43話:精霊の加護の王子
久しぶりに私の部屋にロアーネとカンバが戻ってきた気がする。一日だけだからそんなわけはないんだけど。ぽふり。ネグリジェ姿の私はベッドに倒れ込んだ。なんか疲れた。
「それで、おでこに目があるのはよくあることなの?」
「稀にあります」
あ、やっぱ稀にはあることはあるんだ。
原因はやはり魔力中毒である。母体の魔力が影響、というよりは子が魔力を持っていたのでママの身体に影響を与えていたというのが正確か。
それで三ツ目は何なのさと聞くと、ロアーネは「魔法器官です」と。
あーなるほどね。外部に付いてるタイプね。アスフォートにも宝石のような角が四本生えていたなぁ。人間にも宝石のような目がおでこに付いていてもおかしくないよね。
いやいやいや。
「ねえ。エイジス教って人間の魔法器官ってその、月の民とは違うアレなんだよね?」
「はい。魔法器官があるのは魔物です」
だよねえ! そうなるよねえ! ペタンコでは認めていないんだもんね!
「それであの子どうするの」
「どうしましょうかねえ。森に捨てましょうか」
こらこらこら。しかしロアーネは冗談でもなさそうだ。エイジス教では捨てられるような忌み子というわけか。
困ったねえ。おでこを隠し続けるしかないか。
「差し当たって解決方法は六つくらいありますが」
「思ったより結構あるな」
「一つは森へ捨てる」
「解決になってないよ捨てたがりめ」
じとー。
彼女の案は、捨てる振りをして教会の目をごまかすことであった。なるほど。しかしそれでは戸籍上存在しない子になってしまう。地下食料庫に閉じ込めることになってしまう。
「一つは他所の子にする」
リルフィと同じことだ。他人の養子として預かってもらう。隠し方が違うだけでやはり家族ではなくなってしまう。
「一つはオルバスタが帝国に完全に併合されてエイジス教をキョヌウとする」
なるほど。宗派がペタンコじゃなければいいわけだ。って、領邦まるごと巻き込んでるし、第一ロアーネが納得しないだろうそれ。
「一つはもぎとる」
悩みの原因を取り除くドストレートの方法だな。しかしこれは死ぬ可能性が高いとか。ダメじゃん。
「一つはベイリア国の孤児にする」
「結局どこかへ預けることになるのか」
「こっそりキョヌウの教会の前に置いてくる。これが一番おすすめですけどね」
ううむ……。しかし根本的な解決になってないよなぁ。
要するに三ツ目なことをペタンコ教会に認めさせればいいんだろ。ペタンコ教会ってなんか響きが酷いな。
「私の精霊姫としての名声でどうにか……」
「ティアラ教団立ち上げますか!?」
「それが六つ目かよ!」
ティアラ国教会爆誕!
私が犠牲になれば全て解決するのか……。いやダメだろう。どう考えてもおかしいよ。騙されるところだった。この詐欺ロリシスターめ!
しかしうーん。何も思いつかないなぁ。まあいつものように誰かに解決を任せればいいか。すやー。
……。
しかし私以外円満解決できないよなぁ。今こそ無駄に広まった私のネームバリューを生かすべきだと思うのじゃが。ふむー。
三ツ目。
目を認めさせればいいんでしょ。
私と同じアルテイルの金色の瞳……。
「ねえ。オルビリアのエイジス教会での精霊姫の影響ってどのくらいあるの?」
「ロアーネがこうして添い寝するくらいには」
基準がわからん。
「ほら、あのおでこの瞳って私と同じ金色だったじゃん。精霊姫と同じ精霊の瞳ってことでどうかな?」
「ふうむ」
どおどお? つんつん。
「ティアラ様って普段は頭アフォーなのに時々賢いですよね」
えへへ。褒められちゃった。今アホって言った?
