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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【10章】内政モノ編(14歳春~)
227/228

227話:領主の仕事できた!

 貴女の領地で粉飾が行われている……。そうママから告げられた私は無知無知(むちむち)少女であった。元からパパの側室になってのんべんだらりと平穏な引きこもり生活を満喫するのが人生目標であったため、淑女教育も経営学もなーんも知らん。天才もぷにぷにすぎるとただの美少女というやつだ。最近知ったことだが、別にそんなに神童扱いもされてなかった。突飛な発想と言動するも、ロアーネ公認の神の国から降り立った天使だから常識知らずでもしょうがないよね、と生暖かい目で見られていたことを知った。

 とはいえ、私が変なもの作ったり、変なこと言い出す度に、オルビリアの町が活発化発展化していったため、幸運ぷにぷに精霊姫とは思われ、大事にはされているわけだ。

 さてはて。

 そんなだから、当然ママにも粉飾の不正を暴くなんてことお前には無理やろと最初から思われていた。心外である。その通りだ。

 つまりは、指令は視察してこいということだ。


 本日、私はオルビリア宮殿を出立し、自分の領地へ帰還する。門ではお見送りメイドが集まり、メイドたちは私の髪に頭を擦り付けてきた。髪の毛とぅるんとぅるん美容効果が実証され、流行ってしまったようだ。

 ええい鬱陶しい!

 髪の毛を地面に突き刺し、にゅるりんぽとメイド垣をすり抜けて門を出た。

 そこには自動車が用意されていた。魔蒼炭(ネコラル)車だ。ベイリア帝国では水蒸気を使った蒸気自動車よりも今は魔蒼炭(ネコラル)車の開発が盛んとなっていた。この世界ではエイジス教が原油使うなって言ってるのでガソリン自動車が作られていない。

 ……いや、だが本当か? 原油もりもり出てるアメリカ辺りでガソリン作ってそうじゃない? そういえばこの世界のアメリカの話って聞かない。

 ハンチング帽子を被りすらっとした運転助手がボンネットを開け、真鍮のハンマーを取り出し、中央に埋め込まれた魔蒼炭(ネコラル)を叩いた。カァンカァンと打ち鳴らし、いずれ音は中から金属音が機械的に響き始める。ピストンが作動し、車の煙突から碧い蒸気がもくもくりんと出てきたことを助手は確認し、ボンネットを閉じた。

 ソルティアちゃんに抱えられ、魔蒼炭(ネコラル)車にぽすんと乗せられた。座席は固くなくぽにゅりんとしていた。高級仕様だ悪くない。隣には猫人のサビちゃんも乗り込んだ。メイド生活で人間社会に溶け込んだサビちゃんは、もはや座席で粗相とかしない。緊張して爪が出て、座席のクッションに穴を空けるくらいだ。

 ガタポコキンと音を立てて魔蒼炭(ネコラル)車が走りだす。目的地は鉄道駅だ。私の領地の町ニャータウンはそう遠くはないが、魔蒼炭(ネコラル)車で行くにはまだ不安がある。主に道路が。

 この世界にはまだアスファルトの道路は、あっても原始的な古代物としてしか存在しない。石畳の溝でお尻がぽんこぽんこと浮き上がる。

 熊のようなムキムキマッチョおじさんが丸いお皿のようなハンドルを握り、キンポコキンポコと魔蒼炭(ネコラル)車を街へ走らせた。ちょっと蒸気の出す音が変である。雨から煙突を防ぐ蓋の機構のせいだろう。

 街へ入ると(クマ)ッチョがどなりはじめた。


「おいこら下がれ!」

「なにごと?」


 街へ下りたら人が集まってきたようだ。私は手をふりふりして愛想を振りまく。アイドルだからな。


姫ちゃ~ん(プニプーニ)

「にゅにゅー」

「精霊姫さま~」


 群がる民どもは様々な愛称で私を呼ぶ。姫ちゃん(プニプニ)呼びは昔からの地元民で、にゅにゅ呼びは外来者、精霊姫呼びは精霊姫狂信者だ。

 私は立ち上がり、彼らにふりふりと手と腰を振る。車が揺れるからセクシーにWiggle(くねくね)しちゃうのだ。

 しかし人が集まりすぎてもはやパレードになってきた。人気者は辛いのう。いやこれ警備やばくない?

