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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【1章】アスフォート討伐編(5歳春~)
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23話:大量生産

 突然だが私は巨乳になってしまった。おっぱいがばぼーんと膨らんだのだ。なるほど。ロリ巨乳も自身がなってみれば存外と悪いものではない。


「ポアポアがコートに入り込んでますね」


 侍女リアが私のもこもこコートに手を突っ込んでポアポアの首根っこを掴まえた。ぷらーんとぶらさかったポアポアに焦りの色は見受けられない。むしろ私の身体に向かって小さい手足を伸ばしている。

 どこから入り込んだんだこいつ。


「お嬢様のコートの中が温かったのでしょうか?」


 冬の精霊みたいなやつなのに寒いのが苦手なのか?

 私がポアポアに手を伸ばすとするりと滑るように手のひらから逃れ、私の首元にくっついた。マフラーかな?


「変な子ですね」


 ど、どっちが……?

 聞いたら「どちらも」と答えられそうなので、私は黙って静かに頷く。いまさらながら私は無表情無口キャラなのだ。街の広場で歌って踊るお姫様ではないのだ。庭師から「『最近は精霊様のお姿が見られないねぇ』と家内が言ってましたぜ」と街の声情報が入ってきた。

 精霊様って私のこと?

 やはり私は精霊だったのか……。崇めよ。

 私の正体は美少女おじさんなどと夢がないのでどうでもいいとして。


 なぜかパパゲットカードゲームがメイドたちの間で勝手に流行していた。ついでに勝手にルールやカードが付け足されていった。

 まず山札は三種類の三つに分けられていた。引く時にどの山札から引くか選べるわけだ。なるほど、最初から山札は一つと決めていたので思いつかなかった発想だ。従来だとまず1点のカードを引かないと次のカードが交換できないし、2点のカードを引いても交換対象じゃないと場に並んでいくだけだった。引きたい種類の山札を選べることによって、欲しいカードを狙って引きやすくなった。

 さらに新ルールとして、開始時に人、物、時の1点カードを1枚ずつ所持しているルールが加わっていた。これもゲーム序盤の停滞を無くすためだろう。

 さらに、上がりのカードであるパパとの交換には1点カードは使えないようになっていた。1点カードは集めても2点以上に交換しないと無駄になるということである。これで戦略性が上がったという。「1点カード3枚上げるから、3点カードを交換して」と言われた場合、1点カードは最終的な点数にならないので不利な交換である。しかし1点カードが多ければ2点カードが手に入る可能性が上がる。1点カードを所持していない時に2点カードを引いても、交換できず場に出されて、他人に取られる可能性が高いのだ。ゆえに、1点カードのトレードの駆け引きがより産まれるようになったとか。


 ある日。私はママに呼び出された。机には擦れてボロボロになったパパゲットゲームが置かれていた。

 あちゃあ。これは叱られるなと思いつつ、メイドたちに流行ったのは私のせいではないと脳内スケープゴートする。いや、実際そうだし。幼女ズで遊ぶために作ったものが勝手に使われただけだし。

 ママが言うには、メイド長と執事が何か擦り切れた紙で遊んでいるっていうねんな。

 何やってるの「人:5点」の二人……。

 そしてパパゲットゲームがママの手元に渡り、製作者の私が呼ばれることになったようだ。みんな口軽くない?

 だけどこれ自体は叱られなかった。パパをゲットするという目標は怒られたけど。


「王の座にしなさい」


 ママの一言で最終目標がパパから王の座へと代わり、継承権ゲームになった。

 ついでに私たち幼女ズの身内ネタなカードを咎められた。むぅ。なんで「丸い石」とかだめなのさ。幼女ズに取ってはお宝なんだぞ。「丸い石」は「玉石」に変えられた。「木の枝」も「薪」とか変えさせられた。同じようなものと言われればそうなんだけど……。


「このゲームを木札で作ると聞きました」

「あい」


 そういえばリアとそんな話もしたっけ。


「今年は冬が来るのが早く、手が空いている民が多いでしょう。そこで冬の間の手仕事とさせます」

「あい。はい?」


 なんか話がでかくなってない?

 いや別にいいんだけど、それ規格めちゃくちゃにならない? 監督いるよ?


