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お漏らしあそばせ精霊姫  作者: ななぽよん
【8章】メイド(仮)編(12歳秋〜)
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192話:襲撃

 どかーん! ばきーん! ぶあーん! ずどーん! 外から聞こえる色とりどりの光と音と衝撃のアンサンブルの中を駆け抜ける。ぽててててと走る私の足は遅すぎておばちゃん侍女マアフルの脇に抱きかかえられた。ぷらーん。

 なんか音は派手だが焦るほどの被害はまだ出ていない。一階正面扉はまだ破られていないようだ。

 ふと廊下の窓の外では飛び上がってこようとする魔術師が見えた。しかし柔らかい地面に足を取られてずぼっとハマっていた。あっ、そこ私が地面を掘り返しまくったところだ。

 シュランドが先行し、迷わず地下へ向かう。やはりいざという時の脱出口があるのか。

 いやまさか、下水道か? 私は嫌な予感がよぎった。まさか、まさかな? 良かった、普通の地下通路だ。どうやら防空壕でもあるらしい。常に竜の脅威に晒されていたこの国らしい。

 しかし私はまた嫌な予感がする。そう、攻撃が花火のように派手なだけで被害が少なかったのは、私たちは追い立てられただけなのではないかと思う。すると待ち伏せするならここだ。


「待ち伏せは?」

「すでに排除してある」


 おおう……。さすがシュランドだ。認めたくはないが、やはりこいつはやり手……。シュランドは襲撃を予測していた。いや待てよ、こいつがこの襲撃計画の主犯なのでは? すごくありそうな気がする……。

 シュランドが先行し、私、皇女、マアフル、シーダ、トカータのメンバーで地下を走る。シュランドが言う通り、地下通路は何事もなく進んだ。カビ臭さも土埃臭さもない。整備されすぎだろ。やはり皇女と私をここへおびき寄せるつもりだったな? 騙されないぞ。私は警戒を深めた。

 ぷはっと外に出た。やはり空気は美味しい。

 出たところに馬車が用意されていた。用意周到すぎるだろ。そしてここにも敵はいない。かえって怪しい……。

 全員馬車に乗り込んだところで、「愚民どもめ!」と悪役が必ず言うノルマをシュランドは達成した。


「行き先は――」

「わかってる! 骨の森(ナオシラカ)であろう!」


 私は迫力に押されて思わずこくりとうなずいた。どこに逃げるのー? とちょっと聞いてみただけなのに。

 見覚えのある雰囲気の御者が馬車を走らせる。森の中を駆ける。皇女が私の手をぎゅっと握ってきた。大丈夫だ。きっとみんながなんとかする。私は何もできないけど。

 そして着いたのは例の旧糞便処理場の前であった。


「なぜここに?」

「計画通りだ」


 シュランドは不敵にふふふと笑う。やはりこの悪人顔は本物だ!

 私はそーっと背中から近づき、一帯の窪みに突き落とそうとした。


「来たわね。情報通りよ、みんな!」


 そして窪みの対岸から見知った女が現れた。テーナだ。あ、あいつ!?

 テーナの合図で魔術師たちが森の中からぞろぞろと現れた。

 つまりこれは……裏切りテーナ!


「大人しく皇女をこちらに渡して貰おうか」


 それに対しシュランドは「裏切り者め」と返した。

 つまりシュランドは皇女の味方……? 私は信じてたよ! 私はシュランドの背中を押そうと構えていた手を、そっと背中に隠した。

 それにしてもテーナ。ほんまあいつはさあ……。


「交渉決裂のようね。命だけは助けて上げようと思っていたのだけど」


 テーナは口を歪ませて醜く笑った。


「ここで死んでもらうわ。この国のためにね」


 ふうん。あの顔。やはり闇堕ちテーナか。もうダメだな。殺そう。

 私は手のひらに魔力を集めた。んんんんっ。踏ん張っても中々出て来ない。なんかお腹痛くなってきた。


「貴族が力を振るう時代は終わりよ」


 テーナが両手のひらの上に火球を浮かべる。それを合図にして、ぐるりと囲んだ魔術師たちも炎を浮かべた。そして炎が一斉に皇女へ向かって放たれた。

 シュランドが皇女を抱き寄せる。そして紫色の炎を周囲から噴き上がらせて、敵の攻撃を打ち消した。

 しかしその近くにいた私は無事ではなかった。あちゅちゅちゅちゅ! トカータが私に襲いかかる火の粉を水魔法で打ち消した。


「クリクリ。我から離れるな」

「シュランド……」


 あ! 皇女が恋する女の目になってる! ちょっろ! あいつも私を裏切るのか!?

 マアフルとシーダが炎魔法で反撃する。待てよ、なんか炎魔法だらけだな。なんだこの戦場は。これが魔法使いと魔術師の戦いなのか?


「ええい! 何やってる! もっと火力上げていけ!」


 闇堕ちテーナが激を飛ばす。しかしやはりシュランドの圧倒的な火力に魔術師の炎はかき消されていく。くそ! もっと頑張れ! あのバカップルをヤれ!

