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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【9章】宗教裁判編(仮)(13歳秋〜)
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219話:おっさんという生物は第三形態なのである

 ベイリア首都にある、街の中心から少し離れた、おじいちゃん博士の邸宅のごく普通の品のある応接間。その普通さからして普通ではないおじいちゃん博士の趣味は全く入っていないことがわかる。誰かに作らせて用意させて手を加えずそのままといった感じだ。おじいちゃん博士の趣味で飾ったら、魔蒼炭(ネコラル)がところ狭しと棚に置かれることだろう。

 そもそもおじいちゃん博士はこの家の地下の研究室と寝室くらいしか使っていなかった。裏の工房で多くの時間を過ごしていた。そしておじいちゃん博士は今は、猫人の町 (ニャータウン)でうんこを魔法結晶にするババ・ブリッシュ法の改良に勤しんでいるため、首都に戻ることはほとんどなかった。この家は家政婦さんが維持しており、親族が首都に来た時に泊まる場所になっている。つまり私たちのことである。

 妹シリアナは教皇テアと手を繋いで応接間に入った。妹に教皇ちゃんを取られてしまった。私にエスコート役がいない。漆黒不思議ちゃんノノンと、戦闘狂竜姫リズはアナンニの町に置いてきた。あっちの後始末のためだ。ゆえに妹シリアナの婚約者となった、いけ好かない氷魔法軍人ナスナスしかいない。しょうがないこいつでいいや。私はナスナスの手を握った。


「なんだ?」


 心底嫌そうに睨まれた。

 いいじゃないか義弟になるんだから。お姉ちゃんと呼んでもいいのよ。そう言ったら後頭部をぺちんと叩かれた。攻撃を察知した私の中のオリジナル幼女が自動魔法防御カウンターでバチンと電撃のような音を立ててナスナスの手を弾いた。ナスナスは「ちっ」と手を振りながら舌打ちを鳴らす。つくづく相性が悪い二人であった。

 一方妹シリアナと教皇テアは楽しそうに歓談している。幼女と幼女はすぐに仲良くなる。なぜなら幼女だからだ。妹シリアナと教皇テアも自分の名前を言って両手を掴んで回転しながら幼女ダンスをしてすぐに仲良くなるはずだ。はずだった。しかし予想と違って暴れん坊妹だったシリアナは淑女のように挨拶を交わした。


「もうララったら。私はもう子供じゃないのよ」


 なんだと!? 子供じゃないっていうとそういうことか! 頭の中で「エッチなことはダメなのじゃ」と聞こえてきた。まだ何も言ってないけど。

 私がどかりとソファに座ると、妹シリアナの侍女がお茶をカップに注いだ。妹シリアナの侍女は影が薄い。おそらくそういう魔法の使い手なのだろう。フロレンシア家ではアサシン系メイドが侍女になるらしい。私の侍女だけが例外だ。


「にゅにゅちゃ~ん!」


 ノックして応接間に入ったお友達侍女ソルティアちゃんは、タタタと両手を広げて駆け寄って私を抱き上げた。ぷらーん。もう子供じゃないんだけど?

 ソルティアちゃんはスレンダー山育ち美少女なので、頑丈な体に、しなやかな筋肉と、薄い脂肪。つまり見る分には美しいモデル体型だ。抱きついても筋張っていて美味しくない。そんなソルティアちゃんはワイルドなハンター系である。モンスターをハンターするが、そんなタイトルなゲームとは無関係だ。アサシンではないが、魔獣に気づかれずに狩りをする点には近しいところがある。

 ソファに下ろされた後もぼーっとしていたら、淑女シリアナと教皇テアは水魔法談義で花を咲かせていた。


「――そして、精霊姫(エスレアルプニ)に触れられたら嵐になってしまったのです」

「そうなのですよ。ティアラの漏れた魔力が混ざると、魔法の出力がおかしくなるようです」


 そうなの? 妹シリアナが水魔法で暴走してたのってわちのせいだったの?

 そして話題はお互いの水魔法のきっかけとなる。


「ロータ帝国は大昔は炎信仰でありました。炎の乙女が太陽(コロネス)に祈りを捧げていました。しかし世界(ティルミリシア)の創造神は(コロネス)にいらっしゃることが伝えられてからは……ええとつまり宗教上の理由ですね」


 教皇が言う宗教上の理由ってガチなやつや。


「わたくしは姉のティアラの影響です」


 そうなの?

 どうやら私が小さい頃に手洗いの重要性をしつこいくらい説いていたことから、それを聞いた妹シリアナは水魔法に目覚めたらしい。知らなかったそんなの……。

 それを聞いた教皇テアも「子どもの頃の影響は大きいですね」と同意した。小さい子どもの頃に魔法を覚えさせない教育もその辺もあるのかもしれない。雷カッコイイで不遇属性の電撃魔法にでも目覚めたら目も当てられない。電撃魔法はその性質から殺人魔法として忌み嫌われてきた属性だ。主な用途は心臓に電気を流して心室細動起こさせて暗殺するアサシン魔法とされる。女の子なのにアサシン魔法を覚えちゃったら、メイドさんになれるわけがない。いや、いるにはいる、タルト兄様の侍女とか。

 戸がノックされ、ソルティアちゃんが開けた。そこにはナスナスがいた。そういえばいつの間にかいなくなっていた。どこへ行っていたのだろうか。ナスナスは「来い」と私を呼びつけた。横暴な奴だ。美少女会談の間に挟まるのは罪だぞ。仕方なく私は意志を持って自分の足で立ち上がった。気が向かないことだと髪の毛が動かないのだ。

 私が廊下に出ると、侍女として当然一緒に付いてようとしたソルティアを応接間の中で待機するように人差し指を向けた。なんだよ、廊下で二人きりで内緒話か?