「で、いけそうなの?」
「ロアーネがそう言えば、そうなるでしょう」
相変わらず謎のぐうたら美少女合法ロリ神官のくせに影響力強いんだなこいつ……。
任せた。
解決した。
ロアーネがアルテイルの金色の瞳を精霊の瞳だと宣言し、オルビリアの教会はそれを認めた。それで万事解決である。
結局ロアーネは何者なのさと本人に問うと、「お嬢様にはわからないかもしれませんよ」と言われてしまった。ふふふ、これでも中身はおっさんなのでね。難しい言葉じゃなければ理解はできるのだよ。
「ロアーネ、もっと簡単な言葉で言って」
「だから言ったじゃないですか」
幼女にもわかる言葉で説明されたのでふわふわになった。
オルビリアの教会は権力が低い。これは地球でも同じだったはずだ。諸侯が皇帝よりも力を持ち、皇帝を神の代理人としている教会の力が弱まった。同じようなことがあったのかは知らないが、少なくとも侯爵の娘が考えたカードを教会で販売することが許されるくらいには、教会よりパパの力の方が強い。
これにはまだ理由があって、ここオルバスタはエイジス教ではあるが、古くは精霊信仰であり、それが根強く残っている部分もある。精霊信仰の基盤になっているのが世界樹の存在であるとか。あるのか世界樹!
「で、結局ロアーネはなんなの?」
「宮殿に住む神官です」
「そのまんまじゃん」
私の部屋でごろごろしている神官は、私の部屋でごろごろするのが仕事であった。
そういえば、私の身体を調べたりしていたっけ。私のことを太陽の民と認めてからなんかおかしくなっていったけど。元々は審問官のようなものだろうか。教会の監査役というか。
「教会は王の執政が正しいかを調べる。王は回復魔法を身近に置ける。ウィンウィンの関係ですね」
「ウィンウィンなんてどこで覚えたの」
ロアーネは私のぷにぷにほっぺを突っついた。私か。
「あ、これは関係ない話なんだけど、回復魔法は奇跡ではないの?」
ファンタジー的には魔法使いが使うのは魔法で、神官が使うのは奇跡というイメージがある。
「魔法で引き起こせない事象が奇跡ですよ。そうですね、ティアラ様の爆発的な魔力は奇跡ですね」
「な、なんだと……」
私は魔力操作しかできず事象を起こす魔法が使えないのだが、魔法では起こせない事象を起こす奇跡を使っていたのか……。あれだな。バグ技使ってるようなものか。私の存在自体がバグみたいなもんだけど。そのうち神の修正入りそう。間違えて幼女の精霊体におっさんの魂入れちゃいましたって。おっさんとバレないように幼女化しなきゃ。ふえぇ~はわわ~ぷにきゅわ~。
「まあでも、ロアーネの本性は大方予想通りだったなぁ」
「そうですか? お嬢様が思っているよりは私は偉いと思いますよ」
「どのくらい?」
「教会として侯爵に意見を言ったり、侯爵の意見が正しいと教会に伝えたりできる程度に」
リルフィの戸籍を女にしたり、三ツ目を精霊の眼ということにしたりしたもんなぁ。
しかもそれ、教会としては本当は糾弾しなきゃいけない不正に加担してるんだよなぁ。
ロアーネは偉いなぁ。いいこいいこ。
「なんでそこでロアーネの頭を撫でるんですか! やはり軽んじてますね!」
「ひゃあ! くすぐるのはらめぇ! ちっこ出ちゃう!」
じんわり。
そうそう。問題解決したことによって、パパとママにめっちゃ褒められた。えへへ。
なんだか宮殿内がおめでたなのに暗い空気だったのが、今度は急にめっちゃ盛り上がった。精霊の加護を得たアルテイル王子誕生! である。
「タルトも弟ができてよかったね」
「ああ。アルテイルを支えられるようにならないとな」
「うん」
そして新年祭では限定精霊カード、金色の瞳の星降りの精霊が販売される。
リアももうすぐ春の結婚式か。そろそろ実家を出発する頃だろう。
リアからの手紙の返事が来ないんだよなぁ。まだかなぁ。




