213話:パジャマパーティー
2年ぶり(リアル)
私の熱々カキフライトラップに引っかかったこの水色髪のロリ大司教ちゃんは、普通にあざとかわいい美少女なんじゃないかと思い始めてきた。しかし私は頭を振る。これまでの経験上、あざとい奴は本性を隠しているのだ。逆にヤバイ奴と周囲から言われているリズ竜姫は裏表がない。リズ竜姫はロリ大司教のお腹を撫で、ロリ大司教は「ひゃん」と声をあげた。やはり周囲からヤバイ奴と言われてる奴は裏表なくヤバイ奴だった。
蛸坊主はロリ大司教から竜姫の腕をメリリと引き剥がした。ロリ大司教は、タコに連れられて部屋から出ていき、去り際に「今夜ゆっくり話し合いましょう」と手を振った。
望むところだ。そこで美少女の皮を剥がしてやろう。
そしてその夜。今ここに、歴史的会合が成った。エイジス教のロリ大司教様。彼女はおそらく、いや間違いなく女神の因子を持つ者。女神が言うには天使。その四人がエイジス教総本山に集った。
そして女の子が親睦を深めるとしたら……そう。パジャマパーティーである!
ネグリジェを着た四人は、天蓋付きのキングサイズのお姫様ベッドに飛び込んだ。女の子はベッドを見たら飛び込むものなのである。ぼよんとしてきゃっきゃした後、焚き火型に輪になって寝転んだ。天蓋の内側には小さな魔導灯球が付いていて、枕元にコードが伸びている。どうやらそのコードに魔力を込めると灯りが点くようだ。水色髪の大司教ちゃんは手探りながらコードを掴み、魔導灯球を光を灯した。光は淡く橙色にぼおっとベッドを照らす。私がコードに手を伸ばそうとしたら、パシリと両サイドの竜姫リズと漆黒幼女ノノンから腕を掴まれた。なんやねん。どうやら魔導灯球は込めた魔力によって明るさが変わるようだ。つまり私がコードを掴むと魔導灯球は閃光弾になって幼女四人がスタンする。……いや、ロリ大司教はしないかもしれない――ロリ大司教のその目はやはり焦点が合っていないように見える。
「その目って見えてるの?」
「いえ。光は感じられません。でも魔力は見えますの」
なるほど。なるほどな。そういうタイプか。どうりで不自由なく行動できてると思ったわ。盲目は光を感じなくても、別の要素で障害物を感じ取れるという実験データは実際にある。そして魔力がある世界なら当然そういうことはできるであろう。
「魔力が見えるってどんな感じ?」
「視えるというか、感じ取れると言うべきでしょうか。そうですね、精霊姫の溢れ出る魔力は噂通りに巨大で、直視すると目が潰れそうです」
そう言ってロリ大司教は目に手を当ててふふっと笑った。
この盲目ジョークって笑っていいやつ?
ノノンはふむりと頷いた。
「前より油みが増してる」
いやだから私の虹色キラキラは油じゃねえって。
しかし、魔力が見える、か。言われてみれば私だって結構見えてる。ティンクス帝国皇女なんか顕著だ。めっちゃ炎のエフェクト出てた。沼の精霊のノノンは黒いもやっとしてるし、溶岩の精霊のリズ竜姫はぬめっとしている。竜姫の魔力がぬるりと蛇の舌のように伸びて、私の虹色お漏らし魔力をぺろりと舐めた。ひゃん! セクハラ力が上がってやがる……! 私は触手虹色髪の毛でひゅんと竜姫の魔力を振り払った。
ロリ大司教ちゃんはぺちんと両手を打ち鳴らした。
「自己紹介いたしましょう」
さすが教会総本部の偉い立場にいそうな幼女だ。無軌道な私たちをまとめる力がある。
「ティアラ」「ノノン」「ウワルリーズ」
そして私たちは同タイミングで名乗って被った。さすが無軌道幼女ズである。まとまりがない。
「アンシェンテア。テアと呼んでくださいね」
むぅ。愛称が私の本名とちょっと被ってないか?
