57話:チョコケーキ
夕食に伯母さんとテーブルを囲んだ。ロアーネやリアも一緒だ。リアはそういえばメイドではないのか。
「難しい話は後にいたしましょう」
月の女神に感謝して、お野菜多めの食事をもぐもぐする。野菜の彩りが裕福の証なのかもしれん。幼女の口には合わないので、えぐくて苦手なものはこっそりロアーネに押し付ける。私の代わりにロアーネが旅の道中の話をしてくれたので私は食事に集中できた。若干スパイシーな味付けに感じる。嫌いじゃない。米が欲しい。
「ところで、面白い猫に乗ってきたと聞きましたが?」
ロアーネは私をちらりと見た。説明不能だったようだ。
私はナプキンでお口をむにむにとカンバに拭き取られると、フォークに刺したソーセージを皿に戻した。
「にゃんこです」
「にゃんこですか。それなら良いでしょう」
ふぅ。ごまかせた。ちょっとでかくて熱くて空を飛ぶ猫だ。間違いない。
え? そんなにすんなり通していいの? 連れてきた私が言うのもなんだけど。
「クインプリル家の離宮に魔物を入れたなんてことになったら問題になりますからね」
「まものじゃないよ」
ぷいっ。私は顔をそらした。
そういえば身内のヘンシリアン家ではなく皇族の宮殿なんだっけか。なあなあで済まされないってこと? でももう入れちゃったし、何も言われなかったしなぁ。きっとみんな大きな猫だと思っているだろう。いや大きな猫だ。にゃーん。
まぁ、にゃんこの事は忘れるとして、本来の目的を果たす事にする。
私がわざわざクリトリヒの都スキーンまで来た目的を。
「美味しいチョコレートケーキを教えて」
そう頼んだら、食後にチョコレートケーキが出てきた! わぁい!
目的達成である。じゃあ帰ろうか。
ロアーネが呆れた顔で見つめてきた。わかってるわかってるて。カンバが私のほっぺに付いたチョコレートを拭った。
「ちゃんとお土産も買って帰ろうね」
「その前にお嬢様。こちらにご用意しておりまス」
何を?
カンバに見せられたのはきれいな木の箱であった。あ、魔法結晶の花の精霊カードをまだ渡していなかったか。リアと会って話しただけですっかり満足しきっていた。
「リアに結婚のお祝いを持ってきたの。これ」
「まぁ! これは!」
リアよりも伯母さんの方が反応した。リアも口を手で覆って目をうるうるさせているので喜んで貰えたようだ。
「本当は嫁に行く前に手紙と一緒に送ったのだけど盗まれちゃって」
それで隣町の役人の手にかかったものによって、中身をすり替えられたのだ。封蝋を切るとバレバレだから、横から切って開けて別のカードとすり替えきれいに塞ぐという方法で。手慣れすぎて常習犯の感じがした。
「ティアラ様」
「ティアラ姫。その話を詳しくお聞かせください」
私はロアーネをちらっとみた。ロアーネははぁとため息を一つし、精霊姫誘拐事件のさわりを語った。
「そんな事があったのですね。ご無事で良かったです」
「ところですり替えられたカードはどうしたの?」
「それはこちらですね。これはこれで豪華なものでしたので、別の者がすり替えた物だとは気付きませんでした」
リアが取り出したのは普通の花の精霊のカードを顔料で色付けされ、小さい宝石で飾られたものであった。
「言われてみれば、お嬢様らしくない品ですね」
「ちょっとそれよく見せてくれる?」
ロアーネがカードを受け取り観察し、そしていきなりカードにナイフを突き刺した。花の精霊のイラストがべきっと割れる。
「ぬぁ!?」
いきなり何を!?
「見て下さい。中に魔術符が組まれています」
「へ?」
板は表面と裏面で二枚に分けられ貼り付けられていた。二枚を削った部分に魔術符が描かれて貼り付けられ一枚のカードとなっていた。
「え、こわっ!」
「魔力に干渉して発動しなかったのは幸運でしたね」
ひぃ! それを聞いたリアは、魔法結晶精霊カードを手にぷるぷるしちゃっている。
「わたくしにも見せてくださる?」
伯母さんが興味を示し、割れた精霊カードを手に取った。
「これはこちらで預かります。呪術に詳しい者がおりますから、鑑定いたしましょう」
まぁみ? ということは呪術師がいるということか。
魔術師の魔術符は呪術を真似したものだと言う。そして呪術で作ったものは何かと言うと、魔除けだ。いま私の首にかかっているものだ。
食事が終わり、別室で食べていたリルフィと合流した。格ゆえに別室にせざるを得なかったようだが、同等の食事が用意されたようだ。チョコケーキ美味しかったねと手を取り合ってきゃっきゃした。
「姉さま。まるでシリアナのようですよ」
「なぬ」
はしゃいでいたのは私だけであった。だが仕方がない。チョコケーキの前では私だって幼女になってしまうんだ。幼女だけど。
だが本当はチョコレートに合わせるならばウイスキーが欲しいところだ。ウイスキーのお湯割りにチョコレート。これね。じゅるり。
リルフィにハンカチでよだれをふきふきされた。
「リルフィ様、お久しぶりでございます」
「リアンホルレンサ様。今のぼくに様はいりませんよ。ご結婚お祝い申し上げます」
リルフィはふわりときれいなカーテシーをしてみせた。
負けじと私も真似をする。
「ごれっぽんおにゅまいおもちにゅにゅ」
ぷにっ。どやー。
リアが手で顔を抑えている。どうやら私の成長に感動して貰えたようだ。
今日は久しぶりにリアに甘えて寝ることにする。そしてリルフィも誘う。そして挟まって寝る。完璧ではないか?
「ロアーネは?」
「ソファベッドがあるでしょ」
ぽぽたろうで頭をぽむぽむされた。ぽぽたろう扱いの悪い合法ロリめ! そんなだから膨らむ場所が膨らまないんだぞ。
「以前も言いましたが、ロアーネは成長途中ですからね?」
「その歳で言う?」
本当の歳は知らないけど。
私はロアーネにベッドに押し倒されて、顔にぽぽたろうを押し付けられた。むぐぐぅ!
私はぽぽたろうを奪い取り、歪んだぽぽたろうの形を丸く戻した。一部分の毛がガビガビしてる気がする。なんだこれ。いつもポアポアを枕にしているロアーネのよだれ跡?
リアもやってきてベッドの私の隣に座った。
「ロアーネ様はまだ身体はお若いのですから、そんな事は言ってはいけませんよ」
「むぅ」
それを言われると私も中身はおっさんだから、待てよ、すると私はロリおじさんなのでは? ロアーネのことをロリおばさんと言える立場ではないのでは?
「すまぬのじゃ……」
「なぜ古語なのじゃ?」
ロアーネが私の真似をして古語で返した。むぅ……のじゃロリおばさんシスター……ある!
「初めてロアーネのことがかわいく見えたのじゃ」
「わしは元からかわいいのじゃが?」
古語で喋るロアーネに、わちはうっかり惚れてしまいそうなのじゃが?
のじゃのじゃしてたらリルフィが付いてこれなくなったので戻そう。
「姉さまは宮廷語は苦手なのに、古語は喋れるのですね」
「にがてじゃにゃいですませんことよ」
「ぷふっ」
なぜかリアが笑い出した。それに釣られてロアーネとリルフィも笑い出した。
な!? ぬぬーっ!?
おかちくなにゅにゅにゅぬみゅみゅ!




