56話:おっぱい平均値
エッヂの街からクリトリヒの都スキーンへ、カンカン音を鳴らし青い湯気を噴き出す蒸気機関車に乗って約半日。思っていたより早く、お昼過ぎに到着した。私は全力で伏せていたので何も風景を観ていない。リルフィの膝枕で乗り物酔い回避である。途中で何回も膝枕の主が変わったけど。
オルバスタってド田舎だったんや……。私は再び再認識した。
雰囲気は同じ国同じ民族の街ということでエッヂと大きくは変わらなかったが、まず駅前広場の噴水と彫刻の大きさに私は口を開けて見上げてしまった。カンバにかぽっと口を閉じられた。
そしてトゲトゲしたゴシックな聖堂がどーんと建っており、周りの建物もでででんとしている。その上ここは街の中心ではないという。
「ここでもベイリア人が中心ですガ、デンブ人も力を持っていまス」
なんかお尻がでかそうな人種だな。
「カンバの民族はいないの?」
「ヴァーギニア人は国も言葉も違うのデ、クリトリヒの都には少ないでス」
「ふぅん。それじゃあお兄さんは大変だね」
ヘンシリアン家の臣下のカンバの兄も、その妻のリアも外国人ってわけだ。
「ここには良い人がいなかったのかな」
「そうですネ。リアンホルレンサはヴァイギナル王国の姫というのも好感が高かったのでしょウ」
「どゆこと?」
ヴァーギニアはかつて大きい国で、今のクリトリヒはもちろん、ヴァイギナル王国まで領土が広がっていたそうな。だから名前がちょっと似てるのか。
ヴァイギナルの王ルレンシヒはの家系はヴァーギニア人と繋がる。
「あれ? じゃあクリトリヒは?」
「クリトリヒの皇族のルーツはハイメン人でス」
ハイメン……? オルバスタの南西のシビアン山脈の向こうの国だっけか。また離れてる変なところと繋がってるな。
あれ? じゃあこの都市は、元々は別の国で、別の国から来た皇帝で、別の国の人が住んでいるということか。ぬぅ。だけど何百年も昔の話とのことなので、それならこれも普通のことなのかと感じてきた。
カンバと難しい話をしていたら、ロアーネが横から私のぷにぷにほっぺをぷにぷにしてきた。
「そんなことより、今度は目立つようなことは控えてくださいね。ここはエイジス教だけではないのですから」
「へぇ」
というと、デンブ人は別の宗教なのか。気をつけよう。
私はよっこらしょとにゃんこに乗った。
「全く理解しておりませんね?」
「どうせ街中で連れて歩くんだからいいじゃん……」
私が乗ってようと乗ってまいとにゃんこは魔物で翼ライオンで目立つのだから一緒じゃん。
私たちを出迎えの馬車の白い馬たちが、にゃんこを怖がって近寄ってこない。
「困ったね」
「ヘンシリアン宮殿に置いてくればよかったですね」
「そんなかわいそう」
私はにゃんこに乗りながらたてがみをぎゅっとした。あっつっ!
そういえばにゃんこには虫が付いていなかった。なので私が触って乗るのは侍女たち公認である。きっと熱いから虫も付かないのだろう。日向ぼっこしているときのにゃんこの周りには陽炎が起こる。そのうち燃えそう。
馬車が先行して、私が後ろから付いていくことになった。
馬たちがぽっかぽっかと石畳で足音を鳴らし、少し離れてにゃんこがぬっこぬっこと歩く。その間には護衛と馬糞取りが挟まる。うんち踏みたくないからね。
今回は囲まれていたおかげで私は目立っていなかった。馬車の後ろをずいぶんと守っているなくらいにしか思われていないだろう。多分。ナイスフォーメーションである。
私たちが向かうのは街の中心……ではなく、街の西側にある離宮だそうだ。それなら私の住んでいる宮殿より小さいくらいかなと思ったらめちゃくちゃでかかった。今まで見た中で一番でかかった。「ここから庭です」と言われたところから建物まで遠すぎて上野公園かよとなった。例えがわからん? 私もわからん。噴水もめちゃくちゃでかい。やっぱ上野公園かもしれん。
「え? ここに泊まるの?」
まあだからここに来ているのだけど。ヘンシリアン家ここに住んでるのか。この宮殿自体は皇帝の所有のようだけど。建物めちゃくちゃでかいから部屋もいっぱい余っているんだろうな。きっと維持も大変だろうし、賃貸してお金を取った方がいいのだろう。
というと、私も搾取されるのか。お金大丈夫? 足りる? ちょっと魔法結晶つくる?
