表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【2章】カード作り編(6歳冬~)
50/228

50話:復讐の連鎖

 さあ出発だ! 馬車に乗り込んだ私の身体はひょっこらしょと近衛団長のじっちゃんに抱きかかえられた。ぷらーん。


「姫様、儂らにお任せください」


 えー。それだと何日も待たされることになるじゃん。ぶぅぶぅ。

 んにんにと身体を揺らして腕から脱出を試みる。抜けられなかった。


「大砲で脅かせて追い払うのでは何日かかるかわかりませんよ。ティアラ様はやる気ですし任せるべきだと思います」


 ロアーネ! さすが私と付き合いの長い合法ロリだ。わかってらっしゃるぅ!

 気を取り直して出発! 私は腕を組みじっと目をつむり瞑想する。集中しないとすぐに酔うからな。しかし、すぐに馬車は停まった。


「なにごと?」

「着きました」


 なにごと!? まだ私の酔いにも余裕があるよ!?

 外を覗いてみたら、まるで駅のロータリー広場のようであった。

 そして連れられて駅舎っぽいところを抜けたら、黒光りする列車がホームに停まっていた。


「てつどー!?」

「精霊姫は鉄の蛇を見るのは初めてですかな?」


 いや太陽の国にもあったけど。蒸気機関車も乗ったことあるけど。

 そうじゃなくて、あるのか鉄道! なんで今まで馬車旅してきたの!? オルバスタには鉄道ないの!? そりゃ田舎と言われるさ! そこまでのレベルだとは思っていなかったさ!

 田舎と言ってもまあちょっと田舎の香水臭するけど? くらいなものだと思っていた。まさか鉄道がある時代に線路が通っていないレベルの秘境だったとは。いやまあ日本にも結構あったけど。知ってるか。真の田舎は交通機関がバスしかない。


 外から見える中の座席は向かい合わせのボックスタイプだ。田舎によくある見知ったタイプ。

 よし乗り込むぞー! と思ったら、ホームと列車の隙間が大きい。ぶるり。これ足を踏み外したら落ちるじゃん。幼女のことを考えてほしい。

 立ち止まってぷるぷるしていたら、じっちゃんに抱き上げられた。べ、別に? びびってなんかないし? まだちびってないし?

 そして私が見ていたのは一般車両ということで、一等車に運ばれていった。部屋だ。列車の中に部屋がある……。これが姫の力だというのか……。さらに食事をするための車両や、楽団が演奏する車両、酒を飲むバーの車両も連結されており、豪華列車で快適な旅だわぁい!

 乗り込むぞー! にゃんこも来い! 私が車内から呼ぶとにゃんこもぴょんどすんと列車に乗り込んだ。よしよしもふもふ。


「列車はアスフォートの目撃地点の手前で停まるとのことでス」


 そうだ、呑気な列車旅ではないのだった。私の邪魔をする山羊め! ゆるさん!

 隣に座ったリルフィも緊張している様子だ。安心するよう太ももさわさわしとこう。さわさわ。


 蒸気機関車はポォォォォォオオと汽笛が鳴り、ボシュウと青い蒸気を噴射した。ちなみに蒸気は目に見えない粒子のため、目に見えるのは湯気である。しかし青い湯気? 青いライトでも当たってる?

 そしてカンカンカンカンカンカンッと金属を叩く音が鳴り響いた。なにごと!? 発車の合図!? なんか部品が壊れてない!? 思わずにゃんこも飛び上がった。

 一人おろおろあわあわしていたら、シュボシュボシュボと列車は動き出した。


「大丈夫ですヨ。これは馬の代わりに蒸気の力で動く乗り物なのでス」

「知ってるけど」

「そうでしたか、申し訳ございませン」


 カンバは私の頭をなでなでした。私は音に驚いただけだから。それよりもブルブルしながらぽぽたろうを握りしめ、床を見つめているロアーネをなんとかした方が良いと思う。


「爆発……絶対爆発するこれ……」


 怖いこと言うなよ! 爆発した経験あるの!?

 いや待てよ……。現代日本での電車の安全性は、まあ極稀に大事故は起こるが、技術面では安心安全だ。だが、技術が成熟していない時代なら……。そして蒸気機関車は外燃機関であり、圧力のかかった水蒸気が……。ひぃっ!


