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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【9章】宗教裁判編(仮)(13歳秋〜)
223/228

223話:光合成少女

 冬は過ぎ、14歳の春が来た。

 オルバスタ・オルビリアの実家でもソルティアちゃんの応援のおかげで筋トレは続き、私の筋肉はある程度蘇った。なんと脚の筋肉だけで椅子から立ち上がれるようになったのだ。

 私は自在に操れるようになった弊害により無意識に髪の毛を使ってしまう、その制御もできるようになった。目だ。見ることに集中すると髪の毛を自制できることに気づいた。なのでソルティアちゃんには運動時にも薄着にはならないように頼んだ。厚着の方が魔力視を鍛えられる。

 だが、鍛えた魔力視だがソルティアちゃんのドレスを半透けするところまでしかいかなかった。そしてメイド服のメイドさんでは全くダメだ。どうやらメイド服には魔力阻害素材の繊維が混ざっているようだ。魔力が透けなければ、魔力視で肉体のシルエットを視ることはできない。メイドさんは魔法使い(ウマァジ)で戦闘要員でもあるので、メイド服は戦闘服なのだ。なので魔法に強い素材が編み込まれている。

 逆になぜソルティアちゃんのドレスには使われていないのかというと、単純にソルティアちゃんがその素材が苦手というだけだった。要するにそれは魔法使いのチェインメイルみたいなものだ。兵士の防御力には強力だが、狩人タイプのソルティアちゃんの装備には合わない。そういうことだ。

 ソルティアちゃんの他にも、侍女は薄っすら透けて視ることはできた。例えばリルフィの暗殺者侍女だ。暗殺者のようなタイプだと、肌で魔力を感じて動くらしい。なので魔力を通さないような素材は苦手というわけだ。

 リルフィは逆に異常なほど何も視えない。視えないというか、むしろ完全に透けて視える。まるでそこに存在しないかのようだ。これには驚いた。魔学迷彩化する魔道具なのだろう。リルフィが皇族バレ逃れているのもこれのおかげだろうか。ノノンレベルだと匂いで感づかれていそうだが。

 私がぼーっとしている間に、メイドさん方が私の朝の支度を整えていく。髪梳き担当は私の髪がとぅるんとぅるんすぎて暇なのか、毎日違う髪型にセットする。なぜか美少女ゲーかってほどリボンを付けてくる。それが今の私にとっては拘束具になっていてちょうどいい。うっかり髪の毛を使おうとするとぶちぶちとちぎれるので良い目安になっているのだ。


「はい終わりましたよ」


 そしていつもの顔ぶれのメイドさん方は私の支度が終わるとささっと部屋から出ていった。少しさみしい。もう何年もお世話になっているのだが、私はお世話係のメイドさんの名前を覚えられなかった。それもそのはず。彼女らは名前で呼び合わないのだ。ならば名前を知る余地もない。メイドさんのプロフェッショナルなのだ。泉で拾われてきた謎少女によく尽くしてくれているもんだ。

 ソルティアちゃんも私と同じようにふりふりデイドレスに着替えた。山育ちのソルティアちゃんはもあさあとしたドレスにまだ慣れないみたいだ。ちなみに運動時はメイド風地雷系女子みたいな格好をしている(ディアンドル)。非常にやる気出る。かわいいので私も早朝はそれを着ているが、メイドさん方は良い顔をしない。どうやらここでのこの衣装の印象は下女の格好のようだ。

 なので朝の運動が終わるとこのように体を拭かれてすぐに着替えさせれる。

 しょうがない。私はこの屋敷において、着せ替え人形のようなものなのだ。私のことを愛玩するのは給仕するメイドさんの数少ない娯楽である。私が廊下をぽってぽってと歩くと、朝食を終えたメイドさんの集団が私を見つけて囲み、さわさわもにゅもにゅと全身を撫で回してくる。猫になった気分だ。


「お嬢様ぁ。新しい遊戯はお作りになられないのぉ?」

「ねぇねぇ」

「恋愛ものとかどうかしらぁ?」


 もにゅもにゅしながら私に要望を出してくる。戦争トレーディングカードゲームはメイドさん方には不人気で、コレクターはいても積極的に遊ぶものではないらしい。我が社を真似たカードゲームも男の子向けだ。時代的にトレーディングカードゲームはかなり先取りしてしまったが、その前身の商業的ボードゲームはすでに一般化している。特に人気なのは魔法使い生ゲームで、高級品は魔石を使って本当に魔法的演出がされている。

 ボードゲームは我が社も一応出した。チキューでもテレビで紹介されるほど話題になった作庭ゲームをパクってガーデニングボードゲームを出した。すごろくをして手持ちのボードに観賞用植物花卉(かき)カードをはめて素晴らしいガーデニングを作るゲームだ。しかしこれは商業的に失敗し、一部のマニアに受けただけであった。今は積み木を兼ねた城造りゲームを企画中だが、魔石も使い非常にコストがかさむために貴族の贈呈品向けの商品になりそうだ。

