200話:女神降臨
テリステラーテリステラーテリカルタリー♪
今日はお月見の日。令嬢芋団子とダイジュ団子が重ねて置かれ、みんなで踊りながら歌う。ロアーネがいなくなってずいぶんと儀式が変わってしまった。しかし脳内ロアーネは言う。「儀式なんか適当にそれっぽいことしてただけなので、みんなが楽しければそっちの方がいいのですよ」と。さらりとこいつ宗教的にやべえこと言いやがって……。きっとロアーネのことだから大昔にかっこつけてハリセンみたいなの用意して月への祈りと説法を語っていたのだろう。
本来祭りは気軽なものだ。心の中に神への感謝があれば良い。
……しかし私は月の女神の存在を疑っている。仕方ないだろう。私の前世は月まで行った世界だったのだから。
だが、この世界の人々は月の女神の存在を信じている。
――例えばこう言うのだ。
「ねえねえタルト。赤ちゃんはどこからくるの?」
「はあ? そんなの月の女神が運んでくるんだろ」
私は最初、タルトのそれをぷぷーっと笑い飛ばしていた。
……しかし、この世界の人間にはどうやら常時発情能力を持っていないらしい。じゃあどうやって子どもを作るのだろうか。私はパパンに聞いてみた。
「パパー。赤ちゃんってどうやって作るのー?」
「赤ちゃんは月の女神が授けてくれるのだよ」
パパンはにこにこしながらそう答える。だめだ、私はまだ幼女扱いだ。
他に聞く者は……ソルティアちゃんに聞いてみよう。
「好きな人と一緒にベッドに入ると赤ちゃんはできますよー」
おお! 正解の答えに近づいたっぽい!
やはりムフフなことしてるらしい!
他に聞いてみる人は……。一応竜姫にも聞いてみるか……。
「赤ちゃんの作り方? お互いの魔力を混ぜるのです」
竜姫はメイド姿でそう答えた。本当に私のお付きになるつもりらしい。ドラゴンメイド属性も付いた。
思ってた回答と違うなあ……。しかしある意味私の知ってる正解に近い気がする。子作りは魔法なのだ。
「あれ? 竜姫って私のお腹の中で魔力混ぜてなかった?」
竜姫はくすくす笑いながら、「精霊姫の中に私の子どもが宿ってるかも?」と言った。
なんじゃと!? このメスガキクレイジーサイコレズ! い、いやじゃ……竜の子など孕みとうない……。
いや待てよ。本当にこの世界の子作りの方法がそれなら、私とリルフィも子作りできるじゃないか! そもそもリルフィにはおちんちんが付いてた。関係なかった。
ふむふむ。色んな人に聞いてみたが、やはりこれ以上の話は出なかった。
一番多いのは「月の女神が授ける」というパパン回答。どうやらこれは「コウノトリが運んでくる」や「キャベツ畑で産まれる」のような鉄板回答らしい。
竜姫の言っていた「魔力を混ぜる」はもしかしたら竜王国風の言い方なのかもしれない。でもそれには穴がある。魔法が使えない平民は子どもが作れないということになる。やはり魔力は隠語で、本当はピーをピーするのだろう。きゃっ!
――そういうわけで、私は月の女神を信じていない。
私は煌々と輝く夜空を仰ぎ見た。まんまるお月様。そこには何もなく、空気すらもなく、女神が住むような場所ではないことを私は前世の知識から知っている。
どうせ魔素だの魔力だの精体だの。そんな不可思議なものなど存在せず、きっとウイルスだの、ナノマシンだので動いてるんだ。そんなオチなんだ。
今日は月の女神にお願いをする日。
だったら姿を見せてみろっていうんだ。
「呼んだかのー?」
な!? 私はきょろきょろした。しかしそれらしき姿は見えない。なんだまた脳内のじゃロリか。
「後ろじゃ」
なに!? ついに私は女神と遭遇した。そこには竜姫が立っていた。なんだお前かよ。
「うむ。ちと身体を借りておる」
「それっぽいこと言うじゃん」
「本当に女神なのじゃが」
「証拠は?」
しょーこ出せしょーこ!
「出てこい言われたから来たのに、わがままじゃのう」
「すみません。本当にお越しになられるとは思わなくて」
ささ、立ち話もなんなのでどうぞこちらへ。
私と竜姫女神は隣の椅子に座り、テーブルの上のお団子をもぐもぐした。
「それでなぜ本日はこちらにお越しに?」
「呼ばれたから来たのじゃが……」
意外と女神様はフランクだった。呼んだら来るようなものだったのか。
「ほら、本日はお月見じゃろ? だから特別じゃ」
「それはありがたや~」
私は両手を合わせて拝んだ。
「む!? おぬし、日本人か」
「え? は!?」
確かに私はエイジス教式の指を合わせる拝み方ではなく、両手のひらを合わせた。
そんなことを竜王国の竜姫が知っている……? いや知ってそうだな。知っててからかって来そうだ。
「それで、何か聞きたいことがあるんじゃなかったのかの?」
「んーと、それじゃあ……、なんで竜姫の身体を使っているのです?」
「聞きたいのはそれじゃないじゃろう。まあよいか」
竜姫女神はずずずっと紅茶をすすった。
「まず前提として、ぬしらの魂にはわちの魂が混じっておる」
「なんじゃと!?」
つまり、わちは女神の一部ってコト!?
