240話:なんだこれチートキャラの無双ゲームじゃねえか
魔法使いの裂け目へようこそ!
てんやわんやの準備の中で試合は始まった。ひとまず一番心配だった竜姫リズの森の中のモンスター狩りは上手くいったようだ。ここが一番事故りやすい部分である。本来の彼女なら余裕で倒せるゴーレムタイプのモンスターだ。レベル1の状態ではバトルアリーナの魔力制限がキツすぎるために、思った以上に本来の動きができず苦しい。テストプレイ段階で私自身も試したが、髪の毛操作はへなへなだし、魔力弾射出も鼻くそを飛ばしたような威力だった。私が直接参戦しないで指揮官になった理由はおわかりだろう。レベル1の私は要介護ぷにぷに幼女なのであった。
だが彼女らは違う。
トップレーンのソルティアちゃんは山育ちの狩人魔法使いであり、土魔法で上手く対面の炎魔法の遠距離攻撃から耐えている。対戦相手はこちらの骨兵士に攻撃を始め、ゴラム兵士をタワーに押し込んでくる作戦だが、ソルティアちゃんも上手くタワーの砲弾攻撃の中にまでゴラム兵士を呼び寄せた上で、土魔法の壁で動きを封じ、押し込まれないように防いでいる。
ちなみにこのリアルバトルアリーナのリーグオブウマァジには、CSまたはラストヒットと呼ばれるシステムはない。元ネタのゲームには兵士にとどめを刺さないとお金が貰えない。このゲームでは貢献値という特殊計算でレベルアップや報奨金が貰えるようになっているので無くなった。ようするに、ゴラム兵士のトドメを直接刺さなくても、そのトドメを刺しているタワーを守ることに貢献しているのでお金貰えますよってことである。
逆に元ネタゲームにはないが元祖のゲームに存在する、DENYと呼ばれる味方兵士殺しはある。魔法で敵兵士と一緒に巻き込んだら味方兵士も死ぬのだ。そういうものなのだ。
中央のミドルレーンではやはり敵は三人。こちらは二人なので兵士の押し込み合いは不利になる。だが人数が少ない分、貢献値の分配量も多くなるので先にレベルアップする。最初だけ耐えていれば人数差を感じない有利になるだろう。
中央の三人も炎魔法使いだ。これで炎魔法使い四人と非常に偏っている。異常な偏りはブラフという可能性もあるが、先の戦いも炎魔法しか使っていなかった。これはおそらく分隊規模の特殊任務と想定して、炎という属性が特に強力だからであろう。
さてこちらはナールとアイシア。ナールはさっき知り合ったばかりで戦闘スキルは未知だ。敵の炎魔法によるプッシュ(兵士処理による押し込み)が強力だが、ナールが弓でビンビンと魔力の矢を放って敵のゴラム兵士に攻撃できるので、思ったほど序盤もなんとかやれそうだ。ちなみに物理矢は持ち込んでいない。武器持ち込みありだと、「魔力制限されてる序盤では魔法を撃ち合わないでサーベルで斬り掛かった方が早くね?」になってしまうからだ。魔法使いとしての杖の持ち込みは可で、その延長で弓も魔法補助道具扱いということになった。
アイシアは時々ナール狙いの炎魔法に対して、雪玉を飛ばして相殺した。えっなにそのゆるふわ雪玉魔法。いやまあしかし、確かに炎に対して雪は最大のカウンターだ。だが飛んでくる量が違いすぎる。アイシアが前衛で苦しそうだが頑張って貰うしかない。清楚系美少女なガワを利用して、敵の攻撃魔法を躊躇させるのだ。
そう思っていたらアイシアは燃え付きて死んだ。よく考えたら元々そんな戦えるタイプの人ではなかった。人選間違えた。ナールにはタワーの後ろでぷるぷるして耐えて貰おう。
トップもミドルも押し込まれているので観戦者からしたらもう勝負は付いたように見えていることだろう。実際に敵兵士を処理しきれずにちまちまとタワーに兵士の砲撃が当たっているが、大したダメージではない。だが押し込まれて耐えているという状況がプレイヤーの精神的ダメージがずくずくと積み重なっていく。なので私は「がんばれー」と応援する。今は現状維持でいいぞーと。
