211話:クイズ!何の精霊でしょうか?
ガチャリ。
私とノノンは歴史ある預言の石版をキラキラにして棘を生やした罪で拘置所に入れられた。今夜は臭い飯か。とほほ。
ふと隣を見ると、ノノンは闇魔法に潜るところであった。あっずるいぞ。私も地面にできた黒い穴に飛び込んだ。しかしお尻が引っかかってぷりっと床に戻された。あいつ一人で脱獄しやがった!
しかたない。私はどっかりとソファに座ってトロピカルジュースを飲む。じゅぼぼぼ。捕まってもVIP待遇なのであった。
兵士がおっぱいシスターメイドさんを連れてやってきて、牢屋の鍵を開けた。「釈放でございます」と私を連れ出そうとする。待って。まだ南国フルーツケーキ食べてないのに! 包んでお持ち帰りで!
牢獄編、30分で終わり。
どうやら預言の石版をキラキラウニウニにした行為は、上からの指令だったということになった。まさかこれが太古の枯れた世界樹だったのか? と思ったが、そういうわけではないらしい。チキューではローマ帝国崩壊により知識技術文化が途切れたが、ここではローター帝国として名を残しているので、古代から続いているのではないかと思う。しかし預言の石版が何かという答えはなく、ネタバレ観光冊子によると、東から運んできた遺物であるらしい。
チキューでもメジャーな宗教の起こりは全て、ここから見て東に起こったものなので不思議はない。ローマ宗教は炎の神を祀るものだったとうろ覚えしている。洋ドラマでもキリスト教はカルト教扱いだった。例えば、ローマ皇帝が女装ホモセックス狂いしたりなどなどしなければ、キリスト教は西欧で流行らなかっただろう。
その代わりに広まったのがエイジス教なのか、それとも魔法があるために宗教そのものが変わっていたのか。奇跡という超常現象は魔法で起こせる。いや、魔法は実際にあるものなのだから超常現象にはならない。
例えば、超常現象というのは、黒い石版がキラキラウニウニになったりすることを言うらしい。
夜。私たちは蛸坊主に、預言の石版の前に呼び出された。ふわわ。もうおねむなんだけど。キラキラウニウニは月明かりに照らされて、棘をゆらゆら揺らしている。これ、巨大ウニスケなんじゃ……。
蛸坊主はキラキラウニウニを仰ぎ見て「神々しい」と言った。
どちらかというと禍々しいと思う。ウニウニしい。
一体何をどうしたらと問われたので、魔力は出さず再現してみる。
「私がこっちから魔力を出して、ノノンが反対から魔力を出して、竜姫がその間で魔力をかき混ぜて気持ちよくなった」
蛸坊主は頭に?を浮かべた。そして隣のおっぱいメイドシスターをギンと見る。一瞬おっぱいを見てから顔を睨んだ。すけべ? すけべか?
おっぱいメイドシスターは「間違いありません」と答えた。蛸坊主は「ううむ」と唸る。
「こちらどういたしましょう。噂を消すにも目撃者が多すぎます。酷いものだと神の使いが古の竜を呼んだとも」
「捨て置け。それよりも預言の石版をどうするかじゃ」
預言の石版のトゲトゲがゆらゆらしてぽうと光を放つ。ぽわわんぽわわんしていた。やはりこれの元はウニの樹な気がする。
そういえば私はノノンに突然誘拐されたのであった。向こうは大慌ての捜索しているだろう。黒い穴の闇魔法だからノノンの仕業と察しているだろうが、一連の騒動から魔術師の反抗も疑われているかもしれない。
安否を伝えた方がいいかも。
「ちょっとリンディロンに帰る。ノノンも来い」
「なんで?」
「誘拐犯でしょ。一緒に来て謝りなさい」
「や」
「やじゃありません」
私はノノンを髪の毛で拘束して、預言の石版に手を伸ばした。竜姫が私に抱きついているが、まあいいや一緒に連れて行こう。
「ちょっと行ってくる」
ぶおんとゲートを開いて、ウニワープした。にゅるん。ぽてっと出た場所はリンディロンの屋敷の庭。まだ植えたばかりの苗木なのに頑張ってくれた。よしよし。
「ただいまー」
私が屋敷に帰ると、ソルティアちゃんが私をノノンごとぎゅっとした。竜姫はその間に挟まった。邪魔だなこいつら。ぽぽい。
しかし私とノノンの髪の毛は絡まっていた。またか。
「なんかすぐ絡まるんだけど」
「魔力が似通ってるから」
むむ? 私こんなに黒い魔力じゃないのじゃが? キラキラぷにぷになのじゃが?