 もはや私にとって裏切り者同士の戦いになるので結果はどうでもよくなった。いっそ相打ちがいいんじゃない? トカータだけ貰っていこう。今もトカータは唸りながら私のために水バリアを張っている。きゅん。


「もう長く持ちません! 逃げて!」

「わかった!」


 自他ともに足手まといな私はこそこそと戦場から抜け出そうとする。そもそもいきなりこうなった原因は私なのだ。いや、私の魔力を根こそぎ吸い取った世界樹のせいだ。おのれ世界樹。枯らすぞ。

 馬車へ向かって第四ほふく前進でんにんに地面を這っていたが、そこへ馬車を狙いにやってきた魔術師とこんにちはした。


「ご機嫌いかが?」

「貴族は死ね!」


 貴族の価値を知らぬ愚民め! 魔術で偽りの力を手に入れたからと調子こきやがって!

 炎魔術を向けられて圧倒的ピンチになった私は、なんとか残った髪の毛の精霊が助けてくれると信じて、額を地面に擦り付けた。なんだか命乞いしてるみたいになってしまった。

 そして男の悲鳴が聞こえる。なんやなんや? 頭を上げると、魔術師の顔が目の前にあった。ひい! どうやら馬車の御者さんが魔術師の首を剣ではねたようだ。ひい! じょろろろ。


「わたくしが精霊姫を守るわ」


 御者はばさりと薄汚れたローブを脱いだ。


「お、お前は! 誰だっけ」

「姫騎士ローリエ。精霊姫をお守りいたします! さあ早く!」


 なんでお前が!? まあいいか。

 私は慌てて立ち上がり戦場から逃げだした。ぽててててと走る私の足は遅すぎて姫騎士ローリエの脇に抱きかかえられた。ぷらーん。

 そこへ男たちが立ちふさがる。


「ここは俺たちに任せろ!」


 お前らは、酔っぱらいのおっさん三人!?

 こんなところで会うなんてすごい偶然っ! なわけあるか! 一体何なんだこれは。そしてどこへ向かっている。


「世界樹ですわ。精霊姫は世界樹を伝って移動できる、と」


 なるほ。それはいい考えだ。

 世界樹の根本まで運ばれた私は、世界樹の幹に手を触れた。にゅにゅにゅにゅにゅ。しかしゲートは開かない。うーん、どうやら上手くいかないようだ。

 しかし私に魔力が返ってきた。私はお腹がいっぱいになり、土埃に汚れた銀色の髪の毛が虹色につやつやきらきらに輝きだす。


「……復活したんだな、世界樹」


 見上げると、世界樹の枝がわさわさと動いた。

 おお。おお。と横で感嘆している姫騎士に告げる。


「魔力を取り戻した。戻るぞ。魔術師どもをぶっ殺す」

「はい! ではどうぞ背中へ!」

「いらん。私は先にゆく」


 蜘蛛走行モード復活だ。髪の毛をわしゃしゃしゃしゃと動かして私は戦場へ駆け戻る。


「ひい! 蜘蛛の魔物!!」


 途中で邪魔してきた魔術師を髪の毛でぶん殴り、進む。進む。

 魔術師に上着を燃やされたおっさん三人を飛び越え、森の道を抜けた。

 そこでは、皇女がビームを放っていた。


「ひい! 蜘蛛の魔物!!」


 皇女のビームが私の頬を掠める。私はとっさに回避した。

 あれは……あの陽光の指輪か。 


「にゅにゅですにゅ!」

「は? え? なによ。逃げ出したんじゃなかったの?」

「魔力がこれで、助けに戻りましたでござる」

「そう。もう終わったわよ。後は掃除するだけ」


 おおう。窪みをぐるりと篝火(かがりび)になってるのってそういう……。

 しかし私はその先にいる人物を見逃さなかった。まだ闇堕ちテーナが残っている。


「まだ残ってるでござる」

「そうね。じゃあ連れてきて」


 シュランドが「待て!」と声を上げたが、待たぬ。すでに私は跳躍した後だ。しかしこの処理場の窪みは広かった。これ届かないやつ。んにっんにっ。私はアニメのように空中を漕ぐが、飛距離は伸びそうにない。


月の光の(ラヌカルリ) 空へ導く翼よ(マスラメルアスラカ)


 とっさに知らない魔法を口走る。

 私の髪の毛がぶわりと広がり、グライダーのようになった。思ったのと違うけど、まあよし!


「おりゃああ! テーナぁああっ!」

「なに!? なんですか!? なに飛んですか!?」


 今さらカマトトぶっても正体はわかってんだよォ! 正義の鉄拳を食らえ!

 私は髪の毛を拳にしてテーナに突っ込んだ。テーナはひょいと横にステップした。

 あ。

 すべしと私は地面に突っ込んだ。危ないところだった。すんでのところで顔と身体を髪の毛でカバーしていなかったら、私の鼻は無くなっていたところだ。


「なぜ避ける!」

「そりゃ避けるわ!」


 テーナは私に手を差し伸べた。あ、ども。んしょっと。


「さて。ぶっ殺すぞ。お前を。私は。いいか」

「ちょっと落ち着いてくださいってばー! 状況見ればわかるでしょう!?」


 状況? ふむ。諸悪の根源が残っている状況だが……。


「テーナ頑張ったんですから! 褒めてもらいたいくらいですよ!?」


 そういってテーナは胸を張った。まるで悪人の自覚がないらしい。

 ふうむ。念のために髪の毛でテーナを縛り上げてから、皇女の方へ振り返った。

 皇女は左腕をシュランドの右腕に絡ませ、呑気に右手を振っていた。その手の指輪がきらきらと陽光に煌めく。

 もう一度テーナを見ると、テーナはこくりとうなずいた。

 なるほど。なるほどね? そういうやつね?

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