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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【2章】カード作り編(6歳冬~)
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47話:ついに私の異世界旅の大冒険が始まる……!

 三日間の準備のうちに、リアからの手紙が届いた。例の黒幕、隣町の役人が手紙を止めていたようだ。私が送った魔法結晶の精霊カードを奪ったのも、魔術師がオルベリアに入り込んでいたのも、顔も知らぬ悪役役人……あくやくやくにん? 悪役人? あく……まあいいや。悪人の手配のようであった。このぉ! ぷんすこ!

そんな奴のことは置いといて、リアの手紙は新年の挨拶から始まり、手紙の返信が来ないことに心配していた。大丈夫。ちょっと誘拐されて殺されかけただけだよ、と。

 これから花嫁に行く娘に送る内容じゃないな。消し消し。

 そして手紙を、各街で馬を乗り換えて休み無く走り続ける、速達で送る。私だけのではなく、パパの手紙も一緒だ。クリトリヒにうちの娘が行くよーと先に知らせるためである。


 私たちに加え、護衛が二人付いた。土魔法使いのパンセとポンセだ。土魔法使いは旅には必須だそうだ。土木要員で。道が通れなくなっていたら立ち往生してしまうからだ。彼らには御者もしてもらう。

 それと私たちと行動は共にしないが安全確認の斥候も出す。


「パパママ行ってきます!」


 私の胸にはママから渡された魔除けが輝いている。私が最初にパパに贈ったものだ。私の下へ戻ってきた。

 しかし酷いデザインだなこれ。たこ焼き器のぼこぼこみたいな魔法結晶である。デザインしたの私だけど。

 宮殿を振り返ると懐かしさがこみ上げる。いつの間にかここが私の家となり、私は心身ともにお姫様になっていた。もうすぐ八歳。パパに拾われてここに住み、三年が経っていた。


「行ってきます」


 ついに私の異世界旅の大冒険が始まる……! 豪華二頭立て六人乗り馬車だけど。

 オルビリアの街が離れていく。


 そして私は酔った。


「ふえぇぇぇ」


 なんだか苦い草を噛まされた。余計に気持ち悪くなりそうだ。


「カンバの魔法でなんとかならんのぉ?」

「馬車酔いは難しいかト」

「ロアーネの魔法でなんとかならんのぉ?」

「馬車酔いは病気ではありませんから」


 うぐぐぐ。私はリルフィの太ももに顔を突っ込んだ。ずぼっ。リルフィの氷魔法の手が私のおでこをひんやりと撫でる。


「姉さまははしゃぎすぎです」


 六歳の男の娘にたしなめられてしまったおっさんである。だってだって。空に緑色の毛虫みたいな鳥が飛んでいたり、牛みたいなロバが歩いてたりするんだぜ。ついつい観察しちゃうじゃん。やっぱあれも精気(マジカ)の影響の魔物(マジュルス)なのかな。

 その代わり普通の動植物は地球でも見るような普通のものだった。ただちょっと牛がシマウマみたいな模様だったりするけど、保護色という意味では斑点模様と大きく違いはないだろう。

 森も普通のオークの木だ。といっても、地球でオークを見たことないけれど。管理されたオークの森では豚を放し飼いし、どんぐりを食べさせるそうな。そういった森は北側にあり、シビアン山脈の南側にはない。あの険しい山脈にはいまだに魔物が多く棲息しているようだ。


 そんな魔物話をじっと聞いていたら馬車が止まった。リルフィの太ももから顔を起こす。

 黒鹿毛の馬に乗った近衛団長のじっちゃん、オグルディウスが馬車に横付けをした。


「何かあったの?」

翼ライオン(ドルゴン)が空を旋回しております」


 ほうほう。気分転換に馬車から降りて空を見上げると、翼ライオン(ドルゴン)火吸鳥(テリタルクァ)を追いかけていた。翼ライオン(ドルゴン)は火吸鳥に向けて炎を吹き、火吸鳥はその名の通り浴びせられた炎を吸い込み身体を膨れさせた。しかし膨れたことで動きが鈍り、翼ライオン(ドルゴン)が風船のようになった火吸鳥にがぶりと噛み付くと、花火のように炎が破裂した。

 翼ライオン(ドルゴン)は刺激しなければ危険はないものの、火吸鳥を追いかけてきた時に巻き添えを受けることがあるそうな。安全のために馬車を止めたのはそのためだった。


「お嬢様、それでは戻りましょうカ」


 カンバに手を引かれたものの、なんだか翼ライオン(ドルゴン)の動きが気になる。なんだかちらちらと私を見ているような気がするのだ。気のせいではなかった。翼ライオン(ドルゴン)は火吸鳥を丸呑みにしたあと、陽に照らされて淡く虹色に輝くたてがみをなびかせながら、私に向けて滑空してきた!

