61話:ざぶんこ
※改稿前後で話が全く違います。話を進めることに焦り過ぎていたので、のんびりして行こうと思い、のんびりしました。
次の日、私たちの泊まっている宮殿にドルフィン公がやってきたので、入り口までお出迎えをした。ロアーネに「あの人暇なのかな?」とこっそり聞いたら腰をつねられた。くすぐったくてプクスと笑ったら伯母さんにじろりと睨まれた。ちあうちあう! こいつ! こいつのせい!
皇族の宮殿だから皇族が来ても全くおかしくない、というか、私が居候の客人なのであった。大人しくしなきゃね。多分迷惑はかけてない。大丈夫。
「庭に翼ドラゴンが寝ているのですが、あれは?」
私は目を逸らした。おかしいな。どこから来たのだろうね? 野良猫かな?
まだなんとかごまかせる……!
「エッヂの街の噂は本当のことなのですか?」
無理だ! それを知られてるなら言い訳無理だ!
はいはい! にゃんこに乗って空飛んで大聖堂の鐘に激突したのは私です!
いやまだ自白のターンには早い。こっそりロアーネの背中に私は隠れる。ダメだ、この合法ロリの背中は小さい。私のもしゃもしゃに伸びて長いCDの裏面みたいな輝き方をする髪がはみ出てしまっていた。
そして、おろおろびくびくしている私はロアーネによって前に押し出され、慌てて逃げ出そうとしたところ、後ろに控えていたリアに抱きかかえられ捕まってしまった。ぷらーん。
「はい! あれは、にゃんこでごらいにゅにゅ!」
ロアーネにぷくすと笑われた。こっちは本気なんだぞ!
この面子の中でさらりと並び立つ合法ロリシスターなんなの? リアも後ろに控えてるのに。保護者?
「にゃんこでございますか」
ほっ。皇女様もにっこり笑ってらっしゃる。助かった。
「一緒にもふらえまにゅにゅ?」
「もふ?」
私は庭園の巨大なプールの前で我が物顔で日向ぼっこしているにゃんこに駆け寄った。にゃんこからお日様の香りがする。死んだダニの臭いとか言うのはガセらしいぞ。
私はにゃんこの背中の毛に触れた。熱ッ!!
私は地面を転がり、池に落ちた。ざぶぅん。ざぶんこ。
「何やってんですか全くもう……」
ロアーネに引き上げられて、手の火傷を回復魔法で癒やされた。やっぱファンタジーには一家に一台癒し手なんだよなぁ。ヒーラーのいないRPGのパーティーなんて考えられない。RPGじゃないけど。
水も滴る良い幼女になったところでその場ですぽぽーんと脱がされた。さすがの私も他所のお家の庭ですっぽんぽんは恥ずかしいのじゃが? 私の身体は素早くバスタオルを巻かれた。
準備いいじゃん。まるで私がずぶ濡れになることを見越してたみたいじゃん。
「あらあらまぁまぁ! 翼ドラゴンが太陽の光を蓄える説は本当でありましたのね!」
興奮したドルフィン公がにゃんこに触れようして、彼女の侍女たちは慌ててそれを止めた。ドルフィン公は手袋しているけれど、陽炎ができるほどあちちだからね。
しかしにゃんこはそんな性質があったのか。たてがみ以外はそんな熱くないかと油断したぜ。
ドルフィンとドルゴンって何か響き似てるな? というか、ドルゴンじゃなくてにゃんこなんですけど?
「にゃんこっこや。ちょっと皇女様がお通りになられるからおどきににゃられてくだち」
私はにゃんこをその場から追い払おうと手で押した。熱ッ!!
私は地面を転がり、池に落ちた。ざぶぅん。ざぶんこ。
「何やってんですか全くもう……」
ロアーネに引き上げられて、手の火傷を回復魔法で癒やされた。なんだか今日はロアーネがイイ女に見えるぜ。見た目は十四歳くらいのロリだが、こう見えて身体は魔力の影響でゆっくり成長し十八歳くらいと自慢していた。それだとやっぱりもうこれ以上の成長要素は残されてないじゃんと思ったが、ワインを飲んで得意そうにしていたので黙っておいた。私は空気の読めるおっさんなのである。実年齢を聞いたら口にぽぽたろうを詰め込まれた。
私は再度すっぽんぽりすとになり、一度使ったバスタオルを身体に巻かれた。さすがに我が侍女たちも、私が二度もびしょ濡れになるのは想定外だったようだ。ふ、勝ったな。
「エイジス教ロアーネが忠告いたしますドルフィン公。ティアラ様はこんな顔をしておりながらアホでございます。お気を付けください」
真面目な顔でそう言い放つロアーネと、呆気な顔で私を見るドルフィン公。
アホじゃないもん。ぷいっ。にゃんこが熱いのが悪いんだぞ、ぺしぺしっ。
にゃんこを叩く前に私の身体はカンバとルアに止められた。止められなくても三度目はやらんぞ!