「あれじゃ。天使ってやつに近いかの」
「はあ、天使」
なあんだ。私はただのぷにぷに精霊姫天使だった。
「それで、この身体を選んだのは、こやつの特性が『混ざる』ことじゃったからだ」
「ふうん。私の特性は?」
「『生む』ことじゃな」
へえ~。なんかこの女神、私の知りたかったことをべらべらと喋ってくれるな。ネタバレ女神か。いや、神の存在が世界の謎を語ってくれるのはネタバレじゃないか。
まあ、本物の女神ならば、だ。
もう少し竜姫の悪ふざけに付き合ってみる。
「そうそう。赤ちゃんって月の女神様が授けてるってほんと?」
「それにはもう答えたじゃろ」
ん?
「ぬしらの魂にはわちの魂が混じっておる。それが答えじゃ」
「わからないけど」
「頭の悪いぷにぷに幼女じゃのう……」
竜姫も同じような見た目してるくせに!
……待てよ、こいつこんな赤い瞳だったか?
「そもそもぷれいやーのおぬしは知っとるじゃろうに」
「つまり?」
「そういうアレじゃ。言わせるな」
やっぱりやることやってんだ! この世界はスケベだった。スケベがあった。
「ん? ぷれいやーって?」
「おっと、それは秘密じゃ」
「いいじゃん。教えて」
「むう。そのままの意味じゃよ」
ぷれいやー? プレイヤー。Player. Prayer.
「もう帰っていいかの?」
「最後に一つ!」
「なんじゃ?」
ううむ。これは言って良いものか。ここまで竜姫の悪ふざけだったら、外部の者に言うべきことじゃないのだが。しかしなんかどうも様子がおかしい気がする。もしかするともしかしてるんじゃないかと思う。なんか竜姫と月が魔力の線で繋がってるし。有線なのか……。いや魔力は無線か……? 魔線……?
「なんか私は前世の日本の記憶があるみたいなんだけど、女神の意図は? なんかこう、使命とかあるの?」
月の女神は「ふむ」とこくりとうなずいた。
そしてにかりと笑い、口の中の小さい牙を見せた。
「ないのじゃ! 好きに楽しんでくれ! この世界へようこそ!」
ようこそーようこそーようこそー……。とエコーをかけながら、ひゅるーんと月への魔線を通ってぷにぷに幼女の形の魔力が月へと昇っていった。
ティルミリシア……この世界は、月の女神の名前、ティルミリシアからそう呼ばれている。
そして隣にはキョトンと座っている竜姫が残った。瞳も金色に戻っている。
「なんか変なのに乗っ取られた」
「月の女神様だったらしいよ」
「ふうん。お月見だもんね」
かっる!? もう少し驚けよ!
いまさらながら私も「え、ええ……?」と驚きが湧き上がってきた。まじ。まじものか?
変な、いや、面白そうな雰囲気を感じ取ったのか、妹シリアナが猫人メイドのサビちゃんを連れてやってきた。
「なに!? なにか面白いことあった!?」
「月の女神様に会った」
「ええええ! ほんと!? ずるいずるいずるい! なんでララだけぇ!? アナを呼んでくれないのぉ!」
シリアナは私の椅子をがたんがたんと揺らした。ちょ、やめるのじゃ!
しかし本当にいたのか月の女神……。一応ちゃんと祈っとこ。私は両手の指を合わせて、手で作った満月の形を、夜空の満月に重ねた。月の女神のご加護よ。
さて。
その夜。私はリルフィのベッドに忍び込んだ。夜這いである。
月の女神によると、やはり子作りはにゃんにゃんするらしい。ということで、私はリルフィを襲う。今夜、私は大人になる!
私は髪の毛でリルフィの手足を縛った。
戸惑うリルフィに私は覆いかぶさる。むふふふふ。
「こらー!」
な、なに!? 頭の中ののじゃロリが叫ぶ。
「えっちなのはダメなのじゃー!」
好きに楽しんでくれって言ってたくせに干渉してきやがった!
しかしリルフィに嫌われたくないので思いとどまった。私は怯えるリルフィになんとかごまかさなくてはいけない。
「うっ……。悪魔にそそのかされてしまったようだ……。もう大丈夫だ」
正気に戻ったふりをして、私は髪の毛をしゅるしゅると戻した。ついでにふとももをさわさわしておく。
「姉さま? 悪魔って……本当に大丈夫なのですか!?」
「うむ。月の女神様が守ってくれた」
「月の女神様が……」
私とリルフィはベッドに並んで、改めて窓の外の満月に祈った。
ハッピーお月見!
えっちなのはだめなのじゃ