62話:精霊でも風邪引くんだな
※お久しぶりの更新ですっ! 五月病とか体調不良でした。
※61話を更新時と全く違う話に改稿しています。池ポチャの話を読んでいない方は一話戻って下さい。よろしくおねがいしにゅにゅ。
池ポチャした私はなぜか自宅(居候)謹慎となった。なぜじゃ……。
「へぷちっ」
さらに三度もプールのような噴水池に落ちたことで風邪を引いたらしい。私って精霊じゃなかったのか。精霊でも風邪引くんだな。
「ティアラ様でも風邪を引くんですね」
合法ロリが呆れた顔で、侍女ルアに鼻水を拭かれる私を見た。
そうなんだよ。不思議だなあ。不思議だね。
「ろあねもーん。魔法の力で治してよー」
ろあねもんはうにゃむにゃと呪文を唱えると、輝く手を私の額に当てた。ろあねもんのちっちゃいおててが冷たくて気持ちいい。
すぅと私の熱が消えて……いかなかった。
「頭が良くなるようにおまじないです」
?
別に風邪が治った感じはしないんだけど。ぐあんぐあんして気だるい。ついでに首が痛い。池に落ちる時にごきっとやったのだ。
リルフィが見舞いに来てくれて、私のおでこに冷たいタオルをのせてくれた。
「姉さま具合はどうですか?」
男の娘抱き枕で治りそうな気がする……。
私はリルフィをベッドの中に引きずり込もうとしたが、「風邪が移りまス」とカンバに止められてしまった。
「長旅で疲れが溜まっていたのでしょウ」
頭にカンバの手を当てられると、私の頭がまどろんでいく。大丈夫? なんか怪しい効果が出てない?
ルアは私の口元に水差しを当ててくれる。
なんだかめっちゃ甘やかされてる。まるでお姫様だ。お姫様だった。
しかしめっちゃ暇なんだ。
「少しくらい起きても――」
しかし私の身体はルアに押さえつけられた。むむむ。こいつら私を寝かせつけようとしているな? だが甘い。すでにたっぷり眠った後なのだ。
困ったな。
「しょうが湯を淹れましたよー」
リアがティーカップを運んできた。チャンス!
寝ながら飲むのは無理なので、私の上半身が起こされた。そして膝の上にミニテーブルが置かれた。まるで病人みたいだ。病人なんだけど。ここまでされるほどじゃないんだけど。しかし私は甘えちゃう。
「辛くない?」
「はちみつが入ってますよ」
あまぁい。美人姉妹に挟まれてお世話されるの良い……。
でもやっぱり暇だ。いつもぐうたらしてるけど、寝ていろと言われると動きたくなる。んにっんにっ。
「元気そうならお勉強しましょうか?」
「寝る」
お勉強は嫌いなのだ。
言葉は生活するのに必須だから覚えたけれど、地理とか歴史とか苦手なのじゃ。日本の都道府県どころか周りの県の名前すらうろ覚えなおっさんである。
私はぽてんと横になり目を瞑るが、みんなは私の部屋に居座ってどこそこのカフェが人気だの、あそこのコーヒーが美味しいだの、女子会が始まって気になるのだが。
「コーヒーのみたい」
「眠れなくなりますよっ?」
ルアにんしょっと毛布をかけ直された。
「コーヒーに生クリーム乗せたい……」
「大きくなったらねっ」
頭ぽんぽんされて十二歳のメイドさんに子ども扱いされてしまった。子どもだった。
「ちょっと待ってください。コーヒーに生クリームとは?」
うとうとし始めたのに、ロアーネにほっぺをつんつこされた。むぅ。
「こーしーに、ほいっぷのせて、うぃんなーこーちー……」
「ほいっぷ? うぃんなー? なんですかそのニホン語は」
「んー。せいにゅう、冷やして砂糖でまぜたの……」
あれ? ここって地球で言うとウィーンじゃなかったっけ。ウィンナーコーヒーないの? ロアーネが現地民じゃないから知らないだけか。
私がぼんやり喋ったことの検討が始まった。コーヒーに何か乗せたものという情報で。
そして私は二時間くらい昼寝をしたようだ。もういいよね。もう元気だよ!
「お嬢様の言ってたコーヒーをご用意いたしましたっ!」
おお! 完成したのか!
ルアがとてててと部屋から出ていき、てとてととおぼんを手にして戻ってきた。
「これですよねっ!」
コーヒーにバニラアイスが乗ってる! コーヒーフロートだこれ!