そしてなんだかよくわからないまま庭園でティータイムとなった。甘い花の紅茶おいちい。
もちろん私は着替え済である。それは良いとしてなぜかにゃんこも一緒だ。
「クインプリル家の家紋がドルゴンな事はご存知かと思いますが」
知らんかった。言われてみれば、翼の生えたライオンが立ち上がった姿の紋章がちらほら見える。あ、美術館のエントランスでドルゴンが二頭並んでたのもそういうこと?
皇女様の話は続く。私は幼女だから遠回しな言い方がよく分からなかった。ロアーネの耳打ちで、どうやらドルゴンを飼い馴らす方法を知りたいということはわかった。
伯母さんもニコニコと扇子を扇いでいる。
恐らくこれは、にゃんこを献上していけという話になるんじゃないか? そうかなるほど。そんなつもりはなかったのだけど、向こうからしたら、「そのために飼い慣らしたドルゴンを連れてきたんじゃないの?」と思っているはずだ。逆の立場で考えたらそれ以外にわざわざ魔物を皇居に連れてくる理由がわからん。
なのでここははっきりと違うと言っておこう。
「にゃんこは勝手に私に懐いて付いてきただけなので、皇女様が飼い慣らすのは難しいと思われます」
キリッ。
真面目な顔で私は答えたのに、場の空気はほんわりした。
「にゅにゅ姫の言葉はにゃにゅにゅにゅ言っていて理解が難しいのですが」
言ってない。言ってないはずなんだが、にゅう言語になってしまっていたようだ。ロアーネに翻訳してもらい、皇女様には納得して頂いた。
きっかけや方法も聞かれたけれど、私にはよくわからんし。ロアーネが言うには、私の魔力とにゃんこの波長がいい具合で懐いたのではないかと推測していた。何か通信しちゃったのかな。
しかし皇女様、飼うのは諦めてもなでなでもふもふを諦めていない様子。どうやらドルゴン抜きにしてももっふりした動物がお好きのようだ。もふ好きにはたまらん毛並みしてるしねにゃんこ。しかし触ると火傷する。代わりにぽぽたろうを揉ませておこう。
ロアーネが頭に乗せていた毛玉は帽子だと思っていたようで、生ポアポアと聞いた皇女様はまた驚いた様子だった。よく考えたら夏にポアポアいる時点で謎だもんな。
こうして初夏の陽気の下で女子会をしていたら、にゃんこは日向ぼっこに飽きたのか、くわわとあくびをして伸びをして起き上がった。そして私の側にやってきて、私の脚に額を擦りつけた。
「おや? どしたのー?」
私はにゃんこの頭を撫でた。熱さは治まりほっこらしている。
「は!? ドルフィン公! 今なら触れるかもしれませんよ!」
ロアーネが私に便乗してドルゴンの背中を撫でた。どうやら日向ぼっこの充電中で無ければ触って平気な温度のようだ。
伯母さんと皇女様も近寄り、にゃんこの背中を撫でた。にゃんこは機嫌がいいのか、尻尾をふんわりと左右に揺らした。
「さわれましたわ!」
伯母さんと皇女様が年甲斐もなくキャッキャしている。まあ歳で言うとロアーネも……。年齢層高いなこの女子会。自分のことは棚に上げておく。
「ティアラ姫が背中に乗るところを見たいですわ」
と伯母さんにリクエストされてしまった。皇女様も期待の目で見ている。しょうがないにゃあ。
ロアーネは止めとけというアイコンタクトを送ってきたが、口に出すような無粋はできないようだ。こう見えて空気の読めるロリだ。
そして私も読める幼女だ。
「背中に乗るよにゃんこー!」
私はにゃんこのたてがみを掴み、うんしょと足を上げた。伯母さんに「あらまあ」と言われてしまった。やはりはしたないだろうか? 横乗りを試してみるか。だけどにゃんこに横乗りは座り心地が悪いな。
「出発!」
にゃんこは私を乗せてぬっこぬっこと歩き出す。足の裏の肉球と毛が消音するので、馬みたいに足音は鳴らない。ちなみに肉球は残念ながら触ってもガチガチである。野良猫だから当然だ。
「空を飛んだという噂は本当でございますか?」
さらなるリクエストをされたが、ロアーネは腕でバッテンをしてきた。だが、伯母さんも皇女様も、そして後ろで控えているリアも期待の表情で私を見ている!
いや、リアは私を今すぐ捕まえるか悩んでいそうだ。近づいて来たぞ。
だが私は皇女様を楽しませた方が益になるだろうと考えた。期待に答えたらまた美味しい物いっぱいくれるかも。ぬふふ。
「がう!」
私の気持ちが伝わったのか、にゃんこは飛び立つための助走を始めた。
「にゃんこ飛びまぁす!」
私達を囲い込むように配置されていた兵や使用人を退かし、私を乗せたにゃんこは庭のプール脇を駆けていく。
いえーい!みんな見てるー? 私は振り返り、みんなに手を振った。
そして飛んだ!
「のわ!」
私はバランスを崩して池に落ちた。ざぶぅん。ざぶんこ。