そしてボトム。まあ沼フィールドで沼の精霊たるノノンが負けるわけもない。彼女は私のライバルキャラであり、同等の力を持っている。安心と信頼の実力だ。ノノンは元からいる骨兵士に加えて魔法で骨兵士を増やしていた。だがレベル1という強力な魔法制限により、蟻のようなサイズの骨兵士であった。当然、対面のマッチョ魔法使いに一瞬で蹂躙され、ノノンは即死した。
「ノノンー!!」
まさかの絶対安牌だと思っていたノノンが負けた。一瞬で負けた。なんだこのクソゲー。ちなみにこのゲーム、序盤に格付けされると逆転はまず不可能である。対戦相手を倒したことによる貢献値で差が付くからだ。そして何度も殺されて敵を育てる養殖者という戦犯になる。そして心が病む。これが闇のゲームたる所以である。
序盤は殺されてもすぐに復活する(正確にはこのゲームでは死ぬ前に拠点へ転送される)。アイシアとノノンはすぐに動けるが、レベルアップが遅れ、タワーの庇護下でぷるぷるし続けるしかなくなる。
ここで遊撃の竜姫リズに応援を向かわせるかどうかだが……大抵の場合は援助に向かわせない方が良い。なので私は鬼の決断とする。ノノンが守るボトムレーンはもう負けだ。最初の第一タワーは壊されてもいいから、タワーの下で殺されないようにしろとノノンに命ずる。
そして私は代わりに、竜姫リズにトップレーンの強襲を命じた。GANKことGang Killは囲んで殺すの意味だ。調子に乗っていたトップレーンの炎魔法使いは、脇から突然現れた竜姫リズに驚き足も手も止めた。その一瞬でソルティアちゃんの土魔法の壁が対戦相手の背後に現れ、彼は襲い来る竜から逃げ場を失った。森のモンスターを狩りレベルアップした竜姫リズの攻撃で一瞬であえなく彼は貢献値となった。
ボトムレーンで負けたなら、別のレーンで勝てばいいのである!
対戦相手を排除した竜姫リズとソルティアちゃんは、敵兵士を処理して味方兵士と共にタワーへ攻撃に向かおうとしたが、私は彼女らを引き下げさせた。ミドルレーンの敵三人がトップレーンに向かっていったからだ。タワーの下で敵三人に襲われたら、実質4対2である。今度はこちらが強襲されることになる。その隙を見せるよりも、手にした勝利を新しい装備の購入で強化に当てる時間にするのが正しい。
さてこちらのミドルの二人はどう動かすかと思ったところで、アイシアとナールから逆に通信が入った。
「なるほどねぇ。ああして横から……つまり私たちも動いて……?」
「やるなの」
アイシアとナールは彼女らの独自の判断でボトムレーンへ動き始めた。だが私は途中で待ったをかけて、途中で拠点帰還転移するように指示した。
「なぜなの」
「どうして下がらせたのでしょう? 沼にいる筋肉さん殺れたでしょう?」
だが私はリスクの方が大きいと判断した。それにボトムレーンの彼も引き下がり始めたので、どちらにせよ強襲は失敗しただろう。だが、二人が動いたのは無意味ではない。少なくとも相手の指揮官には「トップレーンと同じようにボトムレーンも襲う指示をしたのかもしれない」という疑惑をかけることはできた。その疑惑による正しい判断が時間のロスとなる。こちらは勘付かれて失敗する強襲で時間のロスはせず、拠点帰還転移で魔力回復と買い物時間に当てることができたのだ。
負けの戦況の場所への時間での攻撃。逆転の芽は小さな積み重ねで育てていく。
そんなことは対戦相手の本物の戦場指揮官も百も承知だが、有利を取っているからこそリスクは取らない。ギャンブラーではないからこそ正しい判断をしてくれるのだ。こうした時、お互いに思考の動きから通じ合える。この時の最善手は、同じくマッチョも拠点帰還転移させることだ。警戒させたまま留まらせるのは時間の無駄を重ねるだけだからな。そして敵は遊撃の強襲を一度受けたことで学んだであろう。今まで一度も姿を見せて来なかった者による不意打ちの恐怖と、その有用性を。伏兵というのは当然のことながら恐ろしい。常に意識しないといけないし、意識しすぎると身動きが取れなくなる。おそらく敵は土魔法使いのマッチョを遊撃に使ってくるだろう。これからが本当の戦いだ。
そして最序盤のレーンの守りを一人放棄させて遊撃手にし、森のモンスターで成長させる事も学んだであろう。おそらく敵も森の中のモンスターを倒してチーム全体の貢献値の効率を上げるはずだ。
