45話:十二歳の美少女新人メイド
ソーセージから魔力の光がぽあぽあと溢れる。もしやこれ、私の放った魔力ビームを受けたせいで……?
沈みかけた日の光の照らされて、ソーセージたちも嬉しそうに肉汁を噴き出す。ぴゅぴゅっ。
さて。私の前にはマジスタンの死体が三人。これから私は死体漁りをしなければならない。死んだかと思って突付いてみたら蠢いたから生きているようだ。とりあえずソーセージで縛っておくか。
肉汁まみれの男の身体をまさぐるも、魔法結晶の花の精霊カードが出てこない。そ、そんな……。
ど、どこだ……? まさかこいつらは持っていない……?
ピィと笛が鳴った。暴れまわったから衛兵が来たのか? 念の為に建物内に隠れておこう。ささっ。
ソーセージマシンの置かれた机の裏に回り込み、じっと外の様子を観察する。
すると金属メットを被った衛兵が敷地内になだれ込み、血溜まりの中の魔術師二人と、ソーセージで拘束された魔術師を発見し取り囲んだ。
男の口に突っ込まれたソーセージを引き抜いて顔を叩く。すでに失神していて意識がもうろうとしている模様。
問題は男の腕を見た後の判断だと思ったのだが、衛兵らしき者たちは、そもそも男の腕を確認しなかった。これだけ魔法で暴れまわった後があるのにである。
そして男たちは運ばれて、私は取り残された。
ちらりと様子を見たら再び衛兵たちが各所へ走り回り何かを探している。おそらく私であろう。
私はもう魔力はないし、体力もないし、スカートはびしょびしょで動きにくいし、色んな汁の臭いが身体中から漂ってるし万事休す! 詰んでる。
私の勘からして、この衛兵たちは偽物……いや本物かもしれないが恐らく敵側。見つかるわけにはいかない。
「こっちから何か臭うぞ!」
幼女のぴゅあぴゅあな香りが風に乗って嗅ぎ取られてしまったようだ。ダンボール。ダンボール箱はどこだ。おろおろ……。
「見つけたぞ! こっちだ!」
ぐぬぬ。こうなったらもう一度ソーセージの精霊に頼るしかない。むんっ!
ぐぅ。お腹が鳴った。
そして逆光のシルエットで大男が現れた! ここに来てボスキャラか! 準備なしで連戦イベントとか現実はクソゲーだ!
「貴様らぁ! その方をどなただと心得る!」
ん? この声は、近衛団長か!
「じっちゃん!」
「おお姫様。よくぞご無事で。怪我はございませぬか?」
「うん。怖かったぁ」
一番恐怖を感じたのはじっちゃんの登場だったけど。
「お運びするぞ! 着替えをすぐに用意しろ!」
「ねえその前に、私を誘拐したのは魔術師だったの。リアに送った精霊カードを持っていたのだけど持ってなかったの」
「姫様、落ち着いてくだされ。姫様を捕まえた不届き者はどこに行かれたのですか」
「え? 庭にいたでしょ」
「はて……血痕とソーセージは散乱しておりましたが……」
じっちゃんが見てない……? ということは、最初に現れた衛兵たちは別者?
「じっちゃん聞いて。魔術師と組んでる衛兵がいるの。そいつらが連れ去った。それで、侯爵家の手紙を盗んだ者もいるの」
「かしこまりました。このオグルディウス、この名と剣に懸け、姫様の命にてきゃつらを成敗いたします」
じっちゃんが号令を掛け、地響きを鳴らしながら消えていった。
ぽつねん。
私置いて行かれた!?
「お嬢さまーお嬢さまー?」
良かった。知った声が聞こえてきた。カンバだ。
「カンバぁー!」
「ご無事で何よりでございまス……。わたし心配で首を差し出すところでしタ」
「死なないで」
目の前で誘拐なんてされたらそのくらいの失態なのかもしれないけど、油断こいて私が釣られたのが100%悪いし。
正直、ドバっと魔力を噴出させれば魔術師なんてどうとでもなると思っていたのだよ。直接魔法攻撃されたらカウンター発動するし。
防音防魔法の袋に入れられて人さらいされるとは思わなかった。マジで。よくよく考えたら真偽不明の私の噂を聞きつつ誘拐しようとする奴らだ。できるという確信を持って行動を起こしたのだろう。
「とりあえず私をきれいにして」
現れたメイドたちに庭で服を脱がされて、じゃぶじゃぶごしごし洗われた。ううむ。開放感。
すでにソーセージも片付けられている。ありがとう、ソーセージたちよ。ありがとうソーセージの精霊よ。
「ソーセージの精霊カードを作ろう」
「冗談が言えるようで安心いたしましタ」
冗談ではないのだけど。ソーセージの精霊を信じないとソーセージに祟られるぞ。
ソーセージっていうのはな、豚がまるごと使われているんだ。魂だって入ってる。だからソーセージだって生きているんだ。ほら、縄に掛け直されたソーセージたちも揺れて喜んでいる。夕日に照らされて魔力がキラキラしている。
「風に揺れているだけでハ?」
カンバはわかってないなあ。ふふん。
私の冒険はここまでだ。この先も黒幕のところへ乗り込んで切った張ったということはしない。だってお姫様だもの。保護されておうちに連れて帰られた。
近衛団長のじっちゃんが全て明かして全て粉砕して、魔法結晶の花の精霊カードも取り返してくれた。
黒幕は元スラム民への給料や手当を横領していた隣町の役人であった。手紙の配達人にも彼の手がかかっていたようだ。封筒の脇を切り取りカードを抜き取り、中身をすり替えていた。関わっていた人物はもちろん、証拠隠滅しようとした買収されていた衛兵たちもまるごと捕まった。
問題解決である。
私はペースト状のソーセージを塗ったクラッカーをもきゅもきゅしながらその報告を聞いた。
「もう問題起こらないよね?」
「はい。もう問題は起こさせませン」
カンバがぐっと拳を固めた。カンバの護衛が悪かったとかそういう話ではなくてね?
