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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【2章】カード作り編(6歳冬~)
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26話:マヨネーズの前で人は平等

 芋がまたいっぱい採れた。それは良い。私はもう我慢できなくなった。

 マヨネーズが欲しい。私はマヨネーズを決意した。


「生卵と酢と油と塩をかき混ぜた調味料ですか? なんですかその……いえ、それが太陽の国の食べ物なんですか?」


 ロアーネは露骨に顔を歪ませた。

 いやこの世界にもきっとあると思うけど。多分西のティンクス帝国にはあると思うけど……。

 リアもマヨネーズを知らなかった。ベイリア帝国にはマヨネーズが入ってきていない? それともオルバスタが田舎なだけ? さては西側諸国はマヨネーズを独占してるな!?

 料理長を呼びたまえ!


「卵を生で? 正気ですかお嬢……」


 ですよねー。

 散々「目に見えない悪い精霊はあちこちにいるから手を洗え」と言ってきた口やかましい幼女が、鶏卵を生で使えと言ってきたのである。卵はうんちの穴から出てくるのできたにゃいのである。


「卵をよく洗って使う」

「正気ですかお嬢……」


 冗談は虹色の髪の毛だけにしてくれと言わんばかりに頭を抱える料理長。だ、だめかな……。


「卵と酢と塩を入れて、油を足しながらめっちゃ混ぜる。だったはず」

「はずって、その、混ぜる量とか時間は……」

「わかりゃん……」


 マヨネーズ計画は頓挫した。おかしい……マヨ作りはお手軽だったはず……。

 こうなったらパパにお願いするしかない!


「なに? ティンクス帝国のコックを呼びたいだって? う、うーむ……」


 さすがのパパも渋い顔をした。

 それならもうダメ元で、オルバスタに「生卵と酢と油を混ぜた生成り色の調味料」を知ってる者がいないか調べてもらった。

 また色々忙しそうなのにすまんのじゃパパ……。わちはもうマヨなしのじゃがいも生活には耐えられんのじゃ……。


 マヨネーズの事は一旦忘れて、春のカードコンペに向けて私のドレスの採寸が行われたりした。春ドレス新調である。

 挨拶文も考えなくてはならない。大部分は人任せだが、カード作りのきっかけなどは私が書かねばならん。

 素直に「遊び道具がほしかった」と書いたら却下された。なんだよもう。それじゃ全文任せるよ。

 そして出来上がった、何が書いてあるのかほとんどわからないクリトリ語の文を覚える事となった。長すぎて覚えらりぇん! 半分くらい削ってもらった。

 カード作りと言えば、イラストが描かれる前にメイドたちの手によって先にテキストが書かれるようになった。仕事増えて申し訳なく感じたものの、カード作りにもお賃金が出されているようで喜ばれているらしい。

 ところで財源大丈夫なのだろうか。この木札カード事業、めちゃくちゃ金かかってない? 誰だよカードゲームはお札刷ってるようなものと言ったやつ! 採算取れないだろこれ!

 あ、もしかしてそれだからクリトリヒの方々を招くのか?

 そうだよな。儲けを出すなら売る対象がいるものな。

 ……売れるの?



 冬も半ばになり、私はパパに呼び出された。

 パパに「例の調べ物の件だ」と言われた。マヨネーズの事はすっかり忘れていた。じゃがいもにチーズを乗せて焼いた、じゃがピザがマイブームになっていたのだ。


「知ってる者は、いた。だが……」


 いたの!?


「会いたい!」

「だめだ。そいつは広場でティアラを攫おうとした男だ」

「むぅ」


 あ、そりゃだめだ。秋頃に広場で私の腕を掴んできたマジスタンか。檻の中か。

 でもそれって適当な事を言って交渉しようとしてきてるんじゃねと思ったが、幼女っさんが考えるような事なんか百も承知で、具体的な作り方を聞いたら「油を少しずつ足しながら腕がちぎれるまで混ぜる」と答えたようだ。私の言った製法と一致したことを確認していた。


「男はティンクス帝国の人?」

「いや、どうやらもっと西の国のようだ。国名は明かさなかったが訛りが酷い」


 なるほどなるほど。それで製法を知っているならマジで期待できるんじゃあないか?


「男を檻から出してマヨネーズ職人にする。できる?」

「それはダメだ」


 ロアーネからも「マジスタンですよ!? 何を考えているんですか!」と言われてしまった。ロアーネは落ち着いて。


「ロアーネ。食はエイジス教より大事」

「な、なんて……?」

「月の女神に祈ってもお腹は膨れない。人は食べ物があるから祈れる。食べ物が無ければ人を殺す。マヨネーズの前で人は平等」

「ま、マヨネーズとはそれほどの……。わかりました。侯爵(ジュパン)ディアルト。このロアーネが立ち会います。マジスタンの男にマヨネーズを作らせてみましょう」


 かくして。侯爵家の娘に害を為した罪で囚われた西方の魔術師(マジスタン)の男は、マヨネーズ作りにより罪が裁かれることとなった。マヨネーズ or Die。マヨか死か。男は魔法を封じる特殊な手枷を嵌められたまま檻から出された。

 男は最後の日だと思った事だろう。雑にお湯をぶっかけられてブラシで身体をこすられた。その姿は私は見せられていないけど。男囚人のシャワーシーンなんて見たくもないわ!

