41話:○△□取札ゲーム
冬が来た。ふわふわしている風花をシリアナが犬のように追いかける。南のシビアン山脈から飛んできた雪だろうか。今年は去年のように雪が異常に積もるようなことはなかった。
ママの体調はずっと良く無さそうだが、それでも侍女と共に家の中を歩いて回り少しでも運動をしている。
ママの体調が悪い理由は魔力中毒であるらしい。魔法使いではないママは身体に溜まった魔力を自分の意思で放出することができない。魔力が体内に溜まって悪影響を与えているとか。え、もしかしてママにあげた魔除けが悪影響与えてないかと心配したけど、「もしそうならロアーネが止めてますよ」と言われてしまった。そりゃそうだ。むしろ、魔除けが魔力を吸って症状がやわらいだという。
待てよ、それならぽぽたろうをママに貸し出せばいいのでは? ぽぽたろうは魔力吸ってそうだし。
そういうことでママにぽぽ貸しした。ポアポアのぽよぽよ感をママも気に入ったようだ。
それと、私はママに健康と母子を意味する木の実の精霊カードを作って上げた。魔法結晶スペシャルバージョンだ。
パパには泉の精霊カードを上げた。パパと出会った場所、私の生まれた場所が泉だからだ。
娘からのプレゼントに大喜びしたパパは、娘三人のために赤くて白いポアポアのようなもこもこの服を服飾工房に作らせた。
「なにこの見覚えのあるコスプレ感……」
「ティアラ様が口にしていた、聖人が子どもに贈る祭りの衣装ですよ」
確かに太陽の国ではクリスマスという行事があるって言ったことあるけど!
なんかかなり間違ってるけど! それだと子どもがコカコーラサンタのコスプレする祭りになるじゃん!
まあいいか。
「どーお? ララー。かわいい?」
「どうでしょうか姉さま」
シリアナもリルフィもコスプレサンタかわいい! ぎゅー。
「ララー! みんなに見せて回ろー」
「そうだ。今日は『お菓子をくれなきゃイタズラするぞー』って言って回るの」
「なにそれー! アナもやるー!」
そしてシリアナはいろんなメイドからお菓子をせしめた。さらに私たちは調理場に突撃してケーキを作らせた。
まあそんなこともありつつも。
冬は寒いので家の中でとろけるように過ごした。ロアーネと共に継承権カードゲームのエイジス教イベント拡張エキスパンションの最終調整したりとか。それには工房のカルラスや元スラムの一、二、三、四号にも手伝わせた。彼らはこの国の文字の読み書きが不自由なので、勉強させる目的もある。それと初心者プレイを見るのは、既プレイ者にはわからないルール不備が見つかったりするものだ。カードでわかりにくかったり複雑化したところをシンプルに修正する。これをしないと大会で「ジャッジ!」してもジャッジがカード効果を把握しきれていなくて世界中で混乱を起こすような事態になる。地球のカードゲームではよくあった話だ。
そうそう、新しいカードゲームも作った。凄く単純な神経衰弱だ。
木札の○△□を赤青緑の三色で塗り、合計九枚を二組作った。
18枚を裏向きでシャッフルし、お互い9枚ずつ配る。
そして札を見ながら自分の前に裏向きで3×3に配置する。
後はお互い順番に神経衰弱だ。ね、簡単でしょ?
「ロアーネからでいいのですか? でしたらこの手前の二つを開きます。ふふん。これで揃ったから私の得点ということですね?」
「じゃあ私はロアーネの奥のを開いて……、緑○だから、これは私のここにあるっと」
「な! 相手のを取る、そういうこと!? えーと、ロアーネの方にはこの赤○は無かったから、ティアラ様の陣に二つあるわけで……。それならわかりやすく隣に置いて……なぁい!」
にひひと笑いながら、私はロアーネの真ん中を開けた。緑□。これは私の左上にあったな。揃ったので札ゲットだ。
「ならロアーネもティアラ様の真ん中を……。青△……これはロアーネの方にあった……どこだっけ……」
予想以上にロアーネの頭がゆるくて、獲得数に差が付いた。私が14枚で、ロアーネが4枚である。
ロアーネが「ぐぬぬもう一回!」と言ってきたけど、その前にカンバと対戦する。
だけど今度はカンバが強かった。私が6枚で、カンバが12枚となった。なんか、私の陣に2枚ある絵柄の札を一発で当ててきたりしたんだけど!?