なので私はゲームの先輩として限りなく嫌らしい手を打つことにした。それを竜姫リズに伝えようと思ったが、しかし竜姫リズも最強の戦闘狂だ。彼女自身もわかっていた。敵陣地側の森へ入り込んだのだ。これをカウンタージャングルという。ゲームは始めてでも歴戦の彼女にはやることがわかっていた。まだ最初のタワーが破壊もされておらず、レーンから外れた森の中は安全なはず。いや初心者にはその意識すらない。自分の庭に伏兵が潜んでいるとは思わない。茂みの中に潜み、無意識にのこのこと入り込んだ獲物を狩る。そう、この後起こるのは、戦闘ではなく一方的な狩りだ。
と、私も思い込んでいた。
「な!? 5ミッド!?」
敵は中央レーンに5人集結して姿を表した。
はっきり言ってこれは、私の完全な失態である。
オンライン対戦ゲームにおいて、5人チーム戦のものは数多く存在する。そして1人で参加し知らない4人で即席チームを組むゲームと、5人チームで組むゲームでは、内容が全く異なるものとなる。即席で空気を読んで連携する5人と、ボイスチャットで連携しながら動く5人では、動きが全く変わるのだ。
そう、対戦相手はただのゲーム素人ではない。指揮官1人を加えて連携している5人の軍人である。彼らはトップレーンと、ボトムレーンと、森の貢献値を捨ててまで、電撃的な侵攻を優先した。
当たり前だが、いくら序盤フェイズとはいえ、二人+タワーでは五人の侵攻は止められない。いやおそらく敵チームにはもう序盤という意識はない。すでに中盤に入り、詰めにかかっている。この私の判断ミスにより1つ目のタワーはもう諦めなくてはいけない状況だ。
私は慌てて、ソルティア、ナール、アイシア、ノノンを中央2つ目のタワーに集結させた。敵はマッチョの土魔法使いが土壁でこちらのミニ骨兵士の侵攻を止め、4人の炎魔法使いがミニゴラム兵士とともに1本目のタワーを集中砲火してへし折った。2本目のタワーの前で、こちらの4人の存在を把握したところで、敵は安心して中央レーンから引き返していった。
私は歯噛みする。通常なら1本タワーが折れた程度ではまだ全然挽回できる段階だ。だが5対5のぶつかり合いで勝てるビジョンが浮かばない。このままではトップもボトムも1本目のタワーはなすすべなく同じように折られる。
「おーい? どうするのー?」
森の中でひたすらモンスターを借り続けていた竜姫リズから無線が入る。竜姫リズも集結させれば対抗できるか……いや厳しいだろう。竜姫リズにはなるべく敵の前に姿を現さず、森の中に居続ける命令を出した。今、敵に5人でまとまって動いているのは、竜姫リズが姿を見せていないおかげだ。1人の伏兵の動きで5人でまとまらせて行動させている、とも言える。
「ミドルの敵兵士処理したら、ソルティア、ナール、アイシアはトップへ。森に中には入らないように。ノノンは一旦戻ってボトムで死兵グリオグラを限界まで流して」
間に合うかわからないがそう指示を出す。敵が5人まとまってボトムに来てくれればラッキーだ。代わりに敵のトップの1本を折れる。トップでぶつかったら……しかたない。竜姫リズの姿を見せることになるが、彼女にボトムを折って貰おう。
そう考えていたら、本陣に帰ってきた眼の前のノノンから「どれだけいる?」と聞かれたので、「限界まで」と答えた。そしたらチートが発覚した。本陣では減った分の魔力が急速に回復する。ノノンは進軍し続ける兵士を生み出せる。ノノンはぽこぽこぽこぽこと無制限に骨兵士を生み出し始めた。これあかんやつや! ちょっと待てストップ!
周りのミニ骨兵士と比べてさらに一回り小さい100体ほどよちよちよちよちと進軍を始めた。……タワーの攻撃は高火力でも1体ずつだ。ただのクソザコユニット100体もいると、物量で破壊しきれてしまう。ゲーム崩壊だ。
ならなぜ止めたかというと、召喚物破壊も敵の貢献値に入るからだ。簡単に倒せるクソザコユニット分だけ敵が有利になる。
こうなったら敵がトップに集結してくれることを願うしかない!
