208話:世界再生計画
屋敷にお客様が来た。先日の議会でヤジってきたおじさんだった。私は塩の代わりに魔力を撒いて追い払った。
「おい、何をしている」
口を挟んだのはナスナスだった。ちっ。お前も同類か。妹を粉かけやがって。しっし。
「よいよい。話に聞いていた通りめんこい娘じゃあないか」
むっ。このおじさん、この前とは雰囲気が違うぞ? ロリコンの気配がする。さては、「子どもの言う事なんか!」というのは、子どもが好き過ぎるゆえの言動であったか。ロリコンはロリコンを隠すために過剰な行動に出る。
「この前は大声を上げてすまんかったなあ。この悪い男に頼まれてよお」
「言いがかりは止めて頂きたい、ロリックス叔父」
やっぱりロリコンだ! 言い逃れができないほどのロリコンな名前であった。最低である。絶対に家には入れん。
「精霊姫様にチョコレートケーキを」
わぁい! 私は即座に懐柔された。おじさまの手に持つ袋を、右左右左と目で追いかける。きょろきょろ。
「遊んでいる場合か」
「おおそうだった。あまりにも食いつきがよくてなあ」
ぽとりと私の手の中に袋が落ちてきて、私はそれを胸に抱えてばびゅんと逃げ去った。あばよ! チョコケーキがあれば後は用済みだ!
しかしこのチョコケーキは応接間で食べなければいけないようだ。もぐもぐ。
で、なんの用だよ。
「まず、精霊姫様に誤解して頂きたくなく、わしは精霊姫教徒でございます」
「ペタンコじゃなくて?」
ロリコンならペタンコ派なはずだ。なぜならペタンコだからだ。
「精霊姫様のお立場を守るために、あの様な態度を取ったことを深くお詫び申し上げます」
「どゆこと?」
「ほうらロリックス叔父。こいつはなんにもわかっていなかっただろう」
しかしおじさまはナスナスのそれを否定した。
ナスナスにぽんこつと言われるのも腹立たしいが、狂信者の叡智扱いも困るのじゃが。
とりあえずよくわからんが、このおじさまは私のことを無害なぷにぷに幼女と吹聴していたようだ。それが私を守るためだと言う。知らんけど。
「しかし精霊姫様にはわしらの画策など不要であったご様子。まさに空を割って力を認めさせるとは」
そんなつもりじゃなかったんだけど。
「まあね。暗い雰囲気は嫌だからね」
「まさしく! おっしゃる通りィ!」
おじさまがソファから立ち上がり、両拳を掲げた。
しゅばっ! おじさまの唾がチョコケーキにかかりそうなので、慌てて髪の毛で掴んで口の中に退避させた。
「どいつもこいつも自分の事ばかり! 保身ばかり考えおって腹立たしい!」
ちくり。なぜか私の胸が痛んだ。
「その点精霊姫様は素晴らしい! さすがは月の女神に選ばれし預言者!」
重ねる褒め殺しも胸が痛い。
ん? 預言者って?
私はこそこそと隣の竜姫に尋ねた。
「エイジス様も月の女神の声を聞いたお方でしょ」
なるほ。
「そして私は声を届けた聖女」
そうはならんやろ。クレイジーサイコレズドラゴン姫メイド天使は聖女になれんやろ。むしろこれじゃあ聖女要素は薄いわ。何も問題なかった。
待てよ。月の女神の依代となった者が聖女ならば、ロアーネも?
私たちがこしょこしょ内緒話をしていて、おじさまの会話が止まってしまった。どうぞ続けて?
しかし代わりにナスナスが口を開いた。
「ロリックス叔父。精霊姫には一番の要件を簡潔に伝えるべきだ」
うむ。ナスナスは正しい。正しいからこそいけ好かない。もっと心に余裕を持とう。紅茶をずびずばと飲む。
「うむ。精霊姫様は異端とされるでしょう」
ぶびばっと紅茶を吹き出した。端的にそして急過ぎた。
なにがなんでどして!?