「単純なゲームですけド、洞察力が問われますネ。お嬢様は札をあえて離して置く時があるのデ、それが同じ絵柄の札だなとわかりましタ」
え!? 何その攻略法!? そこまで私考えて無かったんだけど!? こわっ!
あれだよ、麻雀で他家の切った牌の位置を覚えてるタイプだよこれ! ちなみに私は頭がゆるゆるなので他家の手牌なんて読めず直感麻雀である。
「なるほどぉ。配置の時の癖を見ればいいんですね? 次はロアーネが勝ちますよぉ!」
ロアーネは自分が置いた札の位置をほとんど覚えていなくて惨敗した。
そんなこんなで冬の間は、○△□取札ゲームをシリアナと遊んだりして過ごした。シリアナは完全直感タイプのわりに強かった。弱点は自分の置いた札を覚えていないこと。リルフィは逆に自分の札は間違えないけど、相手の札の位置を当てられないタイプであった。
このゲームもいつの間にかメイドの間で広まった。最初はのどかな対戦であったが、他人の置き癖を見るカンバの看破戦法が広まり、置き癖と思わせて引っ掛けるなど心理戦のゲームとなり始めた。想定外すぎるんだけど……。
さらにいつの間にか札が作り足されて四組となり四人対戦が可能となっていた。こうなると完全に別ゲーである。三人の九枚の置き方をチェックしながら、自分の九枚の札の配置を覚えるのである。しかも札の絵柄は覚えにくい○△□の三色違い。
四人の場合だと、初手で自分の陣の揃ってる札を取って得点にし、確実なリードを取ることも有効な戦略となった。理由は各種四枚ずつあるため、せっかく自陣でペアができているのにペアのうちの片方を他人に取られる可能性があるからである。
ただし初手自陣取りをした場合は、他のプレイヤーから札を狙われやすくなることもある。減った分だけ確率的に自陣にある札と同じ絵柄をめくる可能性が上がるからだ。
かくしてこの○△□取札ゲームはその手軽さゆえ、そしてより刺激が求められ、勝敗にともなう賭けが行われるようになった。賭けに使われているのは小さな飴玉である。そして勝者はその飴玉で幼女を釣るのである。
「お嬢様。飴を舐めている時は危ないので座っていましょうね」
ぺろちゅぱ。
私は知らないメイドに抱きかかえられ、ソファの上のその膝に座った。
あれ? これ私の抱っこ権が賭けの対象になってない?
こうして、賭け札が流行し、当然それはママの耳に入る。
「なにかメイドたちの中で貴女の考案した賭け事が行われていると聞いたのですが?」
「わ、わちが考えたのはゲームじゃけでございにゃも」
「言い訳はよしなさい」
ひぃ! ママの機嫌が悪い。ぽぽたろうを抱かせねば!
「賭けに繋がるようなゲームを街に広めることは許しません。いいですね」
あ、はい。そもそもこれを街に広めるつもりはなかったけど……。工場の元スラム少年たちとは遊ぶつもりではあったけど……。
だけど賭け禁止になったら、私も日々のメイド抱っこから解放されるな。よし。
「ママの子どもと遊ぶために考えたのですので、量産のつもりはごにゃいもせぬ」
いやまあ、量産する気なら絵の具で○△□描くだけだから、簡単にできるんだけどね。
ママは扇で口元を隠し、ヒソヒソとママお付きの侍女へ耳打ちした。侍女もヒソヒソと答える。内緒話気になる。
「賭けはお菓子までにするように」
私は賭けをしてないけど……。
あれ? お菓子賭けが公認されたということは、私は賭けの対象になり続けるのでは?
ところで、ママが○△□取札ゲームを手にしてそわそわしているように見えるのは、もしかして遊びたいのでは?
「ママ、一緒に遊ぶるます?」
「貴女がそういうならお相手いたしましょう。オラヴィ、氷砂糖の用意を」
え? ママも賭けする気満々じゃん……。これ、忖度しないとダメなやつ……?