トップに敵見えた!
「ん? 敵1人か」
暗闇の霧で視界が制限された中から確認できたのは敵1人だけであった。他4人が見当たらない。
だがクソ、確かにこれは動かしにくい。1人だけと油断して押し込んだら他が伏兵で、先ほどこちらがやったように横から襲ってくるかもしれない。釣り、つまりあの1人は囮の可能性がある。
「殺るよ、なの」
ナールの無線に「えっ」と考えて返事する間に、ナールの魔力矢が敵の頭に刺さり、即死させた。倒しちゃったの? え、どうしよ。考えてる間にトップの4人は「わー」とタワーをぺちぺち攻撃始めた。伏兵はなかった。どうやら敵は、ボトムに流れてきた大量の骨兵士を確認し、「これあかんやつや!」と4人を処理にボトムへ向かわせたのだろう。こちらがトップタワーを攻撃している間に、ノノンが生み出した骨兵士たちは美味しく退治された。
竜姫リズから「あれ止めなくていいの?」と無線が入るが、まだ姿を見せないままで居させた。私の予想では、敵は次は5人でトップの2本目タワーを守りにくるはずだ。はずだ……。
「突き進んでくるけど?」
まずい! タワー早割り勝負になってる! 直接戦わず、こちらはトップ、敵はボトムを進軍し続けるスピード勝負に持ち込まれた! しかも竜姫リズは攻めるに参加させるにも守りにいかせるにもすぐに向かえない位置にいる。どうするか悩み、リズにもトップへの攻撃参加指示をしたところで、味方から魔力切れ報告を受けた。慌てて下がらせてボトムの3本目タワー防衛に向かわせた。
だがその間に敵はミドルレーンに移り、ミドル2本目タワーが折られた。
そちらに意識が集中している間に、竜姫リズがトップレーンの復活して油断していた敵を倒して2本目のタワーを折っていた。
(タワーの状況 ◯本陣 ・タワー ✕破壊済み)
・ ✕ ✕ ✕ ・ ・
森 森
◯: ・ ・ ・ ✕ ✕ ・ :◯
森 森
・ ・ ・ ✕ ✕ ・
なんとか巻き返したいところだが、どうにも後手後手だ。次はどこへ来る……。セオリーならトップレーンの2本目のタワーを狙いに来るが、そうこっちが読むことはお見通しなことは敵にもお見通しで……。しかし現状は敵有利なのだから読まれてることがわかった上で来られても困る……。どこだ……。
私が迷っている間にみんな勝手に行動していた。ノノンは先ほどのように本陣で魔力回復しながら死兵グリオグラをぽこぽこ生み出してボトムに向かわせているし、アイシアはミドルのタワーを雪で固めていた。あっそれ良い! アイシア役立たずかと思ってたけどやるやん! タワーの防御力上げてくれるの助かる。
と、なるとやはりこのチーム、鍵となるのは奇策だ。一回でもまともにぶつかって戦闘して全滅したら勝負は決まる。だが死なずに耐え続け、逃げ続けたら勝機はある。
トップ2本目タワーは守るのは無理だ。それを犠牲になにか他の成果を出さなくてはならない。タワー折り競争も、ノノンのズルを使えば有効ではあるが……。
「そうか……ノノンのズルか。ノノン、沼ワープ使えるか?」
「ん……リズ相手なら」
「ならば十分だ。よし。トップ2本目タワーは囮にするぞ」
だが私の目論見は崩れた。さっきノノンがボトムレーンに大量に骨兵士を送り混んだので、敵はボトムに集結していた。ならばとこちらはリズを隠したままミドルレーンを押す。少しミドルタワーを攻撃させたところで、すぐにトップレーンに逃げさせた。敵は追いかけるようにミドルレーンに姿を現し、骨兵士を処理すると再び闇の視界の中へ消えた。
うかつに追いかけては……来ないか。
敵の立場で考えてみると、意外とやきもきしてるのかもしれない。絶対に勝てるので正面からぶつかって戦闘したい。だが当然不意打ちは喰らいたくないし、不意な遭遇戦も避けたい。敵からほとんど姿を見せない竜姫リズが不気味で危険だ。