 私は今まで自動魔法防御があるから無敵じゃんフフンと油断していたが、魔法使い殺し(ピストル)には無力だった。魔法使い殺しと言うだけあって、魔法で探知できないし、魔法で瞬時に防御できない。パァンされたら危険である。

 パァン!

 私は思わずちょっとちびった。風魔法使いの風船売りの風船が割れただけだった。――風船売りは空気よりちょっと軽い無害な空気をちょっと出すことができる魔法使いに人気の職だ。


「轢くぞぉ! どけどけぇ!」


 広場はどんちゃかどんちゃかぴっぴーと祭りになっていた。パパと一緒に演奏して歌を歌ったなつかし広場だ。そこでは屋台の屋根の下で、見知らぬ人たちが魔法を使わない楽器のバイオリンやアコーギオンで演奏し歌っていた。ママの故郷、クリトリヒの首都スキーンの大衆酒場で聴いた、お昼休みに流れそうな音楽(シュランメル)だ。

 酒場音楽が流れ、お祭り気分で人も猫人もみんなお酒やマクナムで気持ちよくなっていた。いや、猫人がマクナムをキめるのはダメだろ。人間社会に適応できたエリート猫人でも、すぐ羽目を外す者がいる。猫だからしょうがないね。

 広場には屋台が立ち並ぶ。特産物のじゃがいも料理、枝豆料理、マヨネーズ料理、豚肉料理、黒はちみつ料理……。香りだけで涎出る。

 我慢できなくてじゃがいもピザを買った。サビちゃんは串焼き肉だ。私が幼い頃にワクワクしながら買ってがっかりしたやつ。一時期消え去った美味しくない硬い血入り串焼き肉の屋台が今は復活していた。グルメになった人間には不評だが、猫人はこれが美味いらしい。

 オルビリアの街はすっかり様相が変わってしまったが、まだこの広場辺りは変わっていない。中央街はそのままで、周辺がどんどん近代化している。特に三階建てのマンションやホテルが目立つ。猫人なら最悪その辺の野原で寝かせればいいが、人間はそうはいかない。勝手に住み着く難民スラムを潰しながら、箱が作られている。さらにその郊外には工場団地が並び立つ。そこでは当然のように子どもも働いている。まだオルビリアでは子どもはただの小さい労働力だ。平民の子どもも全員義務教育をさせるべき、なんて余裕はない。だが働きながら最低限の読み書き計算、そして宗教は学ばされる。


「散れ散れ!」


 クマッチョがネコラル車の汽笛をプァープァーと鳴らす。

 オルビリアにはまだ交通ルールが浸透していない。

 もし魔蒼炭(ネコラル)車でなかったら物珍しさでここまで人は集まらなかっただろう。いつも通りに馬車だったら「やんごとなき」と感じて問題なく進めたはずだ。


「姫様すんません。これ以上は進めねえみてえです」


 もう十分に歩いていける距離だ。しょうがないにゃあ。そもそも駅の前は人がごった返している。これ以上進むと本当に身動きが取れなくなる。

 私がよっこらせと立ち上がると、ソルティアちゃんは私の手を握った。わかってるわかってるて。髪の毛使ってぴょーんって飛び降りたりしないからって。危うくするところだった。

 運転手のクマッチョもその場で降りて、歩く道を作るべく人を散らしていく。クマッチョにびびり散らしてみんな避けていく。ホームに止まっているお召し列車まで続き、クマッチョも一緒に乗った。どうやらこのクマッチョ、護衛も兼ねていたらしい。

 ネコラル機関車からコカァンコカァンと駆動音が鳴り響き、プァオアオオンと汽笛を鳴らす。超うっさい。シュボシュボシュボと動き始め、お尻が跳ねる。


 さらばオルビリアよ。


 そんな感傷的な旅ではない。20分もかからず着いた。とはいえ乗ってる間はかなり暇だ。実際これだけの時間をぼーっと列車に乗ってるのは暇んこだ。スマホもないし、イヤホンもないし、活字は読むと酔っ払う。外の景色もそんなに楽しいものじゃない。暇を持て余してうとうとして気持ちよくなってきたところでちょうど到着したのも腹が立つ。