「大丈夫でスお嬢さま。爆発しても安全でございまス」


 爆発が前提になってるぅ!



 どぉーん、ということにはならず、のんびり列車旅は続く。馬車と違って列車の方が酔いにくいかもしれない。爆発の緊張のせいもあるかもしれないけど。

 段々と窓からの光景にも飽き始めた頃に列車は停まった。アスフォートの目撃地点の近くに着いたようだ。


「うぇぇ」

「お嬢様、しっかりしてくださイ」


 私はカンバになでなでされて少しは気が楽になった。爆発の緊張感はやはりいい効果を生まなかったようだ。

 しばし休憩後に兵たちと線路沿いに進んでいく。私はじっちゃんに背負わされた。揺らさないようにオーダーを頼む。戦闘前に戦線離脱になりかねない。げぷっ。

 少刻の間、私は背中で揺らされながら一同は進んでいくと、前方から早馬が現れた。伝令によるともうすぐ近くとのことだ。


「アスフォートは厄災の山羊と言われている。ヴァイギナル王国も山羊の王と呼ばれる存在が人々を脅かせていた。そこへ現れたのは大顎熊だ。熊は山羊を追い払い、私たちは蜂蜜を献上した。これが熊の英雄プーピチンの伝説である」


 隣で兵たちと共に歩で進むルレンシヒ王の語りを聞き流していると、やがて一同は停止した。止まったのに王は話し続けるので思わず私は「黙れ」と言ってしまった。側近たちはざわついたが、王は手で口を抑えてうなずいた。よしよし良い子だ。

 それはよしとして、止まったのはアスフォートが見える位置まで来たからのようだ。

 ふむ。私はじっちゃんに肩車を要求した。上から見ると、ふむ。でかい山羊と、普通くらいの山羊がいた。


「なんか普通の大きさの山羊もいるんだけど」

「ふむ。それは子どもではないかね? 子の角は桃の色をしているはずだ」


 なるほど言われてみると普通の山羊の角ではない。紅生姜みたいな角がちょこんと生えていた。

 ルレンシヒ王も望遠鏡で崖の上の様子を見ていた。


「ということは親子なのかな」

「それは良い。子の肉は美味いぞ。ぜひとも仕留めたい」


 むぅ。魔物だし駆除対象なのだからそれが当然の感覚なんだろうけど、ちょっと可哀想な気がしてくる。

 そして親子だとしたら片親しかいない。もしかして二年前に私が首を撃ち抜いたのは父親だったのではないかという気がしてしまう。あれはパパを傷つけたし、生きるか死ぬかの戦いであったから後悔はしていない。しかし今回は私たちはまだ何もされていないのだ。そう考えると気後れしてしまった。


「追い払うだけじゃだめ? 私なんかやれない気がしてきた」


 そもそも前回は魔法結晶でブーストした《まじっくあろー》であった。あれからどれだけ私がパワーアップしたのかはわからないが、一発で倒す火力がないと、あの突進力や、角から放つと言われている電撃も危険であるだろう。

 相対してわかったことだが、みんながアスフォートを討伐ではなく撃退を選ぶ理由がわかった。魔物は被害なしに簡単にやっつけることができるものではないのだ。

 私の言葉にロアーネはふむと顎に手を当てた。


「魔力の問題でしたら、魔法結晶の木彫り熊がありますよ」

「おお、あれを使うのかね!」


 ああ、あれを持ってきていたのか。これがあるならきっとやれるなぁ。私の手に魔法結晶熊が乗せられた。


「自信がないのですか?」

「そうではなくて、うーん……」


 私がもぞもぞしていると、ロアーネが私に耳打ちをしてきた。


「お漏らしについてはこちらでごまかしますから」


 はっ! その問題もあった! 精霊姫のアスフォート討伐の伝説に「彼女はお小水を零した」とか書かれちゃうんだ……。


「討伐ができるならクリトリヒへの良い土産にもなると思うのだがなぁ」


 ルレンシヒ王はやはり倒す気でいるようだ。二年前の討伐の話も彼は知っているだろう。鉄道の邪魔にもなるし、倒せるなら彼も倒したいであろう。

 私がまごついていると、兵たちに不穏な空気が流れ出した。これは精霊姫の噂はやはり盛られたものではないかという疑心の目だ。ルレンシヒ王は私を疑っていないが、彼をここまで連れ出すことになったきっかけの私を、彼の側近たちは良くは思っていない。


「姫様は心優しいですなぁ。元よりこれは我々の仕事でございましょうヴァイギナルの王よ」

「うむ? うむ、そうだ! 英雄は姫を前に押し出すものではない! 我々の力こそ精霊姫に見届けていただくのだ!」


 なんか勝手に盛り上がってるけど、そうじゃないんだよなぁ!

