48話:ヴァイギナル王国の都ロンナルク
※作中のおっさんのゴシック建築への見解は完全に誤りなことをお詫びいたします。北欧は関係ありません。尖った屋根も必ずあるわけではなく、尖っているのは尖塔やアーチです。
おっしろ♪ おっしろ♪
お城が嫌いな男の子がいるだろうか。いやいない。幼女だって好き。しかも真っ白くてきれいなお城なのだ。薄汚れた歴史と戦を感じられる城もいいけど、ファンタジィなお城もいいのだ。現実に建っているのだけど。
「お嬢様ってお城とか好きでしタっけ?」
「いや、そんなに」
ゴシックくらいならわかるけど、ロココだのロマネスクだの言われても違いはわからない。ゴシック建築にはゴスロリ北欧吸血鬼のじゃロリババアが住んでいることだけはわかる。屋根がつんつん尖っているからツンデレ属性なのもわかる。
ということは青い屋根で白くてぽよんとしているこのお城には、色白でおっぱいぽよんなお姫様が住んでるに違いない。この国のお姫様はリアとルアだった。
ルアはまだ……私と同じ成長途中だな。
「あのお城は父が母を迎えるために作ったお城なのですっ」
ルアの胸をじっと見つめていたら解説してくれた。私は無表情キャラのままこくりとうなずいた。はしゃぎすぎて酔いに余裕が無くなってきた。今夜はベッドで寝転んだ後も頭がぐわりぐわりと揺れ続けることだろう。おえっぷ。
「ティアラ様。下からはともかく上からは出さないでくださいよー」
下からはともかくってロアーネは私をなんだと思っているんだ。一階建てのぺたんこ建築め。
心の中で悪態付いたらぽぽたろうでぽむぽむ叩かれた。顔に出てた? 口から漏れた?
ヴァイギナルの都ロンナルクはきれいな街だけど寂れているという印象であった。オルバスタの都オルビリアは私がちょこちょこ街を歩いたり誘拐されたりするので、物陰を減らすという意味で街中が整理されていた。私への危険排除が街中の美化に貢献していたのだ。えへんっ。だけど広場の周りから離れると小屋のような木造建築が並んでいる。そんな田舎と比べると、ロンナルクはお店も多く市場も大きく交易は多そうだ。活気はあるのに人の表情は明るくないという不思議な感じであった。戦争で負けてお金が無いんじゃそれも仕方ないのだろうか。
オルビリアでは私の姿を見るとみんな笑顔で手を振ってくれるのに。みんな慣れてきたのか姫に対してずいぶんと馴れ馴れしくなってしまった街なのであった。
それにしてもみんな私たちの馬車に対して怯えを感じているような気がする。
「それは翼ライオンが幌に乗っているからですヨ」
そういえばそうだった。にゃんこがくああとあくびをするたび、馬車の幌がみしりと音を立てる。鉄とオーク材の魔物にも備えた丈夫な馬車なので潰れないと思う、大丈夫だろう、大丈夫だよね?
私たちは良くても、ロンナルクの人たちには良くなかった。ここは魔物が多いシビアン山脈からも離れていて翼ライオンを見ることも少ないのだろう。そもそも魔物が街中に入り込んでいる時点で安心できる人はいないだろうけど。
「早めに宮殿に向かいましょうカ」
泊まるための宮殿に入るのにまた一悶着である。騒動の元のにゃんこは知らん顔である。私はにゃんこをもふもふする。
「問題の元なのにのんきにしてますね」
「全くだ」
ロアーネが「お前じゃお前」とほっぺをつんつこしてきた。私じゃないもん。
最初から居住するために作られたこのお城は、お城といっても私たちが住んでる宮殿より宮殿らしいようだ。それに庭も、私のおうちの野菜農園状態とは違ってバラ庭園になっている。バラは咲いていないけれど、クリスマスローズが庭でおじぎをしていた。
お城に入るとルアのママが出迎えてくれた。馬車での長旅お疲れでしょうと、お風呂に誘ってくれた。花びらが浮いていて良い香りのするお風呂だ! しゅごい!