なので先にリズが狙われた。しまった。
ここに来て敵はレーンではなく、森の探索を始めた。しかも茂みを炎魔法で燃やし、闇の霧を照らしながらだ。最悪なのはそこに本当に竜姫リズがいたこと。最高なのは竜姫リズは先に敵を察知して逃げきれたこと。
そして理想的な想定通りの作戦の手が打てる撤退戦の5対5の戦場ができたこと。そのままトップレーンが押される形となった。
全力で味方を下がらせて、リズは再びレーンから外れて伏兵とさせる。だが敵もいるとわかっている伏兵なら対処してくる。見えない方向へ警戒するだけで十分だ。それほどこちらの戦力は恐ろしくない。弓手ナールのヘッドショットだけ喰らわなければ良いと思われている。
「よしバックドアだ。リズとノノンでトップ3本目タワーを狙うぞ」
バックドア。前線無視の後方陣取り。このゲームでは兵士の流れを無視してタワーをへし折ること。囮の兵士がいなければプレイヤーは大ダメージを受ける。だがノノンは囮を生み出せる。そしてワープもできる。
伏兵だったリズは敵タワー攻撃射程ギリギリ外のトップレーンへ現れ、そこへノノンが沼ワープをする。そして死兵グリオグラの骨兵士をぽこぽこ生み出し、タワーへ進軍。リズは敵のゴラム兵を倒しつつタワーに攻撃する。
初めて見るこれを、「なにしてんだあいつら」と思うことだろう。だが敵軍はすぐに意図を理解させられた。ゴラム兵士が背後で倒されるので、本来の前線へ流れてこないのである。囮の兵士が来ないので、タワーに攻撃仕掛けることができない。戦場でいうと兵站へ攻撃を受けた感じだ。なので敵は仕方なく引き返す。そこへちらりと油断が見え、ソルティアちゃんの土魔法で一人足を取り、弓手ナールはそれを撃ち抜いた。ヤケクソのような敵の炎の壁魔法はアイシアの雪で消化していく。
そしてリズとノノンは引き帰らせる。2・4・3の挟み撃ちの形となった。だが、3人の炎魔法使いには脇から逃げられた。マッチョ土魔法使いはリズの方へ土魔法で壁を出し、ソルティアを向かえ打った。敵の急転回は完全に不意だったのであろう。ソルティアは追いかける自分の足と、マッチョタックルの強烈な衝撃で吹き飛んだ。ソルティアは背後にいたナールとぶつかり、ナールはぷちっと壁と挟まって潰れて死んだ。いや死ぬ前に転送されるのでグロシーンはない。マッチョが続いてアイシアへ襲いかかろうとしたところで、壁を乗り越えて駆けつけたリズがマッチョを背後から殺った。
「よし! 全員撤退!」
2人やって1人やられた。集団戦勝利だが、戦果は大きいとは言えない。逆転するには全員やりたかったが敵の撤退の判断が早かった。逆に逃げた炎魔法使い3人が留まっていたら、こっちはもっと被害が大きかったかもしれない。だが敵司令官の判断ミスとも言えない。逃げた炎魔法使いはきっちりとミドルレーンの兵士を倒してプッシュしていったからだ。このゲームの基本は敵がいないレーンの兵士の前線を押し上げることである。逃がした上にそれをされると敵に見えない得点が入ったようなものだ。
くそっ。
ドカーンと何かが崩れた。なんだ? 撤退命令を出したはずのノノンがトップレーンに残って骨兵士を生み出してトップタワーを破壊してた。何してんだあいつ、よくやった。いやしかし敵の動きを予測するに、見えない黒い霧の中から迫ってきてるが逃げられるのか? ノノンは沼ワープを使って地面の中へ潜り込んで本陣に戻ってきた。あっ、こいつずるいわ。生み出される死兵グリオグラの骨兵士のサイズを見るに、これでもまだレベルによる魔力制限食らってるの? そりゃ国も滅ぼせるわ。えっ。今戦ってる対戦相手のベイリア軍ってこのノノンとリアルで長年戦ってきたの? どっちもやばくね?
