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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【8章】メイド(仮)編(12歳秋〜)
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194話:雪巨人の眠る町

 皇女の周囲に平和が訪れた。近頃の皇女は機嫌よく、シュランドに楽しそうに話しかけて魔力でひまわりのエフェクトを咲かせている。そんなシュランドはややうんざりした様子だ。未来の若妻を泣かせるなよ。

 私はというと、皇女のお話し相手として、シュランドとの惚気話を聞かされることになり、うんざりした。

 そして私とシュランドは、頭お花畑になった皇女をなんとかしろよとお互いに責任を押し付け合う。

 私はもう我慢できなくなった。


「シュランド、約束を守ってもらうぞ」

「わかっている。黄金の――」

「三食昼寝デザート付きだ」

「皇子の――え、そっち?」


 私の本来の昼寝は長い。今はまだ皇女の話し相手の仕事があるので、お昼寝タイムを十分に取れないでいるのだ。約束は守って貰わねばならぬ。


「わかった。自由時間を与えよう」


 こうして私はお昼寝タイムを勝ち取った。しかし来客が来たとのことで起こされた。腹立つわぁ。私は丁の字になってネグリジェをすぽぽーんと脱がされ、ドレスをすぽっと被せられた。そして応接間へ向かう。

 姫騎士が片膝を着いて待っていた。

 そーいうのいいからいいから。ほらソファに座って。ぽすん。あー騎士の長い挨拶もいいから。


「故郷へ帰る準備ができたため、お知らせに参りました」


 え? まだ私は帰らないよ? 違った。姫騎士自身の話だった。

 首都ラパームから追い返された精霊姫教徒たちは、聖地となった雪巨人の跡地へ集合していた。精霊姫を護る任務が済んだ姫騎士もそこへ帰るという。

 え? 聖地になってるの?


「はい。人が集まってキャンプが街のようになっているとのことですよ」


 おおう。大丈夫なのかよそれ。また目を付けられない?

 付けられた。

 シュランドの副官ちゃんアフォリアに呼び出され、そのことをツッコまれた。そんなこと言われても、うちただのぷにぷに幼女だし……。ごまかせなかった。当事者だろと言われた。そんなこんなで一緒に行ってこいと言われた。

 ええ? 馬車で結構かかるよ?


「ネコラル蒸気機関車で行きます」


 そうだった。こっそり潜入するから馬で来たが、もう隠すこともないのでネコラル汽車でいける。いやそもそも途中で巨大巡礼旅になってたので汽車が使えなかったともいう。今はもう関係なかった。

 副官ちゃんと姫騎士とトカータと共に上等車両に乗り込む。トカータは緊張した様子だ。緊張しすぎて酔って気持ち悪くなっていた。かわいそうに。

 私は髪の毛でそっと浮いて対策している。ふふん。これはこれで気持ち悪くなってきた。うええ。

 三日かけて汽車で移動した後に馬車で移動すると聞いて絶望した。


「もういやじゃ……乗り物には乗りとうない……」


 私は死んだ。トカータは水魔法でおでこを冷やして乗り物酔いを克服していた。うらぎりものめ。

 ふらふらりんこになりながら馬車を降りる。あれ? ここってあの時の宿屋じゃん。あの時の少年もいる。儲かっているのだろう、身なりがよくなっている。おおい少年。良いもの上げるぞ。私はバッグから魔法結晶化した精霊姫カードを渡した。新年ドレスバージョンだぞ。こいつは激レアだぞ。

 宿屋の少年に馬車を預けて、精霊姫教徒のキャンプに到着である。宿屋がこのキャンプの入り口になっているようだ。

 キャンプ……本当に一つの円形の街のようになっていた。なんでこんなに集まってんだよ……。てかなんでこんな形に?

 到着した私たちの前で、男三人が膝を付いた。また酔っ払いおっさんらか。どうやら私たちに先んじて現地入りしていたようだ。


「ご案内いたしやすぜ」


 すっかり丸くなってしまったおっさんずだ。そんなおっさんずを厳しい目で見つめる副官ちゃん。私たちはおっさんずに付いて、道をまっすぐに進み、街の中心のぽっかりと空いた空間へ近づく。

 途切れた道の脇には若い民兵が槍を持って立っており、おっさんずとちょこっと話し、民兵はさっと脇にどいて槍を下ろし、敬礼した。

 おっさんずが途切れた道の先の野原に足を踏み入れると、ふにょんと消えた。

 まさか!?