「木札をみんなで作らせる、良い。だけど、全部同じにするむずかし。職人がお手本作る。でも同じにならない、です」

「オルバスタの民が信用できないと?」

「できない、です。かかさま。腕が。うー。私と、かかさま、違うます刺繍。だから」


 ママはこくりと静かに頷いた。


「何を言ってるかわからないから、普段どおりに喋りなさい」


 帝国宮廷語むずかし! ごめちゃい!


「私とママの刺繍の腕が違う。それと同じ。家ごとで作っても、同じものにならない。一つの家に集めないと。それで職人がみんなを見て回る」


 身振り手振りで説明したけど、ママには伝わらなかった。でも、最初の私とママの例えの、腕の差で全く別のものができるということはわかったようだ。「教師が必要ということかしらね」と言っているのでちょっとずれてるけど。


 こうしてオルバスタの都オルビリアにて、カードづくりという謎の公共事業が始まった。

 木工職人にカードサイズの薄い木札を作らせ、それをサンプルとする。

 しかしこれを元に、素人を使って大量生産すると言うと、職人ギルドは露骨に嫌な顔……はしないが良い反応はしなかったようだ。そりゃあそうだ。

 街の空き家の一フロアを簡易工房に改装し机を並べた。職を求める者を集めた。こうなると結局、農民の内職にはならなかったのだが……。その頃には「そもそも厚紙で良くない?」と言い出しづらい雰囲気になってしまった。

 素人工員相手に職人が加工を指導する。指導者には自分の工房を持てずにくすぶっている者を集めた。真っ当な職人の仕事ではないが、侯爵家の公共事業ということで各工房から一人は選出され、集まった七人のうちの一人は親方クラスであった。

 彼らには「素人に一通りの仕事をさせてみて、適性のある作業の一部だけをさせること」を伝えた。そう、求められているのは一通りの作業ができる見習いではない。分業制による大量生産だ。

 最初は職人たちも工員たちも理解できなかったが、流れ作業が始まったら分業の利点がわかったようだ。覚えることは少なく、短期間で一つの工程の熟練者が作れるのだ。工房内の作業でもここまで極端ではないが簡単な仕事は見習いにやらせてるので、作業の流れはわかったようだ。

 均等な厚みに仕上げるヤスリがけは最初こそ職人が行っていたが、最終的に全ての作業を工員に任せられるようになった。

 と、聞いた。


 さて。分業はこれだけに留まらない。絵付けも必要だからだ。

 ペンキで白くし、表の縁を顔料で三種類の色分けをする。ここはそんな神経質にならなくていいので手作業だ。だが裏面の意匠はこだわりたかったので、丸の中に上下対象の王冠をイメージした焼印を使うことにした。偽造防止になるし。炎魔法が使えるパパの部下を借りて作業を頼んだ。

 そして肝心のテキストとイラスト。大量生産だからもちろん! と言いたい所だけど取った方法は手作業である。

 理由は簡単。大量生産といっても、何セット作るのこれ? という話である。

 木札はまあ、1セットで120枚としても、10セットで1200枚にもなるから沢山作るのでいいだろう。

 テキストやイラストは、10セットごときのために特注する方が大変だと考えた。だけど人も集めるのも結局大変だった。

 まず文字を書ける人がいないのだ。文字なんて書けなくても「サンプルを元にして文字を絵として写して貰えばいいんじゃね」と思ったが、そもそもペンの持ち方から始まることになるのを失念していた。余談だが、何も教えずいきなり付けペンを使えた私を見てリアは「普通ではない子」と確信して奥方に伝えられていたそうな。昔からボロが出すぎている! 

 イラストは画家工房に頼めば良い、と思ったら、小さい木札のその中にさらに小さい絵を大量に描く仕事ということで渋い顔をされた。これも考えてみたら当たり前である。小さい絵は安い。そして繊細な絵を求められる。割りに合わない。工芸品でもなし。

 さらに謎の木札の生成というのも問題であった。大丈夫だよー。免罪符とかじゃないよー。


「どうやらマジスタンの作るマギラカルタスのようなものと思われたようです」

「なにそれ」

「マジスタンが魔法を使うための道具のことです」


 なるほど。魔術符とかそういう?

