝くその魔法結晶はどう見てもただの毛玉ではなかった。
機関車火災事故の炎を食べすぎたにゃんこは庭で苦しみだし、プールに毛玉のごとく、この塊を吐き出したのであった。
「だから、にゃんこを火炙りし続ければ魔法結晶いっぱい取れるかも」
「時々恐ろしい発想しますよね。無理でしょうそれ」
機関車火災はただの炎ではなく、ネコラルの炎だから魔力たっぷりだったのでしょうとロアーネは説明した。
いやだからそのネコラルって何だよ!?
「ネコラルはネコラルですよ。蒸気機関の動力ではないですか」
え? そうなの? 私の知識が薄いだけで機関車には元からそういうの付いてるの?
いや、魔力とか言ってるから前世の蒸気機関には無いだろうな。騙されるところだった。
「それでその塊をどうするのです? お守りにするにしてもデカすぎますよ。割っても九つくらいできそうですよ」
割るのはちょっとなあ。地球での話。昔、巨大なダイヤの原石が取れたときのこと。イングランドの王はそれを職人に命じてダイヤを細かく割り、数々の宝飾品を作り上げた。宝石は形を作り研磨して価値の出るものというのは理解できるが、クソデカダイヤを砕いてしまったのはもったいなさすぎじゃね? と思ってしまう。
でかすぎてこのままだと置物にしかならないなこれと思うのもわかる。
「リルフィもこれを贈られても困るでしょうし、素直に別のプレゼントを考えるべきではないかと」
「じゃあこれはどうしよう」
「美術館にでも置いてもらったらどうです? ドルゴンが生み出した魔法結晶とかドルフィン公は凄く喜びそうですよ」
確かに。それならそうするか。私はぽいとベッドに魔法結晶の塊を放った。
さて。
しかしこの時代の若い男の娘にあげるプレゼントは思い浮かばないな。この時代でなくてもわからんが。
私の趣味である、白サテンロンググローブと白サイハイソックス、または白タイツは常に供給して付けさせているので、あげたところでいつものプレゼントになってしまう。
しっかりしすぎで忘れがちだがリルフィはまだ六歳だから子どもらしいものを贈るべきだろうか。七歳になる子供向け……うーん。前世感覚だと鼻垂れクソガキの歳だけど、人の上に立つ者として教育されてる子どもだから難しいなあ。
単純に子どもが好きそうなもの……。地球儀とか。地球儀ってロマン感じるよね。私だけ? でも地球儀渡されても困るか。
「シンプルに花で良いのでは?」
花。花かあ。季節の花を贈るのは最もポピュラーである。ロアーネが提案したのも、エイジス教での誕生日祝いでは花を贈るものとされているからだ。それが遠距離輸送では枯れてしまうから押し花とされたり、ドライフラワーとされたり、花を模した小物や髪飾りと贈り物は変わっていった。
「白百合の花でいっか」
よっこいしょと魔法結晶を抱えて私は庭へ向かった。
そして庭に咲く白百合を一輪貰い、漏らした。
私の上げた透き通る虹色の百合の花がリルフィの肩まで伸びたプラチナブロンドの髪を飾る。わぁいかわいいやったー!
ロアーネは「また無茶しやがって」と言ってきたが無茶はしていない。にゃんこの魔法結晶を使ったからだ。その魔法結晶から魔力を引き出すのにちょっと漏れたけど。にゃんこ魔法結晶をふんだんに使って作り上げたのが、この虹色魔法結晶化した百合の花の髪飾りでございます。
わあいありがとー姉さまーと無邪気に喜ぶリルフィの隣で、専属侍女が手を震わせながらその髪に髪飾りを付けたのであった。喜んでもらえてよかった。
「だけどこれ、普段使いはできませんね」
「どして?」
「目立ちすぎるでしょう。今日は身内だけの誕生日会だから良いですけど」
は! リルフィは非合法男の娘なので目立ってはいけないのであった。すっかり忘れていた。
「ところで身内の会と言う割に知らないマッチョヒゲおじさんがいるんだけど」
さっきからチラチラとリルフィの様子を見ている怪しいおじさん。さてはロリコンおじさんだな!? しかもちんちんが付いててもお得に感じるタイプの! おのれ変態め!
「伯父さんですよ」
え? 誰の?
ロアーネに私のほっぺをつんつこされた。
私の伯父さん? なるほど、どうりで紳士的でイケメンなおじさまだと思った。誰だよ変態ロリコンショタおじさんとか言ったのは。
私の伯父さんということはつまり、リルフィの真のパパであった。
「それじゃああっちで伯母さんと歓談してる高貴そうなおねえさんは」
「その妻ですね」
なるほどなるほど。私はロアーネの小さい背中にさっと隠れた。
「何してるのですか」
だって、リルフィを女の子にしたのは私だし……。顔合わせ辛くない?
というか、ベイリアの家を燃やされて逃げた感じだったのに割と普通に現れたね。まあ色々と問題はすでに解決したそうだけど。そう、ロアーネ越しに伯父さんは説明してくれた。
「にゅにゅ姫が私の娘を匿ってくれたそうだね。ありがとう」
にゅにゅ姫じゃないにゅ……。
しかしリルフィ男の娘化計画は許されたようだ。
姉としてかわいい子になるように頑張りますと宣言したら、「うん?」という顔をされた。あれ?
「魂を授けてくれた月の女神に感謝いたします」
「月の女神に感謝を」
みんなで西の空の三日月に祈り感謝を捧げた。
そして月を表す丸いパンケーキにはちみつをかけてもぐもぐした。むぐむぐ。
……あれ? リルフィが両親と再会して問題も解決したということは、私の抱き枕が返還されてしまうのでは!?