 そんなこんなで男が運ばれてきたのは、カード木札作りの生産工場の調理場である。私とロアーネと料理長他は視察ということでこの場にやって来た。

 男は私の姿を見て何か察したのか「ぬんのつもりだ」と口を開いた。その瞬間、男は看守に棒で殴られた。


「やめ。その男が自由に喋ることを許す」

「俺になんをするつもらだ」

「マヨネーズを作ってもらう」

「マヨネーズ? なんだぁそらぁ」


 ロアーネが「とぼけてます。殺しましょう」と耳打ちした。気が早いよ。


「卵と酢と油を混ぜた調味料。男が知ってると聞いた」

「ああ。それか。ここではマヨネーズって言うのか。知ってる。作ればいいのか?」

「作業はこっちでする。男は作り方をそこで言う」

「それでけかい。お姫さま」


 こくり。

 男は馬鹿にした目で私を見ている。街遊びが好きな姫がわるふざけをしているとしか思っていないのだろう。まあ大体合ってるけど。


「あなたは嘘を付くと死ぬ。正しく教えれば罪は許される」

「そらならこいつを外してくれるってか」


 こくり。

 男は手枷を嵌められた両手を持ち上げて見せて笑った。

 見かねたのか、ロアーネが横から口を挟む。


「エイジス教が保証します。あなたの罪はマヨネーズにより許される。神はおっしゃりました。マヨネーズの前で人は平等だと」


 その言葉に男は目を丸くした。というか、全員丸くした。

 ちびっこシスターがマヨネーズを信仰しだしたのだ。わ、私のせいじゃないもん……。知らないもん。ぷいっ。

 とんでもない空気の中、ロアーネは続ける。


「作られたマヨネーズはあなたに最初に口にしてもらいます。嘘を付けば、あなたが苦しんで死ぬだけですよ」

「……わかった」


 そして男の指示でマヨネーズ作りが始まった。

 まず、ひびの入っていない、今朝取れた鶏卵を用意するように言った。それを蒸留酒に漬けるように言う。なるほどアルコール消毒か。


「卵を酔わせてどうするつもりでしょうか……」


 リアの呟きに思わず笑ってしまった。

 卵を酔わせると悪い精霊が消えるとリアに教えてみる。リアが一瞬信じかけたが私を見て「その顔は嘘を言いましたね?」と言ってきた。う、嘘じゃないもん……。

 アルコール漬けの卵をさらにブラシで洗い、器に卵、酢、塩を入れるように言った。

 あれ? 卵黄だけじゃなかったっけ? ……まあいっか。嘘を付いてる様子はないし。


「そりとマスタードだ。レモンはねぇのか? 無けらばいい」


 マスタード入れるのか。辛くなりそう。幼女は辛いのきらい。おっさんはすき。

 そして食用油を入れながら、かき混ぜるのだが。


「俺は風魔法が使える。先にこいつを外してくれ」


 もちろんそれは許されない。風の魔法ならリアがいる。


「リア。風で渦を作って混ぜる。できる?」

「おまかせくださいお嬢様」


 魔法ミキサーだ! 乳化して固まるまで混ぜて完成!

 なんかねちょりじゃなくてとろりとしてるな。全卵だからかな。

 私はスプーンで一口すくい取り、男に差し出した。


「ほれ食え」

「待て。しばらく置く。そうしないと……」


 男は周囲の無言の圧力に負けて、マヨネーズを口にした。

 ちゃんと出来上がったようだ。

 それならみんなで味わってみようかとスプーンを手に取ったのだが、男に止められた。


「まだ食べるな。すぐに食べると腹を壊すことがある」

「まじか」


 なんだよ。それ最初に言ってくれよ。言いかけてたな。

 ロアーネはそれを聞いて私に尋ねた。


「それは、ティアラ様のいつも言っている悪い精霊のことですか?」

「そう。生の卵は洗っても悪い精霊が残ってることがある。酢は悪い精霊を減らすから、男の言った少し置くのはその事を言ってるのだと思う」

「わかりました。ならばきれいにしましょう。ペルストルトリーチ」


 ぺかーん。ロアーネの魔法によってマヨネーズが光った。そんなことできるの!?

 男が先に毒味したの意味ねえな!


「それではいただきましょう」

「待って。じゃがいも用意する」


 世間では令嬢芋と名前が付いた、でかくてほくほくのお芋だ。

 そしてマヨだー!


「んまー!」


 やっぱじゃがいもにはマヨネーズなんだよなぁ。芋野郎のくせにベイリア人はそれがわかってない。これでポテトサラダも作れるってことがなぁ!


「男も芋くえ」

「あ、ああ」


 男は枷を付けたままじゃがマヨを口にして「うめぇ……」と異国の言葉で呟いた。

 そうじゃろうそうじゃろう。


「これで男は罪を許されたな! そうだ男。ここの厨房で働け。よいな」

「え、あ、はい」

「工員のみんなにもじゃがマヨを振る舞いたまえ。看守よ後は頼んだ。ああ、マヨは半分持っていくぞ。では帰るぞ皆のものー!」


 パパにもじゃがマヨ食わせるのだ!

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[一言] じゃ、じゃがピザー!?
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