そしてお食事をしながらママさんが昔話をしてくれた。
戦争が起こったのはリアがまだ生まれたての頃。パパさんであるヴァイギナル王ルレンシヒは戦争に反対していたが、巻き込まれるようにクリトリヒ側で参戦。ベイリア帝国とクリトリヒ帝国の戦いはクリトリヒが北へ攻め込むも追い返されて、逆にヴァイギナル王国がベイリア帝国に取られる形で終戦した。ヴァイギナル王国は田舎者と見下していたオルバスタ王国の管理下に置かれて踏んだり蹴ったりである。
そしてパパさんは終戦後も趣味である城作りに精を出す。お金がないのにさらにお金がなくなっていく。
「城作りやめればいいのに」
「ほんとにねえ」
真っ当なロアーネの意見にルアは所在なさげにしている。お城の中は装飾も調度品も凝りまくりだ。クリトリヒのものだけではなく、西のティンクス帝国からも輸入しているようだ。だからお金が無くなるんだぞ!
「でもそれだけ裕福だったってことだよね」
「はい。母はクリトリヒの皇帝の娘でした」
また関係図増えた! もうこの辺一帯みんな身内じゃん! 仲良くしようよ! いや、戦争終わって平和な時代になってるところか。
ということはリアってクリトリヒの皇帝の孫で、ヴァイギナル王国の姫ということか。それを私のお漏らし乾かし侍女にしていただなんて……。
そうなると抱えておくべきすごい重要人物なのに、よく我がフロレンシア家は他所に結婚することを許したなぁと思ったが、視界にカンバが入って納得した。そうか、精神干渉魔法なんてえげつない魔法持ってるメイドをうちに預けてくれたと思ったら、そういうトレード?
「そういう面もありますけド、私がお嬢様に仕えたかったのは本当ですヨ?」
嬉しいこと言ってくれるじゃないの我が弟子は! 美少女の私の頭を撫でても良いぞ。
馬車酔いの揺れが頭の中でいまだに渦巻く中、ふかふかのベッドで寝転がる。
ここ何日は知らないベッドで寝てきたけれど、なかなか慣れないなぁ。
すやぁ。
よく眠れた。さすが今までで最高級のベッドである。寝すぎて日がすでに明るくなっていた。
下半身チェック! セーフ! 他所でお漏らしはしゃれにならない。
んしょんしょと一人でベッドから降りようとしたら、外からドォンと銃声が聞こえてきた。思わずちょっと滴った。
「なんにゃー!?」
こんな朝から襲撃か!?
ルアが慌てて私に駆け寄ってきた。
「驚かせてごめんなさい。父の趣味なのです」
ふぅんなるほど。朝から鳥でも撃つのが趣味なのかな? 幼女の姫がいる時くらいは控えてくれると助かるのだが。ネグリジェがじんわりしてしまったじゃあないか。
窓から外を覗いてみると、庭園にイケメンが銃を構えていた。あれがルアのパパのヴァイギナル王ルレンシヒか。何に銃を向けているのかと思ったら、庭師が左右から兵士に掴まれていた。
え、まさかと思ったら、再び銃声が鳴った。そして倒れる兵士。そっちかよ! いやそうじゃなくて!
「なにしてんのー!?」
じょばぁ。私は思わず漏れた。朝っぱなから客人の前で銃殺刑してる王を目の当たりにしたら、それは仕方のないことだろう。
あまりの暴虐っぷりに私の手に魔力が輝く。いやしかし、他人の趣味にとやかく言うことでは……。これをぶっ放して王の兇行を止めるのは、はたして正しいことなのだろうか……。
再び銃声が響く。今度は逆隣の兵士が倒れた。そして庭師がイケメン王に頭を下げる。これは、兵が悪者だったのか……?
「安心してくださいっ。入っていませんよっ」
なんだ入ってないのか。え? 何が?
どうやら銃は空砲で、兵が倒れたのは演技だったようだ。血が流れてないからわかっていたもんっ! わかっていたんだからねっ!
私は太ももを拭かれながら慌てていないアピールをした。
しかし、私の手の魔力はどうしよう。窓に飾られている木彫りの熊にでも当てとこうか。ぴかーっ。琥珀色の魔法結晶の熊になった。証拠隠滅完了。これでよし。
「お嬢様。今いったいなにを……?」
どうかな?
戸惑うルア。賛美するカンバ。胸を張る私。えへん。
ロアーネはそれを見て「絨毯を汚した弁償にしては高額過ぎますね」と言ったので、きっと許されるだろう。
もうちょいで区切りを入れて三章にしようと思います。
作品名を「異世界で美少女になるやつ」から「お漏らし精霊姫」に変更しようかと思っています。
何か意見などありましたら感想欄にでもどぞー。




