55話:NLPフォーティーエックス
夕食をおじいちゃんとおばあちゃんと共にした。贈った魔法結晶の川の精霊カードはいっぱい喜ばれた。えへへ。
そして猫人の待遇改善について再び話し合う。というか私はただ猫耳美少女といちゃいちゃできればそれでいいのだが、完全に思ってもみない方向へ話が進んでいる。
しかし猫耳っ子を愛玩するには課題が多い。そこでまずは市民の衛生改善を進めることとなった。髪や身体を拭く布は煮沸し共有はしない。櫛を支給し梳かさせる。川で髪を洗わせる。
猫人は猫のように水に入るのは苦手だと言う。強制するのは抵抗もあるだろう。だが私ににゃんにゃんもふもふのためには成し遂げなければならない!
だがロアーネが水を差した。
「一ヶ月ほどかかるでしょうね」
「にゃんだと!?」
計画変更だ。まずかわいい子を何人か用意する。その子たちを徹底的にきれいにする。私がもふもふを堪能する。
完璧な計画だ……。
「本気ですか」
私はビスケットの袋をルアに持たせ、街中でかわいこちゃん探しを始めた。貧民街に入ることは許されなかったので、富裕層の多い区画のお店で聞き込みをする。街中なのでリルフィも連れて行く。するとルー坊もついでに付いてきた。街中を案内してくれたから役には立ったけど。
「この店のケーキも美味しいぞ!」
「ふむ。要チェックだな」
「姉さま。食べ歩きが目的になってませんか?」
なってるけど……。
猫人の猫耳は魔法器官なのかと思ったが、猫人の多くは魔法は使えないらしい。その代わりに力が強いという。そのため男の猫人は土木や危険な作業で彼らは活用されている。そして富裕層に猫人はやはり少ないのだ。
貧民街の方にも人を送り、愛玩用の猫人を探していると噂を流す。愛玩用ってちょっとニュアンスが違う気がするんだけど……。
「違うんですか?」
「合ってるけど……」
三日後。選ばれたら職場にも賞金が出るということで、各工場や工房から二、三人ずつエントリーされた。みんなそれなりに身支度をきれいにされていた。広場いっぱいにずらりと横に並ばせる。
これ、私が選んでいくのか……。
本当なら私の下へ来させて面接していくべきなのだろうが、一次試験は第一印象で選んでいく。金目当てでとりあえず参加させとけという工房から送られてきた子も多いのだ。
渡した袋の中を見て、「わぁいビスケットだぁ!」と女の子が叫んだ。するとこれはビスケットを配るイベントとなってしまった。渡してない子の方が合格なのに、渡されなかった子はがっくりと肩を落とした。私が貧民街で会った耳が白い女の子もいた。あの時とは違ってボロではなく広場にいてもそこまでおかしくない程度な花柄のワンピースを着ていた。かなりきれいにしているので触ってもいいのではないかという気になっているけど、接触は許されていない。ソーシャルディスタンスが異世界でも必要だった。ぐぬぬ。
そして白耳の女の子は参加者の中でも上玉であった。合格!
女の子はビスケットを貰えずに悲しんだ。ち、違うのじゃ……!
残ったのは二十人ほどだ。見目が良い条件となると、貧民の中でも生活が良さそうな人たちとなる。貧民救済が目的だと間違っているが、これは私がかわいい子をもふもふしたいオーディションなので、ガリガリな子は対象外となるのだ。選ばれなかった子は全粒粉のビスケットで栄養取ってね……。
二次試験では残された彼女らの服が脱がされた。まだ初夏に近い季節なので少し肌寒いが我慢してほしい。ビスケットが貰えなかった上に脱がされて何人かの子は泣いていた。私の評判が下がるからやめて!
脱がしたのはエロい目的ではない。彼女らが病気を持っていないかを確かめられた。これにより十七人が不合格に。多くの者は病気というより虫歯であった。虫歯もまあ感染症といえば感染症か……。ビスケットで賞。
三次試験では直接話す姫面接を行おうと思っていたのだが、予想以上に絞られてしまった。
ロアーネが軽く質問したところ思想にも問題なしということでその三人が合格。
白い耳の女の子も合格だ。やったね! ビスケット食べてもいいよ! 全粒粉ビスケットだから少しもそもそしてるけど。でも合格した三人はこれから良い生活になるよ! いまいちピンと来ていないようだけど。
三人の名前は、白丸耳、青垂れ耳、黄豹耳。猫人族の名前は身体的特徴、というか猫耳の特徴そのままの名前のようだ。
年齢は十一歳の二人と十三歳。べ、別にロリな子を選んだわけではないのだ。猫人は成長が早いらしい。それゆえ実年齢が思ったより低かったというだけなのだ。
彼女たちは宮殿の別邸で暮らすことになる。その建物の豪華さで彼女らはまんまるな目を丸くしていた。彼女たちはこれから姫の愛玩猫人として暮らしてもらうことになる。しかし人との接触は最低限だ。彼女たちには文字通り虱潰しをして貰う。猫耳の付け根に沢山虫が住んでいるそうだ。ひぃ。
ところでやっぱり愛玩猫人って言い方やばくない? 地位向上も目的なのに地位が下がるような呼び方してない?
耳ダニも多いようなので、もうとにかく身体をきれいにして過ごして貰うことになる。シラミの卵を取り切るために、二週間ほどは隔離のような生活をしてもらわなければならない。暇な時間はそうだな。歌でも鍛えてくれればいいんじゃない?
「それはどういう意味があるんですか?」
「え? だって彼女たちは職場を辞めたんでしょ?」
そしてヘンシリアン家で世話をすることになったのだが、教養もない彼女たちを今からメイドにするのは難しかろう。爵位も当然ないし。そうなると仕事は力仕事の雑用の下女となるが、せっかくきれいにしたのに汚れるような仕事をさせるのは間違っているだろう。私がもふるための猫耳ーズなわけだし。
「それに猫人は力が強いということはきっと肺も腹筋も強い」
歌というのは自分の身体を楽器とする。歌には筋力が必要なのだ。
あとそうだな。運動神経が良いなら踊りもさせてみてはどうだろうか。
「歌と踊りですか」
「かわいい猫耳娘が歌って踊る」
完璧では!? これからは猫耳アイドルグループの時代がくる!
愛玩からアイドルへ! NLPフォーティーエックス! 三人だけど。
「シロマルにゃん」
「アオタレにゅ」
「オウヒョウだにょ」
手を拳にして手首を曲げて招き猫。
パーフェクツ……。私は感涙した。ロアーネは呆れた。
「なんですかそれ」
「猫耳でキャラ付けといったら語尾に『にゃ』『にゅ』『にょ』でござろう」
「知らんけど」
ロアーネは日本語で呆れた。
「まあ、ティアラ様の好きにすれば良いと思いますが」
「じゃあそういう方向でよろしく」
ロアーネは呆れ返ってしまっているが、カンバはきちんと伝えてくれるだろう。言うだけ言ってヘンシリアン家に任せっきりになる。なぜなら明日にはエッヂの街を旅立つことになる。元々滞在が一週間の予定だったので、私たちの首都行きの列車が予約済みなのだ。
猫耳ふにふにするのは旅行から帰る時のお楽しみだ。
猫耳にかまけて最初の目的を忘れてはいけない。都でチョコレートケーキを食べるということをな!
「リアと会うの楽しみですね」
「そ、そうにゃね」
「え? もしかして忘れてました?」
そんにゃわけないじゃん! 新婚のリアに美味しいお菓子の店を教えてもらいに行くんだよね! 覚えてるよ!




