表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【3章】チョコパイ旅行編(8歳春~)
65/228

65話:にゅにゅ姫ブーム

 スマホがない時代。

 インターネットがない時代。

 動画サイトがない時代。

 そもそも、映画がない時代。

 演劇が最先端の文化だった時代。

 大衆は娯楽に飢えていた。


 そんなわけだから重傷者0人の事故でも大きな話題となって広まったりして。


「わぁ! にゅにゅ姫ちゃんだー!」


 にゃんこに乗ってぬっこぬっこと都スキーンの街中を歩いていると、若い女性たちが私に手を振った。くーるびゅーちーな私はキリッとした顔で手を軽く挙げ彼女たちに応える。ふっ、アイドルは大変だぜ。

 彼女たちの手には見知った洋菓子店の紙袋がある。チョコパイを「にゅにゅ姫考案のマシュマロ(ギニュー)チョコケーキ」と言う名で売り出した店だ。

 そしてそのチョコパイをテーブルで食べられるカフェでは、「にゅにゅ姫考案のホイップのコーヒー」を提供している。店のテーブルの一角では、積まれた木の札を取り合うゲームに興じる若者たちがいた。「にゅにゅ姫考案の王位継承カードゲーム」である。その彼らは私たちからすると異教徒であるはずのデンブ人であった。

 私が入店すると、「にゅにゅ姫さまー!」と呼びかけられ相席を勧められる。参ったな、たまには一人で静かに飲みたいんだけどね。


 デンブ人は移民であり、格差が大きい民族であった。貧民層は住む場所を求めて着の身着のまま町外れに暮らす者。富裕層は財産を持ち移り住んだ者。どちらにせよ彼らはこの国で暮らすことを選んだ者たちで、エイジス教とは異なる宗教文化ながら自ら馴染み受け入れようとしていた。つまり彼らの多くは自ら同化しようとしていた。


 私はにゃんこの翼に支えられ、椅子にぽふんと座る。お供のルアが「わーっ」とぱちぱち手を叩いた。

 今日はカフェオレとパンケーキにしようかね。「コーヒー飲みすぎると背が伸びなくなりますよ」と合法ロリに釘を差された私であった。本当かどうかわからないけど控えておこう。夜眠れなくなるし。

 カードゲームサークルの姫になっていると、別グループがデンブ人のテーブルを囲んだ。

 そして大して喧嘩も強く無さそうな体躯の男が啖呵を切る。「おい、薄汚えデンブ人め! にゅにゅ姫を独占するな」と。

 突然のヘイトスピーチに一触即発の空気になるが、日常の光景でもある。このまま取っ組み合いの殴り合いになるわけでもなく、デンブ人の代表とオーギュルト人の代表は丸テーブルに隣り合って座り合う。カップル成立である。

 そんな冗談はともかくとして、彼らがジャケットの内ポケットから取り出したのは30枚の紙カードの束だ。お互いにテーブルの上に置き、決闘(デュエル)スタンバイ!

 それは私の預かり知らぬところで企画が進んでいた、戦争カードゲームであった。



 先日のこと。


「お噂はかねがね。話題のにゅにゅ姫にお会いできて光栄でございます」


 私はリアの紹介で一人の小太りの男に会った。ヴァーギニア人の侍女カンバの兄であり、リアの夫となったキンボ公である。リアののろけ話では「ぷにっとしているところがかわいい」だとか。ぐぬぬ! 前世の私の方がぷにっとしてたぞ! それなら前世の私の身体でもワンチャンあったのでは!? 幼女の身体にさえならなければ私もリアと結婚が……!

 いや無理だろ。現実に帰ってきた。森の泉から現れた全裸のぷにぷにおっさんはおっぱいメイドとは仲良くできない。それが運命。いや、ワンチャン……。ありえない世界の想像をしてもしょうがない。

 思考がほけーっと飛んでいたせいで、彼の自己紹介を聞き逃してしまった。キンボ公はヴァーギニア皇帝の分家筋で、今はクリトリヒの都スキーンで商売をしているという。印刷所を抱えたいわゆる出版業とのこと。


「ヴァーギニアでは野菜しか売るものがないのでね」

「ほーん」


 スキーンはあらゆる民族、文化が集まる国だ。商売をするなら都会に出る。当然の発想だ。私たちもド田舎のオルバスタでは限界があるから、ママの生家のヘンシリアン家の伝手でクリトリヒに来たんだし。そうだ、チョコケーキを食べに来たんじゃなかった。商売に来たんだった。あれ? そうだっけ? まあいいや。


 カンバがテーブルの上に王位継承カードゲームの木札を並べた。これは、クリトリヒ独自の音楽要素の追加エキスパンションだ!