ううむ……限りなく正解に近い……。
「大体合ってる」
「やったあっ!」
いえーい。ルアとハイタッチ。なんだこのノリ。
アイスおいちい。
「だけどこれどんどん溶けてぬるくなのですっ」
アイスが溶けてコーヒーがぬるくなってちょうどいいと思うのだけど。私の短い舌は猫舌である。
ぬるくなるのが嫌なら最初から冷たくすればいいんじゃない? アイスコーヒーにしちゃえばいい。氷の中にだばぁとコーヒーをぶっかけて冷たいコーヒーを提案した。
「つ、冷たいコーヒーですっ?」
あれ? アイスコーヒーって一般的じゃないのか。日本みたいな糞熱くてたまんねえ! って環境じゃないとそんな広まらないか。
冷静に考えると緑茶だってペットボトルのものでないと冷やして飲むという発想ないし、コーヒーもわざわざ自分で淹れてアイスにするってことあまりないかも。
「暑い日なら美味しいよ」
「ふふっ。それならまた少し季節が早そうですねっ」
ここクリトリヒの都スキーンでは流行らないかもしれないね。湿気も少なく過ごしやすくて、音楽や絵画が発展するのもわかる。
わりとこの街好きになってきたかも。良いところばかりじゃん。
「そんなこともないですけどね」
ロアーネがにゅっと顔を出した。おわっ!? どこから現れた!? 小さくて見えなかったぞ!
「ロアーネは何が不満なのさ」
「デンブ人です」
デンブ人? そういえば、ベイリア人以外も多いんだっけか。
「別の宗教だから嫌いなの?」
「嫌いというか、ティアラ様にとって良くないという意味ですけどね」
「ふむ?」
ロアーネにしては歯切れが悪い。おっと、アイスがどんどん溶けちゃう。ぺろぺろ。
「デンブ教はエイジス教と同じく月を信仰していますが、精霊を認めていません」
「おおう……」
なるほど。暫定、精霊体な私にとってはそれは不都合だ。
「あ、だからここでは精霊姫と呼ばれないのか私」
「ええ。また誘拐されるかもしれませんよ?」
ひえっ。ぶるり。アイスの溶けたぬるいコーヒーじゃなくて、熱々な飲み物が欲しくなってきた。
ぬるっと現れたカンバが私の口をハンカチで拭いた。
「あまり脅かさないで下さイ。そこまで過激な者はおりませ……、あ、ティックティン派くらいでス」
私を攫ったティックティン派も一応エイジス教のはずなんだけどなぁ。それよりも他教の方が安全なのか。
「この街は色んな民と宗教と文化が共存しておりまス」
なるほど。アメリカみたいだね。
「あれ? でも色んなというほど他人種を見てないけど」
猫耳とか尻尾とか生えてないけど。
「お嬢様は都心しか見られておりませんかラ」
なるほど。やっぱり格差はあるんだね。そういやエッヂの街の猫人も主に肉体労働者だったか。郊外に出たら色々見られるのかな。
「だめですヨ?」
「まだ何も言ってないのに……」
猫耳や狐耳がいるんだから、犬耳とか狼耳とかうさ耳とか探せばいそうなのに。
エルフ耳もいるんだから、ドワーフとかオークもいるかもしれないな。ドワーフは北のイメージだから北欧か? オークは豚だから、豚……どんぐりの木……。ベイリア人じゃないよな?
ちらりと私はルアを見た。うんかわいい。豚ではないな。いや、豚がかわいくないってわけではないからね? そこんとこポリコレよろしく。
そういやコボルトもドイツ語だっけか。もしかしてファンタジーのこう、悪者側のイメージの元って大体ローマがバーバリアンと呼んでいた文化なんじゃね? バーバリアンのイメージがやっぱりほらもう!
「なに、ぐぬぬぬ唸ってるんです?」
「他の人からどう思われるか考えて震える」
ぷにぷになおっさんはか弱い立場なのに、何かうかつな発言をすると差別だと言われてしまう生き物なのだ……。おっと今の私は美少女だった。美少女なら口が悪くても許されるんだった。そういうジャンルになるからな。でもわからされるの怖いから黙っとこ。
「急に無の顔になりましたよっ」
「写真撮っておきましょウ」
「こうしていると賢そうなんですよねぇ」
む。最近なんか合法ロリが不敬じゃぞ?
で、何の話だっけ。
「美味しいカフェを回る話ですっ」
そうだった。そうだっけ? そうだ、コーヒーを生クリームを乗せなきゃ。
ウィーンにウィンナーコーヒーがないってまじ?