 お召し列車から、私とソルティアちゃん、サビちゃん、護衛クマッチョがホームに降りる。ん~。爽やかな空気と悪臭。決して慣れない田舎臭。

 精霊姫ご歓迎の旗を振る職員らしき人がいる。

 どうやら、私の領地を運営していてくれた方々のようだ。要するにパパの部下と、ママの社員だ。

 私は話を聞きながらぽってぽってと駅構内を進む。田舎の中のド田舎だったここも観光地化もあって大分栄えていた。――オルビリア地方中心に猫人はこの国に増えたが、猫人の町となるとまだこのニャータウンだけだ。猫人が町で暮らすには教育が必要だし、それをまとめるには強力なボスが必要だからだ。ニャータウンの市長や運営は人間だが、ボスはナクナム王ヌアナクスだ。

 ニャータウン駅は南口と北口に分かれている。

 南口はニャータウンのある丘だ。

 北口は精霊信仰伝承が伝わる古くからある丘の麓の人間の町オルヴァルト。私が魔力をぶりゅっと放出し、妖精が住み始めた後を畑にし、巨大じゃがいも令嬢芋を作った場所。そして、肥溜めにネコラル蒸気を突っ込んで結晶化させるババ・ブリッシュ法の研究所がある。研究者の出入りが増え、この町も大きくなった。

 どちらへ向かうのか。

 まずは北口へ向かうらしい。今回は視察だからお遊びじゃないもんね。猫人の町はおそらく何も変わっていないだろう。だって猫人だし。

 オルヴァルト・ニャータウン駅からオルヴァルトの旧市街までは距離がある。だが今はそこから駅まで道ができ、その道を中心に新たな郊外ができている。特に駅前は旧市街よりも断然栄えている。新しい役所も駅近くに建てられた。

 観光客向けの飲食街やホテル街から逸れ、役所へ向かう。公園の先にそれはあった。

 そして受付で訪問者カードを……渡されなかった。そして案内された先も応接間ではなく会議室。そうだ私は客じゃなかった。領主(カスタリア)として視察に来たのであった。

 上座の私の席にお菓子が置かれていた。わぁい。私は買収された。

 代官から挨拶され、形式的に土地と町管理の説明が行われた。お菓子に夢中な私は頭が高血糖でインスリンでいっぱいになり、半分寝てた。うとうと。

 しかし一つ、産業と都市開発で「ん?」となった部分があった。

 カードゲームのカードは最初期とは違い今はトランプのような紙となったが、精霊姫チップスのカードは木の札のままだ。これはこの地域で通貨のように扱われ始めたため、耐久性の問題と価値感が薄れるということで木の札のまま作られた。これは材木の端材利用なのでいいとする。

 問題はオルビリア発展による伐採自体だ。森で豚を育てる畜産と、森を切り拓き住居を建てることは矛盾する。実際に資料では豚肉生産量が増えるどころか減っていた。地域の食料消費量が増えているのだから、明らかにおかしい。


「猫人の狩りによる損失です」


 猫人のせいかー。じゃあしょうがないな。

 猫人は元々広大な森の中の住民だ。勝手に森に入って豚を獲ってしまうらしい。うーん。猫人のための町は用意したものの、猫人のための森も必要だったわけか。

 それはそうとして植林も進めよう! すでにしていた。そもそもベイリア帝国の森はほぼ人の手が入った人工林であった。ぷにぷに少女が思いつくような執政はすでに行われていた。

 やっぱこれ私が来た意味なくなくない?

 しかしなるほど。かいつまんで彼らの説明を聞くと、これらすべて猫人との問題であった。つまり彼らも最初から私に人間社会の問題解決に期待されていない。求められてるのは猫人との橋渡しだ。ここに猫人の町を作ったのは私だからな。


「よし! じゃあニャータウンに行くか。オルヴァルト町はまあ、良い感じにこのままよろしく!」


 私はすべての職務を放り投げた。きっと彼らもぷにぷに少女領主に変な口出されない方が安心できるだろう。何も知らない上司が思いつきで口出すのが一番厄介だからな。

 あっ、そうだ。


「ついでに世界樹植えてく?」

「え?」

「え?」


 ついでに役所の前の公園にぶりゅっと魔力出してウニの実を植えた。

 私にしかできない領主の仕事できた! ヨシ!

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