メイドさんがおじさまとナスナスの顔を拭いた。
「エイジス教ペタンコからすでに精霊姫教は脅威とされているからだ」
なるほど。なるほど? ナスナスの説明で合点がいった。しかし納得はいかぬ。
「でもわち悪いことしてないのじゃが?」
「月の女神に会ったなどと吹聴してるだろう」
してないけど。したのは妹シリアナだけど。
「それで私どうなっちゃうの?」
「腹を裂けられる」
ひぃ! 私はぷぴぴっと漏らした。
「これそう脅すでない。話しを聞くだけじゃ。教会のお偉いさんがそのために呼ぶじゃろうて」
「どこへ?」
「ローター帝国」
ふむ。なんかブルブルしそうな国だな。
ローター帝国はハイメン連邦の南の半島を中心とした国。つまりイタリアだ。つまり食べ物が美味しい。行こう。
そうだ食べ物と言えば。
「そういえばナスナスにお土産があるんだった」
私は300万テリアで開発させた贈答用ダイジュクッキーをメイドさんに持ってこさせた。
「それか。パサパサしていたがまあまあ美味かったな」
パサパサ言うな。そういうとこだぞナスナス。ダイジュなんだからしょうがないだろ。
それにしてもしかし、すでに贈答用ダイジュクッキーは夜会で配られていたらしい。なあんだ。ロリックス叔父も受け取っていたとか。
じゃあこれは私が食べるか。
メイドから黒い木の箱を受け取ったところで、私のお尻の下に黒い穴がぽっかりと空いた。
「なにぃッ!?」
お尻からずぽぽぽぽと吸い込まれる。待って。身体が折れる。
一旦お尻がはまったところで突っかかった。竜姫ヘルプー! 竜姫が私の手を掴んだところで、ぎゅぽんと黒穴に吸い込まれた。
そしてじょばあと魔力の波にさらわれて闇の中を流されていく。
「臭い。ここは闇魔法の下水道ね」
下水道いうな。それじゃあ流される私たちはうんちみたいじゃないか。
そして流され慣れてまったりし始めたところ、ついに光の出口が見えてきた。私たちはそこからじゅぽんと飛び出て、ぴちぴちと陸へ打ち上げられられた。
そこには案の定、漆黒幼女のノノンが立っていた。贈答用のダイジュクッキーをもしゃもしゃしながら。
「これパサパサしてる」
パサパサ言うな。そういうとこだぞノノン。ダイジュなんだからしょうがないだろ。
「やはりあなただったのね。うんこの精霊」
「うんこじゃないし。うんこは流されてきたお前だし」
いきなり竜姫と漆黒幼女は喧嘩を始めた。勝手にしてくれ。ところでここはどこだ。
「それじゃあ精霊姫は尿の精霊」
「お漏らしの精霊」
「納得。じゃあそれで」
じゃあそれでじゃないよ。なにもう結託してるんだよ。
「それで、ここはどこなんだ?」
「ローター帝国」
だろうね。展開早いなあ。せっかちかよ。
「こっちはすでに準備して待ってた。頃合いを見て」
「急だったと思うけど」
「美味しそうなクッキー持ってたから」
贈答用ダイジュクッキーに釣られただけじゃねえか。竜姫はノノンと並んでクッキーをもぐもぐしていた。あいつクッキーに釣られて裏切ったのか。
「食べる?」
元々私のなんだけど。私はクッキーに釣られて暗黒面に堕ちた。闇のぷにぷに精霊幼女三人衆である。しかし黒髪黒ドレスの闇イメージカラーはノノン一人で、私は銀髪虹色キラキラ、竜姫は銀髪白色キラキラなので光勢力の方が強い。私の勝ち。闇は滅びた。
竜姫はぺちぺちとちっちゃな手を打ち鳴らした。
「話しをまとめましょう。今夜は私は二人の間に寝るということで」
竜姫は放っておいて話しを進めた。それでなんでノノンはここへ?
「言ったでしょ。南で会うことになるって」
言ってたけど。どうせデタラメだと思ってたけど。
「世界はあなたが思っているより終わっている」
「つまり?」
「世界はおしまい!」
言い換えただけじゃねえか。
話しが通じ合っていないノノンと私の様子を見て、竜姫はこくりとうなずいた。
「つまり太古の世界樹が眠る古の地に――」
話しが長くなりそうなので、私とノノンは早くもうつらうつらした。そして頭をごちんとぶつけて喧嘩になった。
竜姫はこくりとうなずいた。
「そういうこと」
どういうこと?
ノノンはぴしっと私に指を向けた。
「そう。だから精霊姫あなた一人を呼んだ」
どういうこと? いや、おまけ一人付いてきたけど。
竜姫はぴしっと私に指を向けた。
「世界再生計画よ」
なるほどわかった。こいつら適当なこと言って遊んでるな?
私はぴしっと空へ指を向けた。
「そのためにわちは女神になる!」
場はしーんとした。
「それは言い過ぎ」
「ちょっと違うし、おふざけにしても危険」
ちょっと外したらしい。
こんなところで急に次回更新日未定です