 ヴァイギナルの土魔法使いによって防御陣地が作られていく。その様子を眺めていた親アスフォートは、角を光り輝かせた。そして私たちの目の前に電撃が飛んできた。ぎゃあ! 私とにゃんこは飛び上がった。


「姫様! 後ろへ!」


 アスフォートは山羊らしく崖をどどどんと飛び降りて、私たちに向けて駆けてきた。

 ああ、もうこうなったら仕方がないな。可哀想とか言っている場合ではない。アスフォートは我々人間を明確に敵と見なした。それは子を守るためだったのかもしれないが、土魔法で刺激したのは私たちだったのかもしれないが、すでに殺す殺さないの段階に入った。

 これは私の考えが甘かっただけということなのだろう。ルレンシヒ王は言っていた。アスフォートは厄災の山羊と。


「撃つ!」

「精霊姫の射線を開けろぉ!」


 王の声で目の前が開けた。二年前と同じように、アスフォートの巨体が迫る。

 大丈夫。怖くはない。だが。


「むっ。んんんっ……」


 見られてると漏らしにくい!

 無意識に漏らさないように加減してしまったため、魔力の集まりが悪い。これでは石つぶてくらいの威力しか出ない!


「どうしました!? 早く漏らしてください!」


 余計な事を言うな合法ロリぃ! 私の太ももがぷるぷる震えだした。出せと言われたら出なくなるのがおしっこである。検尿カップに上手く出せた試しのないおっさんである。


「押し止めろぉ!」


 アスフォートが土魔法のトーチカに突撃した。砕けた土がショットガンのように襲ってきた。

 兵たちが血を流し、倒れ、半壊した。


『グォォォオオオオッ!!』


 絶望的な状況の中、さらに魔物の吠える声が森から聞こえてきた。

 だが幸運にも、アスフォートはその声に気を取られて動きを止めた。そして、森から現れた叫び声の主、大顎熊と激突した。


「熊の……英雄……」


 アスフォートの電撃を食らいながら、大顎熊はアスフォートに熊パンチを放つ。アスフォートはその巨体をぴょいと跳ねてどすんと後退した。接近戦の熊。中距離のアスフォートと言った感じだ。大顎熊は激突と電撃のダメージで鼻から血を流し、頭からは湯気が上がっていた。大顎熊が明らかに劣勢である。魔法使いの兵はアスフォートに魔法を放つが決定打にはならない。

 何をしている。遠距離なら私の独擅場だろう?


「んにゅにゅにゅっ!」


 今なら私に注目している者はいない! チャンス! 大量の魔力が身体から溢れ出るのを感じる。

 私のマジックアローは真っ直ぐにアスフォートの首を貫いた。

 まばゆい光から視界が晴れると、アスフォートの巨体がどうんと地に倒れ伏した。そしてすでに限界を超えていたらしい大顎熊も倒れた。

 歓声が上がる中、崖の上の子アスフォートが視界に入った。子はじっと倒れる親を見つめていた。それを私は見つめていた。子はいつか人間に復讐をしに来るのだろうか。山へ引きこもっていてほしいが、それは私が言える立場ではない。できれば捕まらずに逃げてくれと私は願った。

 ぴゅうと風を切り裂く音が聞こえたと思ったら、ドルゴンが子アスフォートに炎を吹きかけ、首にがぶうと噛み付いた。にゃんこぉ!? 復讐の連鎖はにゃんこが止めを刺した。

 ふわりと春の風が私の内ももを撫でていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 無事じゃないけどまあ元気。 そんなヤギにはやられないクマー。 [一言] ちがう可能性は否定出来ないが、ラストでとりあえず膝上位にはスカートめく、いや風をはらんでそう。 さて次回、ぬこ…
[一言] そりゃ飼い主が働いてるんだし、ペットもいい所見せたいわな…
[一言] ウンコも漏らしてパワーアップしようぜ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