 オルビリアの屋敷の中で働くメイドさん方はエリートだ。例外なく貴族の淑女であり魔法使いである。そんなエリートメイドさん方は雑巾やモップを使って掃除するような下働きはしない。せいぜい魔力仕掛けの窓を開けて換気をしたり、衣類の洗濯をしたり……。平民感覚では洗濯は重労働だが、魔法使いには魔法訓練の一環くらいの感覚であり、日陰でおしゃべり(かたわ)ら水魔法で渦を作って風魔法で脱水するのがこの世界の一般的なメイドさんだ。

 そんな中、下女に混じって唯一魔法が使えないメイドが洗った洗濯物を運んでいた。猫人(ねこんちゅ)のサビちゃんである。猫人は身体強化魔法しか使えないため、メイドになってもメイドの仕事はできずに力仕事を任されていた。しかたない。これは差別ではなく適材適所である。

 かつていたずらっ子だったサビちゃんは、洗った洗濯物に抜け毛を付けないように気をつけながら、ぬっこぬっこと洗濯物を日向に運んでいた。


「日向で干してるの? なんで?」


 私がサビちゃんに尋ねると、サビちゃんは「ぬああ……」と顔が宇宙猫になった。別にそんな困らせるほど真剣に聞いたわけではないのだけど。

 屋敷で使われてる服の生地は高級品だ。そういうのは日光に弱いイメージがある。絹のイメージが強いからだろうか。

 ソルティアちゃんが答えるかなと思ったら、ソルティアちゃんも「はて?」という顔をしていた。おそらく私の質問が漠然(ばくぜん)としていて求めてる答えがわからないのだろう。

 私は固まったサビちゃんの尻尾を握って正気に戻して、仕事に戻るように背中を押した。


「生活がマンネリ化している」


 ソルティアちゃんは「平和ということでは?」と言いつつ、南にそびえるシビアン山脈の方を見た。その評定はホームシックというより、故郷の狩人生活を思い返しているのだろう。人は退屈だと死んでしまう。退屈には耐えられない。宇宙人ですらそうなのだから、これは生命の(さが)なのだろう。

 実は私は生活配信者ということが判明してから、何か面白いことをしようと最初は考えていたのだが、すぐに飽きた。なぜならフィードバックがないからだ。そして見知らぬ宇宙人を楽しませる意味もわからん。なので生活は以前と変わらなかった。ネタバレテコ入れまでしにきた女神はガッカリだろう。


「配信……配信か……」


 人は娯楽に飢えている。新しい刺激を求めている。何も思い浮かばん。

 私は髪の毛を地面に突き刺して折り曲げた形にして椅子にした。その際に髪に付けられたリボンがぶちぶちと数個ちぎれた。思わず髪の毛操作をしてしまったが、私は構わず椅子に座って庭で日向ぼっこを始めた。

 チュンチュンと青い鳥が飛び、サビちゃんがケツをふりふりして注視する。そして飛びついた。手で地面に抑えつけ、鳥の首をぎゅっと締めて私の前で見せてきた。尻尾をぶんぶんと振っている。よちよち。サビちゃんが運んでいた洗濯物は籠から飛び出して土まみれになった。メイドさんもそれを叱ったりしない。汚れた洗濯物は下女が腕に抱えて洗濯魔法メイドへ運び戻した。

 今この光景も見知らぬ視聴者が観てるんだろうなぁ。楽しいのだろうか。楽しいのかもしれない。脳みそが疲れ切っている時の動物配信は需要が高い。楽しいか楽しくないか判断するのはこちらではない。ありのままの日常を求めている。

 だが、私は知らされた。知ってしまった。何も知らないのと、知って意識しないように務めるのは違う。メイドさん方に私の中身がおっさんということを知られたら、同じままの態度でいられないだろう。洗濯物が終わったメイドさん方は、髪椅子に座って日向ぼっこをしている私を囲み、わちゃわちゃと体をまさぐりだした。セクハラ! くすぐったくて私は体をねじねじくねくねした。

 メイドさんが私にセクハラしてくるのは、私が愛玩美少女だからなだけだと思っていた。実は違う理由があるらしい。頭を私の首筋にこすりつけ完全に猫扱いしてくる無礼なメイドさんが言った。


「これで私も髪の毛とぅるとぅるよ!」


 どうやら私には美容効果があるらしい。漏れてる魔力のせいだろうか。そうだ、彼女たちは魔法行使した後で、体内の魔力が減っているのだろう。魔法は外の魔力を使うが、その魔力を魔法に変換する魔法器官を動かすには体内の魔力を消費する……。呼吸をする肺を動かすのに空気がいるのと同じだ。さしづめ私は疲れた体を癒やす美味しい空気を出す酸素ボンベだ。

 なるほど。私は名実ともに癒し系美少女だったわけだ。

 それにしても今日も日光が美味しい。もしかして私は植物だったのかもしれない。光合成少女。

 ふと思い出し、私は庭に咲いてるクリスマスローズに「おーい」と呼びかけた。頭を下げてる陰キャのクリスマスローズは「なんだよ」と言わんばかりに揺れながら頭の花をこちらに向けた。

 何にも使えない植物に話しかけられる力。これは一体なんだろうか。深く考えたことはあったけど、今なら少し解明できるかもしれない。

 しかしおひさまが心地良いいし、頭がふわふわするし、そんなことはいつでもいいか。

 私のことを覗いている視聴者への疑問にしたままにしておいてもいいだろう。美少女は謎が多い方が人気出るからな。

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