「おー」


 なんというか、若々しいエネルギーに溢れるイラストであった。というのもこれらの札を描いたのは美術学校の学生だという。小さい札にイラストを描くだけで、小遣い稼ぎができて、名前も売れる。この札アルバイトは貧乏学生に人気の仕事となっているそうだ。

 さっそくみんなで遊んでみる。うわっ。私弱すぎ……?

 ただでさえ音楽分野がわからない上にネトレマゴンだの見たこともない魔法楽器まで出てくるとさっぱりわかりゃん! なにこの黄金のカタツムリみたいなの!?

 ゲーム開発者が弱いとかよくあることだし……。悔しくなんかないし……。


「こちらのゲームを考案したのはにゅにゅ姫とのことですが、どこから着想を得たのですか?」


 着想。着想か。前世のボードゲーム、カードゲーム文化からとは言えんしなぁ。


「きっかけは、妹と遊べるゲームを創ろうと思ったです」

「ほう。妹君と」


 そう。それが最初であった。


「簡単な計算だけで遊べてお勉強にもなるような。それで私たちの宝物を集めて、パパを手に入れるパパゲットゲームを作ったです」

「パパゲットゲーム……。それでは始めは王の椅子を手に入れるゲームではなかったと」


 うんうん。オルビリアの宮殿のバージョンではいまだに最終目標はパパカードである。メイドたちがパパを奪い合う、想像すると恐ろしい絵面の女の戦いが繰り広げられているのである。

 さてここで一旦木札は片付けられた。

 なんだなんだと思ったら、リアがテーブルに印刷された紙のカードを並べ始めた。こ、これは!


「戦争カードゲーム!?」


 なぜこれが商品化してるの!? 驚く私を見てリアがんふふと微笑む。

 そうかリアが。リアは私と遊んでいた紙切れの戦争カードゲームα版の半分を思い出の品として持っていった。そして印刷所を持つ夫にプレゼンをした結果、この印刷見本ができあがったのであった。

 リアが私の事業を手伝うと言っていたのは、そういうことだったのか!



 そこからの展開は早かった。

 私への最終確認を終えるとすぐに商品化されたのだった。

 戦争カードゲームはほぼ元のルールのまま、ただし山札を30枚用意してシャッフルし、初手は10枚から9枚を選んで配置する形式とした。初手の9枚が固定だと戦略とメタがすぐ固定化しちゃうからね。

 そして山札からカードを取り、手札からカードの配置も可能である。

 まあ一応9枚あればゲームは遊べるので、1パック10枚入りで販売された。

 普段ならなんだこれと見向きもされないだろう、トレーディングカードゲームという謎のカード商品。これがにゅにゅ姫ブームによってにゅにゅ姫考案というだけで売れた。


「くっそまた負けた! 覚えてろよボケカスぅ!」


 小学生かよという捨て台詞を残していく貧乏学生と思われるオーギュルト人の若者たちと、余裕の笑みを見せるデンブ人の若者たち。残念ながらTCGは基本的に財力のゲームなんだよなぁ。

 私の隣でホイップのせパンケーキをフォークでつつくルアは「わぁ」とのんきに手を叩いて勝者を称えた。その様子に顔を赤らめる若者たち。だめだぞ! ルアは私のだからな! ぷんすこ!


「お嬢様のゲームがすごく広まってますねっ」


 ううむ。しかしカフェがデュエルスペース化してしまっているのはいいのだろうか。カードゲームが行われているのはここだけではない。他のテーブルでも行われていた。


「えへへー。私も注文しましたっ」


 おっと。ルアが頼んだのはカードパック付きセットだったのか。

 ルアはカードパックを開けずにポシェットにしまった。男の子はその場でパックをすぐさまむきむきしちゃうものだが、ルアは持ち帰って開けるのを楽しみにするようだ。食事中に開けると汚れちゃうもんね。


「おっと、そろそろ時間ですよっ。戻りましょう」

「あい」


 私はにゃんこの背中に乗って、みんなに手を振った。ばいばーい。

 今の私は人気モデルなのである。カードパック片手に、彫刻家のアトリエにぬっこぬっこと帰るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