「私はリズって呼んで」
「ノノンはノノン。これはニュニュ」
「ニュニュじゃないにゅ」
私だって成長したのだ。宮廷語やロータ語じゃなければにゅにゅらない。巻き舌はできにゃい。
「ふふふ。仲がよろしいのですね」
くそっ清楚なぶりっ子しやがって。そういう奴に限って中身がおっさんだったりするんだ。きゅるん。私もかわいさアピールで対抗した。
「仲は良くない」
ノノンはぷいっと顔を逸らせた。色々あったとはいえ、私とノノンはライバルなのだ。ツンが1くらいのツンデレムーブである。絶対に甘えない猫みたいなものだ。
「リズはもっと仲良くなりたいな」
リズは私にのしかかってきた。そして私のちょっと尖った耳をかぷかぷしてきた。ひゃん。こっちはこっちで距離感がおかしい。
「わたくしたち別の道を選んだ四人が会合したのは女神の導きだと思います」
「にへへ」
ノノンが珍しくデレた。まあ確かに私とリズをロータ帝国に連れてきたのはノノンの魔法ではあるが……。
「ところでテアはどんな魔法が使えるの? 何の精霊?」
私が口にしたとたん、一瞬だけ空気がピリッとした。
「わたくしたちは、女神の子のことはエリクシアルと言います。精霊は存在しないと教えていますので」
ふむ? テアの言うエリクシアルを精霊の訛りだと思って脳内で精霊と訳していたが、どうやら別物だったようだ。そういえばエイジス教ペタンコでは、精霊は信じられていないのだった。私の故郷のオルバスタでは土着信仰と結びついて、精霊は存在するものとされていたが。
しかしここに来て精霊は存在するかしないかの話になるのか。我、精霊姫教の教祖ぞ? その自覚はあまりない。
「精霊信仰では、精体が集まり意思を持ったものが精霊だと言われておりますね?」
うむ。確かそうだったかも。精体は魔力が集まり形となったもの。魔力は魔素が変換されたもの。そのくらい知っている。私だって魔法学校一年生半を卒業しているのだ。……しかし確かに、精体が集まったら精霊になるとは習っていなかった。
「いくら精体がただ集まっても命は生まれません。そこに命が生まれるのは女神様のお力なのです」
「ああっ!」
確かに! ただ魔力を集めても生命は誕生しない。おじいちゃん博士が魔蒼炭から人工生命体を生み出そうとしても失敗するわけだ。そもそも前提が間違っていた。ただ魔力を集めても生命は生まれない。女神が命を与えるから精霊、いや精命が生まれる。
つまり、精霊信仰は間違いだったのだ。
「がーん」
「よちよち」
リズは私の頭を撫で、ノノンは退屈そうにしていた。そして「どうでもよくない?」と言い放った。どうでもよくないんですけど! 精霊が嘘なんじゃ、精霊姫教はどうなっちまうんだ!
「教皇のテアが精霊姫教を認めている。なのでどうでもいいこと」
教皇……? 大司教どころじゃなかった。思ったより偉いというか、トップだった。ははー。私はベッドに寝そべりながら頭を下げた。
教皇テアちゃんはにこりと笑って、両手の人差し指をもじもじさせた。
「みなさんに合わせるならば、わたくしは海の精霊ってところかしら」
私の非礼を許すどころか、女子トークに合わせる度胸。さすがナンバーワンだぜ。ふへへ。しかし、海か。大きく出たな。いや、教皇様なので全然大きく出てもいいんすよ! すっかり私の心は小者になった。
「ふふっ。それで言うならあなた様もロアーネではありませんか」
……? いや私はロアーネではないが。私はニュニュだ。いやニュニュじゃない。ティアラだ。ティアラ・フロレンシアにゅにゅ。
「ロアーネの名は――」
そこで私は新たな真実を知る。ロアーネは継承制であった。継承というより乗っ取りじゃない? 寄生虫……いや寄生霊か。精霊だけに。私の虹色の髪の中に棲み着いている精霊たちがざわめいた。
ロアーネは太古から生き続けてきたロリババアではなかった。知識を魔法として引き継ぐ者。それが光の精命ロアーネ。女神の依代。女神に最も近き者。
「ロアーネ様が教皇だった時代もありました」
あのロアーネが!? 無理だろ! いやいま私の頭の中に寄生しているダメロアーネとは別人なのか。
「その頃の教会でのごたごたが、この地の世界樹が枯れたきっかけなのですが」
どの時代のロアーネもろくなことしてねえな。
しかし、あら、その記録が残っている、ということは人工世界樹預言の石版とは別の、本当の世界樹の記録残ってるってことじゃん。あのタコ坊主め、嘘つきやがったな。あるいは隠したかったか。いや私がロアーネの知識を継承してるか試したのかもしれん。残念だったな。あまりされてない。頭の中のロアーネは役立たずだ。しかも半分はポアポアのぽぽたろうだ。
そんなことよりも。
「枯れた世界樹跡に遊びに行こうぜ!」
……すぐに私は後悔した。その時の私はなぜそう提案したのかわからない。頭の中のロアーネが思考誘導したとしか思えない。まさかあんな目に遭うとは……。そう。馬車酔いで死にかけるのであった。