 じっちゃんが剣を抜き、私の前に立つ。

 しかし、あれは――。


「じっちゃん待って! にゃんこ! にゃんこじゃない!?」


 私の前に着地した翼ライオン(ドルゴン)は、目をぱしぱしと瞬きをし、私の脇の腋をしゅるりと頭をこすり付けながら右から左へ通り抜けた。


「やっぱりにゃんこだ!」


 背中を手で撫でる。もふぁ。

 やはり一年前に私に懐いた翼ライオン(ドルゴン)であった。私の足元でごろりと横になった。喉をゴルルルルゥと鳴らしている。


「なんですかそれ、まさか連れて行くつもりですか?」


 馬車から顔を出したロアーネがびびっている。ルアは目をまん丸くしていた。


「でもにゃんこもごろごろしてるし……」

「姫様。魔物を連れて行くのはいささか難しいでございますぞ」


 じっちゃんは反対した。というか、全員が「どうやってこの幼女を止めようか」という目で私を見ている……。そんな……、こんなもふもふなのに……。


「ロアーネぇ……」

「話には聞いていましたが、本当に懐いているとは」


 大丈夫だよー。安心だよー? ロアーネを誘い込む。ロアーネさえ懐柔したらこっちのものだ。

 ロアーネが恐る恐る手を伸ばすと、にゃんこはロアーネの手に噛み付いた。がぶぅ。


「ぎょえー!」

「ぎゃふー!」


 噛まれたロアーネは驚き、驚いた声ににゃんこは驚いた。引き抜いた手からは血がだばだばと流れていた。ロアーネは泣きながら自分に回復魔法をかけた。


「だめですよこんな猛獣! 処分! 処分です! オグルディウスやりなさい!」

「殺しちゃだめぇ!」


 ロアーネがうかつに手を出したのが悪いし! 甘噛みだったのに慌てて引き抜いたのが悪いし!


「ロアーネ様。この魔物が本気であれば、その手は地に落ちていたはずです」

「ぬぅ……」


 そうだそうだー! 正面から頭を撫でようとしたのが悪いんだー!


「ティアラ様は黙っていてください」


 じろりと睨まれた。しゅん。

 休憩相談タイムとなった。その間、馬たちはにゃんこに怯えてビクビクしている。やはり連れて行くのは難しいかもしれん……。

 なでなでもふもふ。


「しょうがないですね……。しかし、どうやって連れて行くつもりですか?」


 そうなんだよね。どうしよう。

 腕を組んで唸っていると、カンバがとんとんと肩を叩いた。


「意思の疎通はできないのですカ?」


 そもそもの話だった。言うこと聞かせられないなら無理だよね!


「お嬢様の魔法に当てられて懐いたと聞きましタ。それでしたら魔力を通して会話できるかもしれませんヨ」


 なんと!? たまにぽぽたろうがぷるぷる震えたり意思表示していたのは偶然ではなかった!?

 頭にそっと手を伸ばして、漏らさない程度に魔力を込めながら「お腹見せて」と言ってみた。するとにゃんこはごろりと転がりお腹をチラ見せした!


「できた!」

「偶然ではないですか?」


 疑い深い合法ロリだなぁ。私は再度「起きて」と言うと、にゃんこはすくっと起き上がった。


「ほらー!」

「ふぅむ……。それなら馬車の後ろから、いや、空を飛んで上空から付いてくるように言ってみましょう」

「わかった」


 にゃんこやにゃんこ。空を飛んで私たちに付いてきて。

 するとにゃんこは魔力の輝きを辺りに散らしながら翼を広げ、駆けて助走しジャンプして空へ戻り旋回した。


「これならいけそうですね。後は町に入る時は地上で待機するように言いましょうか」

「うん。うん? どうやってここから伝えるの?」


 私たちは空飛ぶにゃんこを見上げた。うーむ。



 最初に泊まる町に着き、にゃんこに「おおい」と呼びかけたらひゅるひゅるしゅたっと下りてきた。町はかなり慌てていて迷惑をかけてしまった。

 町の子爵が現れて、ビクビクしながら私たちの馬車とにゃんこを誘導した。馬はしっかりと休息してもらうとして、にゃんこはどこへ置いておくか。外には置けないよなぁ。


「屋敷へ入れていい?」


 私がそう尋ねると、子爵は断ることはできなかった。若干申し訳ない。

 心配だったにゃんこの餌は、ハムを与えたらなんとかなった。塩分大丈夫かな。



 毎日半日ほど馬車で進み、三日かけてヴァイギナル王国との国境近くの町まで着いた。

 今までよりもしっかりとした砦が築かれており、この辺りは要所なことがうかがえる。

 そこからさらに三日かけてヴァイギナル王国の町で泊まりながら進んだ。

 大きな問題は起きていない。問題と言えば、馬車の移動がめちゃくちゃ飽きてきたことだ。風景も代わり映えせず、町も大きな変化はなかった。

 馬車の中が暇だからといって、私は何か暇つぶしができるわけではない。すぐ酔うからだ。目をつむり静粛な乙女となる。それでもすぐに気持ちが悪くなるのだが。

 みんなは即興の詩を歌う遊びや、ロアーネ神官のありがたいお言葉を聞くなどして暇をつぶした。あるいはカンバの語る遠い地の民謡などはとても興味はあったのだが、私はリルフィの太ももに夢中であった。変な意味ではない。乗り物酔いというのは脳の情報処理能力のオーバーヒートなので、聴覚からの情報も脳に負荷をかけるのだ。なので男の娘の太ももの柔らかさと香りに集中してリラックスしないといけないのだ。くんかくんかすーはー。


「鼻息がくすぐったいです姉さま」

「またそろそろ休憩しますか?」


 私のせいでこまめに馬車を止めまくりである。すーはー。


「ヴァイギナルの都ロンナルクが見えてきましたよっ」


 ふむふむ。いま私は太ももで忙しいのだ。


「姉さま。ほら起きてください」


 太ももから起こされてしまった。なんやなんや、都といってもどうせ代わり映えしないのじゃろと期待せずに外を眺めてみたら、そこにはお城っぽいお城がおしろーんと建っていた。


「お城だー!」


 RPGみたいなお城が建ってる! 私のテンションがエキサイトした。


「はいっ。私の父はお城が好きなのですっ。それでお城を建てたせいでお金が無くなってしまいました」


 凄く残念な人だなヴァイギナル王!?

 まさか、リアやルアがメイドとしてうちで働いていたのも出稼ぎだったりするの……?

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