196話:クレイジーサイコレズサキュバスドラゴン娘
『穴掘り姫』
ある時代のある国のこと。
毎日、お城の庭に穴を掘るお姫様がおりました。
それを見ていた洗濯メイドは聞きました。「お姫様。どうして穴を掘っているのですか?」
「穴を掘るのが仕事だからです」お姫様はそう答えました。
お姫様は毎日穴を掘っては埋めて、掘っては埋めてを繰り返しておりました。
それを見たお城の人たちはこう言って笑いました。「うちのお姫様は穴掘り姫だ」
しかし、隣国の王子はそれを見て閃きました。「これはきっと、私と逢引する場所を伝えているに違いない」
そして王子は世界樹の──(筆跡が乱れ乱暴に消されている)
「なんじゃこりゃ」
ふいに昼寝から目覚めた私は、机の上に置かれていた紙を覗いた。
そしてトイレにでも行っていたであろう、トカータはふんふふんと鼻歌を歌いながら扉を開け、私を見て、わああと叫んだ。もう。寝起きにうるさいなあ。
「見にゃいでええ!」
「いきなり隣国の王子が出てくるのはおかしいと思う」
「ダメだししないでええ!!」
トカータは私の手から紙を奪い取った。興奮して顔を真っ赤にしている。
しかしあれだな。題材がおかしいだろ。
「そもそも毎日穴を掘る姫って変人すぎでしょ」
「え、ええ……?」
「ん? もしかしてこれ私?」
今自分で自分のこと変人って言った?
トカータはぷりぷりしながらインクを片付けた。
「次からは絶対に覗かないでよね!」
「覗くっていうか、置いてあったけど」
私のお昼寝中に何してんだこいつ。
それはさておき。もう夏が近づいてきた。
オジサンは宮殿に留まり、いまだに私をあれやこれやと勧誘し続けている。「全食プティングをお出しします」と言われた時は心惹かれたが、確実に飽きると思い直した。危なかった。
それでもオジサンは女竜王に会ってよ~と誘ってくる。なので私は言ってやった。「そんなに会わせたいならそっちが来させろ」と。さすがに挑発的すぎてオジサンは慌てた。きっと会話を本国にでも伝えていたのだろう。
そして首都ラパームは大騒ぎとなった。飛竜警報である。しかし本来とは違う。「竜が攻撃して来るから危ない」ではなく、「竜を攻撃したら危ない」である。
竜姫来訪。
竜女王の代わりに姫が来た。
宮殿の庭で竜姫殿下をお出迎える。もちろん穴ぼこだらけの場所ではない。
はたして、竜姫とはどんな姿だろうか。人間よりなのか、それともTHE古の巻物ゲームの沼地種族のようなワニな姿だろうか。
ぞわり。私は嫌な予感がした。ドラゴンで姫。これは私を脅かす強力な属性ではないだろうか。知的でも馬鹿でもクール系でも活発系でも幼くても老獪でも、なんでも相性がいいのがドラゴン姫だ。
先に尖兵の飛竜が広場に降り立った。そして「竜姫殿下がおなりになる」と声を上げた。そして楽団がぷっぱかぴーと演奏して歓迎をする。
ぶわりと嵐の前のような風が吹く。空に黒雲のような影が近づく。圧巻な飛竜の一団だ。
飛竜の一団は続々と広場に着陸した。着陸した飛竜はグワワウといななく。
飛竜に混じって人影はない、と思ったら、そして飛竜から竜人兵が降り立った。なるほど。なるほどね。そういうシステムね。
しかしその一団の中に姫らしき姿は見えない。まさか、中央の装飾された竜か!? そのまま竜の姿の姫なのか!? いやしかし、それはそれで強い。THE古の巻物ゲーム北国編の古竜でさえ美少女化ファンアートされるくらいなのだ。古竜は殺すのよ!! おいロアーネやめろ。全世界から嫌われる気か。
脳内ロアーネを箱詰めし直している間に、竜人兵が並び立ち、私たちの前へ絨毯が敷かれた。
まだわからん。装飾竜のどこかに籠がついているのかも。
装飾竜の周りに侍女とメイドさんが集まる。しかし装飾竜から誰も降りることはない。
どういうことだ。装飾竜はぱあと光を放った。ま、まさか……これは!?
装飾竜の姿がしゅるしゅると小さくなっていく。や、やはり!? へ、変身タイプ! 少女になるタイプのドラゴンだ! あえて鉄板タイプ! そう来たかぁ!