漏れ暮らしのティアラっちーを考えねばならん。
ぽけーと豪奢な内装に目移りしながら案内され、私はヘンシリアン家のメリイナスママと会った。隣にはリアも立っていた。
「おひちゃちむりでごにゃいにゅにゅ」
「ティアラ姫もお変わりなく」
メリイナス様は私のクリトリ語に笑いこらえている。結構上手くできたつもりだったのじゃが。
リアは澄ました顔でいるけど、絶対笑っている。眉がピクピクしてるもん。
「おちゅわにゅにゃむにゃむ」
「わたくしはあなたの伯母です。いつもどおりで構いませんよ」
「いちゅもどおりにちまつ」
メリイナス様は扇子で口元を隠しながらプクスした。おかしいな。おかしいかな?
「旅の話は食事の時にいたしましょう。まずはゆっくりしてくださいね」
「わかかりますた」
どうやら私の乗り物酔いが酷さが伝わっていたらしく、私はその後、すっぽんぽぽんに脱がされて、浴場の中でぷかりと浮かんだ。ぷかり。乗り物疲れの後のお風呂気持ちよかばい。
お風呂上がりには久しぶりのリアのドライヤー魔法が待っていた。他のメイドとは違い、やはりリアのドライヤーが一番しっくりくる。全体がぶわぁとなってふわぁとなってさらぁとするのだ。メイドによってはしゅばばばばとなったり、ぼわわわわわとなるのだ。
「リアひちゃちぶりー!」
「おひちゃちむりでございます」
私そんな発音した?
「新婚生活はどう?」
「そうですね。キンボ様も面白い方ですよ」
キンボ……カンバの兄の名前か。変な名前で面白いな。
久しぶりにリアのおっぱいがぽよぽよしているのを見ると、やはり私の今のメンバーにはぽよぽよ感の足りなさを痛感する。十二歳のルアが一番大きいくらいである。
しかしキンボはこのおっぱいを自由にしているのか。おのれシット! 私はリアに掴みかかるも抱きかかえられてしまった。ぷらーん。
「大きくなられましたねお嬢様」
「そんなに変わってないと思うけど」
まあ元が小さいというか、戸籍がでっち上げで登録されて今が八歳ということになっているだけで本当の年齢はわからないけど。私の意識が生まれてからの年齢だと三歳だけど。いや、三十うん……? 湯上がりのビールが飲みたくなる八歳女児のおっさんは考えることを止めた。
「リアー。ロアーネの髪も乾かして」
ティアラ一行の平均値を大きく下げる原因の合法ロリが私のリアを呼びつけた。ちゃっかり一緒にお風呂に入ったロアーネだ。背も胸も十二歳に負けている。だがこれに関してはルアの発育が良いとも言えるとロアーネの名誉のためにも補足しておこう。
リアがいるとおっぱい平均値が上がってとても良い。おっぱい平均値はやはり大切だと思う。高すぎても低すぎてもニッチになってしまう。女の子の集団のおっぱい平均値はCカップにしないとね。
「彫刻のような顔のままぼーっとする癖は変わりませんね」
「変な事を考えているのも変わりませんよ、ティアラ様は」
横でなんかごちゃごちゃ言われる中、カンバに髪を結われていく。ルアには足を拭かれている。
「何を考えているのですカ?」
「夕食にチョコレートケーキが出るか考えてた」
「わたしは赤ジャムのケーキがいいですっ」
余計な口を挟んだ妹に対し、リアは「こらっ」と叱りつけた。ルアは「てへへ」と笑った。
あ、姉妹っていいな。
「むぅ。私もお姉ちゃんが欲しい」
「ここにロアーネがいますよ」
「胸が大きいお姉ちゃんが欲しい」
腰肉をつままれた。