「連れてきたぞ」


 私はこくりと頷いた。

 いや誰をだよ。この世界の人間は私が何もかもわかっている美少女だと思っているようだ。なぜだろう。

 現れたのは精霊姫教を盲信するマッチポンプおじさんであった。極度に興奮状態で顔を真っ赤にして汗だくだ。きっしょ。私も元おっさんだったからわかる。おっさんという生物は第三形態なのである。少年が二次性徴を迎えて大人になるように、おっさん化というのはいわば三次性徴なのだ。ホルモンバランスが壊れて壮年は中年となるのだ。それを防ぐには亜鉛だ。摂ろう亜鉛!

 私は牡蠣フライを思い出してじゅるりと涎が口から漏れた。


「ロリックス叔父。まずは落ち着いてください」


 ナスナスはハンカチーフを胸から取り出しロリックス叔父に渡そうとしたが、私の口から涎がだばーと垂れているのを見て私の口を拭いた。うむ。よきにはからえ。ロリックス叔父は自分で額の汗を拭いた。


「ままままさか教皇様をお連れになられるとは、さすがは精霊姫でございまする」


 賢い私はピンときた。そうかそういう話か。私はエイジス教に異端審問で殺されるのではないかと危惧されていた。いや実際死刑判決されたのだが、教皇によって精霊姫教は認められたのだ。認められたというかアンチ女神の旗印にされた。


「うむロリックスよ。精霊姫教はエイジス教皇によって認められた」


 私がそう言うと、ナスナスとロリックス叔父は「え?」と固まった。

 私も「え?」と固まった。

 賢い私はピンときた。そうかそういう話じゃなかったか。


「教皇を拉致してきたのではないのか?」


 いやなんでだよ。拉致ってお前ナスナス……私をなんだと思っているんだ。最初に教皇ちゃんの方が別れたくないって言ったと話したじゃないか。こいつ私の話を信じていないな? さもありなん。私もナスナスの話をあまり信じていない。私たちは信用できないという信用で成り立っている。


「では、私の首で赦していただく話は……」


 いやなんでだよ。首ってお前ロリックス……教皇ちゃんをなんだと思っているんだ。教皇ちゃんも知らないおっさんの首なんていらないって。

 こいつらの言いたいことはわかった。つまりは教皇という駒を使って、ベイリア帝国や精霊姫教の立場を変えようと、私が企んでいたと、そう思い込んでいたわけだ。勝手に話を進めるな、ややこしいな。


「侮るな。女の子には女の子同士でしかわからないこともある」


 大人の男は引っ込んでろ。

 私は二人を廊下に置いて応接間に戻ると、妹シリアナがドレススカートをたくし上げて、教皇ちゃんに見せていた。

 何してんの!? ハレンチな! おっさんには女の子同士でしてることがわからなかった。

 だが答えを知れば簡単だ。妹シリアナは魔法結晶化したお腹を見せていたのだ。


「すごくきれいですね」

「良いでしょうー! テアもやってもらったら?」


 教皇ちゃんが期待の眼差しで私を見つめてきた。いや、教皇ちゃんは盲目だから見えていない。妹シリアナのお腹の魔法結晶も魔力としてしか見えていないはずだ。


「ねえララ! テアの目も治してあげなよ!」


 妹シリアナはいつも無茶振りをする。元気が戻ってよかった。しかし教皇ちゃんの見えない目を魔法結晶で虹色キラキラにするのはどうかと思う。


「タルトの 魔法器官 (マルデイズ)も治したじゃない。できるでしょ?」


 そうか。妹シリアナは、私の魔法は体の足りない機能を治せると思っているのか。妹シリアナは体の穴で失った器官を、タルト兄は 魔法器官 (マルデイズ)の不具合を。そして教皇ちゃんの盲目も。でもタルト兄の時はやったのはロアーネの時だったしなあ。うーん。

 私は脳内で白毛玉のぽぽたろうをもにゅもにゅ抱いた。私の脳内にはセキュリティ的なバグがある。精神魔法メイドのカンバも私に対しての精神魔法の効き目が変だと言っていた。私の中にはおそらく元のオリジナル幼女がいて、前世おっさんだったという意識の俺は憑依人格だ。そこへさらにぽぽたろうと混じったロアーネもいて、わちの中ののじゃロリは女神じゃった。

 脳内会議しようとした結果現れたのがぽぽたろうだけだった。使えない多重人格どもだ。しかしこういう時に絶対間違いなく調子に乗ってピカーンと光りながら現れるロアーネが出てこないということは、無理ということなのだろう。

 私自身が乗り気でないのもある。単純に成功しても失敗してもリスクが高すぎる。だってそうだろう。眼鏡キャラが眼鏡を外しただけで一部は憤怒するのだ。盲目キャラから盲目を取ったら憤死する。


「無理だ」


 私がそう言い切ると、教皇ちゃんはしゅんとした。

 妹シリアナは「試してみるだけでもいいじゃない」と言ってきたが、私は首を横に振った。


「教皇は光は見えないが、魔力を見ている。そこへ魔力を注ぎ込むのは危険すぎる。強い光を見ると記憶を失うように、強い魔力を見たら障害が残る可能性が高い」


 妹シリアナは納得したようでしゅんとした。

 教皇はざわりとしていた。見えないはずの目が私を見て離さない。体から魔力が視認できるほど漏れているのは感情的になっている証拠だ。それは魔法使いに取っては臨戦態勢。水を司る彼女の魔力は深く濃い深海の青。それが波紋が広がるように揺らいでいる。


「あなたは誰ですか」

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