「沼の精霊と肥溜めの精霊だし」
「肥溜めじゃないにゅ」
「油の精霊」
「油でもないにゅ」
泉の精霊と沼の精霊。ふむ。言われてみれば似ているのかもしれん。
「じゃあ竜姫は? いや待て、当てる。私が先ね」
「泥炭の精霊」
「ぶー」
私が先と言ったのに構わずノノンが先に答えた。しかも泥炭の精霊ってほぼお前やろ。
えーっと、竜姫は竜なんだから……。
「ぬるぬるの精霊」
「ぶー」
私が考えている間にノノンが勝手に答えていく。
竜……トカゲ……ワニ……沼……。いや北国なんだから沼ではなくそうすると……。
「泥炭の精霊!」
「それノノンが最初にゆった」
むむ。
待てよ、【混ざる】特性から考えてみよう。【混ぜる】ではなく【混ざる】だ。水や油、相容れないものが【混ざる】。
「マヨネーズの精霊!」
「ぶー」
むむ。
しかし乳化剤という方向はきっと間違っていないはず。待てよ、マヨネーズを混ぜるものと言ったら。そして竜と言ったら。わかった。完全にわかった。卵、だ。
「私答えわかった。ノノン答えちゃっていいよ」
「なにそれずる。教えて」
「絶対これ正解だもん。ノノン当ててみろよー」
「むむ。じゃあ溶岩の精霊」
ふふん。溶岩て。
竜姫は「当たりー」と答えた。
私はこくりとうなずいた。「やっぱりね」とごまかした。
溶岩。溶岩かー。確かに【混ざる】な。やはり正解だったか。
「ララはなんて答えだったの」
「溶岩だけど?」
「絶対違う答えだった。そんな顔してた」
「合ってたもん」
「本当は?」
「火山……かな」
「嘘。うそつき」
私とノノンは取っ組み合いでわちゃわちゃした。私たちの髪の毛を解いていたソルティアちゃんを巻き添えにして。私とノノンとソルティアちゃんの髪の毛がぐちゃぐちゃに絡まった。もう身動きができない。
「たすけて溶岩さま」
「なんとかして」
やれやれと竜姫が私たちの髪の毛を解こうとして近づくと、すってんころりんして私たちは絡まり合い、四人の髪の毛は混ざった。これが【混ざる】特性の力……!
そこへ妹シリアナとナスナスが現れた。
「あー! ララいつの間にか帰ってきて遊んでるー!」
妹シリアナも混ざった。
「何してんだお前ら……」
「五人の使徒ごっこ」
ナスナスの問いにノノンが適当に答えた。
シリアナがきゃっきゃとはしゃぐ。こら。余計に絡まるからやめなさい!
「シリアナよ。その姉のような真似はやめたまえ」
「はぁーい」
なに!? シリアナがナスナスの言うことを素直に聞くだと!? 待て、その前のセリフは聞き捨てならぬ。わちゃわちゃ。
シリアナが立ち上がり、あるき出す。待て、絡まった状態でそれは……! と、思ったが、シリアナはするりと抜けて、ナスナスの元へ戻っていった。
「精霊姫、元気そうだな。まずはこちらに来て報告したまえ」
「解いておいたよー」
だから絡まって動けな……あれ? 解いておいた? 私たちの髪の毛はつるりと抜けた。ふむ……。シリアナはそういう能力だったのか。【絡まった髪の毛を解く】能力……。だから私とシリアナできゃっきゃしても絡まることはなかったんだな。腑に落ちた。
そんなどうでも良いことを考えながら、応接間でのナスナスのお説教を右から左のノノンに聞き流した。そうです。全ては誘拐したノノンが悪いんです。本当に悪いのはこいつだ。
私は南国フルーツケーキをもぐもぐした。あ、これお土産ね。