 次いで私たちもそこを通るとふにょんとした。野原に見えた広場が、一瞬で花畑の高原へと変わった。

 ダンジョン化しとるやんけー!?

 私はクソ羽虫がいないか周囲警戒して叫んだ。


「早くここを焼き払えー!」


 突然叫んだ私をみんながぎょっと見てオロオロした。私もオロオロした。あんなにいたはずの炎魔法使いが今のパーティーには一人もいないだと!? 人選ミスりすぎじゃ!?

 私は足元の花をむしった。むしむし。


「ど、どうしたのニュニュ?」


 皇女がニュニュと呼ぶせいで、トカータも私をニュニュと呼ぶようになってしまった。ニュニュじゃないにゅ。


「ダンジョンだ。妖精に拐われるぞ!」

「え、ええ!? こんなに綺麗な花畑なのに!?」


 そうだ。こんな綺麗な花畑だからだ!


「精霊姫様。落ち着いてくだせえ。俺らが確認した限りじゃあ、危険はありませんでしたぜ」


 そう言っておっさんずは私をハメようとしてるな!? 騙されないぞ!?

 姫騎士が花をむしる私の手を掴んだ。


「わかりました。それではわたくしが行きましょう」


 そう言って姫騎士はすたすたと花畑の中央へ歩いていった。お、おい! 危ないぞ!?

 それに続いて副官ちゃんも行ってしまう。

 トカータもおろおろしながらそれに付いていってしまった。

 残ったのはおっさん三人。

 い、いやじゃ! 女の子と一緒がいい! 私は先にいくおなごたちを追いかける。

 その先で、女子がきゃっきゃと感嘆していた。

 なになに? なにがあったの? 私も混ぜてー!?


「噴水? 凍ってる?」


 噴水のように湧き出る間欠泉。その水がそのまま瞬間凍結されたかのように氷になっていた。そしてそれが湧き出て泉になっていたであろう水も凍っていた。それが陽光に当てられてキラキラと輝いている。

 最初に口を開いたのは姫騎士だった。


「これは、精霊姫が眠らせた雪巨人か?」


 なるほど。そういうことか。どういうことだ?

 とりあえずここが聖地となって精霊姫教徒が集まってきた理由はわかった。

 私のバッグがブルブルと震えだした。こら、落ち着け。どうやらウニ助の実はこの場所を選んだようだ。ダンジョンできるくらい魔力集まってるもんな。

 私は噴水の先っぽにウニ助の実をぽふっと置いた。んむ。満足げだ。


「何をしているのだ?」


 副官ちゃんが私に尋ねた。ふうむ。なんて答えようか。素直に「世界樹の種っぽいの実は持ってましたー!」というのも面白くない。気分的に面白くない。シュランドにはもっと悩んでもらいたい。そう。私の目的はシュランドへの復讐。それを忘れてはならない。


「シュランドへの復讐の準備だ」


 そう言って副官ちゃんににゅふふと笑う。どうだ副官ちゃん。怒るか? シュランドといつか戦う時が来たら、この副官ちゃんが立ちはだかるであろう。そんな副官ちゃんを押し倒して屈服させてわからせたい。ティックティン派は精霊姫教に勝てないということをなぁ! ガハハハハ!

 しかし副官ちゃんはくすりと笑った。今まで見たなかで一番柔和な顔だ。


「なるほど。そういうことにしておきます」


 なに? バレた? お見通しだというのか!? まあいいか。私が世界樹の種を植えたということがバレたとしても、引っこ抜かれることはなかろう。シュランドもそれを求めているのだから。

 

 ここから出るには適当な方向へ歩くらしい。そうするとふにょんとして先ほどの民兵門番の前へ出る。広場なのに出入り口はここだけらしい。

 外へ出ると、噂がまたたく間に広まったのか、信者たちが一様にひざまずいていた。うむ。うむ。どうすんのこれ。


「みんな、何か言葉を待っておるんですぜ」


 おっさんリーダーが私にそっと耳打ちした。ふうむそうか。

 なにを言うべきだろうか。ちらりと横の副官ちゃんを見た。信者の前では下手なことは言わない方がいいだろう。「シュランドに復讐するぞー!」とか。また暴動起こしそうだもの。よく許されたなこいつら……。きっと二度目はない。

 すると、一応友好を見せるべきだろう。私が、精霊姫がティンクス帝国にいることを許されているということを、信者に伝え、安心させるべきだ。


「みなのもの! 私は隣国の姫だが、次代ティンクス皇帝に認められた! 三食昼寝デザート付きの生活だ!」

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