まずい。まずいぞ。鉄板で王道な属性は、それゆえに強い。ただの出自不明なぷにぷに精霊姫が、変身タイプのドラゴンに勝てるのか!? 私も変身できるようになっておくべきだったか! むむむ。なんかいけそうな気がする。
しかしこれ以上気合を入れると下腹部がむずむずしてくるので一旦止める。賢い判断だ。まだ張り合う場面ではない。
そして変身した竜姫は、さらさら銀髪ロングで瞳が金色の美少女だった。
「な……カラーリング被りだと……!?」
私は驚愕した。銀髪が二人とかアニメ監督がぶちギレそうな配色だ。しかも背格好も似ている。利発そうでいて少し眠そうな目もだ! 唯一の違いは瞳が爬虫類系の縦長な瞳孔なことだろうか。微細な違いすぎる! うわ、まつ毛長。
気が付いたら竜姫の顔が私のすぐ目の前にあった。
竜姫は私の首筋をすっと指先で撫でた。ひゃんっ!
そして竜姫は顔をさらにぐいと近づけて、私の首筋をぺろりと舐めた。あひんっ!
竜姫は私の耳元でささやく。
「おいしそう」
ひぃ!? クレイジーサイコレズ!? 私は固まったままぷるると震えた。
そしていつもの応接間へ。
竜姫の名は。ウワルリーズ・なんたら・ほにゃらら・にゃんにゃんこ。「リズと呼んで」言いながら私の隣に座ってきた。そして私のほっぺをぺろぺろしてくる。ぷるり。
そして「お話しはいいからベッドに行きましょ?」と誘ってくる。私食べられちゃう。ぷるぷるり。
こんなことなら、こっちへ来いやなんて挑発しなければ良かった。待てよ、向こうに行ってたら一人逃げ場を失っていたのか? 正解生存ルートであったか。リズ竜姫ちゃんは私の下腹部をすりすりと撫でてきた。ひゃん! そ、そんな優しく撫でられたら溢れちゃうよぉ! だ、誰か助け……。
オジサンが助けてくれた。
「リズ。止めなさい」
「味見の邪魔しないで、オジサン」
もしかしてオジサンの名前は本当にオジサンだったのか? そんなことはどうでもいい。だんだんお腹が痛くなってきた。竜姫ちゃんは私の体内の魔力をかき混ぜているようだ。そしてそれをちゅーちゅーと吸い取られている。もしやこいつサキュバスなのでは? クレイジーサイコレズサキュバスドラゴン娘? いい加減にしろ。私はただのぷにぷに少女だぞ。
私は髪の毛で竜姫ちゃんをぐるぐる巻きに縛った。竜姫ちゃんはゾクゾクと身体を震わせた。やばいこいつ、M属性まで持つのか?
とりあえず気持ちよさそうに恍惚な顔をしている竜姫ちゃんは放っておいて、オジサンに話しかける。
「なんなのこいつ」
ウワルリーズ竜姫が第一王女とか、そういう話じゃなくて。
「世界樹の復活の支援を――」
「そんなの、これがすればいいでしょ」
竜姫は髪の毛をキラキラと白く輝かせていた。私と同じお漏らし系だ。こいつでも世界樹を復活させる魔力持ってるんじゃねえの?
「このような性格な方ですから……」
性格の問題なのかよ。
竜姫がもぞもぞしていたのできゅっと髪の毛で締め上げた。すると竜姫はうひっと喜んだ。うーん、気持ち悪いなあ!
なんだか触りたくなくなってきたので、髪の毛の拘束を解いた。すると竜姫は息を切らせながら私に身体を預け、そして膝に頭を乗せてきた。
「リズは精霊姫の下僕になる」
ううん。いらないなあ!
「ではそちらに持ち帰って頂いて……」
オジサンも放棄するなよなあ!
「リズ。世界樹の復活をお願いするんだぞ」
「わかってりゅ。精霊姫たべたい」
竜姫は私の太ももをぱくっとかじった。もうどうにかしろよこれ! 皇女は口元歪ませてくつくつと笑ってるしさあ! 味方! 味方はいねえのか!
「いい加減にしろ。無礼がすぎる」
シュランドが私から竜姫を引き剥がした。
しゅ、シュランド……お前! きゅんっ。私はシュランドに惚れた。これで皇女と複雑な三角関係になったのであった。
さて。お姫様の交流といったらお風呂だよね! そんなわけあるか! 竜姫は私にくっついてきて、お風呂までべったりと離れない。興奮するかしないかでいうと、する。なんだかこれもありかなと思い始めていた。蛇に巻きつけられた気分だ。はっ、これもオジサンの策略!?
「二人だけの裸の付き合い。メイドはみんな部屋から出る」
竜姫はお風呂のお世話をするメイドをみんな追い出した。待って! 私を一人にしないで! 食べられちゃう!
「それで、精霊姫は何を隠しているの?」
びびくんっ。なに急に?
「あなたは私を呼んだ。それで世界樹を蘇らせる方法があるはず」
いや呼んでないけど……。それで蘇らせる方法はないけど。
「種」
びびくんっ。
「あるのね。やっぱり」
竜姫は私のお腹をぷにぷに撫でた。揉まないでぇ!
「私に、あなたの種をちょうだい?」
なんかえっちな感じになってきた! だめ! いけませんよ!
健全です。