カンバは私の嘆願によってお咎めなしとさせた。私の右腕、絵描き的な意味で、いなくなっては困るのだ。ただ、カンバの得意魔法は精神干渉魔法であり、護衛に向かないメイドさんなんだよな。
そこで近衛団長のじっちゃんが「儂が常に付き纏うのじゃ」宣言してきたが、それはちょっと暑苦しいので勘弁願う。というより、本来守るべきパパと嫡子のタルト兄様の側にいてね?
そもそも「不用意に街中を歩くのが悪い」とタルト兄様に言われてしまった。ぐぬぬ。幼女に正論言うとはなんというやつだ。泣くぞ。いかなる理由があろうとも、幼女を泣かせた方が悪になるんだぞ。いいのか?
そういうわけで、私にもう一人若いお付きの侍女が付くことになった。他の侍女と違うのは、カンバもその子も私の直属であること。私の裁量で自由にして良い侍女ということだ。
なんで若い子かって、そりゃあ若い子の方が良いだろう? 問題はぴっちぴち過ぎてまだ十二歳で見習いなんだけど。
「ルアンホルレンサですっ」
凄く聞き覚えのある名前だ……。
「リア……えっと、リアンホルレンサの妹?」
「はいっ。姉がお世話になりまし、お世話しました?」
まあいっぱいお世話されたけど。
しかしリアの妹となると期待ができる。
「得意魔法は?」
「水ですっ。あ、お水でございますっ」
「水かぁ」
ドライヤーじゃなかったかぁ。しかし水なら、洗い流せる、か……。
「だ、水ではダメだったですかっ、でしょうか?」
「水でもまあいいかな」
「ほっ。良かったですっ。任務がんばるますですっ!」
「うむ。ルアンホルレンサ。いやルア。君には大任を任せる」
ごくり。生唾を飲む音が聞こえる。
「私は稀にお漏らしをするので、君の魔法に期待している」
「はいっ! え、お漏らし?」
「稀ではないでス。かなりの頻度でございまス」
真面目に訂正するんじゃねえぺたんこ二号! ちなみに一号は合法ロリである。
「かしこまりましたっ! ご主人さまの粗相はわてちが隠しましゅっ!」
ご主人さま!
私はその言葉に衝撃を受けた。メイドさんというものはね、ご主人さま呼びこそが至上なのだよ。よし。ルアにはフリフリエプロンドレスを着させよう。決定!
「お嬢様、です」
「ま、間違えてしまいまし申し訳ございません、お嬢さまっ」
「いや、ご主人さま呼びをしたまえ」
男の夢の五割は十二歳の美少女新人メイドに「ご主人さま」と呼ばれることなんだ。残りの五割はおっぱいのやさしさである。これこそが異世界生活ってやつだ。今こそ私の本当のどりぃむらんどは始まったのだ!
「ご主人さま、でよろしいのですか?」
「うむ」
「わたしもご主人サマとお呼びした方が良いですカ?」
「うーむ……」
カンバのちょっと東欧系入った顔でその発音だと、「シャチョサン」みたいな印象で聞こえるんだよね……。また違うお店みたいな雰囲気に……。
「主よ。私も?」
ロアーネが混ざってきた。ロアーネの言い方だともっと別な意味になっちゃうでしょ!
「やっぱ呼び方戻して……」
非常に惜しい。非常に惜しいが美少女メイドに「ご主人さま」と呼ばせて喜ぶ幼女の絵面は非常にまずいので人前では封印してもらうことにする。ぐぬぬ。
「ところで今後の活動なんだけど、しばらく休止にしたいんだ」
「へ?」
カンバがほへっとした。
「ちょっと遠出したいと思うんだ。具体的には、リアに直接カードを届けに」
「つい先日に誘拐されたことをもうお忘れですカ?」
「カンバが守ってくれなかったせいだし……」
「それはお嬢様のおかげでお咎めなしとなりましタ」
私は悪くないもんと胸を張るぺたんことぺたんこである。
横からロアーネがぽぽたろうでお尻をぽむぽむしてきた。
「そんな楽しそうなこと、ロアーネ抜きでできるとお思いですか?」
こ、この合法ロリ! 自分の仕事を放棄して付いてくる気か!?
ここでルアが「はいっ」と手を挙げた。
「姉はすでにクリトリヒ帝国へ向けて出発している頃だと思うですけど」
行っちゃおうぜ! 結婚式までよ!
 