 リアの言葉に、ロアーネはソファの上で不快そうに足をパタパタさせた。


「そんなものロアーネが監修している上で作らせるわけないでしょうに」

「んー。もう宮殿で作っちゃおうか」


 ママの言葉に引っ張られすぎて、仕事を配ることを考えすぎた。宮廷お抱えの画家工房に任せちゃえ。

 ママからは「好きになさい」と言われているので好きにする。実際人を動かしたりするのはタルトを巻き込んでるけどね。私は参謀なのだ。ぷにぷに幼女は「こうしたいなー」と伝えるだけで後は報告待ちするだけなのだ。

 そのつもりだったのに、なぜか絵付けについて私が呼び出されたのだが。

 画家の前にはサンプル作りのためのサンプルとして貸し出された、紙製の、パパゲットゲームもとい継承権ゲームα版が並べられていた。


「こちらの絵のことですが……」

「あい」


 プロに見られるのはめっちゃ恥ずかしいのだがしょうがない。しかもこんなもんでいいやというラフなペン画である。その中の差し出された一枚のカードは、いわゆる日本の美少女イラスト系の絵柄で描いたものであり、他よりちょっと気合が入っている。


「この神官の絵は、その、子どもでしょうか」


 それはロアーネを描いたものだけど、子どもと言われてしまった。モデルが合法ロリだからしかたないね。


「お嬢様が描かれたと言うことで、この不思議な画風に合点がいきました。しかし線がずいぶんと描き慣れたご様子」


 私が答える前にリアが間に入った。


「お嬢様の詮索はお止めください」

「いえ、そういうつもりは。しかし、この神官には特別な意味があるのかと思いまして。絵を同じにする必要はないと言われてはおりますが」


 なるほどなるほど。


「神官が、全く違う絵になるということ?」

「はい。そういうことになります」

「いいよー」


 つまり、神官のはずのイラストなのに美少女イラストが描かれていて、「え? これ本当に神官の絵でいいの? 合ってる?」という確認だったようだ。

 だけどせっかくだから、ロアーネをモデルにした美少女イラストエディションも作りたいな。あと侍女にリアモデルのイラストとか身内用に。


「私もいくつか絵を描きたい。できる?」

「そ、それはその……」


 画家は助けを求めるかのようにリアの方を見た。リアは黙っていた。私が突拍子もないことを言うのはいつものことだからだ。

 ちょこちょこ画家工房にお邪魔して、美少女画ロアーネカードと侍女リアカードを作った。プレミアムを感じる。


 テキストはどうしたかというと、宮殿のメイドに頼むことにした。宮殿で働くようなメイドなのでそのくらいの教養は当然ある。一日に絵が仕上がってくる数はそう多くないので、分担すれば意外と一日の手間にはならないようだ。

 だけど早く木札で遊びたいメイドズは、イラストのない無地木札を求め、イラストなしでテキストのみの一セットを先に作り上げてしまった。そして絵がないと寂しいということで、メイドたちが勝手に、ではなく一応許可を得た上で黒インクのイラストを書き出し、メイド手作りバージョンが最初に出来上がった。

 メイド手作りバージョンで遊ぶメイドたちに、私の描いたプレミアムカードを見せたら、「私もモデルにしてください!」と依頼が殺到した。おいおいこちとらお姫様やぞ。ちょっと気安すぎない? それを見たメイド長はこほんと咳払いして場を静寂にした。そして「まずは奥方。次にわたくしから描かれるべきでしょう」と言い出した。止めるのかと思ったら求めるんかい! だけど少し考えたら流石メイド長賢いなと気づいた。奥方が先だろと言われたらメイドたちは要望出せないもんね。でも「楽しみにしておりますよ」と言われたので、やっぱりメイド長も描いてほしかったようだ。なんだよもう、欲しがるじゃん。


 お抱え画家工房がカード作りに動き出したら、最初は断った画家工房も「うちには頼んでくれないの?」と図々しいこと言い出した。何をいまさら後から参加しようとしてんだい! ぷんすこ!

 だが待てよ。お抱え画家工房はカード作りだけをしているわけではない。お上の仕事なので片手間というわけではないが、一セット作るには当然時間がかかる。最初の一セットをサンプルにして、模写させて生産……も考えていたが、他の画家工房も参加させた方が面白いのではとちょっと思いついた。


「そうだ! 工房ごとにカードイラスト比べてコンペしよ!」


 そんなことを思いつきで私が言い出すと、また私の預かり知らぬところで話が大きくなっていくのであった。

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