本陣に戻ってきたノノンは再び魔力回復しながらぶりゅぶりゅと骨兵士を生み出し始めた。レベルアップしたのか、生み出される骨兵士は子供サイズくらいになっていた。そして再び100匹くらい生み出すと、ボトムレーンに向かって進軍させた。
命令してないこと勝手に繰り返すのやめてね。
でもやる意図はわかるから止めない。ノノンがやっていることはバレているが、このくらいの量の骨兵士がボトムレーンへ定期的に来ると、「この量が、この間隔で、沼の所へ現れる」と思い込むだろう。思い込ませるのが目的と気づかれても、一度頭によぎったことはもう忘れられない。「そろそろくるか、今回はくるのか」と一瞬でも思考リソースが奪える。同じ行動の繰り返しは通じなくなるまで擦れは対人ゲームの鉄則だ。
✕ ✕ ✕ ✕ ・ ・
森 森
◯: ・ ・ ・ ✕ ✕ ・ :◯
森 森
・ ・ ・ ✕ ✕ ・
さて、次の打つ手だが……。こちらとしてはトップレーンは本陣の眼の前まで貫通してるので、トップレーンの前線を押し上げて本陣眼の前の2つのタワーを破壊すれば勝ちである。なんなら前線を押さなくてもノノンの死兵グリオグラの骨兵士でタワーの囮は生み出せる。バックドア行為を先に見せてそういうことができるしてくると警戒してくれれば儲けものだ。
なので敵は勝負を決めにくるだろう。ノノンがレベルアップして能力制限から解放されたらゲーム終了だからだ。なんならもう本陣でぶりゅぶりゅ骨兵士を全レーンへ向けて生み出し続ければ終わるような気もしないではない。それゆえ終わらせくる。
どうくる? 私は色んなパターンに対応できるように戦力を分散させ、リズは再び敵の森の中へ潜ませた。
私は完全に指揮官として負けた。敵の次の一手は単純明快シンプル。前線無視の中央突破だ。
最初に見えたのはミニゴラム兵を土で固めて抱えたマッチョの突撃。マッチョのタックルの衝突(おそらくそれだけではなく土魔法も関わっている)でミドルタワーに付いた防御雪は剥がれ落ちた。雪で固めるべきはタワーではなく地面だったのだ。マッチョに続く炎魔法使い4人が一斉にタワーを攻撃し、迅速に素早くなすすべもなく折られた。私は戦闘で一方的にやられないように逃げるようにしか指示できなかった。
さすがに一旦下がるだろうと思ったが敵は下がらなかった。完全に決めに来てる。そして私を甘く見てる。そうだ私は甘かった。4人で全力で本陣前の2本立ち並ぶ最終タワーを守らせてもギリギリである。本当にギリギリでお互いに死ぬか死なないかの攻防になった。敵の無謀とも言える最後の賭けは、いや私から見たらそう見えただけで敵からしたら正しくオッズの良い賭けだったのであろう。火の海の中で耐えながらも、無理に攻め込んできた敵の方が不利なはずでも、最後に分けたのはチームワークの差であった。
最初から最後までこの試合の差はそれだ。今までヘッドショットを決めていた弓手ナールの魔力矢は、この土壇場でマッチョ前線を食い止めるために前へ出たソルティアの後頭部に突き刺さった。もちろん狙ったわけではない。炎を消そうとして地面を雪にしたアイシアの魔法でソルティアが足を滑らせたのである。完全な事故のフレンドリファイアだ。
敵から距離を取り下がろうとしたナールとアイシアの背後を、ノノンが生み出した死兵グリオグラが邪魔をした。逃げ道を塞がれたナールとアイシアはやられた。
私の眼の前の2本の最終防衛タワーのうち1本が折られる。私は焦った。だが私以上に敵の方が焦っていた。そう、まだ残っている。
上空から竜が落ちてきた。そしてぐるんと回転した。それで終わりだった。圧倒的質量の衝突エネルギーで吹き飛ばされた敵は全滅した。
「ねえもう終わらせていい?」
あっそんな感じなんだ。指揮とかいらなかったやつこれ?
完全竜化したリズの背中の上に、ノノンが骨兵士をむにゅむにゅ大量に生み出し、そしてリズは飛び立った。ミドルレーンの敵タワー一本目に降り立ち、ばこんばこんと殴ってへし折った。そして二本目も折り、三本目に殴りかかると敵が復活して襲いかかってきた。撃ち込んできた炎魔法ごと炎のブレスで焼き尽くして敵五人は蒸発した。大丈夫? 生きてる? 死ぬ前に転送されてる?
復活したこちらの3人は骨兵士を椅子にしながら反省会が行われていた。まだ終わってないって。早いって。いや終わりだわ。竜姫リズがミドルレーン貫通して折りきって終わったわ。なんだこれチートキャラの無双ゲームじゃねえか。誰だ作ったやつバランス考えろ。




